ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

演歌の南回帰線

2011-07-25 04:54:14 | アジア

 ”BER TOE BER HONG MAI TONG MAR KHOR”by ORN ORRADEE

 せっかく買ったのに、なんとなく聴かずに放り出してあるCDってのも結構あるんだけど、これもそのうちの一枚だった。そいつを今、何の気なしに聴いてみたら、その音の広がりの優しさに、なんだか泣けそうになったりして。こりゃ相当に精神弱ってるかもなあ。

 タイの演歌といわれるルークトゥン・ミュージックの歌い手、ORN ORRADEE 嬢の2008年作、4枚目のアルバムだそうです。なにしろコテコテのド演歌ばかりを恥ずかしげもなく世に送り出す事でいろいろ毀誉褒貶のある地元のノッポーン・レーベル謹製。まあ、タイ音楽好きは、このキンキラキンのジャケを見るだけでノッポーンと分かるんでしょうな。
 そしてレーベルは今回もコテコテを堅持、南の国の人々が日々織り成す喜怒哀楽を極彩色に描いてみせる。

 我々日本人にも十分に懐かしいフレーズをのんびりと奏でるアコーディオンと、何百年も前からタイでは、この楽器はこのように弾かれてきたのだとうそぶくように、まったりとした響きを歌うシンセとが絡み合いながら流れて行く。
 大昔、巡礼者の持つ尺杖の打ち鳴らしにまで遡れそうな、不思議に仏教くさいリズムがウッチャチウッチャチと泥臭く繰り出される。それらは、南の国の街角の喧騒や水田の水の温みの匂いを濃厚に含んでいる。

 なにより彼女の、ヒラヒラとひるがえる声が良い。コブシを伴いつつ裏声になり地声に戻り、時にロングトーンは「ア~アッアッアッアッア~アアアッ~ア~♪」くらいの癖のあるビブラートを伴い、そして舞うその歌声はあくまでも透明で、照りつける南の灼熱の太陽の下、吹き抜ける涼風を思わせるのだ。

 こんなの、現地で聞いたらどんな気分かね、などと汗を拭きつつ、夏の形の雲沸き立つ海の彼方を想う夏の日。