”A Twist Of Faith”by Faith Cuneta
風邪気味の夜。寒風の中立ち止まり、夢に想うは。カリフォルニアではなくて陽光あふれるマニラ湾とフィリピン・ポップス。この盤は、ほぼタガログ語で歌われており、濃厚な土地の香気が漂います。歌手は、新人ですが、かの国の大物歌手、シャロン・クネータの親戚筋にあたる人だそうな。
そのせいかどうか知りませんが、なかなかに気品あふれる歌いぶりで、情感あふれる美しいバラード集となっております。ストリングスの幻想的な響きに、マニラ湾の夕暮れをひととき、幻視しつつ杯を重ねてみれば、止めどもないものとなるのでしょう。
毎度、インドネシアのロハニを語る際に、アジアの大衆歌の深部に沈み込み、その根の部分に張り付いて濃いめの情感をジワと発生させているラテンの血、なんてことを言っている私であります。かって、世界のあちこちを植民地支配し、その血を土地々々に滴らせていったヨーロッパはラテンの国々の幻想の花々は、ここフィリピンでも濃厚に香っている、とでも申せましょうか。
そこにうかがえるラテンの色は、現地ヨーロッパまで遡って比べてみれば、すっかりアジアの土になじみきっているので、ヨーロッパの人々は自らの子孫とはとても認めない性質のものかも知れませんが。
この盤に収められているしっとりとしたバラードたちは、音楽の形態としてはソウル・ミュージックの大きな影響下にある、アメリカの現代ポップスに近いものと言えるのでしょうが、次々と表れる切々たるバラードの波は、私には偽装されて、米国マナーのポップスが猖獗を極める今日に、密かによみがえったボレロ集に聴こえます。
楚々として、絶えることなくうち寄せる情感の波は、古き恋歌のアジア的転生の証かとも思えてくるのであります。