”Me La Tinh Yeu”by Ha Vy
そもそも歌手の名前、Ha Vyって、ぢう読むんだろうか。鈴を転がすような可憐な声でコロコロと歌っているけど、写真を見るとそれなりのキャリアではあるようだ。いや、ブリッ子とかそういう話ではなく、そのような声を出す伝統の中にいる歌い手ってことで。
洗練されたサウンド、見事な歌唱、良く出来たアルバムと思う。
中国音楽の影響を大きく受けたベトナムの大衆歌、田園の生活などを懐かしく歌い上げる”民歌”の好盤が、またアメリカのベトナム人コミュニティから生まれた。
なんだかこうしてみるとベトナムの”故郷の歌”でありながら、むしろアメリカの方が本場みたいになってきて、おかしな逆転現象が起こっているのだが、つまりは失われゆく古きよきベトナムの田園生活を歌わせたら、故郷を追われるように後にしてきた根無し草の米国在住組に、むしろリアリティがあるってなものなのではないか。
この盤も、ほぼすべてがしっとりとしたバラードであり、失われゆく、あるいは既に失われてしまった古き時代への哀切なる挽歌となっている。
ところで、マイナー・キーで始まる曲の内いくつかに、サビの部分になるとそこだけメジャー・キイに転調する、という小細工が含まれていて興味深いのだが、これはもしかしてフランスの植民地時代あたりにヨーロッパから持ち込まれた技巧のひとつなんではないか、とも想像するのだが、どうなんだろうか。あんまりアジアの大衆歌謡に自然に存在するワザって感じじゃないんだが。
私は7曲目から8曲目あたりが桃源郷に感ずる。この辺に行くと、ほんとに陶然とさせられるのであって。美しいハーモニーのカーテンをゆらゆらと揺らすストリングスに包まれて、軽いエコーを伴いつつ民族楽器が典雅なソロを取る。アルカイックナリズムをキープする打楽器群などなど。そして。繊細極まる美しいメロディが、そのはざまから歌い上げられる。
私などは、いっそプログレ・ファンの友人にでも聴かせてみたい衝動に駆られるのだ。
ジャケ写真。川辺でポーズを取る歌手の後方に、いかにも異文化を感じさせる五重塔が幻のように浮かび上がっている。ベトナムの民歌なるものの文化的バックグルンドを象徴させているようで、なにやら遥かな想いにさせてくれるのだった。
こちらで試聴出来ます。
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