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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

2023年3月 読書の記録(前半)

2023-04-13 17:08:32 | 好きなもの・音楽や本

3月の読書は2月20日過ぎから読み始めた『輪舞曲』の
続きから。

大正から昭和初期に活躍した新劇の女優、伊澤蘭奢の半生を、
彼女に影響を与えたり、与えられたりした4人の男が
それぞれに語り合う形式で話は進んでいく。
歌舞伎のように、男が女のなりをして演じていく芝居から
女が女を演じるようになった新しい芝居=新劇の、黎明期。
その時代の話し言葉や装いや空気みたいなものまで感じられる
ところが、まかてさんの小説を読む楽しみでもあるが、
いまひとつ、自分の中に「ノリ」がなかったのは、蘭奢自身が
語る場面が少なかったからなのか。。。

タイトルの『輪舞曲』とは何を意味しているのかなと
途中から思っていて‥彼女を取り巻く4人の男が彼女の周りで
手を取り合って踊っている様をなんとなく想像していたが、
物語の終盤、「男」のうちのひとり徳川夢声が、こう語る。

まるで舞台のようだ。次々と袖から現れて、銘々勝手に蘭奢を語る。
皆の言葉が、伊澤蘭奢という女優を彫琢していく。(中略)
やがていくつもの蘭奢が、繁が輪になって踊り出す。幾重もの輪が
夢声を囲み音になる。

踊っているのはいくつもの顔を持った蘭奢ということですね‥。






定期的に新刊をチェックしたり、すこし時間があくと、
久しぶりに読んでみようかなと思わされる小川洋子作品。
とても濃密な関係を描いているのにひんやりしていて、
自ら孤独を求めているわけではないのに、ひとりになって
しまう人ばかりが多く出てくる‥いや、友達や同僚や恋人が
居ても、結局誰もが「ひとり」なのだと感じさせられて
しまうのかー。

表題作「約束された移動」
ホテルのルーム係をしている主人公。VIPルームの本棚から
本を持ち帰る映画スター。

ただ客室係にのみ記された秘密を、私は守り続けている。
彼は転落したのではない。象や無垢な少女や船長や、一家の
名もない母に導かれ、行く着くべき場所に向かって、
今も移動を続けているのだ。

「ダイアナとバーバラ」
ダイアナ妃が大好きな、病院で案内係を務める「バーバラ」
孫娘とショッピングモールへ行くハレの日のために、ダイアナが
着たのとそっくりな衣装を作る。

「まるでお姫さまみたいだ」少年は言った。
「わかります、わかりますよ」と、孫娘は答えた。

「元迷子係の黒目」
ママの大叔父さんのお嫁さんの弟が養子に行った先の末の妹
右目と左目の焦点が合わないゆえに、迷子を素早く探すことが
できる元デパートの迷子係。路地を抜けていったところに裏庭が
あってそこにいつも居る‥は「ねじまき鳥」を思い出した。

大勢の子どもを帰るべき場所に返してきたのに、自分の子ども
だけは戻ってこなかった元迷子係は、水槽で泳ぐ熱帯魚のように、
今、ちいさな四角に守られている。

「寄生」
恋人にプロポーズしにいく途中で、見知らぬおばさんに、
文字通り、右半身に巻き付かれてしまった「僕」。
春樹氏の「貧乏な叔母さんのはなし」を思いださせるが、
違っているのはこちらのおばさんは、実在していて他人にも
ちゃんと見えているところ。

僕の説明を最後まで聞かずに彼女は言った。
「無事に果たせた?」
右腕に手をやり、そこにある空洞をさするようにしながら、
僕はうなずいた。
「それはよかった」彼女は微笑んだ。

「黒子羊はどこへ」
異国から流れ着いた羊から生まれた黒い羊を育てるうちに、
いつしか「子羊の園」の園長先生と呼ばれるようになった女。
かつての幼子Jの歌声をクラブの勝手口のごみ箱の上で聴き、
誰にも知られずひっそりと死んでいった。最後の場面は
その葬列‥

死者に相応しい場所を目指してどこまでも歩いてゆく。

「巨人の接待」
「巨人」と呼ばれているけれど、実はちっとも大きくない
異国の作家。彼が来日する際通訳を務めることになった「私」。
鳥をこよなく愛するようになった作家の過去がひどく悲しい。
ラストの場面は二人だけで行った「野鳥の森公園」
誰も乗らなくなったメリーゴーランドを私は動かす。
カートはすべて絶滅した鳥たち‥たとえば
ワライフクロウ(1914年)
カロライナインコ(1918年)
ドードー(1681年)

これに乗っている限り、どこへも移動しなくていいのだという
安堵に包まれるように、巨人はうっとりと目を細める。私には
聞こえない小さな声で、ドードーに話し掛ける。





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