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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

ほんとうのパワー

2009-04-07 16:55:28 | 好きな本
ギフト』『ヴォイス』に続く、西のはての年代記‥
3作目の『パワー』・・・・・読み終わってしまいました。

読み始めることを躊躇していたくせに、読み始めたら
その世界感はとても自分好みであるということがわかり、
主人公ガヴィアの物語に引き込まれていき、終盤にきたときは
いつまでも、この物語が終わってほしくないとさえ、思っていました。

パワー』西のはての年代記Ⅲ
  アーシュラ・K・ル=グゥイン 作 谷垣暁美 訳


ガヴィアが住むのは「西のはて」の中の都市国家のひとつエトラ。
幼い時に、姉とともにさらわれてきた奴隷ですが、彼らが暮らす
アルカ館は奴隷に対する扱いが比較的よくガヴィアも、姉も、
主人の子供たちとともに、教育を受けることができました。

ガヴィアは、とても賢い子供で、詩と歴史が好き。
そして、一度読んだものは何でも覚えることができるという優れた
記憶力とともに、ビジョン(=幻)を見ることができる、
特別な能力=ギフトを持っています。

奴隷という身分であることに、誰も疑問を抱いていないような
アルカ館の奴隷たち。
ガヴィアも、主人の一族を信頼してはいましたが、その気持ちが
揺らぐようなことも度々あり‥ある日起こった悲惨な事件から
現実の日々に目をそむけ、放浪の日々が始まります。

その「旅」は、大好きだった姉が殺されてまったという現実からの
逃避であり、奴隷の身分からの逃亡でした。
またそれは、自分というものをみつめ、自分とは何かを考える、
膨大な時間の積み重ねであり‥同時に、ガヴィア自身が
自由人として新たに誕生を迎える日までの、成長の旅でも
あるのでした。



前半に、こんな箇所があります。
(奴隷というポジションがとてもわかりやすく、胸が痛くなる文章です。)

本を自分をものにするのは初めてだった。いや、自分のものを
もつのも初めてだった。自分が着ているものをぼくの服と呼び、
教室で使う机をぼくの机と呼ぶ。けれどもそれらは実際には
ぼくのものではない。ぼく自身と同じくアルカ館の財産だ。
けれど、この本は違う。この本はぼくのものだ。

「この本」とは、ガヴィアがまだアルカ館の奴隷のとき、
(=放浪の旅へと出る前、まだ姉が生きているとき)
都市間での戦いがあり、その渦中で、別の町の仲間から
もらった本のことです。
それは小さな手書き写本で、中にはオレック・カスプロの詩が
記されています。

全部読み終わったあとで、いろんな場面が次々に浮かんできましたが
このくだりは、とても印象深いものでした。
ガヴィアが初めて、自分自身のものを所有したのが、
『ギフト』の主人公である、オレックの詩の写本だったなんて!


放浪の旅の途中、森の中の逃亡奴隷の都市〈森の心臓〉にも
暮らしたガヴィアが、そこを去らねばならなくなったとき
次のように思います。

そして、アルカマンドと森でのぼくの生活全部。ぼくの読んだ
すべての本。知り合ったすべての人。犯した間違いのすべて。
今度はそれらのすべてをもって旅に出ようとしている。
それらの持ち物から逃げることは、もうするまいとぼくは
心に誓った。
もう二度と逃げない。それらの記憶をー
その全部をぼくは常に
携えて行く。


少しづつ、姉の死のショックから立ち直り、
少しづつ強くなっていくガヴィア。
ビジョンの導きに従ってみようと思える気持ちを支えているのは、
言葉を愛し、詩を愛し、本を愛することで培われた想像力なのでは
ないかなと思います。




西のはての年代記は、創大な物語で、考えさせられる箇所、
胸が痛くなる記述、現実世界とのリンクなど‥読みどころは
たくさんあり、そのどれをとっても読み応え十分です。
それと、登場人物が、どの巻も、とても魅力的な人々で
溢れていました。

でも、なぜかな。
私は、この『パワー』を読んでいるときも、『ギフト』の中の、
オレックのお母さんのことばかり思い出していました。

ガヴィアが長い旅の途中で、連れていくことになった一人の
少女の名前はメル。
オレックのお母さんの名と同じだったなんて‥

最後のこういうところが、物語って大好きと思ってしまうところです。



*『ギフト』の過去記事    『ヴォイス』の過去記事 











コメント (6)
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