[10月1日10時30分 天候:晴 東京都中央区銀座2丁目 南原清士個展会場]
チーン!と、古めかしいエレベーターがフロア到着のチンベルを鳴らす。
ドアが開くと、すぐ目の前が個展会場の入口である。
受付係「いらっしゃいませ」
入口には受付係の女性が座っていた。
女性……というより、リサ達と大して歳の変わらない少女に見える。
リサ「!」
リサはその受付係を凝視した。
受付係「な、何ですか?」
リサ「似てる……!あの絵のコに……!」
愛原「そういえばそうだな……」
展示されている絵を見ると、物の怪の類に襲われている少女の1人に似てるような気がする。
受付係「ああ……。父は作品の人物のモデルに、私達を使っているもので……」
受付係の少女は、やっとリサの行動の意図が分かったようだ。
愛原「父?画家の南原……先生は、御結婚されているのか」
受付係「はい。……あ、こちらにお名前と連絡先を書いてください」
愛原「おっ、そうだった」
私が記帳している間にも、連れてきた2人の少女は興味津々に南原氏の作品を鑑賞した。
リサはBOWとしての視点、桜谷さんは美術部員としての視点で鑑賞しているようだ。
愛原「今、私『達』って言ったね?ご兄弟がいらっしゃるの?」
受付係「はい。妹がいます」
すると受付係は、リュウグウノツカイの化け物を釣り上げる少女達の作品を指さした。
セーラー服姿の少女達。
うち、1人は釣り上げる際に勢い余って尻餅を付いてしまい、スカートがまくれて、中の白いショーツが丸見えになってしまっている。
受付係「この、釣り竿を持っている方が私で、隣にいるのが妹です」
愛原「うーむ……。違いがよく分からん」
これも芸術なのだろうか。
受付係「あ、私達は双子なもので……。絵では見分けが付かないのも、無理はありません」
愛原「あ、そうなんだ。揃ってセーラー服を着てらっしゃるけど、中学生?」
受付係「いえ、高校1年生です。セーラー服は、父の趣味です。学校はブレザーです」
何だ、そうなのか。
聞くと東京中央学園ではなく、別の高校だという。
無論、聖クラリス女子学院でもない。
南原氏はまだそんなに売れてはおらず、画家だけでは生活できない為、都内のデザイン専門学校にて講師の仕事をしながら、作品を描いているのだという。
愛原「あのコ達はね、東京中央学園のコ達なんだ」
受付係「! そうなんですか!」
愛原「お父さんがそこのOBだろう?お父さんの話を学校で聞いて、是非他の作品も観てみたいってことになってね。それで、こちらにお邪魔した次第さ」
受付係「父はちょっと今、席を外してまして……」
愛原「そうなのか」
まあ、そのうち戻ってくるだろう。
個展というからには、作品の販売もされている。
愛原「何だか西村寿行の小説に、挿絵を付けたらこんな感じ?というのもあるなぁ……」
幸い、超絶エロシーンの絵ではないので、そこまで教育に悪いというわけではないか。
というか、それ以前に……。
愛原「中には化け物にセクハラ攻撃されてる作品があるけど、あれもモデルになったの?」
さすがにその質問は恥ずかしかったようで、長女は俯いた。
受付係「ポ、ポーズだけは取りましたけど……。あとは父の妄想で……」
妄想で文章を書く雲羽百三と、妄想で絵画を描く南原氏と、どう違うのかが一瞬気になった。
愛原「そうなのか」
値段を見ると、どれも諭吉先生を必要とする額だ。
まあ、完成度は高いので、妥当な額と言える。
あまり高い物でなければ、リサの誕プレに買ってあげてもいいかな……。
それにしても、作品の内容は、何もセーラー服の少女達が化け物にセクハラ攻撃を受けている物だけではない。
多くは人物画ではあるが、エロ要素の全く無い物もあった。
例えば、『山仕事をする男』というタイトルの作品がある。
これはどこかの山奥にて、スコップを持ち、正面を向いて仁王立ちになっている男の姿を描いたものだ。
しかしこの男、何故かサングラスを掛けており、白いスーツに黒いワイシャツ、そして白いネクタイを着けているのだ。
ただ、それだけの絵である。
しかし、何だろう?
『山奥に死体を埋めに来たヤクザの幹部』に見えてしまうのは、気のせいだろうか?
それとは場所が対照的な物がある。
今度は、『港湾労働者』というタイトルの作品だ。
何故か深夜の埠頭で、ドラム缶の前に立つ、先ほどの男がいるのだ。
そして、その後ろでは影絵になっているが、2人の人物がコンクリートを捏ねているのが分かった。
確かに、『港湾で何かの労働をしている者たち』ではあるだろう。
しかし、何だろう?
『ドラム缶の中には死体が入っていて、これからコンクリートを詰め、それから海に投げ込む計画のヤクザたち』に見えてしまうのは気のせいだろうか?
申し訳ないが、こんな絵が本当に売れるのかサッパリ分からない。
本職のヤクザさん達に売るつもりか?
愛原「リサ、何か良さそうな作品あったか?」
リサ「うん……あった」
愛原「本当か!?どれだ!?」
リサ「これ……」
リサが指さした作品は、明らかに私でも分かるものだった。
愛原「“トイレの花子さん”か!?」
リサ「うん、そう」
それは『仮面の少女』というタイトルが付けられた作品だった。
南原氏の娘達が基本的に夏服のセーラー服を着せられているのに対し、こちらの少女は冬服のセーラー服を着ている。
しかも校章が明らかに、東京中央学園であった。
木造の建物のどこかに力無く正座しており、こちらを左向きに振り返っている。
そして、右手には仮面を持っているというもの。
裸足だが、顔は物悲し気な雰囲気が滲んでいる。
リサ「これはきっと……“花子さん”が自殺する前の絵だよ」
愛原「そ、そうなのか」
本名は斉藤早苗。
おかっぱ頭であることと、タヌキ顔であるところはリサに似ている。
愛原「これが欲しいのか?誕プレとしてなら、買ってやるぞ」
リサ「ありがとう。第一候補として、これをエントリーしておくね」
愛原「そうか。……ああ、ちょっとキミ。ちょっとこれ、『カートに入れる』にしてくれないかい?」
受付係「は?」
リサ「先生、通販じゃないんだから」
愛原「おおっと!うちのリサが、この作品に関心を示しているので、キープしておきたいんだってさ」
受付係「ありがとうございます!」
愛原「南原先生は、まだお戻りにならないの?ちょっと話があるんだけど……」
受付係「そろそろ、戻ってくると思います。もし良かったら、応接室でお待ちになりますか?妹が戻って来たので、お茶を出せますよ」
愛原「ああ、そう?じゃあ、お言葉に甘えて……」
私は応接室で待たせてもらうことにした。
で、リサは最終的に『仮面の少女』を所望したのであった。
チーン!と、古めかしいエレベーターがフロア到着のチンベルを鳴らす。
ドアが開くと、すぐ目の前が個展会場の入口である。
受付係「いらっしゃいませ」
入口には受付係の女性が座っていた。
女性……というより、リサ達と大して歳の変わらない少女に見える。
リサ「!」
リサはその受付係を凝視した。
受付係「な、何ですか?」
リサ「似てる……!あの絵のコに……!」
愛原「そういえばそうだな……」
展示されている絵を見ると、物の怪の類に襲われている少女の1人に似てるような気がする。
受付係「ああ……。父は作品の人物のモデルに、私達を使っているもので……」
受付係の少女は、やっとリサの行動の意図が分かったようだ。
愛原「父?画家の南原……先生は、御結婚されているのか」
受付係「はい。……あ、こちらにお名前と連絡先を書いてください」
愛原「おっ、そうだった」
私が記帳している間にも、連れてきた2人の少女は興味津々に南原氏の作品を鑑賞した。
リサはBOWとしての視点、桜谷さんは美術部員としての視点で鑑賞しているようだ。
愛原「今、私『達』って言ったね?ご兄弟がいらっしゃるの?」
受付係「はい。妹がいます」
すると受付係は、リュウグウノツカイの化け物を釣り上げる少女達の作品を指さした。
セーラー服姿の少女達。
うち、1人は釣り上げる際に勢い余って尻餅を付いてしまい、スカートがまくれて、中の白いショーツが丸見えになってしまっている。
受付係「この、釣り竿を持っている方が私で、隣にいるのが妹です」
愛原「うーむ……。違いがよく分からん」
これも芸術なのだろうか。
受付係「あ、私達は双子なもので……。絵では見分けが付かないのも、無理はありません」
愛原「あ、そうなんだ。揃ってセーラー服を着てらっしゃるけど、中学生?」
受付係「いえ、高校1年生です。セーラー服は、父の趣味です。学校はブレザーです」
何だ、そうなのか。
聞くと東京中央学園ではなく、別の高校だという。
無論、聖クラリス女子学院でもない。
南原氏はまだそんなに売れてはおらず、画家だけでは生活できない為、都内のデザイン専門学校にて講師の仕事をしながら、作品を描いているのだという。
愛原「あのコ達はね、東京中央学園のコ達なんだ」
受付係「! そうなんですか!」
愛原「お父さんがそこのOBだろう?お父さんの話を学校で聞いて、是非他の作品も観てみたいってことになってね。それで、こちらにお邪魔した次第さ」
受付係「父はちょっと今、席を外してまして……」
愛原「そうなのか」
まあ、そのうち戻ってくるだろう。
個展というからには、作品の販売もされている。
愛原「何だか西村寿行の小説に、挿絵を付けたらこんな感じ?というのもあるなぁ……」
幸い、超絶エロシーンの絵ではないので、そこまで教育に悪いというわけではないか。
というか、それ以前に……。
愛原「中には化け物にセクハラ攻撃されてる作品があるけど、あれもモデルになったの?」
さすがにその質問は恥ずかしかったようで、長女は俯いた。
受付係「ポ、ポーズだけは取りましたけど……。あとは父の妄想で……」
妄想で文章を書く雲羽百三と、妄想で絵画を描く南原氏と、どう違うのかが一瞬気になった。
愛原「そうなのか」
値段を見ると、どれも諭吉先生を必要とする額だ。
まあ、完成度は高いので、妥当な額と言える。
あまり高い物でなければ、リサの誕プレに買ってあげてもいいかな……。
それにしても、作品の内容は、何もセーラー服の少女達が化け物にセクハラ攻撃を受けている物だけではない。
多くは人物画ではあるが、エロ要素の全く無い物もあった。
例えば、『山仕事をする男』というタイトルの作品がある。
これはどこかの山奥にて、スコップを持ち、正面を向いて仁王立ちになっている男の姿を描いたものだ。
しかしこの男、何故かサングラスを掛けており、白いスーツに黒いワイシャツ、そして白いネクタイを着けているのだ。
ただ、それだけの絵である。
しかし、何だろう?
『山奥に死体を埋めに来たヤクザの幹部』に見えてしまうのは、気のせいだろうか?
それとは場所が対照的な物がある。
今度は、『港湾労働者』というタイトルの作品だ。
何故か深夜の埠頭で、ドラム缶の前に立つ、先ほどの男がいるのだ。
そして、その後ろでは影絵になっているが、2人の人物がコンクリートを捏ねているのが分かった。
確かに、『港湾で何かの労働をしている者たち』ではあるだろう。
しかし、何だろう?
『ドラム缶の中には死体が入っていて、これからコンクリートを詰め、それから海に投げ込む計画のヤクザたち』に見えてしまうのは気のせいだろうか?
申し訳ないが、こんな絵が本当に売れるのかサッパリ分からない。
本職のヤクザさん達に売るつもりか?
愛原「リサ、何か良さそうな作品あったか?」
リサ「うん……あった」
愛原「本当か!?どれだ!?」
リサ「これ……」
リサが指さした作品は、明らかに私でも分かるものだった。
愛原「“トイレの花子さん”か!?」
リサ「うん、そう」
それは『仮面の少女』というタイトルが付けられた作品だった。
南原氏の娘達が基本的に夏服のセーラー服を着せられているのに対し、こちらの少女は冬服のセーラー服を着ている。
しかも校章が明らかに、東京中央学園であった。
木造の建物のどこかに力無く正座しており、こちらを左向きに振り返っている。
そして、右手には仮面を持っているというもの。
裸足だが、顔は物悲し気な雰囲気が滲んでいる。
リサ「これはきっと……“花子さん”が自殺する前の絵だよ」
愛原「そ、そうなのか」
本名は斉藤早苗。
おかっぱ頭であることと、タヌキ顔であるところはリサに似ている。
愛原「これが欲しいのか?誕プレとしてなら、買ってやるぞ」
リサ「ありがとう。第一候補として、これをエントリーしておくね」
愛原「そうか。……ああ、ちょっとキミ。ちょっとこれ、『カートに入れる』にしてくれないかい?」
受付係「は?」
リサ「先生、通販じゃないんだから」
愛原「おおっと!うちのリサが、この作品に関心を示しているので、キープしておきたいんだってさ」
受付係「ありがとうございます!」
愛原「南原先生は、まだお戻りにならないの?ちょっと話があるんだけど……」
受付係「そろそろ、戻ってくると思います。もし良かったら、応接室でお待ちになりますか?妹が戻って来たので、お茶を出せますよ」
愛原「ああ、そう?じゃあ、お言葉に甘えて……」
私は応接室で待たせてもらうことにした。
で、リサは最終的に『仮面の少女』を所望したのであった。
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