報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「報告後の帰り」

2023-01-23 20:42:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[9月24日16時15分 天候:曇 東京都港区新橋 新橋バス停→都営バス業10系統車内]

 デイライトでの話は、小一時間ほどで終了した。
 私達はデイライトの事務所をあとにした。

 愛原「上手く行ったな」
 高橋「はい、さすが先生です」
 愛原「いや、皆のおかげだよ。それじゃ、帰るとしよう」
 リサ「ヘイ、タクシー!」
 愛原「いや、帰りもバスだよ」
 リサ「えー……」
 愛原「もう用事は終わったんだからな」

 私達はデイライトの事務所近くのバス停に向かった。
 ここからバスに乗れば、菊川まで乗り換え無しで帰れる。

 愛原「帰って、夕飯にしよう」
 高橋「はい。帰ったら、すぐに作りますので」
 愛原「頼もしいな」
 高橋「ネンショーやムショにいた時のスキルがお役に立てるなんて、最高です」
 リサ「わたしも手伝うー」
 愛原「ありがとう」

 そして、バスがやってくる。

 愛原「バス代くらいは、俺が出してやるよ」
 高橋「ありがとうございます」
 リサ「ありがとう」

 私達は前扉からバスに乗り込んだ。
 今日は1番後ろに3人並んで座った。
 席の並びは……まあ、新幹線と同じだ。

 愛原「何だか、曇ってきたな……」
 高橋「今日の夜、雨降るらしいっス」
 愛原「マジか。洗濯物、取り込んでおいた方がいいな」

 まだ9月では、ゲリラ豪雨も降るだろう。
 次の台風の予報なんかも出ているし、まだまだ油断はできない。
 発車の時刻になり、バスのエンジンが掛かる。

〔「お待たせ致しました。16時17分発、東京スカイツリー駅前行き、発車致します」〕

 折戸式の前扉が閉まると、バスが走り出した。

〔発車致します。お掴まりください〕
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは銀座四丁目、勝どき橋南詰、豊洲駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋で。日蓮正宗本行寺と常泉寺へおいでの方は、終点、とうきょうスカイツリー駅前でお降りになると便利です。次は、銀座西六丁目でございます〕

 たまにこのバスに乗ると、栗原姉妹と乗り合わせることがあるが、今回はそういうことは無いようだ。

 高橋「先生、新しい事務所の件っスけど、俺のツテで探してるんですが、どうも……」
 愛原「だからさ、オマエの仲間が協力してくれるのは嬉しいが、どうして如何わしい所ばっかりなんだい?」
 高橋「いやあ、半グレの悲しい所で、風俗店とかやってるもんで……」
 愛原「昔は風俗店の後ろに付いているのは暴力団だったりしたものだけど、今は半グレなんだねぇ……」
 高橋「ヤーさん経営の店を追い出して、空き店舗になった所とかあるんスけど……」
 愛原「だから、治安の悪い所に事務所構えても、変な仕事しか来ないって」
 高橋「さ、サーセン」
 愛原「リサの学校のこともあるんだから、なるべく今と近い所の方がいいんだって」
 高橋「まあ、そうっスね」
 愛原「近くの不動産屋を当たるしかないよ」
 高橋「でも、無かったじゃないスか」
 愛原「まあな……」

[同日17時15分 天候:曇 東京都墨田区菊川 都営バス菊川バス停→愛原のマンション]

 バスは無事に菊川に着いた。

 高橋「じゃあ、急いで帰って、飯にしましょう」
 愛原「ああ、頼むよ」

 コンビニの前を通らないので、リサの買い食いは防げそうだ。
 もっとも、マンションの入口に自販機はあるので、そこでリサがよくジュースを買うのだが。
 現金しか使えないので、リサが小銭を入れる数少ない機会だ。

 高橋「リサ、早くしろ」

 高橋が先にマンションの中に入って、エレベーターを呼ぶ。

 愛原「どうしたんだ、高橋?」
 高橋「いや、さっき雷の音が聞こえたもんで」
 愛原「えっ、うそ?!」
 高橋「いや、ホントっス」

 とはいうものの、まだ9月だというのに、外が随分と暗くなってきたように見える。
 雨は夜だと聞いていたが、早まったのか。

〔上に参ります〕

 私達は急いでエレベーターに乗った。

 愛原「雨が降る前に、洗濯物取り込んでおくぞ」
 リサ「もう乾いてるかな?」
 愛原「乾いていない場合は、室内干しだな。俺がやっておくから、リサは高橋の手伝いをしてくれ」
 リサ「分かった」

 部屋に戻ると、リサは着替えに自分の部屋へ。
 私はベランダに向かって、洗濯物を取り込み始めた。
 確かに遠雷が聞こえる。
 どうやら、ゲリラ豪雨が早まったようである。
 さすがに、まだ生乾きなので、リビングの上に設置している物干し竿に引き続き干し直す。

 

 リサのブルマや黒いショーツが干されているのも干し直す。

 リサ「先生、もっと見たい?」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、体操服とブルマに着替えたリサが言った。
 ブルマはもう1着の緑色であった。
 学校指定の物で、いま洗濯しているのは通販で購入したものだが、いま穿いているのは、学校指定の衣料店で購入したものだ。

 愛原「オマエ、それで高橋を手伝うのか?」
 リサ「うん!」

 リサはそう言って、その上からエプロンを着用した。

 愛原「まあ、いいけどさ……」
 リサ「あ、そうだ。わたし、明日、学校行くから」
 愛原「また、絵のモデルか?」
 リサ「うん。サクラヤが、仕上げに入りたいんだって」
 愛原「そうか。もう仕上げの段階なのか」
 リサ「そう。できたら、先生にも見せてあげるね」
 愛原「それは楽しみだ」
 高橋「おい、リサ。早くこっちに来い」
 リサ「はーい」
 愛原「今日のメニューは何だ?」
 高橋「いつも週末はカレーじゃないっスか」
 愛原「それもそうだ。昨日は出張で食えなかったから、今日に代替ってか」
 高橋「そういうことです。リサがどうしても、ビーフカレーがいいって言うんですけど、それで良かったっスか?」
 愛原「別にいいよ」

 王道だと思うが、リサが何も言わなかったら、何のカレーにするつもりだったのだろうか?
 それを聞こうとした時、私のスマホが鳴った。
 画面を見ると、善場主任だった。
 私は自分の部屋に入ると、電話に出た。

 愛原「はい、愛原です」
 善場「愛原所長、お疲れさまです」
 愛原「主任、お疲れさまです。先ほどは、ありがとうございました」
 善場「いいえ、こちらこそ」
 愛原「何かありましたか?」
 善場「リサの方ですが、何か異常はありませんか?」
 愛原「リサですか?いいえ、別に。リサが、どうかしたんですか?」
 善場「アンブレラ側のデータによると、Gウィルス保有者が特異菌に感染すると、突然変異が発生する恐れがあるとあったものですから……」
 愛原「ええっ、そうなんですか?!」
 善場「リサは特異菌クリーチャー、モールデッドからの攻撃を受けたんですよね?」
 愛原「ええ。でも、リサもBOWですから、回復薬無しですぐに回復しましたが」
 善場「何かアイテムを使用したりはしましたか?」
 愛原「はい。レッドハーブを使いました」
 善場「レッドハーブですか」
 愛原「はい」
 善場「使ったアイテムは、それだけですか?」
 愛原「そうですけど……」
 善場「分かりました。異常が出たら、いつでも構いませんので、すぐに連絡してください」
 愛原「わ、分かりました」

 私は電話を切った。
 そして、また部屋を出て、ダイニングに行った。

 高橋「何だァ?化け物でも、玉ねぎ切れば、涙出るんだな?」
 リサ「そうだよ……」
 高橋「あれ?先生、どうしました?」
 愛原「あ、いや。リサのヤツ、大丈夫か?」
 高橋「玉ねぎ切って、涙が出ただけっスよ。確か先生、玉ねぎはみじん切りの方がいいんでしたね?」
 愛原「あ、ああ、そうだな。頼むぞ」
 高橋「はい」
 愛原「リサ」
 リサ「なに……?」
 愛原「体の具合が悪くなったら、すぐに言うんだぞ?」
 リサ「分かった……」

 今のところ、特に異常は無いようだが……。
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“私立探偵 愛原学” 「帰京してからのこと」

2023-01-23 14:58:16 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[9月24日00時15分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 タクシーがマンションの前に到着する。

 愛原「カードで払います」
 運転手「はい、ありがとうございます」
 愛原「領収証ください」

 料金は私がカードで払った。
 領収書は取っておき、明日……おっと!
 日付が変わったから、今日か。
 今日、デイライトの事務所に行く時に持って行くことにする。

 愛原「あー、疲れたなー……」
 高橋「早いとこ帰って、休むとしましょう」
 愛原「ああ」

 タクシーから荷物を降ろして、マンションに入る。

 愛原「風呂入って寝るか」
 高橋「すぐに沸かします。朝は、何時に起きますか?」
 愛原「そうだなぁ……。そもそも、デイライトさんに、荷物が届かないことには、俺達も動けないしなぁ……」

 午前中といっても、昼近くに届くようだったら、午後に行くことになるだろう。

 愛原「まあ、9時までには起きることにしよう」
 高橋「分かりました」
 愛原「今回はリサにも一緒に行ってもらうから」
 リサ「わたしも?分かった」
 高橋「どうしてリサもなんスか?」
 愛原「今回、向こうでクリーチャーと戦っただろ?BOWの視点で見た報告が欲しいんだと」
 リサ「わたし目線って……先生達と、そんなに変わんないと思うよ。わたしも眠いから、もう寝るね」
 愛原「風呂はいいのか?」
 リサ「仙台で温泉入っちゃったし。起きてから入るよ」
 愛原「そうか」

 リサは自分の部屋に入って行った。

 高橋「先生、朝飯は軽くでいいっスか?」
 愛原「いいよ」

 私も荷物の片づけをする為に、自分の部屋に入った。

[同日09時00分 天候:晴 同マンション]

 疲れたせいか、随分とグッスリ眠ったような気がする。

 高橋「先生、おはようございます」
 愛原「ああ、おはよう」

 顔を洗いに洗面所にに行くと、浴室からシャワーの音が聞こえた。
 どうやら、リサがシャワーを浴びているらしい。

 愛原「デイライトさんから連絡は?」
 高橋「まだ無いっス」
 愛原「そうか」

 控えの伝票から、荷物が今どうなっているのか確かめることができる。
 それによると、今、配達中になっていた。
 どうやら無事に荷物は都内まで運ばれ、近くの配達店まで来たようである。
 そして今、配達中と……。

 愛原「どうやら、朝飯をゆっくり食える暇は有りそうだな」
 高橋「そうっスね」

 しばらくして、制服に着替えたリサが部屋から出てきた。

 愛原「学校に行くわけじゃないよな?」
 リサ「もちろん。デイライトの事務所に行くんでしょ?」
 愛原「ああ、そうだ」

 高橋が作ったのはトーストとベーコンエッグ、サラダとコンソメスープだった。

 愛原「いただきまーす」
 リサ「いただきまーす」

[同日11時00分 天候:晴 同地区内 愛原学探偵事務所]

 朝食を食べ終わっても、まだ善場主任から連絡が来ない。
 待っていると、なかなか来ないなと思う。
 それがようやく11時を回る頃、やっと連絡が来た。

 善場「愛原所長、お疲れ様です」
 愛原「善場主任、お疲れ様です」
 善場「今しがた、荷物が届きました」
 愛原「あ、今届きましたか」

 午前中であることに、変わりは無い。

 愛原「それでは今から向かい……」
 善場「あ、いえ。その前に、こちらで内容を精査致します。所長方は、それ以降に来て頂きたいのです」
 愛原「あ、これは失礼致しました。それで、いつ頃お伺いすれば?」
 善場「そうですね……。もうすぐお昼ですし、15時頃に来て頂ければ宜しいかと思います」
 愛原「15時頃ですね。承知致しました。では、その時間帯に伺わせて頂きます」
 善場「宜しくお願いします」

 私は電話を切った。

 愛原「15時だってさ」
 高橋「マジっスか。時間が中途半端っスね」
 愛原「まあ、しょうがない。昼飯食べてから行くことになるな」
 高橋「また俺が、ホットドッグでも作りますよ」
 愛原「おう、悪いな」
 高橋「その前に、夕食の買い出しに行こうと思います。15時からだと、帰り、夕方になりますよね?」
 愛原「あー……そうだな。じゃあ、頼むよ」
 高橋「任せてください」

[同日15時00分 天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 私は高橋とリサを連れ、約束の時刻にデイライトの事務所を訪れた。
 すぐに来客用の会議室に通される。

 善場「皆さん、昨日はお疲れさまでした。おかげさまで、重要な情報を得ることができました」
 愛原「もしかすると、それは地下施設の概要よりも、ヴェルトロと天長会が繋がっていたことですか?」
 善場「そうです。関係各機関と連携し、天長会には捜査の手が及ぶことになるでしょう」
 高橋「胡散臭ェ宗教だと思ってたけど、やっぱそうだったかよ」
 愛原「今更だぞ。白井が信者という時点で、ほぼ真っ黒だろ」
 高橋「それもそうっスね」
 善場「仰る通りです。資料の中には、どうやってヴェルトロが特異菌を手にしたのかも書かれていました」
 愛原「そうですか」
 善場「2005年にヴェルトロの本体が崩壊した後、生き残った一部の者が他の組織に移ったようです。その組織が特異菌を扱っていたことから、そこから渡ったようですね」
 愛原「天長会は、どう関わったのでしょうか?」
 善場「東京中央学園で起きていた怪奇現象の正体は、特異菌による幻覚や幻聴であることが分かりましたね?」
 愛原「はい」
 善場「幻惑を見せる特別な薬として、儀式で使う名目で手に入れていたようです」
 愛原「写真に移っていた上野理事長というのは、教祖ですか?」
 善場「いえ、教祖ではありません。あくまでも、事務部門のトップです。省庁で言えば、教祖が大臣なのに対し、理事長は事務次官クラスです」
 愛原「そういうことですか」
 善場「そして、上野利恵の夫であることも判明しました」
 愛原「上野利恵に食い殺されたわけですね?」
 善場「そうです」
 リサ「あの人食い鬼が……」
 高橋「オマエもだろ」
 リサ「わたしはまだ食い殺してないもん!」
 高橋「先生を食い殺すんじゃねーぞ!?」
 リサ「分かってるよ」
 愛原「そういえば上野利恵は、特異菌を使ってBOWになったんでしたね?」
 善場「そうです。そこがGウィルスとTウィルスを使われたリサとは、大きな違いです」

 実際には特異菌だけでなく、他にも生物兵器ウィルスを混ぜた物が使われた。
 しかし、リサよりも、より鬼らしい鬼となった。
 リサと同じなのは、普段は人間に化けられるところ。
 そして、スイッチが入ると、食人衝動や性欲がとても強くなるところ。

 愛原「ただ、あいにくと白井に関する情報は入りませんでした」
 善場「それは仕方ないです。恐らく、あの施設に白井は殆ど関わっていなかったのでしょう。どちらかというと、白井は本部長だったわけですから、本部直轄の施設しか関わらなかったと思われます」
 愛原「アンブレラの再興を願っているのでしょうか?」
 善場「それはまだ不明です。今、殆ど白井は自分の願いを叶えたも同然なのです。捕まえて本人から問い質したいところですが、姿を現してくれないことには、こちらも手が出せません」
 愛原「特異菌の使い手となると、消えるのも得意ですからね」
 高橋「先生、今のギャグっスか?」
 愛原「ンなわけあるか!」
 善場「とにかく、所長方の調査に感謝します。報酬は後ほどお支払い致しますので、まずは調査に掛かった諸経費について精算させてください」
 愛原「ありがとうございます」
 善場「それと、リサ」
 リサ「はい?」
 善場「あなたの戦闘データも確認しました。モールデッドから、何回か攻撃を食らっていますね?」
 リサ「ノーダメージ攻略なんて無理だよ」
 善場「いえ、そういうことではありません。人間であれば、あれで特異菌に感染したようなものです。もしも体に異常を感じるようなことがあれば、すぐに報告してください」
 リサ「分かりました」

 私達は東京中央学園の件で、既に特異菌に対するワクチンが投与されているので、抗体はある。
 それは、リサも同じだと思うのだが……。
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“私立探偵 愛原学” 「夜の帰京」

2023-01-23 12:16:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[9月23日21時45分 天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 JR仙台駅新幹線乗り場→東北新幹線74B列車8号車内]

 高橋が喫煙所から戻り、リサもトイレから出てきた。

 高橋「先生、どうします?ホームに行きますか?」

 列車を待ちますか?
 ①はい
 ②いいえ

 愛原「①だ!」
 高橋「え?」
 愛原「……あ、いや、何でもない。ホームに行こう」
 高橋「はい」

 私達はエスカレーターで、ホームに上がった。

〔13番線に、“やまびこ”74号、東京行きが、10両編成で、参ります。この、電車は、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。尚、全車両禁煙です。……〕
〔「13番線、ご注意ください。“やまびこ”74号、東京行きが参ります。本日、東京行きの最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 ホームで列車を待っていると、盛岡方向から真っ白なヘッドランプの光を灯らせて、最終列車が入線してきた。
 厳密にはこの後にも1本あるのだが、それは郡山止まりである。

〔仙台、仙台。仙台、仙台。ご乗車、ありがとうございました。……〕

 JR仙台駅には、ホームドアが無い。
 なので、列車が停車すると、すぐにドアが開く。
 盛岡始発なので、既に先客が乗っていたが、この駅で降りる乗客も散見される。
 そして、私達は前に並んでいる乗客に続いて、8号車に乗り込んだ。

 

〔「21時48分発、“やまびこ”74号、東京行きです。本日、東京行きの最終列車です。次は、福島に止まります。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 愛原「ここだな」
 高橋「先生、荷物上げます」
 愛原「ああ」

 リサが窓側席に行き、私は真ん中、高橋は通路側というのがセオリー。
 大きな荷物は、高橋に棚の上に載せてもらう。
 リサはテーブルを出して、NewDaysで買ったお菓子やジュースを置いた。
 しばらくして、ホームから発車メロディの音色が聞こえてくる。
 さとう宗幸氏の“青葉城恋唄”を地元の仙台フィルハーモニー管弦楽団が演奏したものである。

〔「13番線、ドアが閉まります。ご注意ください。ドアが閉まります」〕

 終電あるあるで駆け込み客を待つことがあり、それで発車が遅れることがある。
 客扱い遅れは乗務員の責任ではないので、会社側からのペナルティが課せられることはないそうだ。
 先述した通り、ホームドアが無いので、車両側のドアが閉まれば、すぐに発車する。
 スーッと加速して行き、夜の市街地に入る。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

 高橋「それにしても先生、何とか無事に帰れそうですね?」
 愛原「油断するなよ。遠足や修学旅行と同じで、帰るまで仕事なんだからな」
 高橋「メモっておきます!」
 愛原「今更かよ……」

 そもそも帰りの新幹線代から、東京駅からマンションまでのタクシー代やら、デイライトさんに請求できるのだから、やはり帰るまでが仕事なのは間違いないだろう。
 例の資料は全てデイライトさんに送ったが、ちゃんと届くまでは、こちらに責任がある。

 愛原「今頃は、あの宅急便も、夜の高速を走っているだろう」
 高橋「なるほど」
 愛原「いや、もしかしたら、貨物列車かな」
 高橋「貨物列車ですか」
 愛原「大宮駅で、ヤマト運輸のコンテナを積んだ貨物列車を見たことがある。あれかもしれない」

 いずれにせよ、明日の午前中に着けば構わない。
 一方、リサはポッキーをポリポリ食べていた。

 リサ「先生、ポッキーゲームやる?」
 愛原「え?」
 高橋「バカ野郎、俺が先生とポッキーゲームやるんだよ!」
 愛原「オマエら、アホか!」

 こいつらといると、退屈しないなァ……。

[同日23時44分 天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 愛原「ニュースを見てるけど、さすがにまだ例の地下施設はニュースになっていないようだ」
 高橋「報道規制ですかね?」
 愛原「どうだろうな……」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 もう終電なので、乗り換え案内はされない。
 もっとも、まだ通勤電車は運転されている。

〔「23番線到着、お出口は右側です。各在来線にお乗り換えのお客様は、最終列車にご注意ください。……」〕

 愛原「駆け足の仕事だったな」
 高橋「まさか、終電で帰ることになるとは思いませんでしたね」

 リサは私に寄り掛かるようにして寝ている。

 愛原「リサ、起きろ。そろそろ降りるぞ」
 リサ「うーん……」

 列車は地下トンネルを出て、秋葉原駅、神田駅と通過していく。
 平日なら並走する通勤電車も、もっと混んでいるだろうが、祝日の今日は客が少ない。
 そして、列車は東京駅の新幹線ホームに滑り込んだ。
 この車両はこのままこのホームで夜明かしをし、明日の始発列車として運転される。
 隣の東海道新幹線ホーム14番線にも、似たような運用がされると思われるN700系が停車していた。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、東京、終点、東京です。お忘れ物、落とし物をなさいませんよう、ご注意ください。23番線の列車は、回送です。ご乗車になれませんので、ご注意ください」〕

 私達は荷物を手に、ホームに降りた。

 愛原「それじゃ、タクシーにでも乗るか」
 高橋「へい」

 エスカレーターでコンコースに下り、八重洲中央口の改札を出る。
 それから八重洲側のタクシー乗り場へ。
 荷物はトランクを開けてもらい、そこに載せた。
 後ろに3人で乗る。
 セダンタイプのタクシーに3人で乗ると狭いが、リサと高橋は、私と密着できる御褒美らしい。

 愛原「菊川1丁目【中略】までお願いします」
 運転手「はい、ありがとうございます」

 タクシーは深夜の東京駅を出発した。

 愛原「ちょ……狭い!寄り掛んな!」
 高橋「気のせいっスよ~」
 リサ「気のせいっスよ~」
 愛原「……お前ら、後で説教な」
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