報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「学校であった怖い話」 1話目からバッドエンド!?

2021-07-27 20:25:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月2日15:00.天候:曇 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校1F新聞部部室]

 愛原リサ:「私は殺していない!あなたは何か勘違いしている!」
 石上暮美:「お前だ!お前が妹を殺したんだ!!」

 騒然とする部室内。
 何故このようなことになったのか。
 1話目の語り部に立候補したのは、3年生の石上暮美という女子生徒だった。
 最初は淡々と語っていた。
 この学校には思ったほどの怪談話は存在しないだの、しかし悪霊は存在するだのという話から始めた。
 それを聞いたリサは最初、旧校舎に巣くう“トイレの花子さん”の話をするのだと思っていた。
 リサがいくつか持っている怪談ネタの1つがそれだったからだ。
 先に話されてしまうようでは、別のネタを出すしか無いなと思った。
 ところが、実際の話は違った。
 リサのクラスには、3週間ほど前に退学してしまった女子生徒がいた。
 その女子生徒はイジメの被害者で、リサも彼女がイジメられているのは知っていた。
 イジメの加害者達もまた性格が悪いもので、リサや絵恋にもちょっかいを出してきたほどである。
 しかし、リサは持ち前のスキルで逆に痛い目に遭わせてやった。
 ついでに絵恋も助けてあげたのだが、絵恋は金力で解決したかもしれない。
 とにかく、それで加害者達はリサ達にちょっかいは出して来なくなったのだが、代わりに別のターゲットを見つけた。
 それが、石上の話の中に出て来た退学者であった。
 悪霊が妹に取り憑いた為に、加害者達を誘き寄せ、それで被害を受けたのだと語った。
 さすがにそれは被害妄想だろうとリサは思ったが、石上は何故か話をリサに話すかのような語り口調になった。
 あくまでこれは新聞部の怪談特集の取材なのだから、進行役の新聞部員である田口に話すはずである。

 田口:「……イジメの被害を受けたことで、学校を辞めることになったんですね。かわいそうです」

 田口は取材メモを取った。
 しかし、石上の視線は田口ではなく、リサに向けられていた。

 石上:「妹が学校を辞めた後、どうなったかは知らないでしょう?仲良くもなかったクラスメートのことなんて、関心無いでしょうからね」
 リサ:「はあ……」
 石上:「悪霊はね、学校を辞めてからも妹に憑いてきたの。まるでそこが居場所とでもいうかのように。悪霊ってどんな顔をしていると思う?」
 リサ:「知りません」

 BOWやクリーチャーの顔なら想像は付くが、リサは悪霊に知り合いはいなかった。
 もっとも、人によっては旧校舎の“トイレの花子さん”を悪霊と呼ぶ向きもあるから、強いて言うなら彼女かもしれない。
 しかし、“花子さん”は常に白い仮面を着けている為、リサは素顔を知らなかった。

 石上:「ちょうどあんたみたいな顔をしているわ」
 リサ:「……!(まさかこいつ、私の正体を知ってるんじゃ……!?)」

 リサは身構えた。

 石上:「私と妹はね、両親が離婚したせいで、別々に暮らしているの。だから、名字が違う。でも、自分で言うのも何だけど、これでも仲良くしていた方だったんだよ……」
 リサ:「まさか……」
 石上:「妹はね、悪霊と戦ったのよ。そしたらね、悪霊は妹の体の中に入ってしまった」
 リサ:「その悪霊の名前って……」

 リサはエブリンではないかと思った。
 エブリンの操るモールデッドは、『黒いオバケ』と呼ばれていたからだ。
 見る者によっては、まるでエブリンが悪霊のように見えるかもしれない。

 石上:「それでも妹は戦った。そして、ついにあのコは……カッターで……自分の首を……!」
 リサ:「ええっ!?」

 そこまで話して、石上は涙を流した。
 確かに、ニュースで15歳の少女が自宅で首を切って自殺というニュースを観たことがあるような気がした。
 しかし、話はここで終わりではなかった。

 石上:「悪霊は今、ここにいる!それは妹のイジメたグループのリーダーの愛原リサ!お前だ!!」

 そう言って、石上はスカートのポケットから大型のカッターナイフを取り出した。

 リサ:「それは勘違いだ!私は同じクラスだけど、イジメていない。あなたの妹をイジメたリーダーは、私が痛めつけておいた」
 石上:「ウソおっしゃい!私はウソが大嫌い!やはりオマエは悪霊だ!!」

 石上はカッターナイフを振り下ろした。
 夏服半袖なので、剥き出しのリサの右手に一筋の切り傷が入る。

 田口:「きゃあーっ!!」

 田口が悲鳴を上げた。

 男子生徒A:「おい、やめろよ!」
 男子生徒B:「やめてください!こんな所で刀傷沙汰は!」
 男子生徒C:「落ち着いてください!!」

 もちろん、リサが第1形態に戻れば、簡単に石上を倒すことはできるだろう。
 だが、それは同時にリサがこの学校から離れなくてはならないことを意味する。
 リサの正体を知っていて良いのは、リサのグループにいるごく一部の者と、ごく一部の教職員だけだ。

 石上:「放せ!放して!!」
 リサ:「後でリーダーの名前を教える!だから……!」

 石上は室内にいる他の語り部男子4人のうち、3人に取り押さえられた。
 幸いそのうち2人は体育会系っぽい男子で、もう1人は力自慢の巨漢であったのが幸いだった。

 石上:「わあああああっ!!」

 石上は大泣きした後、部室を出て行った。

 男子生徒A:「だ、大丈夫か、あれ?妹の後追いしたり、しねーよな?」
 男子生徒B:「しかし、僕達には何もできないですよ。話が重すぎて……」
 男子生徒C:「キミ、愛原さんとか言ったっけ?ケガは大丈夫?」
 リサ:「大丈夫です。もう、傷は塞がってます」

 その通り、最初はパックリ割れていた腕の切り傷も、まるで嘘だったかのように傷痕すら無くなっていた。
 傷ができた際に出血した痕が残っているだけだ。

 男子生徒C:「す、凄いね!?」
 リサ:「生まれつきなんです。だから、私は大丈夫です」

 もちろん、それはウソである。
 BOW(生物兵器)に改造されたことで得た身体能力の1つである。
 今現在リサは、どこからどう見ても人間の姿をしており、将来はこれを『正体』にするのが目的であるが、今は逆だ。
 今現在の正体は、鬼娘の姿である。
 幸いここには、リサの正体を知っていそうな者はいなかった。

 リサ:「ただ……私にも責任はあります。私もイジメられそうになったので、逆に痛めつけてやりました。それであいつは私のことは諦めたんですが、代わりに石上さんの妹に目をつけたようです」
 男子生徒A:「そういうことだったのか。だが、愛原は悪くねーと思うぞ?言っちゃあ悪いが、お前は強くて、石上の妹が弱かったんだよ」
 男子生徒C:「しかし、イジメられているのが分かってて助けてあげなかったのは、『強い者』としてどうなの?」
 男子生徒A:「バーカ。頼みもされてねーのに、そんなボランティアできっかってんだ。なあ?」
 リサ:「確かに、頼まれはしませんでした。それに、あのコは私の友達でもなかったので」
 男子生徒A:「あー、そういうもんだよ。愛原は悪くねぇよ。……さて、田口とか言ったっけ?石上のあの話、1話目ってことでいいのか?」
 田口:「あ、はい。そうですね。それでは、2話目はどなたが話しますか?」
 男子生徒A:「じゃあ、俺がしよっか」
 田口:「はい、お願いします。お話の前に、自己紹介からお願いします」
 男子生徒A:「分かってるよ」

 見た目は体育会系の3年生男子(制服のワッペンの色で学年が分かる)。
 不良っぽくも見えるが、果たして彼はどんな話をしてくれるのだろうか。
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“愛原リサの日常” 「学校であった怖い話」 序章

2021-07-25 20:49:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月2日14:30.天候:曇 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校1F新聞部部室]

 『7月2日の放課後、“学校の七不思議特集”を行いますので、新聞部の部室に集まってください』

 リサはこのお知らせを手に、新聞部の部室に行くことにした。
 6月下旬から行われていた1学期の期末試験が今日で終わり(東京中央学園は3学期制)、この日は少し早めに帰れるということで、今日が選ばれた。
 他の学校なら試験終了後は早めに帰宅しなければならないが、東京中央学園の場合、採点は学校法人の本部事務所が別にあり、そこで行われる為、かような制限は無かった。
 答案用紙の運搬も、警備会社の現金・貴重品輸送部門に委託して行われるほどの厳重ぶりだった。
 確かに、今でもたまに担当教師が家に持ち帰って採点しようとしたら、紛失したり盗難に遭ったりといった事案が見受けられることがあるので、学園としては念には念を入れてのことなのだろう。

 斉藤絵恋:「ねえ、リサさん。本当に行くの?」
 愛原リサ:「ああ、行く」
 絵恋:「私も行きたかったなぁ……」
 リサ:「サイトーはこの学校の怖い話を知らない。でも、私は立場上、いくつか知っている。だから、私が行かなきゃいけないんだ」
 絵恋:「聞いた話、過去に語り部が死んだり、行方不明になったりといった事件が何度も発生したんでしょう?リサさんのことに、もしものことがあったら、私……」
 リサ:「もしかしたら、私のことが語られるかもしれないんだ。私自身が怪談のネタになってることもある。だから、心配無いよ」
 絵恋:「そ、そう」
 リサ:「もしも何かあったら、その時はよろしく」
 絵恋:「ええ、それはもちろん」
 リサ:「それじゃ」
 絵恋:「雨が降りそうだから、雨が降ったら傘持って行くからね」
 リサ:「分かった」

 確かに今日は、どんよりとした雲が空を覆い、今にもゲリラ豪雨が降り出してきそうな勢いである。

 絵恋:「リサさんは何の話をするの?」
 リサ:「その時になってからだな。いくつか話を知っているから、最初に当てられた時は比較的マイルドな話にしておくし、後の方で当てられたら思いっ切り怖い話をしてやろうと思う」
 絵恋:「くれぐれも正体がバレないようにね?」
 リサ:「分かってるよ。それじゃ」

 リサは絵恋と別れると、1階の校舎奥にある新聞部の部室に向かった。

 リサ:「失礼します」

 リサが部室に入ると、何だか室内は重々しい空気が漂っていた。
 まるでお通夜のようである。
 室内には男子生徒が4人、女子生徒が1人パイプ椅子に座っていた。
 女子生徒が1人いることに少し安心したリサだったが、どうも左胸ポケットの外側に付いているワッペンの色を見ると3年生らしい。
 リサをチラリと見ると、また視線を下に戻した。
 不思議なことに、誰一人スマホをイジっていない。
 確かに試験期間中は厳しい制限があったが、もう試験は終わっているので、そのような縛りも無くなっているというのに。

 リサ:「!?」

 自分のスマホを見て、リサはその理由に気づいた。
 何と、圏外になっているのだ。
 それで納得した。
 しかし、特に電波が悪そうな位置にあるわけでもないのに、どうして圏外なのか、その理由は分からなかった。

 男子生徒:「ボサッと立ってないで、座ったらどうですか?新聞部の人は、まだ来ないみたいなんで」

 1人の男子生徒が、空いている椅子を指さして言った。
 男子生徒達の中では、1番コミュ障ではないかと思うほど、陰気臭そうな生徒であった。
 それとも、いの1番にリサに話し掛けてきたことから、見た目ほどコミュ障ではないのかもしれないが。
 いずれにせよ、人は見かけによらなかったりするので、決めつけは良くないだろう。

 リサ:「あ、はい」

 リサは椅子に座って辺りを見回した。
 椅子は長机を囲むようにして、8脚置かれている。
 入口に1番近い椅子と、その隣の椅子が空いている。
 七不思議の話を1人1話ずつ話すことになっているから、リサを含む7人の語り部が来るはずだ。
 ということは、語り部はまだあと1人来ていないということになる。

 リサ:(しかし、何だこの雰囲気?まるで、研究所の地下施設みたいだ。まさか、私以外にBOWでもいるのか?)

 全く会話が無いのは、誰一人顔見知りの者がいないのだろう。
 実際、ここにいる生徒達全員、リサは知らなかった。
 学校の怪談を知っているくらいだから、1年生はいなかった。

 女子生徒A:「失礼します」

 その時、また別の女子生徒が1人入ってきた。
 丸眼鏡を掛けた、賢そうな女子生徒である。
 ワッペンの色がリサと同じであることから、同じ1年生のようだ。
 しかし、リサは知らなかった。
 もしかしたら、どこかですれ違っていたかもしれない。
 その程度の記憶だった。

 女子生徒A:「皆さん、本日はお忙しい中、お集まり頂き、ありがとうございます。私、新聞部の部員を務めております田口真由美と申します。よろしくお願いします」

 田口と名乗る1年生の新聞部員は、リサ達を見回してそう挨拶した。
 それぞれが軽く頷くような仕草をする。
 どうやら女子生徒の、それも1年生が来たことで、拍子抜けしてしまったのかもしれない。
 むしろリサにとっては、同じ女子でも威圧感のある3年生よりも、同じ1年生が来てくれた方が有り難かった。

 田口:「……まだお1人、来てらっしゃらないようですね。どなたか、御存知ありませんか?」

 しかし、誰もそれに答える者はいなかった。
 当然、リサも知らない。

 男子生徒:「それは……御宅の部長さんに聞けばいいんじゃないですか?」

 先ほどの男子生徒が少し嘲笑するかのように言った。

 田口:「……すいません」
 リサ:「もう時間でしょ?そのうち来るだろうから、もう始めたら?」
 田口:「そうですね。皆さんも限られた時間、ここに来られたでしょうから」

 田口はリサの言葉に押されるようにして頷いた。

 田口:「それではお時間も過ぎましたので、始めたいと思います。トップバッターを務めたいと思う方はいらっしゃいますか?」
 女子生徒B:「それじゃ、私からいい?」

 リサの向かいに座っている3年生の女子生徒が手を挙げた。

 田口:「あ、はい。それでは、お願いします。お話しをされる前に、自己紹介からお願いします」
 女子生徒B:「分かった」

 漆黒の髪を腰まで伸ばし、少なくともここにいる1年生女子達よりは胸も大きく背も高いこの3年生女子は、トップバッターとして何を話してくれるのだろうか。
 恐怖の集会が、今始まる……!
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 最後の旅路

2021-07-23 16:28:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日22:32.天候:晴 東京都新宿区新宿 JR新宿駅→渋谷区千駄ヶ谷 バスタ新宿]

〔まもなく新宿、新宿。お出口は、右側です。山手線、中央快速線、中央・総武線、京王線、小田急線、地下鉄丸ノ内線、都営地下鉄新宿線と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 稲生達を乗せた埼京線電車は、池袋から南は山手線を追い抜いて走行した。
 山手線の隣を貨物線が通っており、そこを中距離電車や特急列車が走る時は『湘南新宿ライン』と称し、通勤電車が走る時は『埼京線』と称する。
 いずれにせよ、山手線の駅と違ってホームが無い為、その横を通過するのである。

 稲生:「最後の乗り換えだ……」

 電車は新宿駅手前のポイントをいくつか渡って、比較的東側のホームに入る。

〔しんじゅく~、新宿~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 通勤電車から中距離電車、特急列車まで様々な規格の列車が発着するせいか、新宿駅の一部のホームにはまだホームドアが無い。
 埼京線電車は、そんなホームドアの無いホームに到着する。
 電車から降りた乗客の殆どが、コンコースへ向かう。
 埼京線や湘南新宿ラインに乗り換えようとする客は、あまりいない。
 というのは、新宿駅だと別のホームに乗り換えさせられることがあり、それを防ぐには手前の池袋駅で乗り換えた方が楽だからである。
 池袋駅だとホームが決まっているので、階段の昇り降りをさせられることは無い。
 但し、一部の特急列車は除く。
 稲生達も階段を登って、コンコースに向かった。

 稲生:「何度か通ってる道だから、迷わずに行けるね」
 マリア:「このルートを使う発想、勇太だからだろうね。そういえば、夜行列車で帰ったこともあるけど、あれは?」
 稲生:「“ムーンライト信州”か。残念なことに、廃止になったよ」
 マリア:「そうか」

 新南口の方は新宿駅の中でも比較的人が少なく、構造もゴチャゴチャしているわけではないので、歩きやすい方である。
 トイレもそんなに混む方ではない。
 そんな新南改札口を出ると、すぐ目の前がバスタ新宿である。
 ここは2階。
 バスタ新宿の乗り場である4階へ直行するエスカレーターが目の前にある。
 早速、そのエスカレーターでバスタ新宿に向かう。

 マリア:「乗り場はどこだって?」
 稲生:「C7だって」
 マリア:「C7?」
 稲生:「まだ少し時間ある。飲み物でも買って行こう」

 今のバスタ新宿には自販機だけではなく、コンビニや土産物店も出店するようになった。
 自販機で飲み物を買い、空いているベンチに座る。
 乗り場を見ると、次々と夜行バスが発車して行くのが分かった。

 稲生:「あ、そうだ。キップを渡しておくよ」
 マリア:「ありがとう」

 コンビニで発券したので、コンビニのマークの入った紙製のチケットホルダーで、チケットもコンビニのマークが入っていた。

 マリア:「長距離バスのチケットがコンビニで発券できるのはいいね」
 稲生:「そうだね。便利なもんだよ。明日、到着したら先生がいなくなってることはある?」
 マリア:「私の予知では無いね。一応、私達の報告を聞く用意はあるみたいよ」
 稲生:「そうなんだ」
 マリア:「ま、慌てなくてもいいから」
 稲生:「ちょっとさ、あそこのコンビニに行って来る。マリアも来る?」
 マリア:「私はここで待ってる」
 稲生:「すぐ戻って来るから」

 マリアは稲生が何を買いに行ったか、だいたい予想できた。
 いや、予知と言った方がいいか。
 それは既に途中の店で入手済みのものである。
 つまり、買い足ししているわけである。

 稲生:「お待たせ」

 稲生はすぐに戻って来た。
 他の飲み物や軽食も一緒に買ってはいるが、メインで買った物が何なのかはすぐに分かった。

 マリア:「ゴム、3箱目じゃない?」
 稲生:「1箱じゃ足りなかったから……。早く、これを着けずにヤりたいよ」
 マリア:「結婚前に妊娠したら、大変なことになるからね」
 稲生:「そんなに厳しい掟なの?」
 マリア:「多分、生贄確保の為にそうしてるんじゃないかと思う。ベルフェゴールもそうだけど、悪魔って赤子の魂とか好むからね」

 ダンテ一門では『仲良き事は美しき哉』の綱領があり、その為に門内の恋愛・結婚は自由とされている。
 但し、『結婚は一人前になった者がするもの』という不文律があったり、『妊娠・出産は結婚後にすること』という明文化された掟がある。
 しかも、『結婚前に妊娠した場合、胎児は堕胎し、儀式の生贄に使用するものとする。出産についても同様とする』という罰則規定まで。
 この為、入門時に(輪姦被害による父親不明の)双子を妊娠していたマリアは堕胎し、彼女に目を付けていたベルフェゴールへの生贄とされている。

 稲生:「そうなんだ。僕の時はどうするんだろう?」
 マリア:「契約相手はアスモデウスでしょ?多分、赤子の魂じゃなく、『大量の精子』が生贄になるんじゃない?」
 稲生:「……マジ?」
 マリア:「ホントに怖いねぇ。勇太がそんな“色欲”の悪魔と契約して、本当に大丈夫なのか……」

 ベルフェゴールは“怠惰”を司る悪魔である。
 なのでマリアは、自分の身の回りの世話など全て人形にやらせているのだ。
 人形作りは労働ではなく、趣味である。

[同日23:00.天候:晴 バスタ新宿4F→アルピコ交通東京5551便車内]

 発車の5分前に、バスが入線してきた。
 係員がバスの荷物室のハッチを開けて、大きな荷物を持った客の荷物を入れている。
 運転手が乗客名簿と共に降りて来て、乗客の改札を始めた。

 運転手:「はい、稲生様、9のBです」
 稲生:「よろしくお願いします」
 運転手:「はい、スカーレット様、9のAです」
 マリア:「Thanks.」

 バスの車内は4列シートである。
 しかし、長距離仕様の為、シートピッチは広めに取られている。
 後ろの方の2人席が指定されていた。
 人形達の入ったバッグは、いつもの通り、荷棚に置く。

 稲生:「あとは白馬まで、一眠りといったところかな」
 マリア:「そうだな」

 マリアはローブを脱いで、ひざ掛けの代わりに使った。
 稲生は飲み物をドリンクホルダーに入れる。
 軽食は座席のテーブルを出して、そこに置いた。

 稲生:「腹が減っては熟睡できぬ、と言いますから……」
 マリア:「軽くつまむ程度ね」
 稲生:「先生に出発報告ってしなくていいのかな?」
 マリア:「それは家を出る時、私からしておいた。今したところで、師匠はもう寝てるよ」
 稲生:「まあ、それもそうか。家を出る時は起きてらしたんだね」
 マリア:「一応ね。『1人じゃ寂しいから、早く帰ってきとくれ~』なんて言ってたけど……」
 稲生:「ありゃ?何だ。だったら、新幹線か特急にしたのに……」
 マリア:「ただのネタだよ。明日か明後日には、その屋敷から仕事に出るってのに……」
 稲生:「う、うん。でも、明日は早く帰ってあげよう」
 マリア:「まあ、このルートじゃ、寄り道も何も無いけどね」

 バスは2~3分遅れで出発した。
 これが昼間の便なら、中央高速上に設置されたバス停からも乗客を拾うのだが、夜行便は翌朝までバス停には止まらない(途中休憩はある)。

 マリア:「とにかく、クエストクリアおめでとう。この言葉、明日、師匠からも言われると思うけど、私からも改めて言わせてもらう」
 稲生:「ありがとう」

 こうして、稲生勇太のクエストは無事に終了した。

 マリア:「ああ、そうそう。指輪、用意しておいてよ?」
 稲生:「分かってるって。それが最後のクエストだね?」
 マリア:「登用試験が実施できないんだったら、私が実施させてやるさ」

 それと同時にイリーナ達、大魔道師達の仕事というのも気になるが、それらの話はまたの機会に。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 週末の魔道士達

2021-07-23 10:56:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日12:30.天候:雨 長野県北部山中 マリアの屋敷2F書斎]

 イリーナ:「あらあら、あのコ達ったら……。家の中に誰もいないからって、昼食もそこそこに始めちゃって……。若いっていいわねぇ……」

 机の上に置かれたイリーナの大きな水晶玉には、稲生とマリアが【イチャラブ】するところが映し出されていた。

 ポーリン:「こりゃっ!そこでのんびり見とる場合か!」

 今度は別の水晶玉に、イリーナの姉弟子のポーリンが映った。

 イリーナ:「あら、姉さん。お久しぶり」
 ポーリン:「誰が姉さんじゃ!」
 イリーナ:「何かあったの?」
 ポーリン:「『シルバーフォックス』から矢のような催促じゃ。分かっておるな?」
 イリーナ:「いくら仕事とはいえ、あんな強欲共のお世話なんて、ストレスたまるわねぇ……」
 ポーリン:「『金も時間も十分につぎ込んだ。Covid騒ぎを起こしたのは、何も世界的イベントとしてではないぞ』などと嘯いておる」
 イリーナ:「ただの強がりよ。そんなに慌てなくても大丈夫」
 ポーリン:「イルミナティカードの通りにするつもりか?」
 イリーナ:「『時計台』はまだ『崩壊』してないわ」
 ポーリン:「しかし、『崩壊』してからでは遅い」
 イリーナ:「“魔女の宅急便”でも、時計台は破損しても崩壊はしなかったわ。今回も破損程度で収めておきましょう」
 ポーリン:「しかし、そう上手く行くのか?」
 イリーナ:「だーいじょーぶだって。そこは私に任せて」
 ポーリン:「お前に任せた結果が、第2次世界大戦の惨劇だ。今度はアドルフを屠るだけでは済まなくなるかもしれんぞ?」
 イリーナ:「さすがに3度も同じ失敗はしないから。それより、今は可愛い『子供達』が仲良くするのを見るのが楽しみなの。1000年以上も生きて、涙も枯れ果てて、笑えなくなって……」
 ポーリン:「分かった分かった。先生には私から言っておく」
 イリーナ:「ありがとう」

[同日21:51.天候:晴 埼玉県蕨市 JR蕨駅→京浜東北線2167A電車10号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、21時51分発、各駅停車、磯子行きです。次は、西川口に止まります〕

 荷物を手に稲生家を後にした稲生とマリアは、夜の蕨駅にいた。

 マリア:「『ゆっくり』し過ぎて、マリアンナ人形に『糸を通す』時間が無くなっちゃったよ」
 稲生:「ゴメン……」
 マリア:「いいよ。屋敷に帰ってからにする」

〔まもなく1番線に、各駅停車、磯子行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、西川口に止まります〕

 稲生:「クエスト、これで達成できたかな?」
 マリア:「このまま無事に帰れれば大丈夫」
 稲生:「何だか不安な言い方をするね?」
 マリア:「別に今のところ、私の予知能力では、変な予知をすることはないから大丈夫だと思うけど」

 隣の南浦和駅から、そこ始発の電車が入線してくる。
 週末に東京方面に向かう電車の、それも夜間で、隣の駅始発ということもあってか、車内はガラガラだった。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます。次は、西川口に止まります〕

 2人は最後尾の車両に乗り込み、座席に座った。
 すぐに発車メロディが1コーラス鳴る。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まった。
 利用客も多く、その為、よく駆け込み乗車の多発する駅であるが、今回はそれは無かったもよう。
 電車はすぐに発車した。

〔次は、西川口です〕

 マリア:「まさか(コンドーム)一箱使い切るなんて……」
 稲生:「久しぶりだからつい……。でも、マリアもだよね?」
 マリア:「まあね……」
 稲生:「腰抜けてたもんね」
 マリア:「うん……」
 稲生:「今度はいつしようか?」
 マリア:「屋敷に帰ってからだね」
 稲生:「イリーナ先生、いるだろうなぁ……」
 マリア:「いや、師匠。明日か明後日から出かけるらしい」
 稲生:「そうなの」
 マリア:「久しぶりの大仕事だから、しばらく屋敷を開けることになるって」
 稲生:「それって……」
 マリア:「しばらく登用試験はお預けということに……」
 稲生:「うあー、そっかぁ!」
 マリア:「まあ、登用試験はそうでも、クエスト自体はこれから無事に帰れば自動的にクリアになるから、それはそれで……ね」

 このクエストは稲生がマスターに認定される登竜門の、最終関門の1つ手前の関門である。
 最終関門はその登用試験ということになるのだが、肝心の試験官達が多忙で実施できないようだ。

 稲生:「いつになったら、マリアと結婚できるんだろう……」
 マリア:「そのことなんだけど……」

[同日21:59.天候:晴 東京都北区赤羽 JR赤羽駅→埼京線2184K電車1号車内]

〔まもなく赤羽、赤羽。お出口は、右側です。埼京線、湘南新宿ラインと上野東京ラインはお乗り換えです〕

 電車は乗換駅である赤羽駅に到着した。

 稲生:「ここで乗り換えだよ」
 マリア:「うん……」

 マリアは立ち上がると、荷棚の荷物を下ろした。

〔あかばね、赤羽。ご乗車、ありがとうございます。次は、東十条に止まります〕

 マリア:「ちょっとさ、トイレ行ってきていい?」
 稲生:「いいよ。どうしたの?」

 マリアは家を出ると時、トイレを使用していた。
 それがまたトイレに行きたいとは……と、稲生は思ったのだ。

 マリア:「下着直してくる。ちょっと待ってて」
 稲生:「ああ、分かった」

 因みにその間、人形達の入ったバッグを稲生が預かることになる。
 今は賑やかな駅構内ということで、人形達もおとなしくしているが……。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の7番線の電車は、22時18分発、各駅停車、新宿行きです。次は、十条に止まります〕

 コンコースから埼京線ホームに上がって、先頭車の方に向かって歩く。
 バスタ新宿は新宿駅の南側にある為、1号車などの近くの車両に乗っておいた方が良いからだ。

〔まもなく7番線に、各駅停車、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、十条に止まります〕

 稲生:「大丈夫だった?」
 マリア:「うん、何とか。ちょっと(下り物)シートが合わなくて。私はいいかな」
 稲生:「ふーん……?」

 京浜東北線とは色違いの電車がやってきた。
 埼京線にはまだホームドアが無いので、電車のドアはすぐに開く。

〔あかばね、赤羽。ご乗車、ありがとうございます。次は、十条に止まります〕

 先頭車は空いていた。
 京浜東北線のとは違い、モスグリーンのモケットが張られた座席に腰かける。

〔7番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 こちらもすぐに発車メロディが鳴った。
 ホームドアが無いので、電車のドアが閉まると、すぐに発車する。

〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は十条、十条。お出口は、左側です。……〕

 稲生:「ねぇ、マリア」
 マリア:「なに?」
 稲生:「先生が出掛けるということは、その……屋敷には、僕達だけってこと?」
 マリア:「そうなるね。もっとも、師匠だけじゃなく、他の先生も忙しくなるらしいから、エレーナとかは遊びに来るかもしれないけど」
 稲生:「そっかぁ……」
 マリア:「弟子自体がもう弟子を取ってもいいような実力者なら、先生の助手が務まるから一緒に行くだろうけど、私達だとまだ足手まといだから」
 稲生:「そんなに難しい仕事なの?」
 マリア:「というより、師匠達が自分達でやって当然だと思ってるから。あとのことは魔法で何とでもできるし」
 稲生:「それっていいことなのか悪い事なのか……」
 マリア:「他の組はどうだか知らないけど、私達は師匠から頼まれたことだけやっていればいいから。そしてそれは、屋敷に帰ってみれば分かる」
 稲生:「なるほど。マリアは屋敷に帰ったら、何が待っていると思う?」
 マリア:「何も無いと思う。恐らく、『留守番よろしく』くらいのメッセージだろう」
 稲生:「他の組だと、何かしらの課題とかがあるだろうにねぇ……」
 マリア:「そういう人なの。うちの師匠は。まあ、そういうことだから、これの続きは帰ってから……ね」

 マリアは左手の親指と人差し指で輪っかを作り、右手の人差し指をその穴に何度も出し入れする仕草をした。

 稲生:「分かった!」
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 再びの稲生家

2021-07-21 21:40:49 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月30日11:35.天候:曇 埼玉県蕨市 JR蕨駅→川口市 稲生家]

〔まもなく蕨、蕨。お出口は、右側です〕
〔The next station is Warabi.JK41.The doors on the right side will open.〕

 大宮駅から凡そ15分ほどで、稲生勇太の新しい実家の最寄り駅に到着する。
 実家の所在地が川口市なのに、最寄り駅が蕨市の蕨駅とは不思議なものだが、これは蕨市が『日本一、面積の狭い市』であり、しかも駅がその中において東側に偏っている故に起こり得ることである。
 実際、蕨駅東口から100mくらい歩くと、もう川口市なのである。

 稲生勇太:「じゃあ、降りようか」
 マリア:「もう着いた?」

 電車がホームに滑り込む。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます。次は、西川口に止まります〕

 電車を降りると、密閉された新幹線から降りた時ほどではないが、やっぱり湿気の多い熱気が2人を襲った。

 勇太:「ゲリラ豪雨、降るかなぁ?」
 マリア:「気になるなら、後で私が占おうか?」
 勇太:「手が空いてる時でいいよ。あくまでも、優先するのは人形の服を作ることだから」
 マリア:「その前にシャワー使わせて。さすがに汗が気になる。日本の夏は、少し歩いただけですぐ汗かくね」
 勇太:「高温多湿だからね。イギリスは違うの?」
 マリア:「スコットランドや北アイルランドは涼しいだろうね。イングランドも、ここほどじゃない。暑い時は暑いけど、カラッとしてるから。雨が降る時くらいかな、湿気があるのは。日本は雨が降らなくても、ジメッとしてるでしょ?」
 勇太:「確かに」
 マリア:「ん?もしかして、この地域にアジア系と中東系しかいないのはそのせい?」
 勇太:「いや、そんなことは無いと思うけど……」

 気候のせいではない。

 マリア:「ああ。夕方、スコールだわ」
 勇太:「分かるの?」
 マリア:「今、パッと頭に浮かんだ。多分当たる」
 勇太:「おお!」

 ゲリラ豪雨のことは、既に英語のSquallが充てられているという。

 稲生:「ただいまぁ」

 玄関の鍵をカードキーで開ける。

 稲生佳子:「お帰りなさい。今、ピザ注文したところだから、着くまで待って」
 勇太:「ピザ頼んだんだ。何のピザ?」
 佳子:「マルゲリータにしたけど……」
 勇太:「マリア。今日のお昼はピザ・マルゲリータらしいよ」
 マリア:「ああ、分かった。最近、屋敷では食べてないからちょうどいい」
 勇太:「そういえばパスタは出るのに、ピザが出ないね」
 マリア:「オーブンの調子が悪いらしい」
 勇太:「ピザって、普通のオーブンでいいのかな?」
 佳子:「いいんじゃない?家電量販店じゃ、いい値段で売ってるわよ」
 勇太:「そうなんだ」
 マリア:「どうしても直りそうに無いなら、師匠に頼んで新しいのを買ってもらうさ。カードならあるし」
 勇太:「要はそのカードの使用許可か……」
 マリア:「その前にシャワー使いたいンですけど、いいですカ?」

 マリアは自動通訳魔法を解除し、自分で覚えた日本語で佳子に聞いた。

 佳子:「ええ、いいわよ。タオルなら、脱衣所にあるのを使っていいから」
 マリア:「ありがとうございます。でも、3階のシャワールームを使いたいです」
 佳子:「あそこでいいの?」
 勇太:「マリア、そこが気に入ってるんだよ」

 勇太はマリアと一緒にホームエレベーターに乗った。

 勇太:「僕はマリアの匂い、好きなんだけどな……」
 マリア:「汗臭いの、嫌でしょ?」
 勇太:「そんなことないよ」
 マリア:「勇太は良くても、私はベトベトしているからあまり好きじゃない」
 勇太:「そうか……」
 マリア:「まあ、今度の『サバト』で、一緒にプール入ってあげるから」
 勇太:「楽しみだよ!……他に誰か来るかね?」
 マリア:「私が全部断っておく!」
 勇太:「そ、そう?」
 マリア:「師匠ですら入らせない!」
 勇太:「す、凄いな」

〔ピンポーン♪ 3階です〕
〔下に参ります〕

 勇太:「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」
 マリア:「ありがとう」

[同日13:00.天候:曇 同市内 稲生家1F]

 佳子:「お人形さん、無事見つかって良かったわね。あのミシン、使っていいからね」
 マリア:「ありがとうございます」
 勇太:「使うなら、部屋まで運ぶよ」
 マリア:「ありがとう」

 昼食が終わって、早速マリアは人形の服作りに取り掛かることになった。
 もう1度エレベーターに乗って3階に上がる。
 3階には勇太の自室があるが、その隣に余っている部屋がある。
 実質的にマリアが泊まりに来た際に使う部屋に充てられていた(客間は別にある)。

 勇太:「それじゃ、僕は隣の部屋にいるから、何かあったら呼んで」
 マリア:「分かった」

 勇太は自分の部屋に入った。
 さすがにマリアの屋敷の部屋と違って、室内にトイレやら洗面所やらが付いているわけではない。
 6畳くらいの広さがある。
 8畳くらいの広さがあるマリアの屋敷の部屋と比べれば、広さは劣る。
 しかし、年に数回しか帰らない部屋なので、これでいいだろう。
 持って来たノートPCを開いてネットに接続するが、時折隣の部屋からミシンのモーター音が聞こえて来る。
 早速始めたようだ。
 こうなると、マリアの集中力は強い。

 勇太:「さて、僕は屋敷まで帰る計画だ。帰りはどうしようかな……」

 勇太はPCで帰りの交通手段を考えた。

 勇太:「電車かバスだな。1番いいのは……」

[同日19:00.天候:晴 同市内 稲生家→ファミリーマート川口芝新町店]

 夕食を終えた勇太は、散歩がてらコンビニに行くことにした。

 勇太:「実は帰りの交通手段、夜行バスが予約できたんだ。これで帰ろうと思う」
 マリア:「前にも乗ったことのあるバスだね」
 勇太:「そう。コンビニで発券できるから、今しておこうと思って」
 マリア:「なるほど」

 家の外に出ると、地面が濡れていた。
 マリアの予知通り、夕方にゲリラ豪雨が降って来たのである。
 雨は17時頃から18頃まで、雷付きで1時間ほど激しく降った。
 今は雨は上がっていて、雲間から月が見えるほどまでになっている。
 雨が降ったおかげで、昼間より暑さは和らいだ感じはしたが、それでもまだ蒸し暑いことに変わりはなかった。

 勇太:「買いたいものがあったら、ついでに買うといいよ」
 マリア:「分かった」

 店の中に入ると、勇太はまずFamiポートに向かった。
 そこで予約した高速バスのチケットを発券する操作をする。
 実際はこの機械で直接発券できるのではなく、伝票を発券するだけである。
 マリアは勇太が端末を操作している間、生理用品や化粧水などを購入した。

 マリア:(私はこれでいいか……。ん?)

 勇太は端末で予約票を発行したのだが、ついでに何か買い物があったようだ。
 何故かコソコソしていたので、マリアは見て見ぬフリをしながら見ていたが、勇太が買ったのはコンドームだった。

 マリア:(そうか……。じゃあ、急いで完成させなきゃ)

 で、店から出てまた家へと向かう。

 勇太:「向こうには朝早く着くから、先生起こさないようにしないと……」
 マリア:「大丈夫だよ。師匠は、ちょっとやそっとのことじゃ起きないから」
 勇太:「そうかね」
 マリア:「帰ったら、また作業の続きをしなきゃ」
 勇太:「まだやるの?」
 マリア:「このペースで行けば、明日には1着完成すると思う」
 勇太:「早いね!?」
 マリア:「人形サイズの大きさだし、デザインはもう決まってるから。あとは、もう1着だね。出発は土曜日の夜?」
 勇太:「そう」
 マリア:「分かった。帰るまでにゆっくりできる時間が取れるようにするね」
 勇太:「ありがとう」

 勇太はマリアの手を握った。
 そして、手つなぎのまま2人は稲生家へと戻って行った。
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