報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 最後の人形 2

2021-07-11 20:01:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月28日10:30.天候:曇 宮城県栗原市某所 稲生家]

 稲生俊彦:「ま、マイネーム、イズ、トシヒコ、イノー。な、ナイス、トゥ、ミーチュー」
 稲生勇太:「伯父さん、マリアさんは日本語ペラペラですので、日本語で大丈夫ですよ」

 本当は自動通訳魔法具を使用しているだけだが。

 宮城稲生家の面々:「ズコーッ!!」
 勇太:「あれ?どうしました、皆さん?」

 ズッコケた面々のポケットなどからは、英会話の本が散乱した。
 どうやら初めてイギリス人が来るというので、必死になって英語を勉強したのだろう。
 しかし実態は冒頭の通り。
 尚、俊彦は宗一郎より10歳ほど年上ということだ。

 マリア:「何か知らんが、取りあえず謝っとけ。こういうの、日本人は得意だろ?」
 勇太:「う、うん。あ、あの……何か、皆さん、どうもすいません」
 マリア:「日本語は喋れるので大丈夫ですよ。(本当は英語しか喋ってないけど)」
 俊彦:「そ、そういうのは早ぐ言っでけろー!」
 勇太:「すいませんでした。あの、これはほんの手土産代わりで……」

 勇太は土産に持って来た埼玉県内の酒造メーカーの日本酒一升瓶と、埼玉銘菓の十万石饅頭を渡した。

 俊彦:「おお!こりゃスマンこって……!ささ、どうぞ中へ……」
 マリア:「私達、あっちのKuraに用事が……」
 勇太:「マリア、まずは事の経緯を説明してからの方がいい」

 2人は家の中に上がった。

 俊彦:「ほんで、蔵を開けてくれるんだべね?」
 勇太:「そうです。こちらのマリアさんが、魔法……もとい、特殊な技術で鍵を開けます」
 俊彦:「見た目、鍵屋さんに見えねーけどね」
 勇太:「本業は鍵屋さんじゃないですよ。ただ、彼女のスキルで開けることができるというだけの話です」
 俊彦:「ふーん……。で、開いたらば蔵の中さしまってるっつー人形が欲しいと」
 勇太:「そうなんです。何でも、こちらのお祖母さんが宮城中央学園から持ち出したということですが……」
 俊彦:「あれから俺も気になってね、色々と調べてみたんだ。そしたら当時、母ちゃんと女学校時代の親友だったって人が話は聞いてたらしいど」
 勇太:「その親友の方は?」
 俊彦:「あいにくともう亡くなったよ。知ってるかね?今、仙台市内には『青い目の人形』は一体も残ってないんだとよ」
 勇太:「知ってます。戦争中の仙台市内は旧日本軍の師団が置かれたり、陸軍幼年学校も設置された軍都でしたから、尚更、軍国主義の強い町でした。いくら戦争前に寄贈されたものだとはいえ、敵国アメリカから送られて来た人形をそのままにするとは思えません。ただ単に処分されただけならまだマシな方で、竹槍訓練の的にされたり、さんざん暴行された後で焼却処分にされたという話も聞いています」
 俊彦:「うちの母ちゃんは、たまたま他校でそういうことをされてる人形を見て、かわいそうに思ったんだっちゃね。そのうち、母ちゃんの女学校もあんな目に遭うって噂があったんで、思わず校長室から持ち出してしまったって言うんだね」

 俊彦はコピー用紙を何枚か応接間のテーブルの上に置いた。
 それは俊彦の母親の親友が書いた日記のコピーであった。
 旧字体や旧仮名遣いで書かれているものの、俊彦は何とか解読したようである。
 校長室から人形が消えたということで、学園は大騒ぎになったらしい。
 何しろ、いざ処分となった時に、わざわざ軍高官がやってきたというのに、『紛失してしまいました』ではシャレにならないからである。
 しかし、防犯カメラなど無く、防犯よりも空襲による防災に力が注がれていた時代、結局犯人は見つからなかったという。
 戦争が終わってから親友は、友人から人形の無断持ち出しを告白されて驚いたという。
 そこでほとぼりが冷めるまでは稲生家の蔵の中に隠しておき、人形のことなど忘れ去られた時に蔵から出せば良いということになった。
 しかし、その前に学園の方が廃校。
 どうすることもできずに、しばらく蔵の中に隠しておくことになった。
 というところで日記は終わっている。

 勇太:「ということは、未だに蔵の中に人形はあるということですよ」
 俊彦:「そうみたいだっちゃね」
 マリア:「早いとこ助けてあげよう」

 お茶もそこそこに、勇太達は蔵に向かった。

 勇太:「はい、皆さん。極秘の魔法……技術ですので、下がっててください」
 俊彦:「なんだべまづ、見してくんねーの?」
 勇太:「企業秘密です。ご理解をお願いします」

 マリアは扉の前に立った。
 目の前には大きくて頑丈な南京錠がある。

 マリア:「パッドロック(Padlock。南京錠)か。これなら開けられそうだ」

 マリアはローブの中から魔法の杖を取り出した。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。『古の封印よ。蔵に眠る御霊よ。我が願いを聞き入れ給え。今こそ隠されし鍵を解かん。ア・ヴァ・カ・ムゥ!』」

 杖の先から白い光が放たれ、それが南京錠を包む。
 バキッという鈍い音がして、南京錠の掛け金の部分が折れて下に落ちた。

 俊彦:「おおっ、開いたど!?」
 勇太:「マリアさん、さすがです!」
 マリア:「う、うん。(でも、壊れたのを『開けた』とは言わないな……)」

 よく見ると、掛け金の内側は錆びてボロボロになっており、開く動作をした時に腐った金属が折れてしまったのだろう。
 ということはだ。
 もし鍵があったとしても、錆びてて開かなかっただろうし、むしろ無理やり叩いて壊した方が早かったのではなかろうかと思う。

 勇太:「早速、入りましょう」
 俊彦:「何十年も入ってねーから、きっと中は埃塗れだど。気ィつけて入んねーと」
 勇太:「それもそうか」

 南京錠を開けた後は、石製の扉を開けなくてはならなかった。
 これも重たく、稲生家の大の男達数人掛かりで開けなくてはならなかった。
 で、ようやく開けると……。

 勇太:「確かに埃だらけ!蜘蛛の巣だらけ!」
 俊彦:「うーむ……。こりゃ人形探す前に、掃除すねっけねーな」
 勇太:「この蔵掃除してたら、一日掛かりません!?」
 俊彦:「部屋なら空いてっから、泊まってけばいいべ」
 勇太:「ええ~?」
 俊彦:「遠慮するこだ無ぇよ?蔵の鍵開けてくれただけで十分恩人なんだから」
 マリア:「人手が欲しいのなら、取りあえず、ミカエラとクラリスを使うよ」
 勇太:「あー、それがいいね」

 蔵の中が汚すぎて、人形の捜索どころではない勇太達であった。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 最後の人形 1

2021-07-11 16:02:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月28日10:00.天候:曇 宮城県栗原市某所 栗原市民バス車内→宮城・稲生家]

 稲生とマリアを乗せた中型路線バスは、田園風景広がる牧歌的な場所を走る。

 老婆:「稲生さんちかい?ンなら、○×(バス停)ってとごさ降りで、ほんで、バス停の道ばずっと真っ直ぐ行くべ?したら、お地蔵さん立ってる分かれ道さ出っから、そこを右さ曲がんだっちゃ。そしたら、もう稲生さんちだからや」
 稲生勇太:「あ、そうですか。これはどうも御親切に……」

 明らかに地元民しか乗っていないバス車内。
 マリアのような白人女性はこの辺りでは珍しいのか、やはり注目されてしまった。
 しかし稲生が日本人だと分かると、噂話の好きな気さくで元気な老婆が話し掛けてくるのだった。

 マリア:(グーグルマップより正確な位置情報だ……)
 老婆:「もう道から大っきな蔵が見えっから、そんですぐ分かるべ」
 勇太:「そうですか。分かりました」
 老婆:「稲生さんちさ、何しに行くの?」
 勇太:「その蔵の中を見せてもらいに行くんです」
 老婆:「私が子供の頃には既にあっだがら、きっど色んな物が入ってっちゃね~」
 勇太:「でしょうね。(その中に人形が保管されていることを期待しています)」

 そんな老婆と話し込んでいると、バスが停留所に停車した。

 運転手:「○×ですよ?降りますか?」

 運転手が振り向いて聞いて来た。

 勇太:「あ、はい!」

 話に夢中になってしまったせいで、車内放送をよく聞いていなかった。
 話を聞いていた運転手が、気を利かせて止めてくれたのだ。
 これが都会のバスだとそうはいかないだろう。

 勇太:「マリア、降りるよ」
 マリア:「ああ、分かった」
 勇太:「お婆さん、ありがとうございます!」
 老婆:「ほんでね、気ィ付けてね」

 ○×バス停でバスを降りたのは、勇太とマリア、2人だけだった。

 勇太:「道が舗装されているという以外は、まるで“となりのトトロ”みたいな所だ」
 マリア:「“となりのトトロ”?」
 勇太:「……か、もしくは“のんのんびより”かな」
 マリア:「のんのん……なに?」

 “となりのトトロ”は昭和30年代の埼玉県所沢市郊外が舞台だが、映画を観るに、舗装されている道が出て来る描写は殆ど無い。
 それが今や、宮城県北部の田園地帯でも、国道や県道は当たり前のように舗装されている。

 勇太:「何でもない。えーと……さっきのお婆さんの話によると、この道を真っ直ぐ行くんだったな」
 マリア:「凄い正確な位置情報だった」
 勇太:「確かに」

 そしてしばらく行くと、Y字路交差点があった。
 車通りは殆どは無く、その為か信号機は無い。
 時折、地元の軽トラックや軽乗用車など、黄色ナンバーの車が通るだけだ。

 勇太:「お地蔵さん、ある?」
 マリア:「オジゾーサン?」
 勇太:「あった。……けど、何だろう?」

 そのお地蔵さんは、小学生くらいの大きさの石像。
 地元民と思われる老人がお地蔵さんを洗っていた。

 勇太:「このお地蔵さんかな?」
 老人:「ん?お地蔵さんに何か用だすぺ?」
 勇太:「僕達、稲生さんの家に行くんです。このお地蔵さんのある交差点を右だって言われて……」
 老人:「ああ、ンだね。こっちの道、真っ直ぐだ」
 勇太:「ありがとうございます。お地蔵さんを洗ってるんですか?」
 老人:「ああ。がションベン引っ掛げでったがンな」
 勇太:「……鬼?鬼って、あの角やら牙やら生えていて、人食いをする……あの鬼?」
 老人:「ンだ」
 勇太:「確かお地蔵さん……地蔵尊って、閻魔大王の化身でもあるんですよ」

 その為、賽の河原では、贖罪を終えた子供の亡者を迎えに閻魔大王が使いを寄越すという。
 その姿がお地蔵さんになっているのは、閻魔大王の化身だからである。

 勇太:「閻魔大王の部下である獄卒が、仮にも化身を象ったお地蔵さんにオシッコ引っ掛けて行くなんて……」
 老人:「地獄の鬼でねぇよ。閻魔様に仕えることすらできねぇ、もっと悪い鬼よ。……って、俺は祖父さんから聞いたんだっちゃ」

 老人はニヤッと笑った。
 コロナ禍の影響でマスクをしているので、具体的な表情は分からないが、恐らくニヤッと笑ったたのだろう。

 勇太:「何だ……」
 老人:「ンでも、俺が見た時、明らがにションベンの高さが犬の高さでネがったよ?人間が立ちチョンしたぐれぇの高さだった。それを見た者は、すぐに掃除してやんねぇと、お地蔵さんが怒る。ンだから、そんな迷惑なこどすンのは、鬼ぐれぇしかいねぇ。そいなことでねぇがって俺は思ってる」
 勇太:「はー、なるほど。因みにお爺さんは、実際に鬼を見たことがあるんですか?」
 老人:「俺は無ェよ。ただ、俺にこの話ばしてくれた祖父さんは見だって言っでだな」
 勇太:「へえ!どんな鬼だったんですか?」

 もしかしたら獄卒の蓬莱山鬼之助の知り合いかもしれないと思い、勇太は聞いてみた。

 老人:「ホンドかどうがぁ、知らねぇよ?女の鬼だって言っでだな」
 勇太:「はあ!?女の鬼が立ちションですか!?」

 すると老人も苦笑じみた笑みを零した。

 老人:「祖父さんは俺よりも酒が好きでなぁ……。多分、酔っ払って幻でも見たんでねぇがって思うね、今となっちゃ」
 勇太:「何だ……」

 老人の祖父の話だから、きっと今から100年くらい前の話だろうか。

 老人:「日本が戦争さ負けて、アメリカ軍が日本に来た頃の話だっつーから、アメリカ人と見間違えんだっちゃね」
 勇太:「ちょっと待ってください。アメリカ軍関係者がこういう所まで来て、しかもアメリカ人女性が立ちションしてたんですか?」

 さすがに無いだろうと思った。
 やっぱり、老人の祖父は酔って幻覚でも見たのだろう。
 勇太達は老人と別れた。

 稲生:「日本でも田舎に行けば、まだまだああいう伝承とか残ってるものだね。ヨーロッパでもそうでしょ?」
 マリア:「そうだな。特にイングランドの田舎に行けば、まだまだモンスターの話はある」
 稲生:「だろうね」
 マリア:「魔女狩りは未だに横行してるけどな」
 稲生:「この辺にはいないだろうね」

 稲生はピタッと足を止め、マリアの顔を覗き込んだ。

 マリア:「な、なに?」
 稲生:「うーん……。日本では鬼や天狗の正体は、南蛮人……つまり、白人だったのではないかと言われてる」
 マリア:「黒人ではないんだな」
 稲生:「黒人は昔、日本では『黒ん坊』と呼ばれてた。黒人にはそのような呼び方があったのに、白人は南蛮人と呼ばれた」
 マリア:「どっちにしろ、今では差別用語だろう?」
 稲生:「その通り。船が難破して漂着した白人が、鬼や天狗の正体だと言われる」
 マリア:「ふーん……」
 稲生:「そしてさっき、お爺さんが言ってた、戦争の話……。日本では終戦記念日は8月15日となっている」
 マリア:「私は第2次世界大戦の終結は9月2日だと習ったけど?」

 欧米の学校では9月2日と教えるそうだ。
 ポツダム宣言というのは、いわゆる停戦条約。
 停戦条約を受け入れただけで、正式には戦争は終わっていない。

 稲生:「アメリカやイギリスなどの連合国軍との戦争はそれで一応の終結を見たけれど、ソ連はそうじゃなかった」
 マリア:「師匠はその時から、政治家に対して占いはやってたそうだよ。それ以上は言わない」
 稲生:「ソ連が樺太などに攻めて来た時、地元民達は、『鬼がやってきた』と大騒ぎしたそうだよ」
 マリア:「うん。まあ、師匠を見れば『鬼』だよね」
 稲生:「まあ、ロシア人は色々と大きいし……」
 マリア:「もしかして勇太、さっきのオジゾーサンにオシッコ引っ掛けたのは白人だって言いたいのか?」
 稲生:「……あ、ゴメン。今その可能性に気づいた」
 マリア:「無いと思うよ、それ。もしそうなら、私を見て、誰かがそんなこと言うと思う」
 稲生:「それもそうだね」

 しばらく歩くと、大きな蔵が見えて来た。

 稲生:「あの家だ」

 蔵だけがまるで昔に戻ったかのような佇まいだったが、それ以外の母屋などについては今風の家であった。
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