[6月22日15:20.天候:曇 埼玉県蕨市 JR蕨駅→京浜東北線1561A電車10号車内]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、15時20分発、各駅停車、大船行きです。次は、西川口に止まります〕
一旦は実家に戻った稲生だったが、約束の時間に合わせて家を出た。
マリア:「勇太の新しい家、縦に長くなったな」
稲生:「土地の有効活用みたい。でもその代わり、ホームエレベーターが付いて、屋上もできたからね」
マリア:「日本の家ならではの、土地の有効活用か。いいかもな」
稲生:「ハハハ……」
〔まもなく1番線に、各駅停車、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、西川口に止まります〕
隣の南浦和駅から電車がやってきた。
南浦和駅始発の電車なので、1号車ほど混雑している。
が、後ろに行くほど空く。
〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕
電車に乗り込み、ブルーのシートに腰かける。
すぐにホームから、賑やかな発車メロディが鳴り響いた。
〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕
電車のドアと、簡易的な造りのホームドアが閉まった。
誰かが挟まれたか、すぐには発車しない。
何秒かのブランクがあってから発車した。
〔次は、西川口です〕
〔The next station is Nishi-Kawaguchi.JK40.〕
どうでもいいけど、駅のナンバリングって必要かな?
路線カラーは……まあ、あってもいいけど。
外国人だって、駅の場所を尋ねて来るのに駅の番号で言って来ることはないな(大体がちゃんと駅名を言って来るか、地図で駅の場所を指し示してくる)。
稲生:「向こうで人形に会ったら、どうしますか?」
マリア:「もちろん、『会話』する。きっと、今置かれてる状況が不満なんだろう。私が話を聞いて、なるべく改善してもらうさ」
稲生:「僕も協力しますよ」
マリア:「ありがとう」
[同日15:46.天候:曇 東京都台東区上野 JR上野駅→東京中央学園上野高校]
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく上野、上野です。お降りの際、お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。上野です」〕
電車は大きなカーブを描いて、上野駅に進入した。
5番線以降のホームにはホームドアは無いが、1番線から4番線まではホームドアがある。
その4番線に入った。
〔うえの、上野。ご乗車、ありがとうございます。次は、御徒町に止まります〕
ここで電車を降りる。
稲生:「うん。これなら約束の時間に着けそうです」
マリア:「そもそもが、電車が時間通りというのがいい」
稲生:「外国人は皆そう言いますね」
国によっては時刻表すら無い所もあるが、比較的親切な所でさえ、『この時間○分間隔』という表記をしているくらいである(が、日本でも山手線で似たような表記をするようになったし、舞浜のディズニーリゾートラインが『只今、○分間隔』という表示をしている)。
稲生:「学校はこっちです」
マリア:「分かった」
改札口を出て、駅の外に出る。
そして、学校に向かう道路を歩いていると……。
稲生:「ん?」
サイレンを鳴らしたパトカーが何台か、稲生達を追い抜いて行った。
稲生:「事件かな?事故かな?」
だが、そのパトカー達の行き先が稲生達の行き先と一致していたことが分かった時、さすがに驚いた。
稲生:「えっ?何があったの!?」
他にも救急車が止まっている。
この光景に、稲生は見覚えがあった。
自分の在学中には、何度も目にした光景だ。
怪奇現象に巻き込まれ、謎の重傷を負った者、最悪死に至った者。
その度に事件性が疑われて警察がやってきたが、結局は事件性無しということで片付けられていた。
それが令和の今になって復活するとは……。
警察官A:「学校は立入禁止です!入らないでください!」
警察官B:「はい、下がって下がって!」
警察官C:「救急隊通ります!」
稲生:「!」
稲生は正門から入るのを諦め、通用門に向かった。
稲生:「!」
通用門の前には救急車が止まっていて、そこからストレッチャーが出て来る所だった。
マリア:「勇太、多分あれ、死んでる……」
マリアが眉を潜めて言った。
ストレッチャーに乗っているのは、この学校の生徒だろう。
稲生も着ていた制服の夏服を着ていた。
スラックスを着用しているので、男子生徒だろう。
しかし、頭まですっぽり覆われた毛布を被っていた。
しかも、そこから覗いている腕は土気色で、まるで老人の腕のように細くカサカサしていた。
稲生:「ただの事故じゃない……!」
教員:「沼沢先生、私が付いて行きます」
沼沢:「吉田先生、お願いします」
稲生:「沼沢先生!」
沼沢:「ん?その声は……」
稲生:「稲生です!」
沼沢:「稲生か。久しぶりだな」
稲生:「はい!あ、あの、何があったんですか?」
沼沢:「俺にも分からない……」
沼沢は細面の顔で、メガネを掛けている。
その顔が苦渋に満ちていた。
沼沢:「突然倒れた生徒がいるというので、保健室に運ばれたんだ。だけど、保健室じゃどうしようもないというので、救急車を呼んだんだ。何しろ、心肺停止の状態だからな」
稲生:「心肺停止!」
沼沢:「悪い、稲生。そういうわけだ。せっかく来てくれて何だが、教育資料館の件はまた今度にしてほしい」
稲生:「き、今日はしょうがないですね。明日はどうですか?」
沼沢:「いや、だから生徒が突然死したんだ。明日も無理だよ」
稲生:「それじゃ、週末はどうですか?土曜日とか日曜日とか。授業の無い日でも……」
沼沢:「ああ、分かった。土曜日にしよう。土曜日に来てくれ」
稲生:「分かりました」
[同日16:00.天候:晴 同地区内 某喫茶店]
稲生とマリアは善後策を練る為、上野駅構内の喫茶店に入った。
稲生:「まさかの事態だ……」
マリア:「勇太はあの光景に見覚えがあるって言ったよね?」
稲生:「ああ。僕が在学中にも、似たような光景は何回もあったよ」
マリア:「私の見立てでは、あの生徒は魂を吸い取られて死んだようだ。つまり、あの事件の背後には悪魔がいる」
稲生:「本当か!?」
マリア:「勇太のあの話……『呪いの人形』の話だけど、あの話に似てると思わないか?」
稲生:「た、確かに……。死に方はそうだね」
マリア:「いずれにせよ、調べてみる必要がある。エルフェゴール」
エルフェゴール:「はっ。あの学校は確かに怪しいです。学校全体に、悪魔の気配がしました。強さからして、中級クラスと思われます」
稲生:「僕達が必死で魔界の穴を塞いだというのに……」
マリア:「いくら塞いでも、どこかで広がるのが魔界の穴だ。また私達で塞げばいい」
稲生:「今度は週末ですね。週末に行きましょう」
マリア:「そうだな」
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、15時20分発、各駅停車、大船行きです。次は、西川口に止まります〕
一旦は実家に戻った稲生だったが、約束の時間に合わせて家を出た。
マリア:「勇太の新しい家、縦に長くなったな」
稲生:「土地の有効活用みたい。でもその代わり、ホームエレベーターが付いて、屋上もできたからね」
マリア:「日本の家ならではの、土地の有効活用か。いいかもな」
稲生:「ハハハ……」
〔まもなく1番線に、各駅停車、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、西川口に止まります〕
隣の南浦和駅から電車がやってきた。
南浦和駅始発の電車なので、1号車ほど混雑している。
が、後ろに行くほど空く。
〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕
電車に乗り込み、ブルーのシートに腰かける。
すぐにホームから、賑やかな発車メロディが鳴り響いた。
〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕
電車のドアと、簡易的な造りのホームドアが閉まった。
誰かが挟まれたか、すぐには発車しない。
何秒かのブランクがあってから発車した。
〔次は、西川口です〕
〔The next station is Nishi-Kawaguchi.JK40.〕
どうでもいいけど、駅のナンバリングって必要かな?
路線カラーは……まあ、あってもいいけど。
外国人だって、駅の場所を尋ねて来るのに駅の番号で言って来ることはないな(大体がちゃんと駅名を言って来るか、地図で駅の場所を指し示してくる)。
稲生:「向こうで人形に会ったら、どうしますか?」
マリア:「もちろん、『会話』する。きっと、今置かれてる状況が不満なんだろう。私が話を聞いて、なるべく改善してもらうさ」
稲生:「僕も協力しますよ」
マリア:「ありがとう」
[同日15:46.天候:曇 東京都台東区上野 JR上野駅→東京中央学園上野高校]
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく上野、上野です。お降りの際、お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。上野です」〕
電車は大きなカーブを描いて、上野駅に進入した。
5番線以降のホームにはホームドアは無いが、1番線から4番線まではホームドアがある。
その4番線に入った。
〔うえの、上野。ご乗車、ありがとうございます。次は、御徒町に止まります〕
ここで電車を降りる。
稲生:「うん。これなら約束の時間に着けそうです」
マリア:「そもそもが、電車が時間通りというのがいい」
稲生:「外国人は皆そう言いますね」
国によっては時刻表すら無い所もあるが、比較的親切な所でさえ、『この時間○分間隔』という表記をしているくらいである(が、日本でも山手線で似たような表記をするようになったし、舞浜のディズニーリゾートラインが『只今、○分間隔』という表示をしている)。
稲生:「学校はこっちです」
マリア:「分かった」
改札口を出て、駅の外に出る。
そして、学校に向かう道路を歩いていると……。
稲生:「ん?」
サイレンを鳴らしたパトカーが何台か、稲生達を追い抜いて行った。
稲生:「事件かな?事故かな?」
だが、そのパトカー達の行き先が稲生達の行き先と一致していたことが分かった時、さすがに驚いた。
稲生:「えっ?何があったの!?」
他にも救急車が止まっている。
この光景に、稲生は見覚えがあった。
自分の在学中には、何度も目にした光景だ。
怪奇現象に巻き込まれ、謎の重傷を負った者、最悪死に至った者。
その度に事件性が疑われて警察がやってきたが、結局は事件性無しということで片付けられていた。
それが令和の今になって復活するとは……。
警察官A:「学校は立入禁止です!入らないでください!」
警察官B:「はい、下がって下がって!」
警察官C:「救急隊通ります!」
稲生:「!」
稲生は正門から入るのを諦め、通用門に向かった。
稲生:「!」
通用門の前には救急車が止まっていて、そこからストレッチャーが出て来る所だった。
マリア:「勇太、多分あれ、死んでる……」
マリアが眉を潜めて言った。
ストレッチャーに乗っているのは、この学校の生徒だろう。
稲生も着ていた制服の夏服を着ていた。
スラックスを着用しているので、男子生徒だろう。
しかし、頭まですっぽり覆われた毛布を被っていた。
しかも、そこから覗いている腕は土気色で、まるで老人の腕のように細くカサカサしていた。
稲生:「ただの事故じゃない……!」
教員:「沼沢先生、私が付いて行きます」
沼沢:「吉田先生、お願いします」
稲生:「沼沢先生!」
沼沢:「ん?その声は……」
稲生:「稲生です!」
沼沢:「稲生か。久しぶりだな」
稲生:「はい!あ、あの、何があったんですか?」
沼沢:「俺にも分からない……」
沼沢は細面の顔で、メガネを掛けている。
その顔が苦渋に満ちていた。
沼沢:「突然倒れた生徒がいるというので、保健室に運ばれたんだ。だけど、保健室じゃどうしようもないというので、救急車を呼んだんだ。何しろ、心肺停止の状態だからな」
稲生:「心肺停止!」
沼沢:「悪い、稲生。そういうわけだ。せっかく来てくれて何だが、教育資料館の件はまた今度にしてほしい」
稲生:「き、今日はしょうがないですね。明日はどうですか?」
沼沢:「いや、だから生徒が突然死したんだ。明日も無理だよ」
稲生:「それじゃ、週末はどうですか?土曜日とか日曜日とか。授業の無い日でも……」
沼沢:「ああ、分かった。土曜日にしよう。土曜日に来てくれ」
稲生:「分かりました」
[同日16:00.天候:晴 同地区内 某喫茶店]
稲生とマリアは善後策を練る為、上野駅構内の喫茶店に入った。
稲生:「まさかの事態だ……」
マリア:「勇太はあの光景に見覚えがあるって言ったよね?」
稲生:「ああ。僕が在学中にも、似たような光景は何回もあったよ」
マリア:「私の見立てでは、あの生徒は魂を吸い取られて死んだようだ。つまり、あの事件の背後には悪魔がいる」
稲生:「本当か!?」
マリア:「勇太のあの話……『呪いの人形』の話だけど、あの話に似てると思わないか?」
稲生:「た、確かに……。死に方はそうだね」
マリア:「いずれにせよ、調べてみる必要がある。エルフェゴール」
エルフェゴール:「はっ。あの学校は確かに怪しいです。学校全体に、悪魔の気配がしました。強さからして、中級クラスと思われます」
稲生:「僕達が必死で魔界の穴を塞いだというのに……」
マリア:「いくら塞いでも、どこかで広がるのが魔界の穴だ。また私達で塞げばいい」
稲生:「今度は週末ですね。週末に行きましょう」
マリア:「そうだな」