報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 悪魔の人形 1

2021-07-01 20:00:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日15:20.天候:曇 埼玉県蕨市 JR蕨駅→京浜東北線1561A電車10号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、15時20分発、各駅停車、大船行きです。次は、西川口に止まります〕

 一旦は実家に戻った稲生だったが、約束の時間に合わせて家を出た。

 マリア:「勇太の新しい家、縦に長くなったな」
 稲生:「土地の有効活用みたい。でもその代わり、ホームエレベーターが付いて、屋上もできたからね」
 マリア:「日本の家ならではの、土地の有効活用か。いいかもな」
 稲生:「ハハハ……」

〔まもなく1番線に、各駅停車、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、西川口に止まります〕

 隣の南浦和駅から電車がやってきた。
 南浦和駅始発の電車なので、1号車ほど混雑している。
 が、後ろに行くほど空く。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕

 電車に乗り込み、ブルーのシートに腰かける。
 すぐにホームから、賑やかな発車メロディが鳴り響いた。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアと、簡易的な造りのホームドアが閉まった。
 誰かが挟まれたか、すぐには発車しない。
 何秒かのブランクがあってから発車した。

〔次は、西川口です〕
〔The next station is Nishi-Kawaguchi.JK40.〕

 どうでもいいけど、駅のナンバリングって必要かな?
 路線カラーは……まあ、あってもいいけど。
 外国人だって、駅の場所を尋ねて来るのに駅の番号で言って来ることはないな(大体がちゃんと駅名を言って来るか、地図で駅の場所を指し示してくる)。

 稲生:「向こうで人形に会ったら、どうしますか?」
 マリア:「もちろん、『会話』する。きっと、今置かれてる状況が不満なんだろう。私が話を聞いて、なるべく改善してもらうさ」
 稲生:「僕も協力しますよ」
 マリア:「ありがとう」

[同日15:46.天候:曇 東京都台東区上野 JR上野駅→東京中央学園上野高校]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく上野、上野です。お降りの際、お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。上野です」〕

 電車は大きなカーブを描いて、上野駅に進入した。
 5番線以降のホームにはホームドアは無いが、1番線から4番線まではホームドアがある。
 その4番線に入った。

〔うえの、上野。ご乗車、ありがとうございます。次は、御徒町に止まります〕

 ここで電車を降りる。

 稲生:「うん。これなら約束の時間に着けそうです」
 マリア:「そもそもが、電車が時間通りというのがいい」
 稲生:「外国人は皆そう言いますね」

 国によっては時刻表すら無い所もあるが、比較的親切な所でさえ、『この時間○分間隔』という表記をしているくらいである(が、日本でも山手線で似たような表記をするようになったし、舞浜のディズニーリゾートラインが『只今、○分間隔』という表示をしている)。

 稲生:「学校はこっちです」
 マリア:「分かった」

 改札口を出て、駅の外に出る。
 そして、学校に向かう道路を歩いていると……。

 稲生:「ん?」

 サイレンを鳴らしたパトカーが何台か、稲生達を追い抜いて行った。

 稲生:「事件かな?事故かな?」

 だが、そのパトカー達の行き先が稲生達の行き先と一致していたことが分かった時、さすがに驚いた。

 稲生:「えっ?何があったの!?」

 他にも救急車が止まっている。
 この光景に、稲生は見覚えがあった。
 自分の在学中には、何度も目にした光景だ。
 怪奇現象に巻き込まれ、謎の重傷を負った者、最悪死に至った者。
 その度に事件性が疑われて警察がやってきたが、結局は事件性無しということで片付けられていた。
 それが令和の今になって復活するとは……。

 警察官A:「学校は立入禁止です!入らないでください!」
 警察官B:「はい、下がって下がって!」
 警察官C:「救急隊通ります!」
 稲生:「!」

 稲生は正門から入るのを諦め、通用門に向かった。

 稲生:「!」

 通用門の前には救急車が止まっていて、そこからストレッチャーが出て来る所だった。

 マリア:「勇太、多分あれ、死んでる……」

 マリアが眉を潜めて言った。
 ストレッチャーに乗っているのは、この学校の生徒だろう。
 稲生も着ていた制服の夏服を着ていた。
 スラックスを着用しているので、男子生徒だろう。
 しかし、頭まですっぽり覆われた毛布を被っていた。
 しかも、そこから覗いている腕は土気色で、まるで老人の腕のように細くカサカサしていた。

 稲生:「ただの事故じゃない……!」
 教員:「沼沢先生、私が付いて行きます」
 沼沢:「吉田先生、お願いします」
 稲生:「沼沢先生!」
 沼沢:「ん?その声は……」
 稲生:「稲生です!」
 沼沢:「稲生か。久しぶりだな」
 稲生:「はい!あ、あの、何があったんですか?」
 沼沢:「俺にも分からない……」

 沼沢は細面の顔で、メガネを掛けている。
 その顔が苦渋に満ちていた。

 沼沢:「突然倒れた生徒がいるというので、保健室に運ばれたんだ。だけど、保健室じゃどうしようもないというので、救急車を呼んだんだ。何しろ、心肺停止の状態だからな」
 稲生:「心肺停止!」
 沼沢:「悪い、稲生。そういうわけだ。せっかく来てくれて何だが、教育資料館の件はまた今度にしてほしい」
 稲生:「き、今日はしょうがないですね。明日はどうですか?」
 沼沢:「いや、だから生徒が突然死したんだ。明日も無理だよ」
 稲生:「それじゃ、週末はどうですか?土曜日とか日曜日とか。授業の無い日でも……」
 沼沢:「ああ、分かった。土曜日にしよう。土曜日に来てくれ」
 稲生:「分かりました」

[同日16:00.天候:晴 同地区内 某喫茶店]

 稲生とマリアは善後策を練る為、上野駅構内の喫茶店に入った。

 稲生:「まさかの事態だ……」
 マリア:「勇太はあの光景に見覚えがあるって言ったよね?」
 稲生:「ああ。僕が在学中にも、似たような光景は何回もあったよ」
 マリア:「私の見立てでは、あの生徒は魂を吸い取られて死んだようだ。つまり、あの事件の背後には悪魔がいる」
 稲生:「本当か!?」
 マリア:「勇太のあの話……『呪いの人形』の話だけど、あの話に似てると思わないか?」
 稲生:「た、確かに……。死に方はそうだね」
 マリア:「いずれにせよ、調べてみる必要がある。エルフェゴール」
 エルフェゴール:「はっ。あの学校は確かに怪しいです。学校全体に、悪魔の気配がしました。強さからして、中級クラスと思われます」
 稲生:「僕達が必死で魔界の穴を塞いだというのに……」
 マリア:「いくら塞いでも、どこかで広がるのが魔界の穴だ。また私達で塞げばいい」
 稲生:「今度は週末ですね。週末に行きましょう」
 マリア:「そうだな」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 ワンスターホテル~都営地下鉄大江戸線

2021-07-01 15:52:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月23日08:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル→レストラン“マジックスター”]

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 朝の勤行を終えた稲生は、部屋の電話の受話器を取った。

 稲生:「あ、もしもし、マリア。おはよう。今、出られる?……分かった。じゃ、今から行くよ」

 朝食を取りに、マリアを誘ったのだ。

 稲生:「どれ、行って来るか」

 稲生は鍵を手に、部屋を出た。

 マリア:「今日はどうするんだ?」

 エレベーターに乗ってから、マリアが聞いてきた。

 稲生:「取りあえず、かつての担任の先生に聞いてみる。さすがに平日の今日行っても、授業中だから断られるだろうし」
 マリア:「そうか。しかし、いざとなったら魔法で侵入もできるぞ?」
 稲生:「僕の母校でそれは勘弁してくれよ」
 マリア:「分かった分かった」

 エレベーターが1階に着いて、ドアが開く。

 エレーナ:「おっ、稲生氏、マリアンナ。おはようだぜ」
 稲生:「おはよう」
 マリア:「おっス」
 エレーナ:「『ゆうべはおたのしみでしたね』」
 マリア:「ンなワケあるか!」
 稲生:「いつの時代のドラクエだよ……。というか、女将さんと交替したんだ」
 エレーナ:「そりゃ、女将さんに夜勤までやらせたらアレだろ?そこは住み込みバイトの私の出番だぜ」
 稲生:「カネの為とはいえ、一生懸命働くところは憎めないんだよなぁ……」

 夜勤の方がバイト代が高い為。
 かくいう作者も、警備員バイト時代はバイト代に目が眩んで夜勤を率先して行っていた。
 今では別の会社で正社員。

 店員:「いらっしゃいませー」

 レストランに行くと、キャサリンの使い魔カラスが擬人化した店員達が働いていた。
 エレーナは黒猫、キャサリンはカラスと、正に“ベタな魔女の使い魔の法則”通りである。

 稲生:「バイキングじゃなくなったんだね」
 店員:「コロナ禍の影響でぇ……」

 緊急事態宣言やまん防の出ている所では、バイキング形式を止めて定食形式に変えたホテルは多い。
 それだけならまだマシな方で、朝食サービスそのものを取り止めにしてしまった所も散在する。

 稲生:「和定食1つ」
 マリア:「私は洋定食」
 店員:「はいっ、かしこまりましたぁ!」

 やたら元気なカラス娘である。

 稲生:「取りあえず食べたら、学校に連絡してみるよ」
 マリア:「分かった。その後は?」
 稲生:「すぐに行けるようなら行くけど、もしダメなら……取りあえず、うち来る?」
 マリア:「行く!行くわ!」
 稲生:「わ、分かった」

[同日09:00.天候:晴 同ホテル5F 512号室]

 朝食を終えて部屋に戻った稲生は、東京中央学園上野高校に掛けてみた。

 稲生:「あ、もしもし。僕、第○×回の卒業生の稲生勇太と申します。……はい。当時、3年3組の担任だった沼沢先生とお話しさせて頂きたいのですが……。あ、はい!お願いします!」

 保留音が校歌のオルゴールである。
 電話に出た事務員の話によると、沼沢は今は3年生の学年主任をしているという。

 沼沢:「はい、お電話代わりました。沼沢です」

 学年主任はその年度にもよるが、クラス担任を務めるとは限らない。

 稲生:「沼沢先生!第○×回卒業生で3年3組だった稲生です!」
 沼沢:「稲生……稲生か……」
 稲生:「新聞部にいて、バンドマンの大河内君や着物着た銀髪の威吹と一緒にいた稲生勇太です!」
 沼沢:「ああ、あの稲生か!思い出した!どうした?」
 稲生:「実はお願いがありまして……」
 沼沢:「お願い?」
 稲生:「旧校舎……教育資料館の中を見学させて頂きたいんです」
 沼沢:「教育資料館?何でまたそこに……。もしかして、また『魔界の穴』とか、『化け物』とかでも出るっていうのか?」
 稲生:「あ、いや、そういうことじゃないんです。ちょっと探し物が……」
 沼沢:「探し物?何だ?」
 稲生:「沼沢先生は、『青い目の人形』を御存知ないですか?」
 沼沢:「何だ。それを見たいのか」
 稲生:「あるんですか!?」
 沼沢:「あるよ。教育資料館の1階に、学園の歴史を伝えるコーナーがあるだろ?そこに展示されてるよ」
 稲生:「今から見せては頂けないでしょうか!?」
 沼沢:「今から?おいおい、冗談だろ?今日は平日で、これから授業だ。昨今の治安状況を鑑みて、なるべく平日の昼間は部外者を入れないことになったんだ。まあ、確かに稲生は卒業生だが、今はもう……」
 稲生:「そこを何とか……」
 沼沢:「うーん……。それじゃあ、授業が終わった放課後ならいいよ」
 稲生:「それは今日でも?」
 沼沢:「ああ、構わんよ。そうだな……じゃあ、16時頃に来てくれ」
 稲生:「16時ですね。分かりました。お伺いします!ありがとうございます!」

 稲生は電話を切った。

[同日09:30.天候:晴 同地区内 都営地下鉄森下駅→大江戸線820A電車先頭車内]

 元担任の沼沢とアポイントが取れた稲生は、一旦ホテルをチェックアウトして実家に行くことにした。
 まずは最寄りの森下駅に向かう。

 マリア:「案外上手く行くものだね」
 稲生:「いやあ、良かった良かった」
 マリア:「しかし、まさか既に展示されていたとは……」
 稲生:「お、おかしいな。全然気づかなかった」

〔まもなく3番線に、両国、春日経由、都庁前行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 マリア:「『灯台下暗し』って言うのか、こういうの?」
 稲生:「そ、そうかもね」
 マリア:「でも、不思議だな……」
 稲生:「何が?」
 マリア:「いや……」

 轟音と強風を伴って電車が入線してきた。

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 朝ラッシュが終わった後なので、混雑はしていなかった。
 電車に乗り込むと、空いているクッションの硬い座席に座る。
 すぐに発車メロディが鳴り、車両のドアとホームドアが閉まる。
 それから電車が走り出した。

〔次は両国(江戸東京博物館前)、両国(江戸東京博物館前)。JR総武線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 稲生:「何が不思議なの?」
 マリア:「ちゃんと発見されて、しかもちゃんと展示までされているのなら、人形に不満は無いはずだ。親善人形としての目的で、学校に寄贈されたのなら、学校で管理し、展示されるのが当たり前だ。勇太の母校にいる人形はちゃんと目的を果たしているのに、何がそんなに不満なんだろう?」
 稲生:「教育資料館って、あんまり開放されることが無いんです。学園側も、旧校舎を取り壊そうとすると呪いが発動して何人もの死者が出たことに委縮してしまって、それで苦肉の策として教育資料館としてリニューアルすることにしたわけです。つまり、積極的にリニューアルしようとしたわけじゃないんですよ」
 マリア:「飾られてるだけで、その人形を見る者はいないというわけか。なるほど。それなら、人形にとっては不満かもしれない」
 稲生:「もしそうなら、その辺も踏まえて、先生に話してみますよ」
 マリア:「それは頼む」

 取りあえずまずは、稲生の家へ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 ワンスターホテル 2

2021-07-01 11:16:06 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日20:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 レストラン“マジックスター”で夕食を取り、エレーナが戻って来るまで時間を潰していた稲生とマリア。
 ようやくエレーナが戻ってきたという知らせを受けたのは、時短営業で閉店となる20時ギリギリであった。
 ロビーに行くと、エレーナがいた。

 エレーナ:「よお、稲生氏!マリアンナ!久しぶりだぜ!」
 マリア:「久しぶり、じゃない!」
 稲生:「早速、宿泊券、使わせてもらったよ」
 エレーナ:「おおっ!私からのラブレター、ありがとうだぜ!」
 稲生:「ラブレター?宿泊券しか入って無かったよ?」
 エレーナ:「なにっ!?」
 マリア:「それ以外の物は汚い字だったんで、焼却処分しておいた」
 エレーナ:「オマエ、ぶっころ!」
 女将:「ちょっとアンタら。ケンカなら店の外でやっとくれ」
 エレーナ:「あっ、サーセン!」
 稲生:「ちょっとエレーナに見てもらいたいものがあるんだよ」
 エレーナ:「何だぜ?」

 稲生は水晶玉に右手を置くと、左手を白い壁に映した。

 稲生:「これなんだけどね……」
 エレーナ:「稲生氏の母校じゃないか。これがどうしたんだぜ?」
 稲生:「は?え!?」
 マリア:「Huh!?」
 エレーナ:「これ、あれだろ?稲生氏の母校の旧校舎だろ?」
 稲生:「いや、それに似てはいるだろうけど……」
 エレーナ:「いやいや、そうだぜ。ちょっと待ってろ」

 エレーナはポケットからエレベーターのスイッチキーを取り出した。
 それでエレベーターを地下階まで行けるようにすると、それで自分の部屋のある地下階へと下りて行った。
 しばらくしてまた戻って来た時、エレーナはノートPCを持って来ていた。

 エレーナ:「マリアンナもそうだが、私もあの建物では散々面倒なことに巻き込まれたもんだ」
 稲生:「そういえば、そんなこともあったね!」
 エレーナ:「だから、あの建物のことについては知ってる」

 エレーナはPCを起動し、マウスパッドとキーボードを操作して、とある画面を立ち上げた。

 エレーナ:「これを見てくれ」
 稲生:「これは……旧校舎の見取図!?」
 エレーナ:「私は探索したダンジョンの地図は取っておくし、無いなら自分で作ってるんだぜ」
 マリア:「後で探索に来る冒険者に売り付けるつもりだろ」
 エレーナ:「そんなのは魔界じゃ常識なんだぜ」
 稲生:「それで魔界のダンジョンには、なかなか見取図が無かったりするんだね」
 エレーナ:「ゲームの世界みたいに、これ見よがしにある方がおかしいんだぜ」
 稲生:「“バイオハザードシリーズ”においては確かにそうだと思う。でも、この旧校舎は関係無いだろう?」
 エレーナ:「一応だぜ、一応。で、これが立体図だ」
 稲生:「立体図まで作って……」
 マリア:「手の込んだことしやがって、この野郎」
 エレーナ:「稲生氏の出した部分は……ここかな?」
 稲生:「あっ!?」
 エレーナ:「な?そっくりだろ?」
 稲生:「本当だ……」
 マリア:「勇太の学校に『青い目の人形』って……」
 稲生:「でも、有り得る話ではある。何しろ、系列校の静岡中央学園女学校にも寄贈されたくらいだから、本校の東京中央学園にも寄贈されていておかしくはない……」
 マリア:「どうしてこんなことに気が付かなかったんだ」
 稲生:「すいません」
 エレーナ:「『青い目の人形』って何なんだぜ?儲け話か?」
 稲生:「儲け話ではないね」
 エレーナ:「なーんだ。でも、その人形がビスクドールなら高く売れるぜ?」
 稲生:「メリーはビスクドールじゃないよね?」
 マリア:「違う違う。勇太の母校でしょ?『青い目の人形』の話、聞いたこと無かったの?」
 稲生:「うーん……無いなぁ……」
 マリア:「無いということは、未だにどこかに保管されていて、日の目を見ていないということだろう?」
 稲生:「確かにね」
 エレーナ:「あれだ。稲生氏の母校はホラー話満載の学校だっただろ?その中に、それっぽい話は無かったのか?」
 稲生:「聞いたことないなぁ……。別の人形の話はあったけど、内容的に明らかに『青い目の人形』じゃないし」
 エレーナ:「それは稲生氏の主観だろ?もしかしたら、人形遣いのマリアンナが聞けば違うかもしれないぜ?なあ?」
 マリア:「う、うん、まあ……」
 エレーナ:「女将さん、会議室借りまーす」
 女将:「いいよ。ついでに掃除もしといとくれ」
 エレーナ:「了解っス!」
 マリア:「私達は客だから、掃除はオマエがやれよ」

 3人は1階の貸会議室に移動した。
 レストランに向かう通路の途中にある。
 向かいには共用トイレやコインランドリーがあった。
 ついでに自動販売機コーナー(それはフロントの横にある)で、お茶を買ってきた。

 エレーナ:「それで稲生氏、人形の話って何なんだぜ?」
 稲生:「マリアさんはもう知ってると思うよ。威吹も知ってるしね」
 マリア:「ん?ああ、あの『呪いの人形』のことか。……あー、確かに『青い目の人形』とは関係無さそうだねぇ……」
 エレーナ:「じゃあ、私が聞いてやるぜ。私が聞けば分かるかもしれないぜ?」
 稲生:「まあ、せっかくだから話すよ」

 稲生勇太、高校時代の話はスピンオフ“妖狐 威吹”に収録。
 但し、ネットでは非公開です(作者が顕正会時代に書いたものであり、所々に顕正会称賛の描写が散りばめられている為)。

 稲生:「僕が高校1年生だった頃の話なんだけど……」

 その時から既に校内は多くの怪奇現象が起こっていた。
 最終的にそれは東京中央学園の立地条件が魔界の穴の隙間の上にあったからであり、多くの怪奇現象はその穴の隙間から出て来たモンスター達のしわざということが明らかになった。
 最終的に稲生ら新聞部員や霊力の強い有志達、そして威吹邪甲やその仲間達の手により、魔界の穴は塞がれ、怪奇現象は一定の割合を減らすことができた。
 その穴の隙間から出て来た悪魔の一種だろう。
 息子を病気で亡くして意気消沈していた当時の校長に黒い契約を持ち掛けたのだ。
 息子にそっくりな人形を作らせ、同年代の若い魂を13個集めると、その人形は人間化し、息子同然の存在になることができるのだと。
 魂は毎年1つずつ。
 対象となる生贄の条件は、入学してくる補欠合格者を意図的に1人増やした者。
 つまり、本来なら不合格となるはずの受験生を、本人やその家族が知らないうちに校長が裏口入学させ、その者を悪魔の生贄としたのである。
 稲生は13人目、つまり最後の生贄であった。
 生贄となった者は、『呪いの人形』の姿に怯え、徐々に精気を奪われて衰弱していく。
 そして最期は衰弱死してしまうのである。
 呪いの人形のことは、当時同居していた威吹でさえお手上げであった。
 威吹でさえ、稲生が見えている呪いの人形が見えないのである。
 稲生はそれまでに仕入れていた情報を元に、校長が怪しいと突き止め、最後の力を振り絞って校長室に潜入。
 そこで、黒幕である校長や呪いの人形と対峙した。

 稲生:「その時、悪魔はどういうわけだか、僕じゃなくて、校長の魂を持って行ったんだよ」
 エレーナ:「アシが付いたんで、『ヤベェ』と思ったんだろうな。しかも相手が、後に魔道士となる稲生氏で、更にその時既に高等妖怪の妖狐を連れて歩くくらいだ。下級悪魔だったら、そりゃビビるだろうよ」
 マリア:「お前もイブキには、後ろから刀で突き刺されたもんな」
 エレーナ:「下級悪魔がビビるわけだぜ」
 ベルフェゴール:「失礼。今の話、聞かせて頂いた」

 その時、マリアの契約悪魔であるベルフェゴールがいつの間にか現れて話し掛けて来た。
 キリスト教に登場する“七つの大罪”のうち、『怠惰』を司る悪魔である。
 悪魔の世界では上級に分類されている。

 ベルフェゴール:「下級悪魔だというのは間違い無いが、恐らく今は中級に昇格しただろう。私達の世界ではそんなことはないのだが、魔界在住の者達は、昇格するのに人間の魂をいくつ集めるというのが流行っているようでね」
 マリア:「そんなことは分かってる。でも、アルカディア王国では法律で禁止されてるぞ」
 エレーナ:「悪魔が素直に従うわけねーだろ。陰でバレねーようにコッソリやってるに決まってるぜ。なあ?」
 マモン:「これはこれはエレーナ姐さん、厳しい」

 片手にそろばんを持ったエレーナの契約悪魔も現れた。
 キリスト教“七つの大罪”の悪魔の1つ、『強欲(物欲・金銭欲)』を司るマモンである。

 稲生:「でも、どうだろう?やっぱり『青い目の人形』とは関係無さそうでしょ?」
 マリア:「確かに……」
 エレーナ:「うーん……そうだなぁ……」
 稲生:「でも、東京中央学園にはありそうなんだね。僕がOBとして、何とかしてみるよ」

 今夜は一応、それで話が終わった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする