[6月29日21:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区本町 ホテルドーミーイン仙台駅前]
稲生:「ふう……。着いた着いた……」
マリア:「つい、飲みすぎちゃったなぁ……」
2人だけの夕食会も終わり、稲生とマリアは宿泊先のホテルに戻って来た。
フロントで預けていた鍵を受け取り、客室へ向かう。
稲生:「マリアンナ人形に『命』を吹き込むのはいつ?」
マリア:「今日は疲れたから、明日にする。マリアンナもクラリス達のお下がりを着たまま『命』を吹き込まれるより、新しい服を着てからの方がいいだろう」
稲生:「それもそうか」
エレベーターに乗ってから、そんな話をする。
マリア:「明日は……ああっ!」
稲生:「ど、どうしたの!?」
マリア:「N-Nothing...(べ、別に……)」
稲生:「んん?」
マリア:「えーと……。明日はマリアンナの服を造るのに集中したいから、『命』を吹き込むのは明後日にしよう!」
稲生:「う、うん……」
稲生はどうしてマリアが狼狽えたのか分からなかった。
下世話な話だが、明日に生理が来る予知でもしてしまったのだろうか。
いや、だとしたら、ピルを飲まないと『いつも重い』マリアのことだ。
魔法を使う以前に、そもそも人形の服作りもできやしないだろう。
それは違うようだ。
稲生:「この後、風呂入りに行く?温泉だよ」
マリア:「う、うん。行く。このホテルは、部屋着のまま外を歩いていい所だったね?」
稲生:「そう」
マリア:「分かった。一息吐いたら、すぐに行くよ」
稲生:「うん、分かった」
稲生は自分の部屋に戻った。
その部屋はこのホテルで1番シンプルなシングルルームで、もちろんウォシュレット付きの洋式トイレが備え付けられているのだが、ビジネスホテルには珍しく、バスルームは無い。
あるのはバスルームではなく、シャワールームである。
その為、洗面台は室内の別の場所に独立して備え付けられているのだ。
トイレとシャワー、洗面台が付いているというのは、マリアの屋敷における稲生の部屋と同じだ。
その為、湯船に浸かりたい時は共用のバスルームを使うことになる。
共用と言っても、泊まり掛けの来客が無い時は、ほぼほぼ稲生専用なのであるが。
泊まり掛けの来客がある時のみ、気を使って室内のシャワーで済ますといった感じである。
と、そこへ、稲生のスマホにエレーナから電話が掛かって来た。
最近の魔道士は、通信手段をケータイにするのが流行っている。
もっとも、イリーナでさえ固定電話を使うくらいだから、水晶玉を通信に使うのは、よほど近くに電話回線が無い時である。
稲生:「はい、もしもし?」
エレーナ:「よお、稲生氏。お楽しみの最中だったか?そりゃ悪かったぜ」
稲生:「絶対、悪いとは思ってないよね?ていうか、何だよ、『お楽しみ』って?」
エレーナ:「仲の良い男女が1つ屋根の下でヤることと言ったら、1つしか無いんだぜ」
稲生:「確かにヤれるもんなら、ヤりたいけど、今はそれどころじゃないし……」
エレーナ:「まあ、ぶっちゃけ別にそこはどうでもいいぜ。それより明日のことなんだぜ」
稲生:「明日?明日、何があるの?」
エレーナ:「ん?稲生氏、知らないのか?マリアンナからも聞いてないのか?」
稲生:「知らないし、何も聞いてない。何なの?」
エレーナ:「マリアンナも冷たいヤツなんだぜ。しょうがないから教えてやるんだぜ。明日は、『サバトの日』なんだぜ?」
稲生:「『サバトの日』?あ、もしかして、あれかな?皆して、屋敷のプールに入りに来る日かな?」
エレーナ:「目的と手段を間違えてるんだぜ。確かに、あれも『サバト』の一種だが、あれはわざとああしてただけだぜ」
稲生:「どういうこと???」
エレーナ:「『サバトの日』は『スカイクラッドの日』でもある。ここまで言っても、まだ意味分かんないか?」
稲生:「……ゴメン。全然分かんない。それ、試験に出る?」
エレーナ:「出ると思うぜ」
稲生:「そこ、kwsk!」
エレーナ:「『サバトの日』においては、魔女は裸で過ごすんだぜ」
稲生:「は!?」
エレーナ:「稲生氏。どうして私達が、マリアンナの屋敷のプールで裸になって泳いでるか分かるか?それなんだぜ」
稲生:「あ、それだけ!?一日中プールで過ごしてるよね!?……僕は除け者で」
エレーナ:「稲生氏が除け者という点においては激しく同情するんだぜ」
稲生:「それでマリア、明日のことで動揺したのか……。え?明日、裸で過ごさなきゃいけないの?」
エレーナ:「別に事情がある場合は免除されるんだぜ。私も明日は仕事だから免除だが、リリィは違う。だからあいつは明日、マリアンナの屋敷にお邪魔してプールに入らせてもらうんだぜ」
どうしてダンテ一門の魔女弟子達が、こぞってマリアの屋敷の地下プールに入りに来るのかが分かった。
そして、せっかく来ていた水着を全部脱いで裸で泳ぐ理由も。
稲生:「明日、僕達は移動するから免除だろうな?」
マリア:「それは免除だぜ。しかし、魔法を使う場合は裸にならないとダメだぜ?」
稲生:「そういうことか!」
マリアが明日、マリアンナ人形に『命』を吹き込む儀式を延期したがった理由が分かった。
稲生:「あれ?でも先生達は?うちの先生、裸になってないけど……」
エレーナ:「いや、そんなことはないぜ。イリーナ先生、その日だけは屋敷内でもローブを羽織ってるだろ?」
稲生:「あ、そういえば……」
エレーナ:「ローブの下はマッパだぜ?」
稲生:「ええっ!?……でも、ローブは着ていいんだ」
エレーナ:「そう。ついで言うと、私みたいに帽子被ってる者は、帽子も被ってていいんだぜ。ただ、服だけは脱げって話だな」
稲生:「そうなんだ」
エレーナ:「これはダンテ一門だけでなく、他の流派の魔法使い達もそうなんだぜ。ただ、『サバトの日』は流派によって、もしくは同じ流派でも、更に分派ごとによって違ったりするんだぜ。因みにダンテ一門も、年毎に違う」
稲生:「あ、そういえば……。用事が無い場合は、漏れなく裸にならないといけないんだ。僕も?」
エレーナ:「本来は稲生氏もなんだろう。だが、インターン(見習い)は除外されることがある。その判断は先生ごとによって違うんだろうな。また、一日中といっても、『何を持って一日とするか?』というのも先生ごとによって違う。アナスタシア先生はきっちりしているから、今日の午前0時ピッタリから次の日の午前0時までなんだぜ」
稲生:「うわ……!」
エレーナ:「因みにうちの先生の定義だと、『明日の日没から、その次の日の日の出まで』だ」
稲生:「夜間限定!?」
エレーナ:「そう。そもそも『サバト』というのは、『魔女の夜宴』のことだ。だから、本来夜に行うのが普通なんだぜ。しかし、アナスタシア先生はきっちりしているから、時計通りにするらしい」
稲生:(うちの先生の場合はどうなんだろう?)
後でマリアに聞いたら、『風呂に入っている間だけでも裸になれば良いが、それはそれとして、魔法を使う時は裸にならないといけない。但し、常時稼働の人形や屋敷の維持・管理の為の魔法は除く』という、随分とご都合主義な定義なのであった。
その為、イリーナ組では、サバトの日は完全に魔法の使用を休止する日なのである。
イリーナがローブの下、裸になるのは、一応他の組に対し、『師自らやっている感』を出す為のパフォーマンスなのだとか。
稲生:「ふう……。着いた着いた……」
マリア:「つい、飲みすぎちゃったなぁ……」
2人だけの夕食会も終わり、稲生とマリアは宿泊先のホテルに戻って来た。
フロントで預けていた鍵を受け取り、客室へ向かう。
稲生:「マリアンナ人形に『命』を吹き込むのはいつ?」
マリア:「今日は疲れたから、明日にする。マリアンナもクラリス達のお下がりを着たまま『命』を吹き込まれるより、新しい服を着てからの方がいいだろう」
稲生:「それもそうか」
エレベーターに乗ってから、そんな話をする。
マリア:「明日は……ああっ!」
稲生:「ど、どうしたの!?」
マリア:「N-Nothing...(べ、別に……)」
稲生:「んん?」
マリア:「えーと……。明日はマリアンナの服を造るのに集中したいから、『命』を吹き込むのは明後日にしよう!」
稲生:「う、うん……」
稲生はどうしてマリアが狼狽えたのか分からなかった。
下世話な話だが、明日に生理が来る予知でもしてしまったのだろうか。
いや、だとしたら、ピルを飲まないと『いつも重い』マリアのことだ。
魔法を使う以前に、そもそも人形の服作りもできやしないだろう。
それは違うようだ。
稲生:「この後、風呂入りに行く?温泉だよ」
マリア:「う、うん。行く。このホテルは、部屋着のまま外を歩いていい所だったね?」
稲生:「そう」
マリア:「分かった。一息吐いたら、すぐに行くよ」
稲生:「うん、分かった」
稲生は自分の部屋に戻った。
その部屋はこのホテルで1番シンプルなシングルルームで、もちろんウォシュレット付きの洋式トイレが備え付けられているのだが、ビジネスホテルには珍しく、バスルームは無い。
あるのはバスルームではなく、シャワールームである。
その為、洗面台は室内の別の場所に独立して備え付けられているのだ。
トイレとシャワー、洗面台が付いているというのは、マリアの屋敷における稲生の部屋と同じだ。
その為、湯船に浸かりたい時は共用のバスルームを使うことになる。
共用と言っても、泊まり掛けの来客が無い時は、ほぼほぼ稲生専用なのであるが。
泊まり掛けの来客がある時のみ、気を使って室内のシャワーで済ますといった感じである。
と、そこへ、稲生のスマホにエレーナから電話が掛かって来た。
最近の魔道士は、通信手段をケータイにするのが流行っている。
もっとも、イリーナでさえ固定電話を使うくらいだから、水晶玉を通信に使うのは、よほど近くに電話回線が無い時である。
稲生:「はい、もしもし?」
エレーナ:「よお、稲生氏。お楽しみの最中だったか?そりゃ悪かったぜ」
稲生:「絶対、悪いとは思ってないよね?ていうか、何だよ、『お楽しみ』って?」
エレーナ:「仲の良い男女が1つ屋根の下でヤることと言ったら、1つしか無いんだぜ」
稲生:「確かにヤれるもんなら、ヤりたいけど、今はそれどころじゃないし……」
エレーナ:「まあ、ぶっちゃけ別にそこはどうでもいいぜ。それより明日のことなんだぜ」
稲生:「明日?明日、何があるの?」
エレーナ:「ん?稲生氏、知らないのか?マリアンナからも聞いてないのか?」
稲生:「知らないし、何も聞いてない。何なの?」
エレーナ:「マリアンナも冷たいヤツなんだぜ。しょうがないから教えてやるんだぜ。明日は、『サバトの日』なんだぜ?」
稲生:「『サバトの日』?あ、もしかして、あれかな?皆して、屋敷のプールに入りに来る日かな?」
エレーナ:「目的と手段を間違えてるんだぜ。確かに、あれも『サバト』の一種だが、あれはわざとああしてただけだぜ」
稲生:「どういうこと???」
エレーナ:「『サバトの日』は『スカイクラッドの日』でもある。ここまで言っても、まだ意味分かんないか?」
稲生:「……ゴメン。全然分かんない。それ、試験に出る?」
エレーナ:「出ると思うぜ」
稲生:「そこ、kwsk!」
エレーナ:「『サバトの日』においては、魔女は裸で過ごすんだぜ」
稲生:「は!?」
エレーナ:「稲生氏。どうして私達が、マリアンナの屋敷のプールで裸になって泳いでるか分かるか?それなんだぜ」
稲生:「あ、それだけ!?一日中プールで過ごしてるよね!?……僕は除け者で」
エレーナ:「稲生氏が除け者という点においては激しく同情するんだぜ」
稲生:「それでマリア、明日のことで動揺したのか……。え?明日、裸で過ごさなきゃいけないの?」
エレーナ:「別に事情がある場合は免除されるんだぜ。私も明日は仕事だから免除だが、リリィは違う。だからあいつは明日、マリアンナの屋敷にお邪魔してプールに入らせてもらうんだぜ」
どうしてダンテ一門の魔女弟子達が、こぞってマリアの屋敷の地下プールに入りに来るのかが分かった。
そして、せっかく来ていた水着を全部脱いで裸で泳ぐ理由も。
稲生:「明日、僕達は移動するから免除だろうな?」
マリア:「それは免除だぜ。しかし、魔法を使う場合は裸にならないとダメだぜ?」
稲生:「そういうことか!」
マリアが明日、マリアンナ人形に『命』を吹き込む儀式を延期したがった理由が分かった。
稲生:「あれ?でも先生達は?うちの先生、裸になってないけど……」
エレーナ:「いや、そんなことはないぜ。イリーナ先生、その日だけは屋敷内でもローブを羽織ってるだろ?」
稲生:「あ、そういえば……」
エレーナ:「ローブの下はマッパだぜ?」
稲生:「ええっ!?……でも、ローブは着ていいんだ」
エレーナ:「そう。ついで言うと、私みたいに帽子被ってる者は、帽子も被ってていいんだぜ。ただ、服だけは脱げって話だな」
稲生:「そうなんだ」
エレーナ:「これはダンテ一門だけでなく、他の流派の魔法使い達もそうなんだぜ。ただ、『サバトの日』は流派によって、もしくは同じ流派でも、更に分派ごとによって違ったりするんだぜ。因みにダンテ一門も、年毎に違う」
稲生:「あ、そういえば……。用事が無い場合は、漏れなく裸にならないといけないんだ。僕も?」
エレーナ:「本来は稲生氏もなんだろう。だが、インターン(見習い)は除外されることがある。その判断は先生ごとによって違うんだろうな。また、一日中といっても、『何を持って一日とするか?』というのも先生ごとによって違う。アナスタシア先生はきっちりしているから、今日の午前0時ピッタリから次の日の午前0時までなんだぜ」
稲生:「うわ……!」
エレーナ:「因みにうちの先生の定義だと、『明日の日没から、その次の日の日の出まで』だ」
稲生:「夜間限定!?」
エレーナ:「そう。そもそも『サバト』というのは、『魔女の夜宴』のことだ。だから、本来夜に行うのが普通なんだぜ。しかし、アナスタシア先生はきっちりしているから、時計通りにするらしい」
稲生:(うちの先生の場合はどうなんだろう?)
後でマリアに聞いたら、『風呂に入っている間だけでも裸になれば良いが、それはそれとして、魔法を使う時は裸にならないといけない。但し、常時稼働の人形や屋敷の維持・管理の為の魔法は除く』という、随分とご都合主義な定義なのであった。
その為、イリーナ組では、サバトの日は完全に魔法の使用を休止する日なのである。
イリーナがローブの下、裸になるのは、一応他の組に対し、『師自らやっている感』を出す為のパフォーマンスなのだとか。