報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 最後の人形 4

2021-07-12 20:08:09 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月29日10:00.天候:晴 宮城県栗原市某所 稲生家]

 翌朝になって、稲生家の面々は蔵の中の整理を始めた。
 それで分かったのだが、金庫は仙台箪笥の後ろに隠されるようにして置かれていた。
 具体的には仙台箪笥を退かすと、その後ろに壁があるのだが、それに埋め込まれるようにして大きな防盗金庫が置かれていた。

 稲生祐介:「姉貴はこの金庫の鍵を持っているらしいんだ」
 稲生俊彦:「なして?」
 祐介:「分かんね。姉貴が来たら、説明してくれるんじゃないの」

 マリアは金庫に触ってみた。

 マリア:「微かに魔法の気配がする。これは普通に鍵を掛けた後で、魔法が掛けられている」
 勇太:「何ですって!?」
 マリア:「しかも、その魔力は強い。私の力では、とても開錠できない」
 勇太:「じゃあ、お姉さんが持ってくる鍵でも開かないってこと?」
 マリア:「それは分からない。その鍵を見てみないことには……」

 その時、蔵の外から車の音がした。

 祐介:「姉ちゃんが来たよ!」

 蔵の外に出ると、仙台ナンバーの軽のトールワゴンが止まっていた。
 そこから降りて来たのは、1人の女性。
 背が高く、正常な男性なら目が行って当たり前の巨乳である。

 稲生理恵:「ホントだ。蔵が開いてる!」
 祐介:「姉ちゃん、この人達が開けてくれたんだ!埼玉の叔父さんの所の人達!」
 理恵:「初めまして。稲生理恵です。……ああ、あなたがあの外国人さんなんだ。悟朗君から聞いてるよ」

 稲生悟郎はまた別の親戚の従兄である。
 ダンテ一門の魔道士と結婚して、今はロシアのウラジオストク住まいである。

 マリア:「どうも。マリアンナ・スカーレットです」

 ミドルネームの悪魔名は基本的に名乗らない。
 自分が魔女だと名乗るようなものだからである。
 但し、そう名乗る必要がある場合は名乗る。

 理恵:「うん、やっぱり悟朗君の所と同じ日本語ペラペラだ」
 祐介:「姉ちゃん、それより鍵は?」
 理恵:「持ってる。これだよ」

 理恵は1本の大きな鍵を取り出した。

 俊彦:「古い金庫だからか、鍵も古めかしいデザインだなや」
 勇太:「どうして理恵さんが鍵を持ってるんですか?」
 理恵:「お祖父さんがくれたんだよ。『これは蔵の中にある大事な金庫の鍵だから、蔵が開くまで持っててくれ』って」
 マリア:「あの金庫に鍵を掛けたのは、誰だか分かりますか?」
 理恵:「さあ……。お祖父さんじゃないの?きっと凄いお宝が入ってるんだと思ってるんだけど……」
 俊彦:「凄いお宝が壺とか掛け軸なんだとしたら、もう外に運び出したど?」
 理恵:「じゃあ、壺や掛け軸よりもっと凄いお宝!?」
 勇太:「歴史的にはお宝なのかもしれませんが、金銭的な価値かどうかは【お察しください】」
 理恵:「何それー?」
 祐介:「とにかく開けてみようぜ」
 理恵:「分かったよ」
 マリア:「私が開けていいですか?」
 理恵:「いいよ」

 マリアは鍵を受け取ると、それを金庫まで持って行った。

 マリア:(この鍵も、僅かながら魔法を帯びている。一体、誰が……?)

 マリアは金庫に鍵を差す前に稲生家の面々に聞いてみた。

 マリア:「どなたか私以外に、過去に外国人がこの家を訪れたりはしませんでしたか?」

 すると、稲生家の面々は首を傾げた。
 だが、俊彦が……。

 俊彦:「俺が生まれる前……つまり、まだ親父と御袋が結婚する前だったと思うけど、進駐軍関係者が来たなんて話は聞いたことあるかな……」
 マリア:「シンチューグン?」
 勇太:「第2次大戦の後、日本を占領した連合国軍のことですよ」
 マリア:「ああ!」
 祐介:「何でこんな田舎に?」
 理恵:「戦後の農地改革の視察で来たんじゃない?」
 マリア:(第2次大戦の軍隊じゃ、男か……。じゃあ、違うな)

 マリアは頭で否定して、鍵を開けた。

 マリア:「!?」

 その時、鍵から火花が飛び散った。

 勇太:「マリア?!」
 俊彦:「んぉっ!?何だ?!」
 祐介:「静電気!?」
 理恵:「ンなわけないでしょ!」
 マリア:「いや、大丈夫……。(良かった。私が開けて。これ、トラップだわ……。魔力の無い者が開けたら、電撃魔法が発動して感電してた……。もっとも、ミドルマスター以上なら静電気すら発生させなかっただろうけど……。ということは、この魔法を掛けたのはミドルマスター以上か……)」

 金庫は二重扉になっていて、もう1つの扉にも鍵穴があった。

 マリア:「この鍵は?」
 理恵:「さあ……」
 祐介:「無ェのかよ!?」
 俊彦:「これも、しっかり鍵掛かってんど!?」

 マリアは鍵穴に触ってみた。

 マリア:(今度は魔法は掛かってないみたいだけど……。ちゃんとした鍵があれば、開くかもしれない)
 勇太:「マリア、どうなの?」
 マリア:「今度の扉には魔法は掛かっていないから、ちゃんとした鍵があれば開くと思う」
 祐介:「しょうがない、父さん。鍵屋さん呼ぶか」
 俊彦:「ンだね」
 理恵:「ちょっと待って」

 理恵は徐にポケットからキーピックを取り出した。
 それを鍵穴に差し込んで、何やらガチャガチャやる。
 そして……。

 理恵:「はい、開いたー!」
 勇太:「何で!?」
 マリア:( ゚Д゚)
 祐介:「姉ちゃん、仙台で何の仕事してんだ?」
 理恵:「内緒!」
 俊彦:「とにかく開けてみっぞ!」

 俊彦は2枚目の扉を開けた。
 さらにもう1つ薄い扉があったが、これには小さな南京錠が取り付けられていた。
 これについては……。

 理恵:「ふんっ!」

 理恵が車からチェーンカッターを持って来て、金具を破壊してこじ開けた。

 俊彦:「オマ、なしてチェーンカッター持ってるん?」
 理恵:「前彼がドアチェーン開けてくれなかったから、それ用」
 祐介:「おい、犯罪者!」
 勇太:「おまわりさんこっちです!」
 マリア:「とにかく、開けますよ」

 最後の扉を開くと、果たしてそこに……。

 勇太:「あった!人形だ!」

 金髪のボブヘアーに緑色を基調としたドレスを着用した、『青い目の人形』があった。
 入っていたのは人形だけではない。
 パスポートらしき物や、日記帳も入っていた。
 パスポートには、人形の名前が書いてあった。
 『マリアンナ』と。

 マリア:「助けに来たよ……」

 マリアはそっと人形を金庫から取り出すと、『マリアンナ』人形を抱きしめた。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 最後の人形 3

2021-07-12 11:12:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月28日15:00.天候:曇 宮城県栗原市某所 稲生家]

 ミカエラ:「お掃除、粗方終わりました」
 クラリス:「お役に立てましたでしょうか?」
 マリア:「う、うん。ありがとう。後で体と服、洗っておくからね」

 マリアの人形、ミクとハクは人間形態に戻り、蔵の中の清掃を一手に引き受けた。
 しかし、何十年も人の出入りが無かった蔵は荒れ放題で、そんな所を率先して掃除したのだから、埃塗れだけでは済まなかった。

 稲生俊彦:「あの外人さん達、一体どこから来た?」
 稲生勇太:「気にしないでください。マリアさんの付き人でして……」
 俊彦:「まだ若いのに、付き人付きなんて偉いんだっちゃね~」
 勇太:「僕の先輩だし、一人前の人なんで」
 俊彦:「いくつなの?」
 勇太:「えーっと……。魔道士に歳を聞いてはいけないという鉄則があって……」

 “魔の者”に襲われた時、いくつだったっけ……?

 勇太:(そういえば、今は“魔の者”の話を一切聞かないなぁ……)
 俊彦:「ん?」
 勇太:「まあ、僕よりは年上だけど……」
 稲生政代:「あんだ、早くアタシらも掃除するよ!」

 と、俊彦の妻が言った。

 俊彦:「ンあー、分がっだって!」
 勇太:「あ、僕も手伝います」
 俊彦:「いいがら!勇太はマリアさんと一緒にいでけろ!」
 政代:「まだまだ蔵ん中、汚れてっがらね。きれいにするのは、私らの仕事さ。勇太君達はお客さんだから、いいよいいよ」
 勇太:「はあ……」
 マリア:「ちょっと洗面所貸してください。このコ達を洗いますから」
 政代:「ああ、いいよ。自由に使ってけれ」
 マリア:「ありがとうございます」

 いつの間にか人形形態に戻るミカエラとクラリス。
 マリアは家の中に入ると、人形達を洗った。

[同日18:00.天候:晴 宮城稲生家・蔵]

 蔵の中に入る頃、西日が差して来た。
 どうやら何とか雨は免れたようだ。
 勇太とマリアは何とか蔵の中に入ることを許された。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」

 マリアは呪文を唱え、ここにいるはずの人形に対する『呼びかけ』を行なった。
 通常なら、それでこの場にいる人形達が何らかのリアクションをしてくる。
 だが、全くうんともすんとも言わなかった。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」
 勇太:「どういうことだ?」

 勇太は周りを見渡した。
 すると、不思議なことが分かった。
 いや、不思議としていいものかどうかは断言できないが……。
 要は、静岡の佐野家との違いについてである。
 佐野家には、蔵の中に日本人形やマネキン人形まで置かれていた。
 それが、この蔵には日本人形すら無い。
 もちろん、必ずなければならないというものでもないが、こういう田舎の家にはありそうなものなのに、それが全く無いのだ。

 マリア:「ダメだ。出て来ない。ここにはいないのだろうか……」
 勇太:「えーっ、そんな!ここまで来て……」

 2人の魔道士が失意に落とされそうになった時だった。

 俊彦:「ぅおーい、2人とも。そろそろ夕飯にすっぺ」
 勇太:「あ、伯父さん」
 俊彦:「人形は出て来たかね?」
 勇太:「いや、まだだよ。というかこの蔵、他に人形はしまってないの?日本人形とか……」
 俊彦:「いや、それは知らねぇ。何せ、何十年も閉まってた蔵だからやぁ~」
 勇太:「ここにあるって聞いたのになぁ……」
 俊彦:「また明日探せばいいべ。明日は蔵ん中整理すっからや。そん時、見つかるかもしれねぇっちゃ?」
 勇太:「う、うん……」

 それは無いなと勇太は思った。
 もしそうなら、とっくにマリアの『呼びかけ』に応じて出て来るはずなのだ。

[同日19:00.天候:晴 宮城稲生家 母屋1F茶の間]

 勇太とマリアが夕食を御馳走になっている時、俊彦の息子が言った。

 稲生祐介:「父さん、姉貴に『蔵が開いたから見に来たら?』って連絡しといたよ」
 俊彦:「そうか。そしたら?」
 祐介:「『どうやって開けた!?』って、びっくりしてたよ」
 俊彦:「ンだべなぁ~」

 俊彦はカラカラと笑った。

 勇太:「『魔法で開けた』って返信した?」

 勇太は従兄に言った。

 祐介:「言った言った。したら、『はぁ!?』って」
 勇太:「予想通りの反応だ」
 俊彦:「で?理恵は来るって?」
 祐介:「明日来るらしいよ」
 俊彦:「早っ!」
 勇太:「お姉さんって今、どこにいるの?」
 祐介:「仙台。平日も休日も関係の無い仕事で、ちょうど明日、公休だからそれで帰って来るって」
 勇太:「そうなんだ。あの蔵、いつから出入りが無くなったんですか?」
 俊彦:「祖母ちゃん(俊彦の母。『青い目の人形』を隠した本人)が死んでからだね。何しろ遺言で、『蔵の中の物を勝手に動かすな』って言ってたから、祖父ちゃん(俊彦の父)が、『そしたら、もう蔵には誰も入るな』って言って、鍵をどこかにやっちまったんだよ」
 勇太:「『蔵の中の物を勝手に動かすな』?それはどういう意味なんでしょう?」
 俊彦:「分かんねぇなぁ……。親父に聞いたら、『ガキは余計なこと聞くな』って怒られたし……」
 祐介:「ガキって、祖母ちゃんが死んだの、俺が子供の頃だよ。その時、父さん、もう40歳くらいじゃなかったっけ?」
 俊彦:「40にもなってまだガキ扱いとは、恐れ入ったね~」

 勇太は『蔵の中の物を勝手に動かすな』という遺言が、どうも気になった。

 勇太:「でも明日、蔵の中の物を整理するんですよね?」
 俊彦:「ンだ。もう親父も亡くなったし、俺がこの家継いだからには、あとは俺の好きにさせてもらうっちゃね」
 祐介:「俺も祖母ちゃんの遺言が引っ掛かるんだ。勇太達に探し物があるなら、きっと『蔵の中の物』を『動かした』時に分かると思うよ?」
 勇太:「そうだね。マリアはそれでいいかい?」
 マリア:「家主の意向に従うよ。いくら魔道士でも、他人の物をどうこうできないからね」

 マリアは食後に出された紅茶を啜って答えた。
 マリアだけ来客用のティーカップで、しかもわざわざ買って来たのか、紅茶であった。
 蔵の鍵を開け、中の清掃を(人形達にやらせたとはいえ)したのだから、VIP待遇に近いものである。
 そして、また謎のメッセージが勇太達の元に齎されることとなった。

 祐介:「ん?また姉ちゃんからのLINE。……『金庫の鍵は私が持ってるから、それまで手出ししないで』?」
 俊彦:「金庫?」
 勇太:「金庫?」
 マリア:「Kinko?」
 俊彦:「何のこっちゃ?」
 勇太:「蔵の中に金庫なんてあったっけ?」
 マリア:「いや、無かったと思う……」
 俊彦:「間違って送って来たんでねぇの?」
 祐介:「いや、別にグループLINEじゃないし……。何だろう?」
 勇太:「あの蔵、何か仕掛けがしてあるのかもね」
 俊彦:「まあ、無きにしもあらず、だなや」
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