報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「学校であった怖い話」 後半へ続く

2021-07-30 17:06:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月2日17:00.天候:曇 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校1F新聞部部室]

 古堂:「おい、遅ェぞ!」

 新聞部の部室に戻ってきたリサと田口を、古堂がなじるように言った。

 田口:「ご、ごめんなさい。遅くなりました」
 笠間:「まあまあ、古堂。女子のトイレは、だいたいゆっくりなものだよ~。そこをジッと待ってあげないと、ボクみたいに彼女の1人もできないよ?」
 古堂:「あァ!?」
 新井:「まあまあ、ケンカはやめてくださいよ。今度は僕が話しますから」

 最初にリサに話し掛けた、陰気臭そうな男子生徒が手を挙げた。
 普段は俯き加減の陰気臭そうな感じだが、言うべきことは言うといった感じだ。

 田口:「あ、はい。お願いします」
 新井:「僕の名前は新井譲二。2年1組に所属しています。よろしくお願いします。さて、皆さんは映画はお好きですか?実はこの学校には、かつて映画研究会という同好会があったんですよ。今は御存知の通り、無くなってしまっていますけどね。僕がお話しするのは、かつてこの学校に存在した映画研究会の栄枯盛衰についてです」

 新井によると、この学校にはとても映画が大好きな男子生徒がいたという。
 休み時間では必ず、同好の士を集めて映画の話に花を咲かせていたとのこと。
 そんな彼は休み時間に映画の話を語ったり、休日に映画を観に行くだけでは飽き足らず、ついにそのクラブ活動を旗揚げすることにした。
 最初はいきなり部にはなれないので、同好会という形からでスタートとした。
 そんな同好会だったが、映画についての品評や観賞だけでなく、創作活動も行うようになったという。
 いわゆる、自主制作映画というものである。

 新井:「その時、彼はドキュメンタリー映画を作ろうと考えたのです。というのは当時、彼はドキュメンタリー映画にハマっていたそうですから。それで制作に当たり、テーマを決めることにしました。田口さん、僕がこの話をしようと決めたのは、石上さんや愛原さんのおかげなんですよ」
 リサ:「私の?」
 新井:「石上さんや愛原さんは、イジメ問題に則した話をしてくれたではありませんか。それならば、僕もさせて頂こうと思ったのです。……そうです。映研部長の彼がテーマにしたのは、当時も問題になっていたイジメ問題でした。そして彼は、1人の男子生徒にフォーカスを当てたのです」

 ところが、ここから話はおかしな方向へと向かう。
 撮影する側である以上、確かに手出しはできまい。
 加害者側に回ることも、被害者側にも回ることもだ。
 そして、被害者の生徒は、ついに学校の屋上から飛び降り自殺を図った。

 新井:「その時も部長は、カメラを回し続けていたそうです。つまり、助けようとはしなかったということですね。彼、凄いですよ。飛び降りる瞬間から、落ちた所まで撮影していたそうですからね。被害者の哀しそうな目まで、ハッキリと映っていたそうですよ。……さて、これで撮影は終了しました。問題は、これをどのように編集するかということです。はっきり言って、イジメ問題はとても重いテーマです。しかも、被害者が自殺する所まで映っているのですからね。部長はなるべく視聴しやすいようにする為、雰囲気を軽くしようとしました。面白いBGMや効果音をふんだんに使い、視聴者が面白おかしく観賞できるよう編集したのです」

 そして件の映画は、文化祭で発表されることになった。
 映研のそのドキュメンタリー映画はとてもバカウケした。
 重いテーマのイジメ問題を取り上げた作品のはずが、観衆は、まるでコメディ映画でも観に来たかのような感じになったという。
 そして上映が終わり、部長は登壇した。
 部長はこの時、ここでこの映画の趣旨について暴露しようとした。

 部長:「皆さんはゲラゲラ笑いながら観賞されましたが、これは現実にあった話なんです!」

 と。
 しかし、この楽しい雰囲気をブチ壊しにしていいものかどうか迷ってしまい、部長はその雰囲気に負けてしまった。
 大きく手を振り、観客達の声援に応えてしまったのである。

 新井:「調子に乗った彼は、同じ映画の第2弾を撮影しようとしました」
 リサ:(旧校舎に行ったりしたら、“花子さん”ブチギレ案件……)
 新井:「素材には困りませんでしたからね。イジメの被害者なんて、そこかしこにいましたから。あの映画が発表されたことで、加害者達はますます調子を良くしたようですから。そして第2弾の撮影もまた、被害者の自殺という形で終了しました。今度は電車に飛び込んたのです。踏切から猛スピードで通過する電車にね。肉片やら血しぶきやらが飛び散る所まで映っていたそうですよ」
 リサ:(肉片……血しぶき……)

 リサは思わず、口中に唾を溜めた。
 もしもコロナ対策のマスクを着けていなかったら、顔がニヤけたことがバレていただろう。

 新井:「何でも噂では、『今だ!飛び込め!』という部長の声が入っていたとのことです。彼にとってはイジメの被害者など、所詮映画の出演者の1人に過ぎなかったのでしょうね。そして、編集です。第2弾も、面白おかしくコメディタッチで作ることにしました。そして、映画は完成したのですが、その映画は公開されることはありませんでした。何故だか分かりますか?」
 田口:「さすがに学校側からストップが掛かりましたか?」
 新井:「いえ、そんなことは無いです。学校側も、まさかあの映画が本当のイジメの現場を撮影して編集したものだとは知りませんでしたから。……もっとも、本当に知らなかったかどうかは分かりませんがね」
 リサ:「『イジメの事実は確認できなかった』『イジメは確かにあったが、それが自殺の直接の原因だったかどうかは分からない今日この頃です』だね」
 新井:「でしょうね。……愛原さんも楽しそうですね。愛原さんも、きっとあの映画を観たら、ゲラゲラ笑えると思いますよ。ですが、後悔しないでくださいね。ゲラゲラ笑った者は、何らかの事件や事故に巻き込まれてケガをしていますから」
 リサ:「えっ?」
 新井:「たかだか観賞しただけでケガさせられるのです。ということは、制作した側がどうなったかは……分かりますね。部長は死体で発見されました。視聴覚室でです。当時まだ映画研究会は正式な部活動ではなかったので部室が与えられず、放課後や休日の視聴覚室が仮の部室に指定されていましたから。映像には、死んだはずの被害者2人に首を絞められ、殺される所が映っていたそうですよ。そして、当時の映画研究会に参加していたメンバーの全員も、事件や事故で重傷を負うハメになりました。観賞者達は軽傷で済みましたがね。……え?その映像ですか?第2弾は警察に押収されたそうですが、第1弾については不明です。恐らく、このまだこの世に存在しているかと。僕も探しているんですが、まだ見つかっていません。多分、部長の家にあるのではないかと見ているんですけどね。……あ、そうそう。1つだけ被害者が浮かばれる話をしましょうか。第2弾は警察に押収されましたが、そこに映っていた加害者達は暴行や傷害、恐喝や強要の罪で警察の手が及んだようですよ。そこまでハッキリと映っていましたから、いい証拠になったようです。これで僕の話は終わりです。御清聴を感謝します」
 田口:「ありがとうございました。それでは、最後はあなたにお願いします」
 太田:「はい。僕の名前は太田友治。新井君と同じ2年生です。でも、クラスは7組です。さすがに僕の話はイジメ問題じゃないんですけど、トイレに纏わる話をしましょう」

 巨漢の男が実質的なトリを飾ることになった。
 果たしてこの後、本当のトリを飾ることになる7人目は現れるのだろうか。
コメント
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