報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「青い目の人形」 大宮~蕨

2021-07-21 16:28:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月30日10:59.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→京浜東北線1131A電車10号車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪ まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、湘南新宿ライン、埼京線、川越線、京浜東北線、東武線とニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 稲生:「大宮だ。ここまで来ると、帰って来た気がするねぇ……」
 マリア:「元々の実家はここだったもんね」
 稲生:「そうそう」

 そんなことを話しながら荷棚から荷物を下ろす。

 マリア:「ほら、早く入って」
 ミク人形:「ムギュ!」
 ハク人形:「ムギュ!」

 これまでの2体の人形に対し、1体が追加されたので、バッグの中は少し窮屈になっているようだ。

 マリア:「屋敷に帰るまでの間、辛抱して」

 列車は速度を落として行き、上り本線ホームに入った。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。14番線の電車は、“やまびこ”130号、東京行きです。次は、上野に止まります」〕

 ホームに降り立つと、ムワッとした空気が稲生達を襲う。

 稲生:「仙台より蒸し暑い」
 マリア:「ホント。屋敷の方が涼しいな」
 稲生:「そうだよね。今頃屋敷じゃあ、『サバト』と称して全裸プールだもんね」
 マリア:「勇太は絶対見るなよ!?」
 稲生:「分かってるよ。僕はマリアの全裸プールが見たい」
 マリア:「! だ、だったら、勇太もだよ!?」
 稲生:「あー、そうだねぇ。今日はさすがに無理か」
 マリア:「今日はね。次だよ、次!」
 稲生:「次はいつだい?」
 マリア:「来月の……」
 稲生:「周期早くない!?」
 マリア:「今年は比較的多いよ。『世界変革の日』が近いほど、サバトの回数も多くなる」
 稲生:「もしかして、コロナ禍とか無茶ぶり開催東京オリンピックとか、色々関係してるのかい?」
 マリア:「関係……しているよ」
 稲生:「やっぱり」
 マリア:「グランドマスター達、絶対そういう顔を持っているから」
 稲生:「うちの先生もイルミナティの会員とか?」
 マリア:「会員どころか、スーパーバイザーくらいの肩書はありそうだよ」
 稲生:「そうなの!?」
 マリア:「本部に籍を置いて、世界各地の支部と連絡を取り合いながら、活動内容を監視・指導するってこれ、スーパーバイザーじゃない?」
 稲生:「まんま小売チェーンのスーパーバイザーだよ。先生、そんなことしてるの?」
 マリア:「最初、どこかの企業の顧問でもやってるのかと思った。だけど、どうも企業じゃないようだ。もしかしたら、勇太の言うイルミナティ辺りじゃないのかって思った。あとはフリーメイソンとかね」
 稲生:「僕達には『のほほん、ゆるゆる指導の先生』みたいな顔しか見せないのにねぇ……」
 マリア:「いや、私にはたまに『冷酷な大魔道師』の顔を見せることがある。師匠の裏の顔に気づいた者は、魔法で抹殺されてる」
 稲生:「そんなこと、僕に話していいのかい?」
 マリア:「勇太だって、『こっち側』にいる者だからいいの。それに、もうすぐマスター認定されるんだから、そうなったら嫌でも知ることになるよ?だったら、後で一気に知ってパニックになるよりは、今少し知っておいた方が、心構えができるだろ?」
 稲生:「そうだね。ありがとう」

 新幹線改札口を出て、在来線コンコースに出る。
 そこから京浜東北線のホームに向かうが、途中でマリアがトイレに行った。
 それからホームに向かったので、電車は次のに乗ることとなった。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の電車は、11時19分発、快速、大船行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 停車中の電車の最後尾に乗り込む。
 車内は空気清浄機の音と冷房の音とで、随分と賑やかになっていた。
 今はもちろん駅に停車中だからドアが開いているのは仕方が無いが、それに加えてコロナ対策で窓も開いている為、冷房の効きはあまり良くない。
 それでも座席に座ると、時折冷房の風が吹いてくるのだ。

〔この電車は京浜東北線、快速、大船行きです〕
〔This is the Keihin-Tohoku line rapid service train for Ofuna.〕

 稲生:「帰りのキップも買わないとなぁ……。余裕を持って、週末にする?」
 マリア:「それでいいよ」
 稲生:「了解」

〔「11時19分発、京浜東北線、快速、大船行き、発車致します」〕

 ホームに発車メロディが流れる。
 大宮アルディージャの応援歌であるが、始発駅であるだけに、結構フルコーラスが流れやすい。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアが閉まると、少しは冷房が効くようになる。
 電車が走り出すと、開いた窓からも風が入って来た。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は京浜東北線、快速、大船行きです。停車駅は田端までの各駅と上野、秋葉原、神田、東京、浜松町、浜松町からの各駅です。次はさいたま新都心、さいたま新都心。お出口は、右側です〕
〔This is the Keihin-Tohoku line rapid service train for Ofuna.The next station is Saitama-Shintoshin.JK46.The doors on the right side will open.〕

 稲生:「ん?」

 外は少し風が出て来たようだ。
 もしかしたら、ゲリラ豪雨とか、あるのかもしれない。
 それはいいのだが、風に乗ってマリアの匂いが漂って来るような気がした。

 稲生:(そうか。暑い中、駅の中を歩いたからか……汗かいたんだな)
 マリア:「勇太」
 稲生:「な、なに?」
 マリア:「着いたらミシン借りる前に、シャワー貸してくれる?」
 稲生:「いいよ!」
 マリア:「ああ、あと、エレーナのシャワーシーンの動画は削除しといて」
 稲生:「えっ?……あっ!」

 いつの間にか稲生のスマホにエレーナからメールの着信があり、しかもそれは動画が添付されたものだった。
 確かにサムネを見る限り、プールから上がったと思われるエレーナが全裸でシャワーを浴びるシーンのようである。

 稲生:「よく分かったねぇ……」
 マリア:「こう見えても、マスター(一人前)だから」
 稲生:「鈴木君にあげれば喜ぶかな?」
 マリア:「Oh!勇太、Good idea!鈴木に転送してやれ」
 稲生:「どうなっても知らないよー?」

 尚、エレーナのことが好きな鈴木は、『功徳~~~~~~!!』と、大いに喜び、エレーナは鈴木に犯される夢にうなされたという。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 東北新幹線“やまびこ”130号

2021-07-20 21:37:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月30日09:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 JR仙台駅・新幹線乗り場→東北新幹線130B列車8号車内]

 ホテルをチェックアウトした稲生達は、仙台駅に向かった。

 稲生:「もうこの時間帯から暑いねぇ」
 マリア:「こういう時、ローブがあると涼しくていい」

 魔法のローブは、冬はもちろん防寒着になり、夏は夏で防暑着になるという優れ物である。
 但し、冷房が効いた室内には及ばないので、そういう所に行ったら脱ぐ。

 マリア:「御両親へお土産は買わないのか?」
 稲生:「もちろん買うよ。ラチ内にも土産物屋はあるから、そこでいいさ」
 マリア:「ラチ?」
 稲生:「ああ、ゴメン。改札のこと」

 カタカナで書くので、語源は英語かと思われるが違う。
 漢字で書けば『埒』。
 『埒』とは柵のこと。
 今でこそ有人改札口は金属製の箱型ブースであるが、かつては柵であった。
 今でも地方に行けば、かつては改札口だった鉄柵を見ることができる駅がある。
 その為、改札口から先の構内のことを『柵内』という場合もある(例、JR東海が発行する関係者用の改札内入構証を『柵内入構証』という)。
 柵の内側なわけだから、鉄道工場や車両基地等の鉄道敷地内を『柵内』ということもある。
 主に鉄道社員や鉄ヲタが使う用語である。

 稲生:「キップは1人ずつ持とう。マリアは窓側でいいね」
 マリア:「ありがとう」

 新幹線改札口へ行く。
 東京駅において、東海道新幹線の改札口は青色だが、JR東日本は新幹線も在来線も一貫して緑色である。

 稲生:「あそこにお土産物屋がある」
 マリア:「ホントだ。よし、探してみよう」
 稲生:「本当に先生のはいいのかい?」
 マリア:「師匠のは都内で探せばいい」
 稲生:「都内ね……」
 マリア:「どうせ新宿から出発するだろう?」
 稲生:「新宿から……」
 マリア:「!? あ、いや……大宮から新幹線というルートもあったよね。どうして、真っ先に新宿が浮かんだんだろう?」
 稲生:「マリアの予知だろう。分かった。じゃあ、屋敷への戻りは新宿経由にしよう。新宿というのは駅?バスタ?」
 マリア:「そこまでは分からない。そもそも、いつ戻れるのかも分からないし……」
 稲生:「あ、そうか。マリアンナ人形の服の出来次第か」
 マリア:「まあ、1日か2日もあればできると思うけど……」
 稲生:「人形の服とはいえ、それを1日や2日でできるマリアは凄いね」
 マリア:「ふふ……まあ、ライフワークだし」
 稲生:「どういう服を作るの?」
 マリア:「それはできてからのお楽しみ。……と、言いたいけど、だいたいの構想としては、まずは2着ほど考えてる。1着は、せっかく私と同じ名前で、しかも私にそっくりな姿をしているんだから、服も私みたいな服を着せてあげたいと思う」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「あとはまあ、やっぱりメイド服かな。結局のところ、屋敷の維持に働いてもらうことになるから……」
 稲生:「ただショーケースに飾られているだけの状態と、マリアの下で働くのと、どっちがいいんだろうね」
 マリア:「人形遣いとして、後者であることを信じてるよ」
 稲生:「そうか」
 マリア:「それより早く、お土産を探そう」
 稲生:「そうだね。やっぱり、定番の“萩の月”かなぁ……」

 土産を購入した2人は、エスカレーターで4階に上がった。
 コンコース内はまだ冷房が入っていたが、いくら屋根があるとはいえ、吹き曝しのホームで冷房があるはずも無く、そこは暑かった。
 ホーム上に冷房の入る待合室はあるものの、コロナ対策と称して入口のドアを開放しているものだから、あまり涼しくはなかった。

〔12番線に停車中の電車は、9時25分発、“やまびこ”130号、東京行きです。この電車は、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順に止まります。グランクラスは10号車。グリーン車は9号車。自由席は……〕

 本来なら下り本線ホームになる部分に、折り返し上り列車が停車していた。
 下り本線でも折り返しの設備があるのだろう。
 発車する時は、逆走という形で運転取扱を行うようだ。
 新幹線指定席特急券と乗車券を手に、8号車に入る。

〔「ご案内致します。この電車は9時25分発、“やまびこ”130号、東京行きです。……」〕

 荷物は荷棚に置き、飲み物はテーブルの上に置く。
 バッグの中からはミク人形とハク人形が出て来て、早速売店で買ってもらったアイスクリームを食べ始めた。
 マリアもローブを脱いで、丸めて人形達の横に置く。
 ライトグリーンの半袖ブラウスに、モスグリーンのプリーツスカートという出で立ちはまるでJKのようである。
 体が小柄ということもあって、尚更そう見えるのだ。
 首に着けているのが魔法石の付いたペンダントではなく、リボンやネクタイだったら、尚更そのように見えただろう。
 因みにこの魔法石のことを、『マテリア』と呼ぶこともある。

[同日09:25.天候:晴 JR東北新幹線130B列車8号車内]

〔12番線から、“やまびこ”130号、東京行きが発車致します。次は、福島に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 ホームに発車メロディが鳴り響く。
 “青葉城恋唄”をオーケストラ風にアレンジしたものである。
 最後に客終合図の甲高いブザーを合図に、車両のドアが閉まる。
 仙台駅には、まだホームドアは無い。
 これはまだE2系やE5系など、規格の不揃いな列車が発着しているからである。
 車両の規格が揃っている東海道新幹線でさえ、全駅全ホームに設置されているわけではないので、【お察しください】(例、新富士駅や品川駅副線ホームなど)。
 それからインバータのモーター音を響かせて、列車が発車する。
 下り本線を一旦は逆走する形で出発する。
 列車本数の多い東海道新幹線では、このようなアクロバットな運用はしないが(ダイヤ乱れ時または名古屋発着の“こだま”を除く)、東北新幹線ではたまに見られる。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

 ホームを逆走で出発した列車は、途中にあるポイントを渡って、上り本線に移線した。
 その際、列車が少し大きく揺れる。

〔「……尚、この列車には車内販売はございません。予め、ご了承ください。……」〕

 稲生:「今や、“やまびこ”も車販が無くなったか……」
 マリア:「シンカンセンスゴイカタイアイス、人形達、楽しみにしてたのにね」
 稲生:「アイスクリームくらいだったら、何とか売店で調達できるけどね……」
 マリア:「この横を走っている路線では、車内販売は無いの?」

 マリアは進行方向左側を指さして言った。
 そこには東北本線が並走している。

 稲生:「東北本線には特急はもう無いから……。あ、常磐線の特急“ひたち”があるか。でも、“ひたち”だって、仙台~いわき間は車内販売は無いってよ」
 マリア:「そうなの」
 稲生:「いわきから南だね。カントクがコーヒーを買おうとして失敗したらしいよ」
 マリア:「新型車両の時はそもそも販売休止になってて買えず、旧型車両の時はあまりの揺れで零したって話か」

 雲羽:「悪かったな!」
 多摩:「651系が時速130キロで走行する茨城県内で買う方が悪い!」
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 仙台市内 4

2021-07-19 22:04:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月30日06:45.天候:晴 宮城県仙台市青葉区本町 ホテルドーミーイン仙台駅前7F客室(稲生の部屋)]

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 朝の勤行を終えた稲生は、朝風呂に行くことにした。
 因みにこの場合、風呂に入る前に勤行をするのと、入ってから勤行をするのとではどちらが正しいのだろう?
 『体を清めてから勤行する』方が正しいように思えるし、『温泉ということは湯治になるから、勤行の前に湯治とは何事だ』という解釈もできる。
 稲生は後者と判断した。

 稲生:(シャワーを浴びるだけなら、『体を清めてから勤行』と言えるけど、温泉だと『勤行の前に湯治』と解釈できるからやめておこう)

 ということである。

 稲生:(マリアはまだ寝てるかな……)

 というわけで、今回は稲生1人で行こうとしたが……。

 稲生:「おっ!?」

 部屋の電話が掛かって来た。

 稲生:「もしもし?」
 マリア:「おはよう。起きた?」
 稲生:「うん。もう起きて、勤行したところ」
 マリア:「温泉って朝も入れるよね?」
 稲生:「もちろん、入れるよ」
 マリア:「もし良かったら一緒に行かない?」
 稲生:「願ったりかなったり!一緒に行こう!」

 稲生は電話を切ると、急いで部屋着に着替えてタオルを手にした。

 稲生:「おっと!部屋の鍵と小銭入れ!」

 危うく大事なものを忘れるところであった。
 それらを手にし、部屋を出て隣のマリアの部屋に向かう。

 稲生:「マリア」

 ドアをノックすると、しばらくしてマリアが出て来た。

 マリア:「勇太、おはよう」
 稲生:「おはよう。よく眠れた?」
 マリア:「一応ね」
 稲生:「今日はサバトの日だから、温泉で裸になろうって?」
 マリア:「それもあるかな。そうそう。組によっては、デンマークのヌード・ビーチに行くらしいよ」
 稲生:「ああ!そういえば、そんな所あるよね」
 マリア:「日本には無い……よね?」
 稲生:「無いなぁ。その代わり、温泉や銭湯では皆して裸で入るんだよ」
 マリア:「うん。ヌード・ビーチならぬ、ヌード・スパってね」

 欧米ではスパでも水着で入るのが一般的である。
 もちろん、欧米にヌードビーチはあるものの、日本のようにヌード禁止ビーチも別にあるので悪しからず。

[同日07:30.天候:晴 同ホテル9F大浴場]

 朝風呂を堪能した稲生達は、お休み処で休んでいた。

 稲生:「はい、スポーツドリンク」
 マリア:「ありがとう」

 風呂上がりにスポーツドリンクを飲む。

 マリア:「そういえばここ最近、プール以外の運動していないなぁ……」
 稲生:「魔道士ってこの辺、出不精だよね。だからファンタジーの世界では、明らかにステータスが戦士より弱い」
 マリア:「うん、確かに」
 稲生:「この辺、サーシャにも指摘されたっけな」
 マリア:「逆に戦士は脳筋だから、その辺は私達がフォローしてあげるんだよ」
 稲生:「よく脳筋って日本語知ってるね?」
 マリア:「エレーナが言ってたよ」
 稲生:「いや、それにしても、凄いと思う」
 マリア:「長く日本に住んでると、そういうの覚えちゃうよね」
 稲生:「ふむふむ。じゃあ、飲んだら今度は朝食に行くか」
 マリア:「昨日あれだけ飲み食いしたのに、朝は朝でお腹空くね」
 稲生:「健康的な証拠だよ。行こう」

[同日08:00.天候:晴 同ホテル1Fレストラン“旅籠”]

 エレベーターで1階に下り、レストランに向かう。

 稲生:「あ、そういえば、夜食にラーメンも出るんだったな。食べ損ねたな……」
 マリア:「夕食の時、あれだけ飲み食いして何言ってるの」
 稲生:「『締めはラーメン』という言葉が、日本にはありましてですなぁ……」
 マリア:「What!?」

 好きな料理を銘々に取って行く。

 稲生:「おっ、オムレツ作ってる」

 ライブキッチンでオムレツを作っていた。

 稲生:「これも食べよう」
 マリア:「オムレツかぁ……。今朝の師匠の朝食もそれだったみたいだな」
 稲生:「イリーナ先生、もう朝食食べたんだ?」
 マリア:「年寄りの朝は早いからねぇ……」

 マリアはニッと笑った。
 ダークグリーンのマスクをしていても、そういう表情をしたのが稲生には分かった。

 稲生:「テレビの近くがいいかな?」
 マリア:「こういう時、日本語が理解できて良かったと思うよ」

〔「次のニュースです。IOCのバッカ会長は、昨日の記者会見で、『去る有名な占い師に、東京オリンピックは何としてでも開催するべきだと言われた。従って、私は無事に開催されることを望む』と発言し、これを受けて瓦斯総理は……」〕

 稲生:「え?占いで決めたの?」
 マリア:「どうせそんなことだろうと思った。恐らく、占い師というのは表向き。その本当の顔は……」
 稲生:「まさか、うちの先生?」
 マリア:「東アジア魔道団がバラ撒いたウィルスが……。いや、やめておこう。少なくとも、私達は何の心配も無いから」
 稲生:「ええっ?どういうこと?」
 マリア:「私達はタッパとして動いているだけだけど、それでも陰謀側の方だから。だから、大丈夫」
 稲生:「そ、そうなの?利権絡みで言うなら、電【ぴー】やパ【ぴー】もそうだろうけど、そこで社員として働いている人達が恩恵に預かれているかどうか……」
 マリア:「正社員なら大丈夫だろう。あいにくと勇太はまだそこでは試用期間の契約社員のようなものだけど、大丈夫。『正社員登用』(マスター認定)への『道』(登用試験)は用意されてるから」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「さてと、裏の話はここまでにして、何時の新幹線に乗る?」
 稲生:「食べてすぐ出るのは慌ただしいから、まあ、9時台の新幹線でいいんじゃないかな?」
 マリア:「なるほど。それはいいかもね」
 稲生:「一応、実家へのお土産でも買っておこう。……先生へのお土産はどうする?」
 マリア:「それは仙台じゃなくて、東京とかで買ったら?ここではあくまでも、勇太の御両親への土産だけで」
 稲生:「そうだね」

 取りあえずは朝食を食べた後、一息吐いてから仙台駅に向かうことになった。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 仙台市内 3

2021-07-18 23:01:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月29日21:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区本町 ホテルドーミーイン仙台駅前]

 稲生:「ふう……。着いた着いた……」
 マリア:「つい、飲みすぎちゃったなぁ……」

 2人だけの夕食会も終わり、稲生とマリアは宿泊先のホテルに戻って来た。
 フロントで預けていた鍵を受け取り、客室へ向かう。

 稲生:「マリアンナ人形に『命』を吹き込むのはいつ?」
 マリア:「今日は疲れたから、明日にする。マリアンナもクラリス達のお下がりを着たまま『命』を吹き込まれるより、新しい服を着てからの方がいいだろう」
 稲生:「それもそうか」

 エレベーターに乗ってから、そんな話をする。

 マリア:「明日は……ああっ!」
 稲生:「ど、どうしたの!?」
 マリア:「N-Nothing...(べ、別に……)」
 稲生:「んん?」
 マリア:「えーと……。明日はマリアンナの服を造るのに集中したいから、『命』を吹き込むのは明後日にしよう!」
 稲生:「う、うん……」

 稲生はどうしてマリアが狼狽えたのか分からなかった。
 下世話な話だが、明日に生理が来る予知でもしてしまったのだろうか。
 いや、だとしたら、ピルを飲まないと『いつも重い』マリアのことだ。
 魔法を使う以前に、そもそも人形の服作りもできやしないだろう。
 それは違うようだ。

 稲生:「この後、風呂入りに行く?温泉だよ」
 マリア:「う、うん。行く。このホテルは、部屋着のまま外を歩いていい所だったね?」
 稲生:「そう」
 マリア:「分かった。一息吐いたら、すぐに行くよ」
 稲生:「うん、分かった」

 稲生は自分の部屋に戻った。
 その部屋はこのホテルで1番シンプルなシングルルームで、もちろんウォシュレット付きの洋式トイレが備え付けられているのだが、ビジネスホテルには珍しく、バスルームは無い。
 あるのはバスルームではなく、シャワールームである。
 その為、洗面台は室内の別の場所に独立して備え付けられているのだ。
 トイレとシャワー、洗面台が付いているというのは、マリアの屋敷における稲生の部屋と同じだ。
 その為、湯船に浸かりたい時は共用のバスルームを使うことになる。
 共用と言っても、泊まり掛けの来客が無い時は、ほぼほぼ稲生専用なのであるが。
 泊まり掛けの来客がある時のみ、気を使って室内のシャワーで済ますといった感じである。
 と、そこへ、稲生のスマホにエレーナから電話が掛かって来た。
 最近の魔道士は、通信手段をケータイにするのが流行っている。
 もっとも、イリーナでさえ固定電話を使うくらいだから、水晶玉を通信に使うのは、よほど近くに電話回線が無い時である。

 稲生:「はい、もしもし?」
 エレーナ:「よお、稲生氏。お楽しみの最中だったか?そりゃ悪かったぜ」
 稲生:「絶対、悪いとは思ってないよね?ていうか、何だよ、『お楽しみ』って?」
 エレーナ:「仲の良い男女が1つ屋根の下でヤることと言ったら、1つしか無いんだぜ」
 稲生:「確かにヤれるもんなら、ヤりたいけど、今はそれどころじゃないし……」
 エレーナ:「まあ、ぶっちゃけ別にそこはどうでもいいぜ。それより明日のことなんだぜ」
 稲生:「明日?明日、何があるの?」
 エレーナ:「ん?稲生氏、知らないのか?マリアンナからも聞いてないのか?」
 稲生:「知らないし、何も聞いてない。何なの?」
 エレーナ:「マリアンナも冷たいヤツなんだぜ。しょうがないから教えてやるんだぜ。明日は、『サバトの日』なんだぜ?」
 稲生:「『サバトの日』?あ、もしかして、あれかな?皆して、屋敷のプールに入りに来る日かな?」
 エレーナ:「目的と手段を間違えてるんだぜ。確かに、あれも『サバト』の一種だが、あれはわざとああしてただけだぜ」
 稲生:「どういうこと???」
 エレーナ:「『サバトの日』は『スカイクラッドの日』でもある。ここまで言っても、まだ意味分かんないか?」
 稲生:「……ゴメン。全然分かんない。それ、試験に出る?」
 エレーナ:「出ると思うぜ」
 稲生:「そこ、kwsk!」
 エレーナ:「『サバトの日』においては、魔女は裸で過ごすんだぜ」
 稲生:「は!?」
 エレーナ:「稲生氏。どうして私達が、マリアンナの屋敷のプールで裸になって泳いでるか分かるか?それなんだぜ」
 稲生:「あ、それだけ!?一日中プールで過ごしてるよね!?……僕は除け者で」
 エレーナ:「稲生氏が除け者という点においては激しく同情するんだぜ」
 稲生:「それでマリア、明日のことで動揺したのか……。え?明日、裸で過ごさなきゃいけないの?」
 エレーナ:「別に事情がある場合は免除されるんだぜ。私も明日は仕事だから免除だが、リリィは違う。だからあいつは明日、マリアンナの屋敷にお邪魔してプールに入らせてもらうんだぜ」

 どうしてダンテ一門の魔女弟子達が、こぞってマリアの屋敷の地下プールに入りに来るのかが分かった。
 そして、せっかく来ていた水着を全部脱いで裸で泳ぐ理由も。

 稲生:「明日、僕達は移動するから免除だろうな?」
 マリア:「それは免除だぜ。しかし、魔法を使う場合は裸にならないとダメだぜ?」
 稲生:「そういうことか!」

 マリアが明日、マリアンナ人形に『命』を吹き込む儀式を延期したがった理由が分かった。

 稲生:「あれ?でも先生達は?うちの先生、裸になってないけど……」
 エレーナ:「いや、そんなことはないぜ。イリーナ先生、その日だけは屋敷内でもローブを羽織ってるだろ?」
 稲生:「あ、そういえば……」
 エレーナ:「ローブの下はマッパだぜ?」
 稲生:「ええっ!?……でも、ローブは着ていいんだ」
 エレーナ:「そう。ついで言うと、私みたいに帽子被ってる者は、帽子も被ってていいんだぜ。ただ、服だけは脱げって話だな」
 稲生:「そうなんだ」
 エレーナ:「これはダンテ一門だけでなく、他の流派の魔法使い達もそうなんだぜ。ただ、『サバトの日』は流派によって、もしくは同じ流派でも、更に分派ごとによって違ったりするんだぜ。因みにダンテ一門も、年毎に違う」
 稲生:「あ、そういえば……。用事が無い場合は、漏れなく裸にならないといけないんだ。僕も?」
 エレーナ:「本来は稲生氏もなんだろう。だが、インターン(見習い)は除外されることがある。その判断は先生ごとによって違うんだろうな。また、一日中といっても、『何を持って一日とするか?』というのも先生ごとによって違う。アナスタシア先生はきっちりしているから、今日の午前0時ピッタリから次の日の午前0時までなんだぜ」
 稲生:「うわ……!」
 エレーナ:「因みにうちの先生の定義だと、『明日の日没から、その次の日の日の出まで』だ」
 稲生:「夜間限定!?」
 エレーナ:「そう。そもそも『サバト』というのは、『魔女の夜宴』のことだ。だから、本来夜に行うのが普通なんだぜ。しかし、アナスタシア先生はきっちりしているから、時計通りにするらしい」
 稲生:(うちの先生の場合はどうなんだろう?)

 後でマリアに聞いたら、『風呂に入っている間だけでも裸になれば良いが、それはそれとして、魔法を使う時は裸にならないといけない。但し、常時稼働の人形や屋敷の維持・管理の為の魔法は除く』という、随分とご都合主義な定義なのであった。
 その為、イリーナ組では、サバトの日は完全に魔法の使用を休止する日なのである。
 イリーナがローブの下、裸になるのは、一応他の組に対し、『師自らやっている感』を出す為のパフォーマンスなのだとか。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 仙台市内 2

2021-07-17 20:54:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月29日18:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 イービーンズ3Fユザワヤ]

 マリア:「フーム……。この生地とこれと……これ……」

 マリアンナ人形の服を作る為の生地を買いに来た稲生達。
 しかしマリアは、あまりの品揃えに……。

 マリア:「ミカエラにはこの生地が合いそうだねぇ……。クラリスには、やっぱりホワイトかな。あと、ドナには少しダークな感じの……。アンジーにはレッドが相応しい……」
 稲生:「ま、マリア?この期に及んで、爆買いは……」
 マリア:「生地に関しては私のカードを使う」

 マリア、アメリカンエキスプレスのグリーンカードを取り出した。
 イリーナのプラチナカードと比べれば最低ランクであるが、それでも内資系カード会社のゴールドカード並みのステータスがあるという。
 実際に掛かる会費やそのサービス内容を見ても、本当に最低ランクのカードなのかと思うほどサービスが手厚い。

 稲生:「持って帰るのが大変だよ?」
 マリア:「マリアンナの服だけは持って帰るけど、あとは宅配にする」
 稲生:「エレーナの魔女宅だと、高く取るんだよねぇ……」
 マリア:「私が得意の話術で値引き交渉するから大丈夫」
 稲生:(その割には屋敷内で爆発音が鳴り響き、さすがのイリーナ先生もこの時ばかりは2人の弟子達に雷を落とす……と)

 既に話の流れを読んでいる稲生であった。

 稲生:(こんなの、予言でも何でもないよなぁ……)

 経験則という。

 マリア:「支払いはカードで」
 店員:「はい、ありがとうございます」
 マリア:「勇太、荷物持ちよろしく」
 稲生:「そこはミカエラとクラリス使ってよ~」
 マリア:「フーム……。これはディナーの前に、ホテルに戻らないとダメだね」
 稲生:「そうだよ」
 マリア:「ホテルのフロントで発送できる?」
 稲生:「できるはずだよ」
 マリア:「OK.じゃ、一旦ホテルへ戻ろう」
 稲生:(一体、何着分の生地買ったんだよ……。てか、マリアのカードの限度額っていくらだ?)

 稲生は両手一杯に大きな紙袋を持ちながら、フラフラとエレベーターまで歩いた。
 因みにマリアも、もう1袋持っているんですよ?

 稲生:(コロナ禍前、インバウンドの爆買いが、いかにデカかったかが分かるよ……)

 コロナ禍中でも爆買いをするイギリス人魔道士。
 因みに……爆買いされる日本の物価って、実は先進7か国の中では最も安いのだそうだ。
 何しろ、後進国だと思っていた中国からのインバウンドが物価が高いはずの日本で爆買いしていたのだから。
 コロナ禍後、日本が先進7か国から脱落する日は近いとヤフコメでは取り沙汰されているが……。

[同日18:30.天候:晴 青葉区本町 ホテルドーミーイン仙台駅前1Fフロント]

 フロントマン:「お帰りなさいませ」
 稲生:「すいません、これ、宅配お願いします……」
 フロントマン:「か、かしこまりました!えー、それでは、こちらの送り状に御記入を……」

 稲生の疲弊した様子を見て、フロントマンは一瞬びっくりしてしまった。
 その為か、もう1人のフロント係が紙袋の梱包を手伝ってくれた。

 稲生:「マリアぁ……。送らなくていい生地は?」
 マリア:「これ」
 稲生:「あ、そう……」

 マリアが持っていた比較的小さな紙袋。
 それがマリアンナ人形に作ってあげる服の生地だったようだ。
 あとは他の人形用。

 フロントマン:「発払いになさいますか?後払いになさいますか?」
 稲生:「えー……」
 マリア:「発払いで!カードで払います!」
 フロントマン:「か、かしこまりました!」
 稲生:「そんな強く言わなくても……」
 マリア:「着払いにしたら、エレーナが間違いなく吹っ掛けて来る」
 稲生:「発払いにしても言い争っているのは何故なんだい?」

 本当はマリアとエレーナ、仲が良いのではなかろうかと疑う稲生であった。

 フロントマン:「御記入ありがとうございます。それでは、お会計が……」

 で、ようやく発送手続きが終わると……。

 フロントマン:「それではお荷物、確かにお預かり致します。集荷は明日になりますので、お届けが……」
 稲生:「分かりました。それでお願いします」
 フロントマン:「お部屋でお休みになられますか?」
 稲生:「いえ、これから夕食に行ってきます」
 フロントマン:「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

 で、再びホテルを出る。

 稲生:「あー、疲れたなぁ……」
 マリア:「ご苦労さま。それにしても、また温泉付きのホテルを予約するなんてね」
 稲生:「せっかく屋敷から出たんだから、温泉に1回くらい入りたいじゃない?」
 マリア:「勇太は相変わらずだなー。HAHAHA...」
 稲生:「白馬の駅とか、案外近くに温泉あるんだよねぇ……」
 マリア:「そうなのか。だったら、お使いついでに入ってくればいいじゃない」
 稲生:「道草するのはどうも……」
 マリア:「大丈夫だって。私も師匠も、そんなに時間気にしないから」
 稲生:「そ、そう?」
 マリア:「あ、でも有料か。……そんなに高くは取らないだろう?」
 稲生:「多分ね」

[同日19:00.天候:晴 青葉区中央 JR仙台駅3F牛たん通り たんや善治郎]

 稲生:「すいません。牛タン定食4枚2つと、あとビール中ジョッキと、それと仙台プレミアムハイボールください」
 マリア:「ソーセージと、このサラダも」

 さすがに刺身は注文しないマリアと、気を使う稲生。

 店員:「はい、ありがとうございます。それでは、先にお飲み物からお持ち致します」

 というわけで、飲み物が先に運ばれる。
 日本酒や焼酎では悪酔いしてしまうのだが、かといってワインが置いてあるわけでもない。
 ということで、他にイギリス人が飲みそうなのはビールかウィスキーということになる。
 勇太はビールの中生を受け取り、マリアはハイボールを受け取った。

 稲生:「それじゃ、お疲れさまでーす!」
 マリア:「お、Otsukarei...」
 稲生:「いやあ、労働の後の一杯は最高ですねー!あっはっはっはーっ!」
 マリア:「まあ、確かに。クエストは達成したも同然だ。あとは登用試験に合格するだけだが、きっと勇太は合格できるよ」
 稲生:「ありがとう。合格してマスター認定されたら、僕はマリアと……」
 マリア:「うん、待ってる。だけど、こういう時こそ、油断禁物だよ。勇太の宗派にも、そういう教えがあるでしょ?」
 稲生:「『魔』か。でも僕達、悪魔に守られてるからなぁ……」

 隣のテーブル席では……。

 ベルフェゴール:「カンパーイ!」
 アスモデウス:「カンパーイ!」

 ちゃっかり夕食会をやっている悪魔達の姿があった。
 支払いはどうするのか、【お察しください】。

 マリア:「仏教の悪魔は関係無いと思うよ、あいつら」
 稲生:「そ、そうなのか。それじゃ、気を付けないとな。まずは、飲み過ぎないようにしよう」
 マリア:「そういうことだね」
 稲生:「でもいいの?人形、部屋に置いて来ちゃって」
 マリア:「ミカエラとクラリスが守ってるから問題無し」
 稲生:「ぞれもそうか」

 屋敷に帰るまでがクエストなのだが、先に打ち上げを楽しむ魔道士達だった。
コメント
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