報恩坊の怪しい偽作家!

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“愛原リサの日常” 「学校であった怖い話」 序章

2021-07-25 20:49:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月2日14:30.天候:曇 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校1F新聞部部室]

 『7月2日の放課後、“学校の七不思議特集”を行いますので、新聞部の部室に集まってください』

 リサはこのお知らせを手に、新聞部の部室に行くことにした。
 6月下旬から行われていた1学期の期末試験が今日で終わり(東京中央学園は3学期制)、この日は少し早めに帰れるということで、今日が選ばれた。
 他の学校なら試験終了後は早めに帰宅しなければならないが、東京中央学園の場合、採点は学校法人の本部事務所が別にあり、そこで行われる為、かような制限は無かった。
 答案用紙の運搬も、警備会社の現金・貴重品輸送部門に委託して行われるほどの厳重ぶりだった。
 確かに、今でもたまに担当教師が家に持ち帰って採点しようとしたら、紛失したり盗難に遭ったりといった事案が見受けられることがあるので、学園としては念には念を入れてのことなのだろう。

 斉藤絵恋:「ねえ、リサさん。本当に行くの?」
 愛原リサ:「ああ、行く」
 絵恋:「私も行きたかったなぁ……」
 リサ:「サイトーはこの学校の怖い話を知らない。でも、私は立場上、いくつか知っている。だから、私が行かなきゃいけないんだ」
 絵恋:「聞いた話、過去に語り部が死んだり、行方不明になったりといった事件が何度も発生したんでしょう?リサさんのことに、もしものことがあったら、私……」
 リサ:「もしかしたら、私のことが語られるかもしれないんだ。私自身が怪談のネタになってることもある。だから、心配無いよ」
 絵恋:「そ、そう」
 リサ:「もしも何かあったら、その時はよろしく」
 絵恋:「ええ、それはもちろん」
 リサ:「それじゃ」
 絵恋:「雨が降りそうだから、雨が降ったら傘持って行くからね」
 リサ:「分かった」

 確かに今日は、どんよりとした雲が空を覆い、今にもゲリラ豪雨が降り出してきそうな勢いである。

 絵恋:「リサさんは何の話をするの?」
 リサ:「その時になってからだな。いくつか話を知っているから、最初に当てられた時は比較的マイルドな話にしておくし、後の方で当てられたら思いっ切り怖い話をしてやろうと思う」
 絵恋:「くれぐれも正体がバレないようにね?」
 リサ:「分かってるよ。それじゃ」

 リサは絵恋と別れると、1階の校舎奥にある新聞部の部室に向かった。

 リサ:「失礼します」

 リサが部室に入ると、何だか室内は重々しい空気が漂っていた。
 まるでお通夜のようである。
 室内には男子生徒が4人、女子生徒が1人パイプ椅子に座っていた。
 女子生徒が1人いることに少し安心したリサだったが、どうも左胸ポケットの外側に付いているワッペンの色を見ると3年生らしい。
 リサをチラリと見ると、また視線を下に戻した。
 不思議なことに、誰一人スマホをイジっていない。
 確かに試験期間中は厳しい制限があったが、もう試験は終わっているので、そのような縛りも無くなっているというのに。

 リサ:「!?」

 自分のスマホを見て、リサはその理由に気づいた。
 何と、圏外になっているのだ。
 それで納得した。
 しかし、特に電波が悪そうな位置にあるわけでもないのに、どうして圏外なのか、その理由は分からなかった。

 男子生徒:「ボサッと立ってないで、座ったらどうですか?新聞部の人は、まだ来ないみたいなんで」

 1人の男子生徒が、空いている椅子を指さして言った。
 男子生徒達の中では、1番コミュ障ではないかと思うほど、陰気臭そうな生徒であった。
 それとも、いの1番にリサに話し掛けてきたことから、見た目ほどコミュ障ではないのかもしれないが。
 いずれにせよ、人は見かけによらなかったりするので、決めつけは良くないだろう。

 リサ:「あ、はい」

 リサは椅子に座って辺りを見回した。
 椅子は長机を囲むようにして、8脚置かれている。
 入口に1番近い椅子と、その隣の椅子が空いている。
 七不思議の話を1人1話ずつ話すことになっているから、リサを含む7人の語り部が来るはずだ。
 ということは、語り部はまだあと1人来ていないということになる。

 リサ:(しかし、何だこの雰囲気?まるで、研究所の地下施設みたいだ。まさか、私以外にBOWでもいるのか?)

 全く会話が無いのは、誰一人顔見知りの者がいないのだろう。
 実際、ここにいる生徒達全員、リサは知らなかった。
 学校の怪談を知っているくらいだから、1年生はいなかった。

 女子生徒A:「失礼します」

 その時、また別の女子生徒が1人入ってきた。
 丸眼鏡を掛けた、賢そうな女子生徒である。
 ワッペンの色がリサと同じであることから、同じ1年生のようだ。
 しかし、リサは知らなかった。
 もしかしたら、どこかですれ違っていたかもしれない。
 その程度の記憶だった。

 女子生徒A:「皆さん、本日はお忙しい中、お集まり頂き、ありがとうございます。私、新聞部の部員を務めております田口真由美と申します。よろしくお願いします」

 田口と名乗る1年生の新聞部員は、リサ達を見回してそう挨拶した。
 それぞれが軽く頷くような仕草をする。
 どうやら女子生徒の、それも1年生が来たことで、拍子抜けしてしまったのかもしれない。
 むしろリサにとっては、同じ女子でも威圧感のある3年生よりも、同じ1年生が来てくれた方が有り難かった。

 田口:「……まだお1人、来てらっしゃらないようですね。どなたか、御存知ありませんか?」

 しかし、誰もそれに答える者はいなかった。
 当然、リサも知らない。

 男子生徒:「それは……御宅の部長さんに聞けばいいんじゃないですか?」

 先ほどの男子生徒が少し嘲笑するかのように言った。

 田口:「……すいません」
 リサ:「もう時間でしょ?そのうち来るだろうから、もう始めたら?」
 田口:「そうですね。皆さんも限られた時間、ここに来られたでしょうから」

 田口はリサの言葉に押されるようにして頷いた。

 田口:「それではお時間も過ぎましたので、始めたいと思います。トップバッターを務めたいと思う方はいらっしゃいますか?」
 女子生徒B:「それじゃ、私からいい?」

 リサの向かいに座っている3年生の女子生徒が手を挙げた。

 田口:「あ、はい。それでは、お願いします。お話しをされる前に、自己紹介からお願いします」
 女子生徒B:「分かった」

 漆黒の髪を腰まで伸ばし、少なくともここにいる1年生女子達よりは胸も大きく背も高いこの3年生女子は、トップバッターとして何を話してくれるのだろうか。
 恐怖の集会が、今始まる……!

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