報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「検査と実験」

2020-03-26 15:03:57 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日10:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センターB3F研究施設・会議室]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今、斉藤絵恋さんは隔離されて研究室の方に行き、私達は善場主任から説明を受ける為に会議室にいる。

 善場:「……このように、生きている人間の肉ではなく、血を求めるクリーチャーは“ウーズ”しかいません。これはTウィルスに海洋性ウィルスを混合して作られたTアビスというウィルスに感染すると変化するクリーチャーです」
 愛原:「主任。そうは仰いますが、2005年のバイオテロでそのウィルスが出てきますが、BSAAの記録映像を見る限り、ウーズというクリーチャーは相当グロテスクなものです。絵恋さんは人間の姿を保っていますが、これは?」
 善場:「あくまでも可能性を述べただけです。斉藤さん自身、Tアビスを投与されただけとは限りません」
 愛原:「しかし、今やCウィルスだのTフォボスだの特異菌だの、最新型の生物兵器が出回ってしまったのに、旧式のTアビスとは……」
 善場:「現段階では調査中ですが、大日本製薬はかつてFBCに協力していたようです。アメリカ進出の際、後ろ盾してもらう見返りとしての支援だったそうですが、それが何か関係しているのかもしれませんね」

 その流れから、今はBSAAに協力しているのだと斉藤社長から聞いたことはある。
 BSAAこそ今は正義の味方だからいいが、FBCは長官が残念ながら黒幕であった。
 事件は2005年のことだから、少なくとも絵恋さんやリサはまだ生まれていない。

 善場:「あと、これは昨日の検査で分かったことなんですが、斉藤さんにはありとあらゆる人工ウィルスの抗体があります。Tウィルスはもちろん、2013年のCウィルスに至るまでです」
 愛原:「どういうことだ?」
 善場:「大日本製薬では、バイオテロに使用されたウィルスのワクチン開発を日本代表として取り組んでいることで有名です。今回こちらに協力したのも、新型コロナウィルスのワクチン製造の為だということです」
 高野:「斉藤社長、何か怪しくないですか?まるで娘さんをモルモットとして送り込んだかのような……」
 愛原:「うーむ……」
 善場:「Gウィルスを投与されつつも、上手く自分の体内に取り込んで、驚異的な回復力と身体能力を持ち、政府エージェントとして活躍しているシェリー・バーキン氏の例もあります」
 愛原:「でも、そのシェリー・バーキン氏はBOWではないんでしょう?」
 善場:「少なくとも人間の姿から他の生物に変化することはなく、あくまでも驚異的な回復力と身体能力に終始しているので、人間ということで良いでしょう。あいにくと、愛原リサさんは既に自我を保ちつつ、理性と知性を保ちつつも、しかし他人の制御を必要とし、場合によっては異形の者に変化するという意味では人間ではありません。それでも普段は人間の姿でいられることから、こちらとしては是非エージェントとして将来働いて頂きたいと思っているのです」
 高橋:「で?結局あのガキはどうするよ?殺処分にするのか?」
 リサ:「サイトーを殺さないで!」
 善場:「今、実験をしています。実はもうTアビスに対するワクチンは存在するのです。それを投与してみまして、様子を見たいと思っております」
 愛原:「デイライトは効かんかね?」

 デイライトとはTウィルスに対するワクチンのことだ。
 ただ単にTウィルスを無効化するだけでなく、投与者には抗体も作られる。

 高野:「先生、ウィルスが違います」
 愛原:「ん、そうか」

 善場主任は室内にある大型モニターの電源を入れた。
 それからリモコンのボタンを何個か押すと、とある映像が映し出された。
 それはここの研究室。
 ベッドの上に絵恋さんが寝かされ、まるで病院の集中治療室のような光景が広がっていた。

 善場:「これは今、点滴によるTアビスのワクチンを投与しているところです。このように、今はおとなしく眠っています。恐らく効いているものと思われます」
 愛原:「上手く行けば絵恋さんは人間に戻れるんですね!?」
 善場:「上手く行けば、です。ただ恐らく、シェリー・バーキン氏のように、体内に何らかの影響は残るものと思われます」
 高橋:「で、政府エージェントにスカウトか?」
 善場:「状態如何によっては、是非とも来て頂きたいですね」
 高野:「その前に真相を究明しませんと」
 高橋:「社長のオッサン締め上げんのか?」
 善場:「それはこちらに任せてください。少なくとも娘さんがああなった経緯については、事情を聴く必要がありそうです」
 高橋:「娘をモルモットにして最悪だな」
 愛原:「まだそうと決まったわけじゃないだろう。バイオテロ組織に浚われて、実験させられたのかもしれんぞ?」
 高野:「だから先生、そういう記録が無いんですって」
 愛原:「ん?しかしそんな記録、森友みたいに政治権力で『無かった事』にできるだろう」
 善場:「とにかく、斉藤社長にはこちらから事情を聴きます。リサさんは引き続き、実験に協力してください。もしかしたら、あなたの体内から斉藤さんのウィルスに対抗する物が作れるかもしれませんからね」
 リサ:「なるほど。分かりました」
 高橋:「先生。実際、先生から社長に電話してみてはどうですか?」
 愛原:「余計なことしなくていいって。それに、ここ圏外だ」
 善場:「機密保持の為に電波は遮断しております。GPSも届かないようになっております」
 高橋:「ここに死体埋めたら完全犯罪だなw」
 愛原:「滞在期間は延びることになりそうですか?」
 善場:「そうですね。でも、ご安心してください。ちゃんと宿泊室とお食事は御用意させて頂きますから」
 高橋:「レンタカーの延長料金は?」
 善場:「それもこちらで負担しますから、どうかご安心を……」

 何だか大変なことになったなぁ。
 新型コロナウィルスのワクチン製造の為の実験に協力するはずが、とんでもないことになったものだ。
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“愛原リサの日常” 「最終日の実験」

2020-03-26 11:43:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日09:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター1F女子トイレ→B3F研究施設]

 被験者の少女A:「ぎゃああああああああ!痛い痛い!痛いよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 被験者の少女B:「もう嫌……!おうち……帰して……」
 被験者の少女C:「…………」(完全に呆然自失となっており、何をされても全く反応しない)

 リサ:「…………」

 リサは過去に旧アンブレラの研究所で受けた凄惨さを極める非人道的な実験を思い出していた。

 絵恋:「リサさん、ごめんね……」
 リサ:「いい。気にしないで」
 絵恋:「おしっこがね、止まらないの……」
 リサ:「そういうこともある。最初のうちは体がおかしくなる。私もそうだった」
 絵恋:「リサさんがいてくれて良かった」
 リサ:「サイトーは……何かの実験を受けた?」
 絵恋:「受けてないわ。受けてない……はず」
 リサ:「私は何度も受けたけどね。それでこんな体になったわけだけど」

 それはリサだけでなく、愛原達もそう思っている。
 リサはBOWになる為の実験を受け、改造されて今に至る。
 しかし絵恋には、そのような経緯は一見して見当たらない。
 にも関わらず、絵恋がBOWと化したのは何故か?
 単なる『感染』なら、もしかしたらどこかであったかもしれない。
 しかしこちらの研究施設の検査では、明らかに『人為的な改造』の痕があるのだという。

 絵恋:「お待たせ」
 リサ:「もういい?」
 絵恋:「うん。何とか、おしっこ止まった」
 リサ:「すぐに喉が渇く。後で水をもらって」
 絵恋:「うん。よく知ってるね?」
 リサ:「そういう症状が出たコを私は……うぅう……」

 リサはついに泣き出した。

 絵恋:「リサさん!?」
 リサ:「早く行こ……っく」

 リサはなるべく泣くのを堪えようとしていた。

 高野:「もう大丈夫?」
 リサ:「うん」

 トイレの外では高野が待っていた。

 高野:「皆は先に研究所に行ってる。私達も行きましょう」
 リサ:「うん……」
 高野:「気持ちは分かるけど、このままだと絵恋さんは暴走してしまう。それを防ぐ為にも、研究所に行かないといけないのよ」
 リサ:「分かってる……」

 3人はエレベーターに向かった。

〔下に参ります〕

 高野が反対側のドアの横に付いているカードリーダーにカードを当てる。
 すると、注意書きの下に隠された地下3階へのボタンが点灯した。

〔ドアが閉まります〕

 ドアが閉まって、エレベーターがゆっくりと下に下りる。

 絵恋:「喉が渇いたわ……」
 リサ:「早くお水を!」
 高野:「分かったわ」

 高野は手に持っていたトートバッグの中に入っていた2リットル入りのペットボトルを渡した。

 絵恋:「!」

 絵恋はそれを奪うように取ると、すぐに蓋を開けてラッパ飲みした。
 それを悲しそうな顔をして見るリサ。
 恐らく、このような症状が出た実験体の少女の末路を見たことがあるのだろう。

〔ドアが開きます。地下3階です。上に参ります〕

 ドアが開くと、殺風景な附室に出る。
 そこから外に出ると、地下駐車場に愛原達がいた。

 愛原:「もう大丈夫なのか?」
 高野:「今のところは」
 善場:「カードを返してください。急ぎましょう。時は刻一刻を争います」
 絵恋:「まだ足りない……!もっと飲みたい……!」
 リサ:「! 先生、サイトーにもっと水を飲ませてあげて!」
 愛原:「え、えっと……!」

 愛原は水道を探したが、都合良くそんなものはない。

 愛原:「こうなったら!」

 駐車場内にある自動販売機コーナーで、ペットボトルの水を買った。

 愛原:「ほら!」
 リサ:「多分これ一本だけじゃ足りない」

 リサが絵恋にペットボトルを渡した時、絵恋の両目の瞳が赤く鈍く光っていた。

 リサ:「このままだと、今度は生きた人間の血が欲しくなって……しまうの……!」

 リサはまた涙を流しながら言った。

 善場:「! 今、何て言ったの!?」
 リサ:「私が知ってる限り……サイトーと同じ症状が出たコは、今度は生きてる人間の血を欲しくなってしまって……」
 善場:「……!」

 善場は何か思い当たる節があるのだろうか。

 善場:「急いでこっちに来て!」

 善場はリサと絵恋を研究所の奥に連れて行った。

 愛原:「善場主任、一体どこに!?」
 守衛:「ちょっと!ここから先は職員のIDが無いと入れません!」

 レセプションから先の研究施設に善場は入れたが、愛原達は止められた。

 リサ:「愛原先生達、止められたよ!?」
 善場:「今はそれどころじゃないの!」
 絵恋:「まだ足りない……足りない……!」
 リサ:「サイトー、我慢して!このままだと、本当に『吸血鬼』になっちゃう!」
 善場:「緊急です!至急、アレをお願いします!」

 善場はとある部屋に駆け込むと、中にいた職員に言った。

 善場:「リサさんはこっちへ!」
 絵恋:「血が……血が欲しい……!」
 リサ:「サイトー!」

 絵恋とリサは引き離された。

 リサ:「サイトーは!?サイトーはどうなるの!?殺しちゃうの!?」
 善場:「今はそんなことしないから安心して!」

 何か研究所の廊下をぐるっと一周したような気がする。
 そして、最後のドアを通ると……。

 善場:「愛原所長!お待たせしました!」
 愛原:「おっ、善場主任!いきなりでびっくりしましたよ」
 善場:「緊急だったのです。申し訳ありません」
 高野:「ま、斉藤さんのあの様子じゃね。BSAAなら殺処分してたかもね」

 この中では高野が一番冷静だ。

 善場:「さすがは日本の『エイダ・ウォン』ですね。この状況が一番理解できていらっしゃるようです」
 高野:「だから違うって言ってるでしょ」
 愛原:「一番状況が理解できていない私の為に、最初から説明しては頂けないでしょうか?」
 善場:「もちろんそのつもりです。受付係、『ビジタータグ』を4つちょうだい」
 受付係:「かしこまりました」

 リサ達は昨日着けたのと同じリストタグを渡された。

 善場:「これで大丈夫です。行きましょう」

 今度は守衛に止められることはなかった。
 職員タグを持った者の先導であれば、ビジタータグでも入れるらしい。
 私達はリサ達が向かった研究室エリアではなく、会議室のある事務室エリアへと誘導された。
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“私立探偵 愛原学” 「新型コロナウィルスはどこで感染するか分からない。ゾンビウィルスもどこで感染するか分からない」

2020-03-25 21:53:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日08:30.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター1F医務室]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 まさかの斉藤絵恋さんBOW化だよ。
 BOWとはBio Organic Weaponの略で、まあ要は人工的に造りだされた生物兵器のことである。
 善場主任の話によると、絵恋さんの異変は生物兵器ウィルス感染によるものではなく、『期せずして』或いは『意図的に』そのウィルスが投与されてそうなったものだという。
 どうして分かるのかというと、今までの事例からして、そう考えた方が妥当だという特徴が見えるからなんだそうだ。
 何だかよく分からないけど。

 リサ:「サイトー、本当に覚えないの?」
 絵恋:「覚えてない……というか、夢を見てた感じ……」

 絵恋さんとしては確かに夜中に起きて廊下を歩き、階段を地下まで下りたという記憶はあるそうだ。
 但し、それはまるで夢の中の出来事のような感覚であったという。

 善場:「どうしてそんな夢を見たの?というか、どうして夢の中の絵恋さんはそういうことをしたのかな?何でもいいから教えてちょうだい」

 医務室のベッドに寝かされて、上半身を起こしたまま絵恋さんは事情を聴かれた。
 因みに昨夜、自分が放った高圧電流で自分が感電してしまった為、上半身の服は黒焦げになってしまった。
 その為、今は宿泊室にあった浴衣に着替えている。

 絵恋:「誰かに呼ばれていたような気がして……」
 善場:「呼ばれてた?誰に?」
 絵恋:「うーん……お父さん……いや違う。愛原先生……かな」
 愛原:「ええっ!?」
 高橋:「ゴルァッ!適当なこと言って、先生を巻き込むんじゃねぇ!」
 愛原:「高橋、静かにしろ」
 高野:「大げさね。既に十分巻き込まれてるって」
 愛原:「リサは聞こえてたか?その……斉藤社長とか、俺みたいな奴が呼んでる声って」
 リサ:「聞こえなかった。全然聞こえなかった」

 リサはきっぱり否定した。

 善場:「ねぇ、愛原リサさん」
 リサ:「なに?」
 善場:「あなたは高橋さんと愛原所長に、別々の場所から同時に呼ばれました。どちらの方に行きますか?」

 善場主任は唐突な質問をリサに投げ掛けた。

 リサ:「もちろん愛原先生」

 リサは何故か照れ臭そうな顔になって私を見た。

 高橋:「てめこの野郎……!先生は渡さねーぞ!」
 高野:「同じ土俵で戦うなっての」
 善場:「では、愛原所長とタイラントが呼んでました。それだったらどちら?」
 リサ:「もちろん愛原先生」
 高野:「愛原所長の所へ行こうとすると、ハンターが邪魔をしてきました。どうしますか?」
 リサ:「もちろん八つ裂き」

 リサは第1形態の鬼娘になると、牙を覗かせて鋭くなった爪を立てた。

 愛原:「善場主任、一体何なんですか?」
 善場:「制御されているBOWと、そうでないBOWの違いって何だか分かりますか?」
 愛原:「えっ?」
 高野:「『主人が誰かを認識できて、しかもその主人に対して忠実であること』ね」
 善場:「そうです。幸いにもこちらのリサ・トレヴァーは、愛原所長を主人として認め、忠実たらんとしています。だから、こちらのリサ・トレヴァーは『制御されている状態』だと言えるのです。しかもこちらのリサ・トレヴァーは早くから、愛原所長を主人として認めていたようでした」
 リサ:「愛原先生、大好き。愛原先生の言う事なら何でも聞く」

 だが何故かリサは、私に対して甘えるような声で言った。

 善場:「タイラントも本来は旧アンブレラの幹部社員を主人としていました。そしてそれ以降、世界を震撼させた恐ろしいBOWが次々と現れましたが、比較的制御されていた個体は、やはり主人が誰かをはっきりさせていたのです」
 愛原:「ということは、だぞ?もしも仮に絵恋さんがBOWだとしたら、まだ彼女の主人がはっきりしていないから……」
 善場:「このままですと、暴走する恐れがあります。2017年、アメリカに現れたBOWエブリンもそうでした」

 エブリンを生み出した秘密結社は、所属していた幹部職員を主人……というか、親に見立てて制御しようとしていたようだ。
 しかし、何らかの理由でそれは失敗。
 暴走してバイオハザードを引き起こさせてしまった。

 善場:「絵恋さんの昨夜の行動は、BOWとして主人を求める行動であったと言えます」
 絵恋:「な、何言ってるの……?私、人間でしょ……?なに勝手に私を化け物にしようとしてるの……?」

 絵恋さんは放心状態で口だけ動かした。

 善場:「残念だけど、あなたはもう既に……」
 高野:「ちょっと黙ってて」

 高野君は善場主任の口を遮った。

 高野:「ったく。どうして官僚ってのは、こう冷たい言葉を簡単につらつらと言えるかねぇ?」
 善場:「高野事務係こそ、何を仰るんです?私は事実を述べているまでですよ?解決の先送りは事態の悪化を招きます」
 高野:「フン!テラグリジアを沈めたFBCのモルガン・ランズディールみたいなこと言いやがって!」
 愛原:「テラグリジアだって!?2005年にバイオテロで壊滅した人工海上都市のことか!?確か、地中海にあったとか……」

 それまで国際的に活躍していたFBCの長官がまさかのバイオテロ組織ヴェルトロと繋がっていたことが露呈し、長官は逮捕。
 単なるNGO団体であったBSAAの活躍が認められ、FBCはBSAAに吸収され、そしてBSAAは正式に国連組織に昇格した。

 高野:「そうですよ。それまで13年だか14年だか、普通に人間として生活していたのに、いきなり急に『お前は化け物だ』と言われて納得するわけないでしょう、そりゃあ!」
 善場:「当人の納得如何に関わらず、事実は事実です!それに目を背けてはなりません!」
 高野:「それにしても、それにしてもだよ!?もっと説明の仕方ってもんがあるでしょうよ!」
 善場:「時は刻一刻を争うのです。そんなヒマはありません!」
 絵恋:「あ、あの……!」

 絵恋さんは泣きそうな顔で何か言おうとした。
 いや、実際泣くのを必死で耐えているのだろう。
 絵恋さんはこの後、何て言ったと思う?

 1:「私を殺してください!」
 2:「私を実験してください!」
 3:「お前達を殺す!」
 4:「私はどうしたらいいんですか!?」
 5:「お、おトイレ行かせてください……」
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“私立探偵 愛原学” 「検査最終日」

2020-03-24 19:56:13 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日07:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター2F食堂]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 何だかマズいことになった。
 昨夜宿泊室で寝てたら、突然館内警報が流れて起こされた。
 最初は火災警報か何かかと思ったが、流れたアナウンスからしてどうも分からなかった。

『館内で異常が発生しました。利用者の皆様は指示があるまで、室内で待機していてください』

 という自動放送が流れただけだった。
 私と高橋は最初その放送の通りにしていたのだが、部屋の内線電話が掛かってきて、取ったら高野君からだった。
 で、同室のリサと斉藤絵恋さんがいないという。
 もしやこの警報は2人のせいかと思い、待機命令を無視して部屋の外に出た次第だ。
 階段まで行ったところで守衛達に咎められたが、事情を話して同行させてもらうことにした。
 これが普通の宿泊者だったらそれでも強制的に部屋に戻されただろうが、私達だから許されたものと思われる。
 で、現場に行って見たら案の定それはリサ達だったというわけだ。
 大きな爆発音とか聞こえたから銃でも持って行こうかと思ったが、いざなったら武装警備員のショットガンを借りようかなと思った。
 意外だったのは暴走したのがリサではなく、むしろリサは暴走した絵恋さんを止める側だったということ。
 もちろん何より、暴走したのが絵恋さんだったということだ。 
 つまり、絵恋さんは昨日の検査結果の通り、BOWだったというわけだ。
 そりゃそうだろう。
 もしただの人間だったら背中から高圧電流を放つなんて真似できるわけないし、そもそも鉄扉の鍵を素手で壊すなんてできっこない。
 で、絵恋さんは1階の医務室に運ばれている。
 驚いたことに、運ばれた当初は背中に大火傷を負っていたものの、今はそれが嘘みたいに治ったとのこと。

 リサ:「やっぱりサイトーはBOW……」

 今朝の朝食は昨朝と打って変わり、目玉焼きにスクランブルエッグ、ウィンナーやサラダなどの洋食であった。
 主食はパンではなく御飯であったものの、汁物は味噌汁ではなく、オニオンコンソメスープだった。
 ただ、あんなことがあってからは、私達はあまり食事は喉を通らなかった。
 完食したのは高橋とリサだけ。
 そのリサでさえ、昨朝はおひつの御飯や鍋に入った味噌汁を空にしてしまったのに、今朝はお代わりをしなかった。

 愛原:「善場さんからメールだ。今日は俺達の検査は中止。リサと絵恋さんの検査・実験に終始するそうだ。場合によっては期間の延長も有り得る」
 高野:「でしょうね」
 高橋:「俺達は帰っていいんですよね?」
 愛原:「帰りたきゃ勝手に帰れ。絵恋さんの御守りだって、クライアントの依頼だ。それを放棄するヤツは助手失格だ」
 高橋:「す、すいません!レンタカーの返却日、今日だったんで!」
 愛原:「そっちの心配か。まあ、いざとなったら延長の申し込みをしておけ。延長料金は善場主任に請求すればいいだろう」
 高橋:「はあ……」
 高野:「先生、斉藤社長に連絡は?」
 愛原:「これからするよ。大事な一人娘がまさかの展開だからな。報告文も考えないと……」
 高野:「緊急報告なのですから、そこまで考えなくてもいいのでは?」
 愛原:「そ、それもそうだな。俺は部屋に戻って、斉藤社長にメールを送る。どっちみち、絵恋さんの意識が戻らないと、どうにも動けないだろう」
 高野:「善場主任はここに泊まっていないんですね」
 愛原:「どこか別の所にホテルでも取って泊まっているんだろうな」

 私は善場主任に報告していないが、私がしなくても、明らかにここの施設から報告が行くだろう。

[同日08:00.天候:晴 同センター3F宿泊室]

 私が部屋に戻り、斉藤社長にメールを送った。
 すると、斉藤社長から電話が来た。

 斉藤秀樹:「娘がBOWと化したということですね?」
 愛原:「何とも御気の毒ですが、昨夜そのような動きがありましたので……」
 秀樹:「それで、娘はどのような症状が出ましたか?」
 愛原:「私も直接は見ていないのですが、背中から高圧電流を流した上、施設のドアの鍵を素手で壊したといった感じです。いわゆる、化け物に変化したわけではありません」
 秀樹:「そうですか……」
 愛原:「ここの施設の人達は『BOWの反応あり』という表現を使うんです。『感染』ではないんです。不思議ですけど……」
 秀樹:「『BOWの反応あり』ですか。その表現は正しいのでしょうね」
 愛原:「斉藤社長にお心当たりが?」
 秀樹:「いえ、何でもありません。今、娘は無事なんですね?」
 愛原:「背中に大火傷を負ったはずが、今は殆ど完治してしまったということです。これもまた不思議な話です」
 秀樹:「施設側は娘をどうするつもりですか?」
 愛原:「今日は私達の検査は中止して、娘さんやリサの検査や実験に集中したいそうです」
 秀樹:「分かりました。施設側に任せます」
 愛原:「いいんですか?」
 秀樹:「はい。その代わり、愛原さん達もどうか娘の側にいてやってください。リサさんは特に……。報酬は追加します」
 愛原:「それは構いませんが……」

 その時、部屋の内線電話が鳴った。
 高橋が挙手して電話の所に向かった。

 愛原:「……また連絡させて頂きます。……はい。失礼します」

 私が電話を切ると、高橋も電話を切った。

 高橋:「先生。あのクソ……絵恋の意識が戻ったのと、善場のねーちゃんが到着したそうです」
 愛原:「分かった。それじゃ、ロビーに行こう」
 高橋:「うっス」

 私はビジターカードを持って部屋を出た。
 因みにリサは医務室にいて、絵恋を看ている。

[同日08:15.天候:晴 同センター2Fロビー]

 部屋を出て階段を下り、2階のロビーに行くと善場主任がいた。

 善場:「おはようございます。昨夜は大変だったようですね」
 愛原:「ええ。内容は既に報告が行ってると思いますが」
 善場:「はい。是非とも当人達から直接事情を聴きたいですね」
 愛原:「医務室に行きましょう。リサもそこにいます。こっちです」
 善場:「お願いします」

 私達は医務室へと向かった。
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“愛原リサの日常” 「斉藤絵恋、BOW化の片鱗」

2020-03-24 16:03:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日02:30.天候:雨 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センターB3F研究施設入口]

 

 夜中に部屋から抜け出した斉藤絵恋。
 それに気づいたリサが絵恋を追った。
 そして背後から声を掛けたが、絵恋は全く聞こえていないかのようにそれを無視し、階段を下りたのだった。

 リサ:(一体、どこへ行く?)

 先日、早朝走り込みをしようと外に出ようとしたことがある。
 だが外出は許可されていないらしく、エントランスで管理人に止められたとのこと。
 諦め切れずにまた行こうとしているのだろうか?
 しかし外は雨だし、そもそも絵恋はスリッパをはいたままだ。

 

 リサ:「サイトー、そっちはダメだって書いてるよ!?」

 絵恋は階段を1階まで下りたが、更に下りた。
 地下階へ行こうとすると、通行止めのパーテーションがしてあって、関係者以外立入禁止の看板もあったのだが、絵恋はこれを全く無視し、更に下へ向かったのである。

 リサ:「サイトー!」

 リサが何度も呼び掛けても、絵恋は全く反応しない。
 そしてついにB3と大きく書かれた階段室のドアを開けて中に入ってしまった。
 そこは附室と呼ばれる小部屋で、もう1つ向こうにドアがある。
 『エレベーター室』と書かれていた。
 どうやらあのドアの向こうに、昨朝研究施設に向かう時に乗ったエレベーターがあるらしい。

 

 しかしそこはさすがに鍵が掛かっていた。
 絵恋はドアノブに手を掛け、ガチャガチャやっているが、全く開く気配が無い。

 リサ:「サイトー、ここはダメだよ。早く戻ろう」

 やっとリサが後ろから絵恋の肩を叩こうとした時だった。

 守衛A:「こら!何をやってるんだ!」

 後ろから警棒を持った守衛がやってきた。
 ここに入る時に手荷物検査やら身体検査をやった守衛所にいた守衛達の誰かだろう。
 警察官よりは刑務官に近いデザインの制服を着ていた。

 守衛B:「ここは立入禁止だぞ!」
 リサ:「ご、ごめんなさい。サイトー、早く戻ろう!」

 リサが絵恋の肩を掴んだ時と、絵恋がバキッとドアノブを壊してドアをこじ開けるのは同時だった。
 しかも!

 リサ:「!!!」

 この部屋を映す防犯カメラがそれで壊れたという。
 防犯カメラが最後に映したのは、強く光る絵恋の背中。
 そして、それに弾き飛ばされるリサと守衛2人であった。

 守衛A:「ぐわっ!」
 守衛B:「ぎゃっ!」

 正確には弾き飛ばされたリサの直撃を受けたのが守衛A、絵恋から放たれた高圧電流をリサや守衛Aから貰い受けて感電したのが守衛Bといったところだ。
 防犯カメラが壊れたのは、絵恋から放たれた高圧電流のせいである。

 リサ:「サイトー……!」

 リサは咄嗟に第0形態から第1形態に変化した為、大きなダメージを受けることはなかった。
 それでも、動きを再開させるのに少し時間が掛かったくらいだ。
 当然こういう展開になって、施設内が静かであるはずがない。
 館内に警報が響き渡った。

 リサ:「サイトー!何やってるの!やめて!」

 絵恋はエレベーター室から研究施設へ行く電子ロックのドアを壊そうとしていた。

 絵恋:「呼んでいる……呼ンデイル……!」
 リサ:「サイトー!」

 リサはサイトーの肩を掴んだ。

 絵恋:「邪魔スルナ……!」

 振り向いた絵恋は辛うじて人間の姿を保っていたものの、その目は赤く鈍く光っていた。

 リサ:「サイトー!」

 リサは絵恋を平手打ちした。

 絵恋:「ぎゃっ……!ぎゃああああああっ!!」

 恐らくリサに高圧電流を放つ直前だったのだろう。
 リサに平手打ちされてバランスを崩した絵恋は仰向けに倒れたが、リノリウム張りの床では電気を逃がすことができないのだろうか。
 自分が感電してしまった。

 守衛C:「おとなしくろ!抵抗したら射殺する!」

 先ほどの守衛達と違い、防弾チョッキにヘルメット、そしてショットガンを装備した守衛達が駆け付けて銃口を向けられた。
 リサにはショットガンどころか、マグナムすら小石が当たる程度なのだが、リサは両手を挙げた。

 リサ:「私はサイトーを止めただけ。そのサイトーも今は動かない」
 愛原:「リサ!第0形態に戻れ!」

 浴衣から私服に着替えた愛原達も駆け付けた。

 リサ:「うん」

 リサは言われた通り、第0形態に戻った。

 愛原:「これでリサに関しては危険はありません!」
 守衛D:「しかし一応、拘束させてもらいます」
 リサ:「!」

 リサは後ろ手に手錠を掛けられた。

 守衛E:「こっちが元凶だ!慎重に取り扱え!」
 守衛F:「はい!」
 高橋:「やっぱあのクソビアン、何か怪しいと思ってたんですよ!」
 愛原:「そう言うなって。リサもどうして俺に言わなかったんだ!」
 リサ:「ごめんなさい……」
 高野:「まあまあ、先生」

 これで愛原達は朝まで眠ることができなくなってしまった。

 リサ:「サイトーがBOWだったなんて……」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「ちっ、やっぱりそうか。先生、今のうちに射殺しておいた方がいいですよ」
 愛原:「今の俺達にその権限は無い」
 リサ:「お願い。サイトーは殺さないで」

 リサの懇願に、この場ですぐ頷く者はいなかった。
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