報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「延長日」 2

2020-03-31 19:58:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月7日13:00.天候:不明 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センターB3F研究施設]

 研究施設の食堂で昼食を取る私達。
 因みに今度は唐揚げ定食が出た。
 本当に食うには困らぬ場所ではある。
 この場にいないのは絵恋さんだけ。
 絵恋さんは試作ワクチンを投与されると、昏睡状態に入った。
 それから暫くして、所内にピンポーンピンポーンという玄関のチャイムのような音が響いた。
 善場さんの話によると、それはどうやら注意報とのこと。
 警報だと、もっとけたたましいサイレンのようなアラームが響く。
 その違いは何のかまでは分からないが、モニターを見せてもらうと、絵恋さんが暴れていた。
 但し、それは想定内とのこと。
 既に絵恋さんはベッドに拘束されており、彼女はその拘束を破ることはできなかった。

 高野:「過去に、ゾンビ化寸前の感染者がワクチンを投与された際、やはり大暴れしたそうです。ゾンビウィルスとしても、ワクチンにはやられたくないので、宿主の体内で暴れるのですね。それと同じようなことが絵恋さんに起こると、既に想定されていたのでしょう」

 高野君は唐揚げを頬張りながら冷静に話した。

 愛原:「高野君、詳しいな?」
 高野:「あら?これでも色々と勉強しているんですよ。一介の事務職員でも、先生の事務所で働かせて頂いている以上は、バイオハザードのことについて知識を深めておきませんとね」
 愛原:「そういうことなら感心だな。高橋も見習えよ?」
 高橋:「さ、サーセン。俺、勉強は苦手で……」
 愛原:「そうだったな」
 高橋:「その代わり、どんなゾンビがどんな攻撃で簡単に死んでくれるかの研究はします!」
 愛原:「基本的に頭吹っ飛ばせばOKだろうが」
 高野:「ザコゾンビはそれでいいかもしれませんが、ボスクラスはそうとも言えませんからね。核となる心臓を攻撃する必要があります。それがどこにあるのかを勉強させればよろしいかと」
 愛原:「タイラントは基本的に頭でいいだろう?」

 私はタイラントとつるんでいたリサに聞いた。
 アメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーとタイラントは同じ敷地内にはいたが、全く接点が無かった。
 しかし日本のリサ・トレヴァー、正確に言えば今ここにいるリサはタイラントとつるんでいる上、しかもそのタイラントに命令できる立場にあった。
 無言で標的を追い回すタイラントが、リサの前では「御嬢様」と喋るのだから。

 リサ:「うーん……分かんない。昔、軍人さん達がタイラント君の頭を銃で撃ってたけど、当のタイラント君は全然平気だった」
 高野:「先生。タイラントはマグナムで怯ませてから、ロケットランチャーで攻撃するのがセオリーですよ」
 愛原:「そ、そうだな」

 単純に考えれば、そこまでしないと死んでくれないタイラントに命令を出せるのだから、リサはもっと強いということになる。
 少なくとも、マグナムを撃ち込む程度では死なないことは知っている。

 愛原:「とにかく、絵恋さんが想定内の暴れ方をしているということは、試作であれ、ワクチンが効いているということだ。こりゃ期待できるかもな」
 リサ:「サイトー、人間に戻れる?」
 愛原:「上手く行けばな。……リサは絵恋さんには人間でいてもらいたいのか?こういう言い方は何だが、BOWになったらなったで、BOWの友達ができるという考え方もできるんだぞ?」
 リサ:「いい。サイトーには人間でいてもらいたい。私みたいなBOWは私1人で十分。あとはタイラント君が何人かいればいいと思う」

 そのタイラントは暴走しやすいから、今日日のバイオテロ組織は導入しないんだと。
 ぶっちゃけ、旧アンブレラからタイラントよりも使えないというレッテルが貼られて廃棄処分にされたリサ・トレヴァーの方が役に立つとは……。
 欧米人はそういう所、凄くドライだからすぐに切り捨てるけど(キリストなだけに?w)、『捨てる神あれば拾う神あり』精神の日本人がリサを改めて研究してみると、今ここにいるリサみたいなのができたというわけだ。
 もっとも、その研究法が非人道的だったのはアメリカと変わらなかったが。

 高野:「リサちゃんは強いねぇ」

 高野君はリサの頭を撫でた。

 リサ:( ̄ー ̄)

 ん?何だろう?今、リサが含み笑いをしたような……?

 ……後にリサは日記に、『サイトーがBOWになると獲物が1つ減る。ライバルが増える。もしかしたら、サイトーの方が強いかもしれない。だからサイトーには人間でいてもらいたい』というようなことを書いている。
 既にリサは精神的にもBOWであり、独占欲が強いことを物語っている。

[同日17:00.天候:晴 同センターB3F研究施設]

 意識を戻した絵恋さんは地上に戻る前に身体検査を受けた。
 特に身長や体重は変わっていない。

 医療技師:「じゃあ、これは?」
 絵恋:「右です。よく見えます」
 医療技師:「両目とも2.0。驚異的な視力だ」
 絵恋:「ここに来た時より見えます」
 医療技師:「はい、じゃあ次はこちら。目を大きく開いてー。虹彩を撮ります」

 どうして虹彩を撮影するのかというと……。

 医療技師:「G生物との比較に回して」
 助手:「はい」

 BOWの中には複眼の現れる者もいる。
 その目玉には何やら特徴があるらしく、もちろん絵恋には複眼が現れたわけではないが、比較したいのだろう。
 尚、場合によっては逆に単眼のクリーチャーに変化する場合もある(Tアビス感染によるクリーチャー、トライコーンなど)。

 医療技師:「はい、口を開けて」
 絵恋:「あーん……」

 ペンライトで口の中や目を照らされる。
 特に今、リサのように犬歯が鋭くなっているということはない。
 出た結果は異常無しであった。

 愛原:「これで終了ですか?」
 善場:「そうですね。念の為、明日の午前中までお時間を頂けますか?夜間も大丈夫かどうかを確認したいです」
 愛原:「やはり今日の帰宅はムリだったか」
 善場:「もし大丈夫でしたら、午前中には終了したいと思います」
 愛原:「分かりました」
 善場:「恐らく斉藤さんは、しばらく薬を接種する必要があるでしょう。明日は注射を打つだけでいいでしょうが、それ以降は経口摂取するタイプとか……」
 愛原:「それを大日本製薬に作らせるのか?」
 善場:「愛娘の為なら、斉藤社長も喜んで協力してくれるかと」
 愛原:「その社長、今一体どこにいるのかねぇ?」
 善場:「ドイツですよ。留学中の御長男と接触したようです」
 愛原:「ほお?」
 善場:「何か持って帰って来るかもしれませんね」
 愛原:「それが何だか知らないけど、税関で没収されないといいねぇ……」

 とにかく、皆が望む通り、絵恋さんが人間の状態でいられるようで何よりだ。
 もっとも、薬が切れたりしたら【お察しください】。
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“私立探偵 愛原学” 「延長日」 1

2020-03-31 14:42:19 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月7日07:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター2F食堂]

 私の名前は愛原学。
 滞在延長の日に突入した。
 せめて、今日帰れればいいのだが。

 愛原:「へえ、朝風呂入ったんだ?」
 絵恋:「寝汗が酷くて……。聞いたら、リサさんも時々そういうことがあるらしくて、朝にシャワーを浴びているそうですので」
 愛原:「ああ、なるほど。まあね」

 朝食を取りながら、そんなことを話した。
 因みに今朝はサバの塩焼き定食や玉子焼きが出た。
 どうやら、洋食と和食が交互に出るらしい。

 愛原:「ああいったウィルスに感染すると、体温が高くなるんだ。寝汗が酷くなるのはそのせいだよ」

 しかし感染者との大きな違いは、体温が高くなる割には倦怠感や寒気などの症状は無いということだ。
 これはウィルスが体に適合することの表れであるという。
 絵恋さんにはGウィルスワクチン投与の形跡は無いが、そもそも投与された形跡のあるCウィルスにあっては、その材料にGウィルスを使用するので、その面影があるのだろう(傷の治りが異様に速いなど)。
 昨夜は特に何事も無かった。

 リサ:「夜中に汗をかくと、何だかムラムラする」
 絵恋:「リサさんも!?」
 愛原:「そういうことは言わなくていい」

 その為、私の寝室のドアには内鍵が3つ付いている。
 人間ならそれでも入る場合、チェーンカッター等でドアをぶち抜くだろうが、リサの場合は力技でこじ開けてくる。
 そんなパワープレイをかましてくれるので、正直敷金が心配だ。

 愛原:「急ピッチでワクチンを製造している所だから、それが上手く行けば今日中には帰れるだろう」

 もちろんそれは絵恋さんのこと。
 リサにあっては最初からBOWを製造する目的で改造されてしまったので、もはや手遅れである。
 遺伝子レベルで改造された為、ワクチンの問題ではないのだ。
 ショッカーに改造された人間が怪人化したら、もはや元に戻す術は無く、仮面ライダーに悉く倒されるのと同じことだ。
 しかし、絵恋さんは別。
 バイオテロの脅威から娘を守るべく、娘には率先してワクチンを受けさせていたら、体内で見事に融合して却ってBOW化したでござる的な展開だからな。

 愛原:「あとの問題は斉藤社長だな。ヨーロッパのどこに行ったのやら……」
 高野:「テラグリジア跡とか、ザイン島かもしれませんね」
 愛原:「おいおい。そんな廃墟に行ってどうするよ?WHOの本部とかは関係無いかね?」
 高野:「どうでしょうねぇ……」
 絵恋:「もしかしたら……」

 絵恋さんが口を開いた。

 絵恋:「ドイツに兄が留学してるんです。兄に会いに行ったのかもしれません」
 リサ:「お兄さんがいるの!?」
 絵恋:「ええ。10歳も歳が離れてるけど……」
 愛原:「どうして絵恋さんはお兄さんに会いに行ったと思うんだい?」
 絵恋:「兄は今、ドイツの大学院にいるんです。医学博士目指しているみたいですね。なので愛原先生の仰るバイオテロなんかにも詳しいんです」
 愛原:「医学博士目指して留学か……。医学博士なら、日本でもなれるだろうに」
 絵恋:「バイオテロと戦う為とか言ってました」
 愛原:「ああ、なるほど」

 それなら日本よりもヨーロッパで学んだ方がいいかもな。
 父親の斉藤社長は新薬開発でバイオテロと戦い、御長男は医学博士としてバイオテロと戦うつもりか。
 その思想は素晴らしいことだと思う。
 ……ヘタすりゃ、ここにいる長女はエージェントとして戦うことになるのか?

[同日10:00.天候:晴 同センターB3F研究施設]

 善場:「早速、試作ですがワクチンを投与したいと思います」
 愛原:「早っ!」
 善場:「理論上は合っていますので」
 愛原:「理論上だけでいいのか?」
 善場:「時は刻一刻を争うのです。幸いここの施設で、そのワクチンは製造できます」
 愛原:「マジか!……何か、裏でもあるんじゃないのか?」
 善場:「もちろんあります。全てをお話しするわけには参りませんが、話せる部分は愛原所長にお話しします」
 愛原:「是非そうしてもらいたいね」

 絵恋さんは検査着に着替えさせられると、再び研究室エリアに連れて行かれた。
 因みにリサも一緒だが、リサはリサで別の実験である。

 善場:「実は、これはドイツにある大学の研究レポートにあったものですが……」

 会議室に入ると、私と善場主任は向かい合って話をした。
 また、ドイツが出て来たか。
 さすがは医療先進国だ。

 善場:「2013年にネオ・アンブレラによって起こされたバイオテロについて研究している日本人の研究員がいまして……」
 愛原:「ん?」
 善場:「極秘ですが、強化型Cウィルスの再現に成功したとも言われています。極秘なのは、あれを未だに欲しがるテロ組織がありますので」
 愛原:「ネオ・アンブレラの科学者しか製造法を知らないヤツか」
 善場:「はい。その日本人研究員が『再現に成功した』とレポートに書いているだけで、それが本当に強化型Cウィルスなのかどうかは分かりません」

 そりゃオリジナルを作った本人の研究記録は完全に逸失し、そして当の本人もこの世にいないとあらば、それを証明できないからな。

 善場:「ですが研究レポートを見るに、被験者の症状が驚くほど斉藤絵恋さんにそっくりなのです。そのレポートにはワクチンの製造法も書いてありましたから、それを投与すれば理論上は大丈夫ということになります」
 愛原:「その日本人研究員凄ェな。ということは、実際に人間の被験者も使ったのか……」
 善場:「そのことについてレポートには詳しく書かれていませんでしたが、恐らくはそうしたものと思わます」
 愛原:「……その日本人研究員もまた斉藤さんとか言わない?」
 善場:「どうして御存知なんですか?」
 愛原:「それ多分、絵恋さんのお兄さんだと思う」
 善場:「はい!?」
 愛原:「絵恋さんが言ってたよ。斉藤社長の国外逃亡……もとい、海外出張はもしかしたらお兄さんに会いに行ったんじゃないかってね」
 善場:「申し訳ありません。少々お待ち頂けますか?」
 愛原:「別にいいですよ」

 善場主任は会議室から出て行った。
 おいおい、ちゃんと今日中に帰れるんだろうな?
 斉藤社長とも連絡が取れないからなぁ……。
コメント (11)
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