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報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「検査最終日」

2020-03-24 19:56:13 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日07:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター2F食堂]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 何だかマズいことになった。
 昨夜宿泊室で寝てたら、突然館内警報が流れて起こされた。
 最初は火災警報か何かかと思ったが、流れたアナウンスからしてどうも分からなかった。

『館内で異常が発生しました。利用者の皆様は指示があるまで、室内で待機していてください』

 という自動放送が流れただけだった。
 私と高橋は最初その放送の通りにしていたのだが、部屋の内線電話が掛かってきて、取ったら高野君からだった。
 で、同室のリサと斉藤絵恋さんがいないという。
 もしやこの警報は2人のせいかと思い、待機命令を無視して部屋の外に出た次第だ。
 階段まで行ったところで守衛達に咎められたが、事情を話して同行させてもらうことにした。
 これが普通の宿泊者だったらそれでも強制的に部屋に戻されただろうが、私達だから許されたものと思われる。
 で、現場に行って見たら案の定それはリサ達だったというわけだ。
 大きな爆発音とか聞こえたから銃でも持って行こうかと思ったが、いざなったら武装警備員のショットガンを借りようかなと思った。
 意外だったのは暴走したのがリサではなく、むしろリサは暴走した絵恋さんを止める側だったということ。
 もちろん何より、暴走したのが絵恋さんだったということだ。 
 つまり、絵恋さんは昨日の検査結果の通り、BOWだったというわけだ。
 そりゃそうだろう。
 もしただの人間だったら背中から高圧電流を放つなんて真似できるわけないし、そもそも鉄扉の鍵を素手で壊すなんてできっこない。
 で、絵恋さんは1階の医務室に運ばれている。
 驚いたことに、運ばれた当初は背中に大火傷を負っていたものの、今はそれが嘘みたいに治ったとのこと。

 リサ:「やっぱりサイトーはBOW……」

 今朝の朝食は昨朝と打って変わり、目玉焼きにスクランブルエッグ、ウィンナーやサラダなどの洋食であった。
 主食はパンではなく御飯であったものの、汁物は味噌汁ではなく、オニオンコンソメスープだった。
 ただ、あんなことがあってからは、私達はあまり食事は喉を通らなかった。
 完食したのは高橋とリサだけ。
 そのリサでさえ、昨朝はおひつの御飯や鍋に入った味噌汁を空にしてしまったのに、今朝はお代わりをしなかった。

 愛原:「善場さんからメールだ。今日は俺達の検査は中止。リサと絵恋さんの検査・実験に終始するそうだ。場合によっては期間の延長も有り得る」
 高野:「でしょうね」
 高橋:「俺達は帰っていいんですよね?」
 愛原:「帰りたきゃ勝手に帰れ。絵恋さんの御守りだって、クライアントの依頼だ。それを放棄するヤツは助手失格だ」
 高橋:「す、すいません!レンタカーの返却日、今日だったんで!」
 愛原:「そっちの心配か。まあ、いざとなったら延長の申し込みをしておけ。延長料金は善場主任に請求すればいいだろう」
 高橋:「はあ……」
 高野:「先生、斉藤社長に連絡は?」
 愛原:「これからするよ。大事な一人娘がまさかの展開だからな。報告文も考えないと……」
 高野:「緊急報告なのですから、そこまで考えなくてもいいのでは?」
 愛原:「そ、それもそうだな。俺は部屋に戻って、斉藤社長にメールを送る。どっちみち、絵恋さんの意識が戻らないと、どうにも動けないだろう」
 高野:「善場主任はここに泊まっていないんですね」
 愛原:「どこか別の所にホテルでも取って泊まっているんだろうな」

 私は善場主任に報告していないが、私がしなくても、明らかにここの施設から報告が行くだろう。

[同日08:00.天候:晴 同センター3F宿泊室]

 私が部屋に戻り、斉藤社長にメールを送った。
 すると、斉藤社長から電話が来た。

 斉藤秀樹:「娘がBOWと化したということですね?」
 愛原:「何とも御気の毒ですが、昨夜そのような動きがありましたので……」
 秀樹:「それで、娘はどのような症状が出ましたか?」
 愛原:「私も直接は見ていないのですが、背中から高圧電流を流した上、施設のドアの鍵を素手で壊したといった感じです。いわゆる、化け物に変化したわけではありません」
 秀樹:「そうですか……」
 愛原:「ここの施設の人達は『BOWの反応あり』という表現を使うんです。『感染』ではないんです。不思議ですけど……」
 秀樹:「『BOWの反応あり』ですか。その表現は正しいのでしょうね」
 愛原:「斉藤社長にお心当たりが?」
 秀樹:「いえ、何でもありません。今、娘は無事なんですね?」
 愛原:「背中に大火傷を負ったはずが、今は殆ど完治してしまったということです。これもまた不思議な話です」
 秀樹:「施設側は娘をどうするつもりですか?」
 愛原:「今日は私達の検査は中止して、娘さんやリサの検査や実験に集中したいそうです」
 秀樹:「分かりました。施設側に任せます」
 愛原:「いいんですか?」
 秀樹:「はい。その代わり、愛原さん達もどうか娘の側にいてやってください。リサさんは特に……。報酬は追加します」
 愛原:「それは構いませんが……」

 その時、部屋の内線電話が鳴った。
 高橋が挙手して電話の所に向かった。

 愛原:「……また連絡させて頂きます。……はい。失礼します」

 私が電話を切ると、高橋も電話を切った。

 高橋:「先生。あのクソ……絵恋の意識が戻ったのと、善場のねーちゃんが到着したそうです」
 愛原:「分かった。それじゃ、ロビーに行こう」
 高橋:「うっス」

 私はビジターカードを持って部屋を出た。
 因みにリサは医務室にいて、絵恋を看ている。

[同日08:15.天候:晴 同センター2Fロビー]

 部屋を出て階段を下り、2階のロビーに行くと善場主任がいた。

 善場:「おはようございます。昨夜は大変だったようですね」
 愛原:「ええ。内容は既に報告が行ってると思いますが」
 善場:「はい。是非とも当人達から直接事情を聴きたいですね」
 愛原:「医務室に行きましょう。リサもそこにいます。こっちです」
 善場:「お願いします」

 私達は医務室へと向かった。
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“愛原リサの日常” 「斉藤絵恋、BOW化の片鱗」

2020-03-24 16:03:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日02:30.天候:雨 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センターB3F研究施設入口]

 

 夜中に部屋から抜け出した斉藤絵恋。
 それに気づいたリサが絵恋を追った。
 そして背後から声を掛けたが、絵恋は全く聞こえていないかのようにそれを無視し、階段を下りたのだった。

 リサ:(一体、どこへ行く?)

 先日、早朝走り込みをしようと外に出ようとしたことがある。
 だが外出は許可されていないらしく、エントランスで管理人に止められたとのこと。
 諦め切れずにまた行こうとしているのだろうか?
 しかし外は雨だし、そもそも絵恋はスリッパをはいたままだ。

 

 リサ:「サイトー、そっちはダメだって書いてるよ!?」

 絵恋は階段を1階まで下りたが、更に下りた。
 地下階へ行こうとすると、通行止めのパーテーションがしてあって、関係者以外立入禁止の看板もあったのだが、絵恋はこれを全く無視し、更に下へ向かったのである。

 リサ:「サイトー!」

 リサが何度も呼び掛けても、絵恋は全く反応しない。
 そしてついにB3と大きく書かれた階段室のドアを開けて中に入ってしまった。
 そこは附室と呼ばれる小部屋で、もう1つ向こうにドアがある。
 『エレベーター室』と書かれていた。
 どうやらあのドアの向こうに、昨朝研究施設に向かう時に乗ったエレベーターがあるらしい。

 

 しかしそこはさすがに鍵が掛かっていた。
 絵恋はドアノブに手を掛け、ガチャガチャやっているが、全く開く気配が無い。

 リサ:「サイトー、ここはダメだよ。早く戻ろう」

 やっとリサが後ろから絵恋の肩を叩こうとした時だった。

 守衛A:「こら!何をやってるんだ!」

 後ろから警棒を持った守衛がやってきた。
 ここに入る時に手荷物検査やら身体検査をやった守衛所にいた守衛達の誰かだろう。
 警察官よりは刑務官に近いデザインの制服を着ていた。

 守衛B:「ここは立入禁止だぞ!」
 リサ:「ご、ごめんなさい。サイトー、早く戻ろう!」

 リサが絵恋の肩を掴んだ時と、絵恋がバキッとドアノブを壊してドアをこじ開けるのは同時だった。
 しかも!

 リサ:「!!!」

 この部屋を映す防犯カメラがそれで壊れたという。
 防犯カメラが最後に映したのは、強く光る絵恋の背中。
 そして、それに弾き飛ばされるリサと守衛2人であった。

 守衛A:「ぐわっ!」
 守衛B:「ぎゃっ!」

 正確には弾き飛ばされたリサの直撃を受けたのが守衛A、絵恋から放たれた高圧電流をリサや守衛Aから貰い受けて感電したのが守衛Bといったところだ。
 防犯カメラが壊れたのは、絵恋から放たれた高圧電流のせいである。

 リサ:「サイトー……!」

 リサは咄嗟に第0形態から第1形態に変化した為、大きなダメージを受けることはなかった。
 それでも、動きを再開させるのに少し時間が掛かったくらいだ。
 当然こういう展開になって、施設内が静かであるはずがない。
 館内に警報が響き渡った。

 リサ:「サイトー!何やってるの!やめて!」

 絵恋はエレベーター室から研究施設へ行く電子ロックのドアを壊そうとしていた。

 絵恋:「呼んでいる……呼ンデイル……!」
 リサ:「サイトー!」

 リサはサイトーの肩を掴んだ。

 絵恋:「邪魔スルナ……!」

 振り向いた絵恋は辛うじて人間の姿を保っていたものの、その目は赤く鈍く光っていた。

 リサ:「サイトー!」

 リサは絵恋を平手打ちした。

 絵恋:「ぎゃっ……!ぎゃああああああっ!!」

 恐らくリサに高圧電流を放つ直前だったのだろう。
 リサに平手打ちされてバランスを崩した絵恋は仰向けに倒れたが、リノリウム張りの床では電気を逃がすことができないのだろうか。
 自分が感電してしまった。

 守衛C:「おとなしくろ!抵抗したら射殺する!」

 先ほどの守衛達と違い、防弾チョッキにヘルメット、そしてショットガンを装備した守衛達が駆け付けて銃口を向けられた。
 リサにはショットガンどころか、マグナムすら小石が当たる程度なのだが、リサは両手を挙げた。

 リサ:「私はサイトーを止めただけ。そのサイトーも今は動かない」
 愛原:「リサ!第0形態に戻れ!」

 浴衣から私服に着替えた愛原達も駆け付けた。

 リサ:「うん」

 リサは言われた通り、第0形態に戻った。

 愛原:「これでリサに関しては危険はありません!」
 守衛D:「しかし一応、拘束させてもらいます」
 リサ:「!」

 リサは後ろ手に手錠を掛けられた。

 守衛E:「こっちが元凶だ!慎重に取り扱え!」
 守衛F:「はい!」
 高橋:「やっぱあのクソビアン、何か怪しいと思ってたんですよ!」
 愛原:「そう言うなって。リサもどうして俺に言わなかったんだ!」
 リサ:「ごめんなさい……」
 高野:「まあまあ、先生」

 これで愛原達は朝まで眠ることができなくなってしまった。

 リサ:「サイトーがBOWだったなんて……」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「ちっ、やっぱりそうか。先生、今のうちに射殺しておいた方がいいですよ」
 愛原:「今の俺達にその権限は無い」
 リサ:「お願い。サイトーは殺さないで」

 リサの懇願に、この場ですぐ頷く者はいなかった。
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