報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「前泊」 3

2020-03-16 20:16:18 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月4日22:00.天候:雨 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター3F宿泊室]

 外は強い雨が降っていた。
 どうやら超絶暖冬であったようで、今回は雪を見る事はなかったな。
 これではスキーワックスも売れず、雪で商売する人達は大変なことになっただろう。

 愛原:「はい、乾杯」
 高橋:「乾杯っス」

 私達は風呂から上がると、高野君には内緒で風呂上りのビールをもう一杯飲んでいた。
 夕食の時とは別のおつまみを購入することも忘れない。
 あの時は柿の種とかピーナッツだったが、他にさきいかもあったのでそれを購入した。
 風呂に入ると汗をかいて体内の塩分が失せてしまうからな、さきいかの塩味で塩分補給だ。
 研修所とはいえ、ビールの自販機があって助かった。
 そこで缶入りや箱入りのおつまみも売ってるからな。

 高橋:「明日は何時に起きますか?」
 愛原:「7時くらいでいいだろう。善場主任は9時に到着するというし、朝食も7時から9時までみたいだ」
 高橋:「分かりました。やっとまともな飯が食えそうですね」
 愛原:「まあな」

 最後の晩酌が終わると、私はトイレに行った。
 部屋には洗面台が備え付けられているが、さすがに1つしか無いので、歯磨きは先に高橋に使わせることにした。
 因みに使い捨て歯ブラシなどのアメニティも備え付けられていないので、これも持参しなければならない。

 愛原:「ふう……」

 トイレは無機質な空間ながら、そんなに暗くて汚いわけでもない。
 便器は最新型ではないが、一応はセンサー式だし、個室を見てもウォッシュレットになっている(家庭用みたいにタンクに水を溜め、そこに付いているレバーを押して流すタイプ)。
 洗面台もセンサー式で、水を出すとすぐにお湯に変わった。

 愛原:「最近の合宿所ってこんな感じなのか……。俺が学生の時は、もっと古くて暗くて怖い所だったんだがな……」

 学生向けの合宿所と、社会人向けの合宿所の違いだろうか。
 トイレから出ると、向かいの女子トイレのドアからリサが出て来た。

 リサ:「あ、先生」
 愛原:「何だ、まだ起きてたのか」
 リサ:「もうすぐ寝るところ」
 愛原:「そうか。高野君は何時に起きるって?」
 リサ:「6時半だって」
 愛原:「6時半?そりゃまたどうしてだ?」
 リサ:「高野さんが、『朝食は7時から』だって言ってた」
 愛原:「そうだな。7時から9時までだ」
 リサ:「6時半に起きて、朝の支度を30分でやればちょうどいいからって」
 愛原:「なるほど。高野君は朝食開始時間に合わせたか」

 私は朝食時間中に行けば良いと思っていたが、よくよく考えてみれば善場主任が早く来る可能性も有り得る。
 そう考えると、さっさと朝食は済ませた方がいいのかもしれない。

 愛原:「分かった。俺達もその時間に起きるとしよう」
 リサ:「高野さんに伝えとく。……愛原先生」

 リサは照れ臭そうな顔を浮かべた。

 愛原:「何だ?」
 リサ:「ちょっと顔近づけて」
 愛原:「んん?」

 私は少し屈んで、リサの頭と同じ高さまで頭を下げた。
 するとリサ、私の唇に軽く自分の唇を重ねた。

 愛原:「!?」
 リサ:「『おやすみのチュー』だよ」
 愛原:「お、お前なぁ……」
 リサ:「おやすみなさい」

 リサはパタパタと自分の部屋に戻って行った。
 うーむ……ああいうのも、学校で教わって来るのだろうか?

 高橋:「あ、先生。洗面台空けておきました」
 愛原:「ああ、すまない。もう歯磨きはいいのか?」
 高橋:「はい。ソッコーで済ませました」

 私が部屋に戻ると、高橋は御丁寧に自分が使った後をタオルで拭いていた。

 愛原:「高橋、明日の起床時間は6時半な?」
 高橋:「6時半ですか?」
 愛原:「ああ。隣の高野君達がその時間に起きるらしいから、俺達もその時間で」
 高橋:「なるほど。おおかた、朝飯の開始時間に合わせるってところですかね」
 愛原:「まあ、そういうことだな」
 高橋:「懐かしいですよ。俺が収監されてた時の起床時間がそれでしたからね」
 愛原:「それでお前、いつも6時半に起きてるのか?」

 私より先に起きて朝食の準備をしてくれているのだが、10代からの習慣らしい。

 高橋:「俺も便所行ってきます」
 愛原:「おーう。カードキー忘れんなよ」
 高橋:「分かってます」

 何故かこの研修所の部屋のドア、ホテルみたいにオートロックになっている。
 これが無いと締め出される寸法だ。
 多分このビジターカードは、指定された宿泊室のドアしか開ける権限が与えられていないのだろうな。
 一番権限の弱いカードだ。
 ま、ビジターカードなんてそんなもんだ。
 施設によっては、カードキーの機能すら無い場合もある。

 高橋は暫く戻って来なかった。
 トイレに行ったついでに喫煙所で一服しているのかもしれない。

 高橋:「戻りましたー」
 愛原:「遅かったな。ついでに一服してたのか?」
 高橋:「そうっス。そしたら、あのレズビアンが絡んで来やがりまして……」
 愛原:「子供相手に本気になるなよ?」
 高橋:「分かってます。ていうか、ケンカ売られたわけじゃないんです」
 愛原:「どういうことだ?」
 高橋:「何かあいつ、家のメイドとラインやってるらしくて……」
 愛原:「別にいいじゃないか。それがどうした?」
 高橋:「何か、メイドが俺とラインやりたがってるって言うんですよ」
 愛原:「それは、あれか?東京の方のマンションで、絵恋さんの専属メイドをやっているっていう……」
 高橋:「そうですそうです」
 愛原:「出発前にもお前に声を掛けてたからな。お前のことが気になるんじゃないの?」

 私は笑みを浮かべて言った。
 高橋は自称ゲイだが、見た目は本当にイケメンだからな。
 女性の方から寄って来ても、何の違和感も無い。

 高橋:「俺には迷惑ですがね」
 愛原:「いいから、友達申請くらい受けてあげたら?」
 高橋:「いや、何か違和感あるんス、あいつ」
 愛原:「どういうことだ?」
 高橋:「あいつ……俺と似たような臭いを出してやがりまして……。もしかしたら、あいつも収監歴があるのかもしれませんよ?」
 愛原:「まさかー?前科者を差別するのは良くないけど、俺はともかく、あの天下の斉藤社長が自分の愛娘の世話係にそんな前科者を付けるかね?」
 高橋:「いや、分かりませんけど。こんな前科者の俺を弟子兼助手にしてくれて、俺的には先生にマジでパなく感謝してるんです」
 愛原:「そりゃどうも」
 高橋:「俺は収監前、やっぱ前科者の女と絡んだことがありまして、そいつに臭いが似てるんですよ」
 愛原:「ふーん……。じゃあ、お前と同じくらいケンカが強いのかね?」
 高橋:「ケンカっつーか……。俺はこう見えても、相手に血しぶきは噴かせても、殺しまではやってませんよ?」
 愛原:「知ってるよ」
 高橋:「あいつからはそれ以上の『血の臭い』がしたんです」
 愛原:「気のせいだろ?それってつまり、殺人……」
 高橋:「殺しをやっても、未成年なら死刑にならないっスからね。俺がケンカで収監される前、そういう女と会ったことがあって、それで何となくそうかなって思ったんです」
 愛原:「何となくだろ?気のせいだよ」

 確かにあのメイドさん、どこか陰があるような感じはした。
 それは私も探偵という仕事をしているし、その前は警備員として人を見る仕事を長年していたから、高橋の感覚は分からなくもない。

 高橋:「そうっスかねぇ……」
 愛原:「まあ、アレだ。まだあのメイドさん、名前も知らないんだからさ、明日絵恋さんに名前を聞いて、それから友達申請を受けるかどうか決めよう」
 高橋:「はあ……」

 今夜はそれで話を終わりにし、私達は部屋を消灯してベッドに入ったのだった。
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“私立探偵 愛原学” 「前泊」 2

2020-03-16 15:07:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月4日20:00.天候:雨 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター3F宿泊室→1F小浴場]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は泊まり掛けの出張初日だ。

 高橋:「先生、何か雨が強くなって来ましたよ?」
 愛原:「山の天気は変わりやすいって言うからな。どうせ俺達、しばらくは外に出ないんだ。気にすることもないだろう」
 高橋:「まあ、そうっスね」

 私と高橋は2つある2段ベッドのうち、下段だけを使うことにした。
 この2段ベッドには開放型B寝台車のようにカーテンが付いていて、閉めればちょっとした個室気分だ。
 カプセルホテルのカプセルを、もう少し開放的にした感じ。
 枕元には読書灯があり、コンセントも1つ付いていた。
 そして何よりこの施設、Wi-Fiが飛んでいる。
 しかも室内にその接続の仕方が書いてあることから、利用者が自由に使っていいらしい。
 この施設の地下には秘密研究所があるとのことだが、上の研修センターにいる分には、まるで本当にそれがあるような印象は受けない。
 もっとも、それが狙いなのだろうが。
 と、そこへ部屋のドアがノックされた。

 愛原:「はーい!」
 高橋:「あ、俺出ます」

 高橋が部屋のドアを開ける。

 高野:「お風呂いいよー」
 高橋:「何だ、アネゴか。先生を待たせやがって。本当は先生は一番風呂だぞ?」
 高野:「その先生が私達に『先に入っていい』って仰ったから、お言葉に甘えただけだよ。何か文句ある?」
 高橋:「その先生の有り難いお言葉を固辞してこそ、真の弟子……」
 高野:「私はただの事務員で、先生の弟子でも助手でもないから」

 もっとも、いざって時には猪突猛進タイプの高橋をいなしてくれる役割を担ってくれることもある。

 リサ:「先生と一緒に入りたかった……」
 絵恋:「リサさん、私で満足してーっ!」

 よく見ると女性陣は浴衣ではなく、自前の寝巻を着ていた。
 いや、室内には浴衣もあるんだ。
 私達はしっかりそれに着替えていた。
 リサと絵恋さんは学校のジャージだし、高野君もスウェットだ。

 愛原:「あれ?キミ達、浴衣じゃないんだ?」
 リサ:「先生が『合宿所みたいな所に泊まる』って言うから……」
 絵恋:「去年の秋、学校の野外活動で合宿所に泊まった時は学校のジャージが指定されてましたから……」

 うーむ……私の例えを真に受けてくれるなんて、そろそろ大人びる年頃だろうに、何て素直なコ達なんだろう。
 願わくば、その素直さに付け込む悪い大人に騙されないようにしてもらいたいものだ。
 特に、絵恋さんは。
 リサは……申し訳ないが、既にその被害者だから、人間を辞めさせられてしまったのだろう。

 高野:「私はいつでも寝込みを襲われてもいいようにしたわけですよ。先生達こそ、大丈夫なんですか?」
 愛原:「いや多分、大丈夫だと思うが……」
 高橋:「いざとなったら、俺が先生を守ってみせるぜ!」

 高橋が勇ましいことを言ってくれるが、大抵今のうちに勇ましい言葉を言うヤツほど、事件が発生した際は意外と役に立たない法則だ。

 愛原:「まあ、とにかく俺達も風呂に入ろう。22時までだからな、あと2時間しか無い」
 高橋:「はい」

 因みに浴衣はあるものの、タオルなどは無いので、これは自前で用意しなければならない。
 ボディソープやシャンプーなどは、備え付けられているとのことだが。

 私と高橋はタオルを持ち、部屋備え付けのスリッパを履いて小浴場へと向かった。
 普通は途中にある階段を使って乗り降りしなければならないのだが、私はふとその奥にあるエレベーターが目に付いた。
 あれが地下研究所に向かうというエレベーターなのだろう。
 見た目はただの何の飾りっ気も無いエレベーターだが。
 表向きは、この研修所を利用する身体障がい者のバリアフリーの為だという。

 愛原:「試しに乗ってみよう」
 高橋:「あ、はい」

 私は試しにボタンを押してみた。
 もしかしたら電源が切られているかもしれないと思ったが、下のボタンを押すとちゃんとランプが点灯した。
 しかし、このエレベーターには、カゴが今何階にいるかの表示が無い。
 しばらく待っていると、ランプが消えてドアが開いた。

〔3階です。下に参ります〕

 愛原:「!」

 乗り込んでみると、反対側にもドアがあった。
 もちろん、それ自体は何も珍しいことではない。
 駅のエレベーターなどにはよくあるタイプだ。
 問題はどの階に着いた時、反対側のドアが開くのだろうということだ。
 少なくともフロントのある2Fでは、今乗り込んだ側のドアが開くはずである。
 全部がそうだと思っていただけに、反対側にもドアがあることは意外だった。

〔ドアが閉まります〕

 高橋:「先生、反対側にもドアがありますね?」
 愛原:「そうだな」

 だが恐らくその反対側のドアは、地下階で開くものではないかと思った。
 何故なら、今乗り込んで来た側と反対側では根本的に違うものがあったからだ。
 さっき乗り込んだ側には、ボタンが1階から屋上までしかない。
 しかし反対側には、どうでも良い注意書きの紙に隠されるようにして、地下階のボタンがあった。
 貼り紙に隠されているので、その下にボタンがあるかどうかは本来分からないのだが。
 そしてもう1つ。
 これは世界探偵協会日本支部の入っているビルの貨物用エレベーターにもあるのだが、ボタンの列の下にカード読取機がある。
 恐らくこの読取機に権限のあるカードをかざさないと、地下階へのボタンが押せないのではないだろうか。
 私は試しに、貼り紙の上を指でなぞってみた。
 すると、やはりボタンの感触があった。
 それを押してみる。

〔ランプの点灯しない階には止まりません〕

 というアナウンスが流れた。
 そして試しに、今度はフロントで渡されたビジターカードを当ててみる。
 だが、ピピピッというエラー音が鳴って、読取機のランプが赤く点滅した。
 つまり、このカードは権限が無いということだ。
 なるほど、考えたものだ。
 やはり罷り間違って、研究施設に迷い込むということは無さそうだ。
 明日、権限のある善場主任の引率で向かうしかないということだな。

〔ドアが開きます。1階です〕

 私の思った通り、地上階は先ほど乗り込んだ側のドアしか開かないようである。
 1階に着床してドアが開くと、大浴場と小浴場があった。
 大浴場の入口は電気が点いていなかったが、小浴場の方は電気が点いていた。
 本当に大人数で泊まる際には両方稼働させ、しかも男女別にするようで、ドアの所には今はひっくり返されているものの、『女性用』という表示もあった。
 男女比によって、大浴場と小浴場を男湯・女湯に分けるようである。
 私達は今稼働している小浴場へ入った。
コメント (3)
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