報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「最終日の夜」

2020-03-29 19:45:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日20:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター1F体育館]

 管理人:「そろそろ終了の時間ですので、片付けの方お願いします」

 鍵束を持った年配の管理人がやってきた。

 リサ:「えっ、もう!?」
 管理人:「はい」
 絵恋:「1時間だけ……」
 高橋:「運動時間1時間か。少刑を思い出すぜ」

 少刑とは少年刑務所のこと。
 高橋は少年院を出ても尚、暴行・傷害事件を起こしたことが悪質と判断され、そこに送られた。
 高橋曰く、御礼参りに来たかつての敵対グループメンバーを返り討ちにしてやっただけだとのことだが……。
 高橋のことだから、半沢直樹の言っているようなことを拳でやってしまったのだろう。

 愛原:「いいから、早いとこ片付けだ」

 私は殆ど見ていただけだからいいが、激しい運動をしたからか、他のメンバーは汗ばんでいる。
 こりゃ早いとこ風呂に入らないと風邪を引いてしまうな。

 愛原:「ん?」

 私が違和感に思ったのはJC2人の方だった。
 高橋と高野は普通に汗ばんでいるだけなのだが、JC2人は汗ばむどころか、汗だくである。
 今が真夏なら、あれでもおかしくない。
 しかし今は初春だ。
 まだまだ朝晩は寒い。
 ましてやここは、神奈川県と山梨県の県境だ。
 東京西部だって寒い所なのに、そこより更に西の山間部にある。
 もちろんあのJC達は、高橋達よりも激しく動き回っていたということもあるだろう。
 それにしても、何だか汗をかき過ぎのような……?

 愛原:「2人とも、片付けはいいから先に風呂に入って来るんだ。このままじゃ、風邪を引いてしまう」
 リサ:「うん、分かったっ」
 高橋:「即答かよ!少しは申し訳無さそうにしろ!」
 愛原:「まあまあ」
 高橋:「てかこいつら、もう人間じゃないんだから風邪なんか引かないんじゃないスか?」
 愛原:「リサはともかく、絵恋さんに失礼だぞ、それは」
 リサ:「サイトーはまだ人間だよ」

 一番いいのはアメリカの政府エージェント、シェリー・バーキン氏のような感じだろう。
 人間でありながらGウィルスの良い所だけを体内に残し、驚異的な回復力と身体能力を手に入れている。

 愛原:「ついでに高野君も彼女達と一緒に風呂に入りなよ」
 高野:「すいません」
 高橋:「アネゴもかよ」
 高野:「女湯に一緒に入れるの、私だけじゃん。それにあの子達の服も洗いたいし」
 愛原:「服?」
 高野:「今日帰る予定でしたから、替えの服がもう無いんですよ。コインランドリーがあるそうなので、それを借りて夜のうちに洗濯しようかと」
 愛原:「なるほどな」

 ついでに乾燥機もあるらしい。

 愛原:「俺はスーツだし、ファブリーズさえあれば何とかなるレベルだからな」

 服に掛けるブラシも部屋備え付けである。

 高橋:「男の旅は、替えのパンツありゃ何とかなるもんです」
 愛原:「“青春18きっぷ”ユーザーよりも軽装だな」

 そこで私はふと気が付く。

 愛原:「ジャージ洗っちゃったら、寝巻はどうするんだ?」
 高野:「今夜のところは浴衣を着てもらいますよ。Sサイズもあるようですので」
 愛原:「ほお……」

 一応あったのか。

[同日21:00.天候:晴 同センター3F洗面室]

 そうは言っても、私のワイシャツや下着も残り1着しか無い。
 念の為、ここで洗うことにした。
 行って見ると既に乾燥機が回っていることから、高野君達が洗濯しているのだろう。
 乾燥機の丸い窓を見ると、リサ達のジャージも見える。

 高橋:「先生、1回200円ですって」
 愛原:「比較的安い方なのか、これは?」

 ここ最近、コインランドリーなんて使わないからなぁ……。

 高橋:「俺のパンツと一緒に洗ってあげますよ、先生」
 愛原:「大したこと言ってるわけじゃないのに、何故かキモく聞こえる発言」
 高橋:「え、何スか?」
 愛原:「いや、何でも無い」

 私は洗濯物を洗濯槽の中に入れた。
 洗剤もまたここで売っている。

 愛原:「そういえば少年院とかじゃ、洗濯も作業の1つなんだって?」
 高橋:「そうッス!俺もやらされましたよ!」

 だから高橋、アイロン掛けなんかも上手なのか。

 愛原:「そこは女子少年院とかと同じなんだろうなぁ」
 高橋:「だと思いますよ」

 取りあえず洗濯機を先に回し、私達は風呂に入りに行くことにする。
 風呂から上がって、あとは洗濯物を乾燥機に掛ければいいな。

 愛原:「少年刑務所だと、殺人犯とかもいただろ?」
 高橋:「いましたねぇ」
 愛原:「そういう奴は警戒されるか。何しろ人殺しだからな」
 高橋:「でもやっぱり嫌われてたのは、性犯罪者と放火魔でしたよ。あとはヤーさんのシマ荒らししてた奴とか」
 愛原:「全部ヒくわー」
 高橋:「性犯罪者は彼女持ちや既婚者が多くてですね。ぶっちゃけ、女に困っていたわけじゃないのにやらかしてるんスよ。そういうのも軽蔑の理由ですよね。あと、放火魔はほぼ精神病なんで要注意人物ですよね。ヤクザのシマ荒らしなんかは、荒らされた側も一緒に収監されてる場合があるんで、思いっ切り空気が冷えます」
 愛原:「なるほどな」

 こいつの少年院や少年刑務所時代の話、たまに参考になることがあるからなぁ……。

[同日22:00.天候:晴 同場所]

 風呂から上がった私達は再び洗面室に行くと、洗濯機の所に行った。
 すると、何故かそこに浴衣姿のJC2人がいて、洗面所の前で歯磨きをしていた。
 洗面台自体なら部屋にもあるのだが。
 それ以外にもここにあるのは、恐らく大勢で泊まった時に部屋備え付けのだけだと足りないからだろう。

 リサ:「あ、先生」
 愛原:「おう、2人とも。今夜はここで歯磨きか?」
 リサ:「うん。部屋の洗面台、高野さんが使ってるから」
 愛原:「そっか」

 高橋は洗濯機から私達の洗濯物を出すと、それを乾燥機に移そうとした。
 洗濯機の数と比べて乾燥機は少ない。
 これは部屋か外に干すことも視野に入れてのことだろうか。

 高橋:「おい、乾燥終わったんなら、早いとこ持って行けよ」
 リサ:「はーい」

 リサは乾燥機の蓋を開けると、そこから乾燥していた服を取り出して洗濯籠に入れた。
 それから何を思ったか、その中からショーツを取り出すと、私達の前で浴衣を捲くってはいた。
 ノーパンだったのか!
 あ、いや、待てよ。
 替えの服が無いということは、下着も無いということか!
 驚いたのはそれをリサだけでなく、絵恋さんも特に気にせずにやったことだ。

 愛原:(……これは俺から善場主任に言っといた方がいいのか?)

 実は思い当たることがある。
 BOWは例え人間そのものの姿をしていたとしても、中身がやはり通常と異なることが多い。
 2017年アメリカのルイジアナ州で起きたバイオハザードでは、特異菌に感染した農家の住人達が食人を平気でしていたこととか(それまでのゾンビなどと違い、食い殺していたのではなく、殺してからちゃんと料理して食べていた)、衛生観念の欠如、そして何より残忍な猟奇性が突出していたという。
 リサにおいては食人は自らの意思(というか彼女が主人として認めた私の言い付けを守って)で止めたが、思春期の少女ならではの恥じらいなどが明らかに欠落している。
 それが絵恋さんにも現れたということは、例え絵恋さんが人間の姿を保ち続けられたとしても、精神面ではどうしても何らかの欠如は避けられないのだろう。
 そこはリサがBOWの先輩として教えてあげられるといいのだが、何せまだ年若いし、私達が教えているくらいだ。

 高橋:「服を取ったらさっさと部屋に戻れ、痴女共が!」
 リサ:「チヂョってなーに?」
 高橋:「変態女のことだ!散れっ!」
 リサ:「……だって。戻ろ?サイトー」
 絵恋:「ええ。……あっ」

 その時、絵恋さんの浴衣の懐に入れていたスマホが震えた。

 絵恋:「うちのメイドからだわ」

 画面にはメイドさんらしき人の名前が出ている。

 絵恋:「はい、もしもし?……ああ、なに?……うん」

 絵恋さんは電話で話しながら洗濯室を出て行った。
 あれだけ見ると、とてもBOW化したとは思えない。

 高橋:「……あれが、あいつのメイドの名前ですか?」
 愛原:「そうみたいだな。それがどうかしたか?」
 高橋:「俺……あいつと昔、会ったことがあるかもしれません」
 愛原:「ほお、そうなのか。じゃあ、積もる話もあるんじゃないのか?」
 高橋:「いや、俺には無いですよ」
 愛原:「ん?」
 高橋:「もしあのメイドが、俺の知ってる女のことだったら、ちょっと面倒なことになるかもしれません」
 愛原:「はあ?何だそりゃ」

 しかし高橋はそれ以上話さなかった。
 強いて言えば、

 高橋:「先生が俺みたいなクソ野郎を拾って下さったのと同様、あんなクソ女を拾う奴もいるんだということです」

 であった。
コメント (3)
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“私立探偵 愛原学” 「最終日の終わり」

2020-03-29 16:02:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日18:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター2F食堂]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 本来なら取るべきではないはずの夕食を私達は取っている。
 今日はハンバーグ定食が出た。

 愛原:「2人とも、今日の実験ご苦労さん。実験ばかりで疲れただろう。善場主任が、この本館の隣にある体育館を開放してくれた。食後はそこで自由に運動していいそうだ」
 リサ:「おー、気晴らしになりそう。サイトー、バレーやろ!それともバスケ!?卓球!?」
 絵恋:「私は……何でも」

 恐らくはまあ、彼女らの運動能力を見る為の実験も兼ねているだろうな。
 因みに今日の実験の最中、絵恋さんが人外化したり暴れ出すというようなことはなく、むしろずっと眠ったままだった。
 そして、今は普通に人間の姿に戻っている。
 しょうがないことだが、寝過ぎてダルいといった感じだ。

 高野:「寝過ぎたせいで、夜眠れないかもね。いっぱい運動した方がいいかもね」
 リサ:「うん」

 その辺はリサの方が楽しみらしく、今日は絵恋さんが異常無しということで、リサの方が食欲があった。

[同日19:00.天候:晴 同センター1F体育館]

 体育館へは本館1階から行けた。
 医務室の前を通ると非常口があるが、非常時以外はカードキーで解施錠することになる。
 それまで私達のビジターカードではその権限が無かったが、善場主任の計らいということもあり、私達にもそこへのアクセス権限が与えられた。
 体育館は学校のそれより一回り小さいくらい。
 バスケットゴールもあったし、バレーボールのネットもあった。
 元々学校のジャージを着ていたリサと絵恋さんだったから、ボールさえあればすぐに運動できた。
 で、高橋と高野君も……。

 高橋:「今度こそ決着付けてやんぜ!」
 高野:「やれるもんならやってみな!」

 卓球台を出してきて、卓球に興じていた。
 超高速ラリーが続くのは見え見えだ。
 少女達は途中で暑くなったのか、ジャージの上下を脱いでTシャツにショートパンツ姿になった。
 Tシャツはさすがに寒いのではないかと思うが、意にも介さない彼女達を見るに、それはただ単に若いからなのか、或いはBOWだからなのか……。
 さすがに今時分、下はブルマーではなくショートパンツなんだな。

 善場:「愛原所長、ちょっとよろしいでしょうか?」

 私が彼らの様子を見ていると、後ろから善場主任が話し掛けて来た。

 愛原:「あ、はい。何でしょうか?」
 善場:「斉藤絵恋さんに現れているBOWの特徴ですが、どうやらCウィルスとTアビスのワクチンが体内で合成されてできた結果のようです」
 愛原:「ワクチンを接種してBOWになるとは、皮肉というか何と言うか……」
 善場:「現実は映画と違うということでしょう。そういったメディアの世界では、ワクチンさえ投与すれば、あとはもう安心的な流れになっておりますが……」
 愛原:「それで?」
 善場:「Tアビスの感染者は、生きている人間の血を求めるウーズというクリーチャーに変化するわけですが、斉藤さんの場合、それをCウィルスが阻止して人間の姿を維持させているようです。ところが、Cウィルスの方がちょっとよく分からなくて……」
 愛原:「分からない?」
 善場:「ええ。斉藤さんに現れた特徴の1つに、体内から高圧電流を放出するというものがあります。これはTウィルスとGウィルスを合成させた物を投与すると現れる特徴なんですが、斉藤さんにはGウィルスが投与された形跡はありませんでした」
 愛原:「そうなの!?」
 善場:「Gウィルスは基本的に『感染』するものではなく、遺伝子操作の為に投与する『薬剤』に近いのです。かのアメリカ政府エージェント、シェリー・バーキン氏はそれを父親で開発者のウィリアム・バーキン博士に投与され、BOW化しそうになった為にワクチンを投与したとされています。ですが、本来の疫病の感染とは違いますので、そのワクチンはそれ以上製造されなかったようです。なので、さしもの斉藤社長でも手に入らず、令嬢の絵恋さんに投与させることはできなかったものと考えられます」
 愛原:「それじゃ、高圧電流の原因は?」
 善場:「もう1つあります。それが強化型Cウィルスです」
 愛原:「強化型Cウィルス?」
 善場:「従来のCウィルスにその抗体を持つ人間の遺伝子情報を混合させ、更に強化したCウィルスです。ネオ・アンブレラの黒幕で、とある秘密結社のボスでもあったアメリカ大統領補佐官が、それをネオ・アンブレラの科学者カーラ・ラダメス博士に投与され、香港で非業の死を遂げたことは有名です」
 愛原:「あれは完全にネオ・アンブレラの内ゲバだろう?アメリカや香港を巻き込んで、とんでもない奴らだったな」

 そういうわけで、BSAAやアメリカ政府エージェントなどの活躍により、ネオ・アンブレラもまた潰された。
 潰されたというよりは、ほぼ内部崩壊しかかっていた所に止めを刺してやったといったところか。
 尚、このネオ・アンブレラは現在の“青いアンブレラ”とは無関係とされている。

 愛原:「絵恋さんはその強化型Cウィルスを投与されているということなのか?」
 善場:「恐らくは……。あくまでもCウィルスの強化型というか改良版ですので、検査では見分けが付かないのです。ただ、強化型Cウィルスを投与したBSAAの副隊長がBOW化しつつも、強い意志を持ってその支配を死の間際まで避けられたという報告があります。で、その副隊長は正に今の絵恋さんみたいに高圧電流を放つことで、敵を倒していたとのことです」
 愛原:「ふーん……。その副隊長さんは?」
 善場:「殉職しました。さすがにBOW化が自分では止められないと悟り、自爆するネオ・アンブレラの施設に留まったそうです」
 愛原:「しかし絵恋さんはあの通り、人間の姿のままだ」
 善場:「そうですね。CウィルスとTアビスがちょうどバランス良く、お互いを牽制し合っているようです」
 愛原:「そのバランスが崩れたら?」
 善場:「あのリサ・トレヴァーよりも恐ろしいBOWとなり、新型コロナウィルスのパンデミックより恐ろしいことが起きるでしょう」
 愛原:「最悪、霧生市の再来が起きるわけか……。今は綱渡りの状態だな」
 善場:「そういうことです」
 愛原:「リサだって最初はそういう状態だったはずだ。しかし今は綱ではなく橋が架かり、その橋も更に強化されて手すりも付いて安全な状態になっている。絵恋さんもそういう状態にできないかな?日本政府としても、ホワイトなBOWが1人より2人いた方がいいんじゃないの?」
 善場:「それは同意見です」

 日本は非核三原則のせいで核兵器を持つことができない。
 しかし周辺国からの脅威は重大だ。
 核兵器並みの力があって、更にスパイ活動もできるBOWは正に打ってつけなのである。

 善場:「もしかしたら、斉藤さんのBOW化を極力抑えられる薬を開発できるかもしれません。明日もう一日、お時間を頂ければと思います」
 愛原:「分かりました。……ん?分からないというのは?」
 善場:「もし仮に斉藤さんに強化型Cウィルスが投与されたのだとしたら、それをしたのは誰なのだろう?ということになります」
 愛原:「父親の斉藤社長じゃないの?」
 善場:「それが、強化型Cウィルスは試作の段階で開発者のカーラ博士が死亡し、ネオ・アンブレラも崩壊した為に世には出ていないのです。その製造法もBSAAでは押収できておらず、実質的にカーラ博士しか製造法を知らないわけです。しかし、そのカーラ博士も死亡しました。つまり、もうこの世には強化型Cウィルスの製造法を知る者がいないということになります。にも関わらず、何故斉藤さんにそれが投与されたのかです。それが分からないんです」
 愛原:「何だか、別な意味でホラーな話になりそうだな。薄気味悪い話だ」
 善場:「ですので、調査期間ももう少し長く設ける必要がありそうです。もちろん、それまでずっとここに滞在して頂く必要は無いと思いますので、そこは御安心ください」
 愛原:「分かりました」

 おいおいおい、またキナ臭い話になってきたなぁ。
 というか、斉藤社長が国外逃亡……もとい、海外出張した理由って……。
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