報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「斉藤絵恋、夜中の奇行」

2020-03-22 23:01:36 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日22:00.天候:雨 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター3F宿泊室]

 高芽衣子:「何だか今日は疲れたし、明日も早いからそろそろ寝ちゃおうか?」

 高野は部屋備え付けの浴衣ではなく、手持ちのスウェットに着替えて言った。

 愛原リサ:「うん」

 リサも絵恋もジャージに着替えていた。
 3人は既に風呂から上がっている。

 リサ:「また雨降って来た」

 リサはカーテンを少し開けて、外の景色を見ていた。

 高野:「この辺りは天候が変わりやすいのかもね。あとは春だからというのもあるかな」
 リサ:「春?」
 高野:「よく聞くでしょ?春雨とか、春雷とか」
 リサ:「ハルサメ……シュンライ……?」

 リサは前者においては食べ物のハルサメ、後者は春菊を思い浮かべた。

 高野:「違う違う。まあとにかく、春先に雷雨が降ることよ」
 リサ:「あ、何か遠くで空が光った」
 高野:「噂をすれば何とかってヤツね」
 リサ:「停電になったりしない?」
 高野:「んー、まあ大丈夫でしょう」

 リサは自分のベッドの中でうずくまる絵恋に話しかけた。

 リサ:「どうした、サイトー?雷怖い?」
 斉藤絵恋:「か、雷なんかどうでもいいのよ……。そ、それよりも、やっぱり怖い……」
 リサ:「雷が?」

 絵恋はリサの質問に大きく首を横に振った。
 高野が察する。

 高野:「昼間の検査で、斉藤さんがBOWの反応が出たってことね?」
 絵恋:「は、はい!」
 高野:「そうねぇ……。現時点ではまだ何とも言えないけど、今まで大丈夫だったんでしょう?」
 絵恋:「ええ、まあ……」
 高野:「それがいきなり現れるなんてことは無いから大丈夫よ」

 高野は思いっ切り嘘を言った。
 少なくとも生物兵器ウィルスの感染者や被験者において、特に後者においては突然に変異することが分かっている。
 90年代のTウィルスなどは、まだいきなり化け物に変化するということはなかったが、最近の生物兵器ウィルスや特異菌にあっては即効性が明らかである。
 恐らく需要がそれを求めた結果だろう。
 リサにはどのようなウィルスが投与されて現在に至るのか、それは今回の検査と実験で明らかになるだろう。
 いや、今までのそれで9割方は分かっていたはずだ。
 ただ、恐らく残りの1割と、今後の変化に注目する必要ありという結果が出ていたことも高野は何故か知っている。
 新型コロナウィルスのワクチンを作る為というのは表向きで、やはりリサのことを(生物兵器として)もっと深く知る為の実験をしたかったのではなかろうか。
 高野はそう思っている。

 絵恋:「本当?」
 高野:「ええ。それに私は、昼間の実験については少し疑問を持ってるの。だからきっと、斉藤さんに出た結果も間違いだと思う。明日また再検査をするみたいだから、それで分かると思うね。斉藤さんはいつもリサちゃんの側にいるから、何か移っちゃったんだよ、きっと」
 リサ:「え?私のせい?」Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン
 高野:「そうは言ってないでしょ」
 絵恋:「わ、私の結果がリサさんのおかげなら、それはそれで本望ですけど……」
 高野:(あー、でも、リサちゃんが何か移したんであれば、あの結果も有り得るなぁ……)

 高野は個人的には善場のことは嫌いだった。
 同じ世代だから仲良くできるかと思ったが、善場は勘が鋭すぎた。
 時として、勘の鋭すぎる女性も同性に嫌われやすいという。
 ただ、善場の国家公務員としての立場上、嘘の結果を出して来るとも思えなかった。
 何かの間違いか、或いはガチか、そのいずれかは不明にせよ、斉藤絵恋にBOWの反応があったという話は本当なのだろう。

 高野:(善場主任、どういう意味で言ったんだろう?『感染者』として?それとも、『被験者』として?)

 前者であれば犯人はリサだろう。
 リサには持ち前のウィルスを意図的に他人に感染させる力を持っている。
 今リサは愛原のことを慕っているが、もしもそれが『獲物として』なら、明らかに愛原も危ない。

 高野:「(明日、問い質してみましょう。それに、そうでなくても再検査で分かることだけどね)とにかく、今怖がってもしょうがないよ。全ては明日分かること。明日に期待して、今夜はもう寝ましょう」
 リサ:「はーい」
 斉藤:「……はい」

 高野がまだ楽観している理由は他にもある。

 高野:(もしもあの検査結果がガチの陽性だったとしてもだよ?そういうことには真っ先に反応するリサちゃんが全く反応していないじゃない。それも疑問だよね)

 だからこそ高野は、絵恋の検査結果には懐疑的だったのだ。
 そう、今夜就寝したところまでは。

[3月6日02:00.天候:雨 同センター3F宿泊室→B3F階段室]

 リサ:「ん……?」

 リサはふと目が覚めた。
 まだ周りが暗いのは、何もベッドの横のカーテンを閉めているからだけではないだろう。
 スマホを見ると、まだ午前2時だった。
 こんな時間に目が覚めたのは、何も外の雨音のせいだけではない。

 リサ:「!?」

 部屋のドアが閉まる音がしたのでベッドの外を見ると、向かい側のベッドのカーテンが半開きになっていた。
 そこには絵恋が寝ている。
 リサが持ち前の眼力(夜目がとても利く)で絵恋のベッドを覗くと、そこは空になっていた。

 リサ:(トイレにでも行った?)

 室内にはトイレが無い。
 だからトイレは、部屋の外の共用トイレを使用することになる。
 リサは絵恋の後を追って、部屋の外に出た。
 廊下は消灯時間とはいえ、真っ暗に消されているわけではない。
 所々照明は点いていて、普通に歩く分には何ら問題無い明るさだ。
 その廊下の向こうに絵恋が歩いているのが分かった。

 リサ:「サイトー」

 リサは後ろから声を掛けた。
 しかし、絵恋は全く反応しない。
 歩を止めようともしない。

 リサ:「サイトー?」

 リサはもう一度声を掛けてみた。
 しかし、絵恋は全く無反応だ。
 そのうち、絵恋はトイレの前を通り過ぎてしまった。

 リサ:「サイトー?トイレこっちだよ?」

 だが、やっぱり反応が無い。
 もちろん後ろから手を掴んで止めることもできた。
 しかし、リサはそれをしようとは思わなかった。
 絵恋がどうして反応しないのか、そしてどこへ行こうとしているのか気になったからである。
 まあ、すぐ後ろを歩いているし、もし何かあっても何とかできるくらいの自信はあった。
 絵恋は階段室に入った。

 

 階段は上と下に分かれている。
 絵恋はどちらに行っただろう?

 1:上
 2:下
 3:しかしすぐに階段室を出た。
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