報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「美し過ぎるガイノイド」

2016-02-23 21:13:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月24日09:00.天候:晴 東京都墨田区菊川・敷島エージェンシー 3号機のシンディ、敷島孝夫、初音ミク]
(通常版三人称です)

 ピンポーン♪
〔5階です。下に参ります〕

 シンディは敷島と共にマンスリーマンションを出て、事務所へと出社した。
 その間、敷島から今日の予定を聞く。
「それじゃ、今日はミクに同行して護衛を頼む」
「了解。今日はミクの予定を入力して……」
 エレベーターを降りて、事務所内へと入る人間1人とロイド1機。
 するとそこへ……。
「たかお社長!シンディさん!」
 パタパタとやってくるミク。
 手には今朝の新聞を持っている。
「おう!ミク、おはよう。どうした?」
「この新聞のコラムに、シンディさん達のことが書いてあるんですよ」
 ミクがいそいそと新聞を開いて、コラムを指さした。
 エメラルドグリーンの爪がキラッと光る。
「なに?確認させてくれ」
「ここです」
「あー、確かに私のことが書いてあるねー」
 シンディは屈むようにして、新聞を覗き込んだ。
 金髪が垂れたので、右手で髪をかき上げる仕草をする。
 コラムの内容はここ最近、バージョン・シリーズの不具合が多発していること、それによって多大な迷惑を被っているものの、それの尻拭いを行うマルチタイプ達が美し過ぎると巷で評判になっているというものだった。
「何を今さら……。マルチタイプの存在については、前々から認知されていただろうが」
 敷島は呆れた様子になった。
「バージョン1000の件があってから、シンディさん達、注目されてますよ?」
 と、ミク。
「この前なんかも、テレビ大東京に出演させてもらった時に、向こうのプロデューサーさんから、『シンディさんはテレビに出ないのか?』って聞いてましたから」
「私は用途外だからムリだね」
 シンディは首を横に振った。
「ところが、既に紙面的にはそうもいかなくなっているようです」
 今度はKAITOがやってくる。
 敷島エージェンシーでは、唯一の成人男性ボーカロイドである。
「紙面的には?」
「これは今日発売の週刊誌“ザ・チューズデー”ですが、既にここにシンディさんとエミリーさんが……」
「ああっ!いつの間に!?」
 そこにはシロクロ写真ながら、バージョン4.0を担ぎ出すシンディとエミリーの姿があった。
 ご丁寧にもエミリーの場合、スリットの深いロングスカートの隙間から覗いたビキニショーツの“パンチラ”まで写っている。
「シンディ、少し隠しておいた方がいいかなぁ……?」
 敷島は困ったような顔をした。
「何か、ゴメン……。社長がそうしろというのなら、しばらく私、倉庫の中に隠れてるけど?」
「あの、社長」
 そこへ事務作業ロイドの一海が話し掛けて来た。
 元はメイドロボット(メイドロイド)だが、用途変更で事務作業ロイドになっている。
 その為、メイド服ではなく、事務服を着ている。
「何だ?」
「週刊“ニュース野郎”さんから電話です。シンディさんの特集をしたいと……」
「いや、だから、シンディは表に出さないって」
「ですよねぇ……。じゃあ、お断わりの返事をしておきます」
「ああ、そうしてくれ」
 一海は保留にしている電話機の前に戻った。
 KAITOは、
「ですが社長、事態は深刻です。ボクもこの前、夕刊紙の取材を受けましたが、記者さんがしきりにシンディさんの方を気にしてましたから」
 と、深刻そうな顔をして言った。
「この件も平賀先生に聞いてみるか」
 敷島は溜め息をついた。
「いちいち平賀博士に聞かないとダメなの?」
「平賀先生がエミリーをどうするかにもよるだろう?俺が勝手にゴーサイン出して、シンディはそれで良くても、エミリーはダメかもしれない。そうなると、先生に迷惑が掛かる」
「なるほどね」
「俺はしばらく、社長室にこもることになりそうだ」
「……後でコーヒー持って行くね」
 シンディもまた小さく溜め息をついた。
「ミクの出発まで、まだ少し時間あるし」
「あ、あの!わたし、1人でも大丈夫ですよ。来月からは新しいマネージャーさんも付いてくれるようになりますし」
「ミク、社長が心配しているのは、ボーカロイドだってン十億円する代物なのよ?昔、危うくリンが“誘拐”されたことがあるって知ってるでしょ?」
「そ、それは……」
 ボーカロイドがとても高価であることを知った強盗団に、鏡音リンが連れ去られそうになったことがある。
 その時は見事、敷島と鏡音レンとで強盗団を追い詰め、リンを取り返し、犯人達も警察に突き出すことに成功した。
 しかし、リンは人間ではなかった為に、強盗団の罪状は『未成年者略取誘拐』の罪ではなかった。
 最初は窃盗罪での立件だったが、敷島達が追い詰めた際、強盗の1人が激しく抵抗し、それがレンの目(カメラ)を通してメモリー(映像)として記録されていたため、それが証拠になって強盗罪での立件が可能ということになった。
「ボーカロイドはその用途から、武力を一切持たないロイドでもあるんだからね。だから、武力を持つ私が護衛についてるわけよ」
「その辺、バージョンが代行してくれればシンディさんも楽なんでしょうが……」
 と、KAITOの言葉をシンディが完結させる。
「……余計な仕事が増えるのがオチだろうね。とにかくミク、社長にコーヒー入れたら、すぐに出発するよ」
「それには及びません」
「!?」
 今度はプロデューサーの井辺がやってきた。
「初音さんは私が同行します」
「いいの?MEGAbyteは?」
「MEGAbyteは途中まで、初音さんと一緒に私の車で向かいます」
「そう」
「……で、シンディさんには1つお願いがあるのですが」
「なに?」
 井辺は眉を潜めて、茶封筒を取り出した。
「これを……」
 シンディが受け取ると、そこに入っていたのは札束!
 もちろん、野口先生でも樋口先生でもなく、ちゃんと諭吉先生だ。
 100万円くらいある。
 だが、よく見ると、何だか落書きが全ての紙幣にされていた。
 会社の住所が書いてあったり、電話番号が書いてあったり……。
「何これ?どうしたの?」
「萌のイタズラです!金庫の中に入り込んで、何をやっているのかと思えば!」
「エヘヘヘ……」
「はあっ!?あんた、何やってんの!?」
 井辺の背中から、ばつの悪そうな顔をして、妖精型ロイドの萌が顔を出した。
「いやあ、名刺代わりに万券出したら、インパクトになるかなぁって……」
「大昔の成り金じゃないんですよ!今後は絶対にやめてくださいね!」
 いつもはクールな井辺も、さすがに憤慨した様子だった。
「この会社の金庫も、三重ロックの電気錠にしたら?」
「しかしそうなると、いざとなった場合、開けられなくなる恐れが……」
「その時は私が全力でこじ開けるよ」
「まあ、シンディさんがそう仰るのでしたら、検討させて頂きます。……おっと、それでシンディさんにお願いというのはですね……」
「ええ。このお札を銀行に行って換えて来てくれってことね」
「何しろ大金ですので、強盗に襲われた場合、大変です。シンディさんなら、人間の強盗は平気だと思いますので……」
「まあ、マシンガン食らっても私は平気だけどね」
「萌も責任取って、シンディさんに同行してください」
「えーっ!?」
「指示に従わない場合、しばらく瓶の中に入って頂くことになりますが?」
「シンディ、レッツ・ゴー!」
 萌は羽音を立てて、事務所の出入口に向かった。
「あいつは……!」
「申し訳ありませんが、引き受けて頂けないでしょうか?社長の命令ではありませんが……」
「ああ、いいよ。一っ走り行ってくるよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ついでにエンジンオイルも、その金で買ってきていい?」
「どうぞ」
 ロイドが使用するオイルは、自動車のエンジンオイルと共用である。

 シンディと萌は事務所を出て、まずは最寄りの銀行に向かった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「夜回りガイノイド」

2016-02-22 21:35:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月22日22:00.天候:晴 東京都中央区銀座のとある路地裏]
(一人称を辞め、簡易版三人称にしてみます)

 警官A:「あっ、いたいた!あれか!」
 警官B:「確かに交番に電話のあったロボットっぽいですね」

 自転車で交番から駆け付けた警官2人。
 目の前には電柱に寄り掛かって座り込むバージョン4.0が1機いる。

 警官A:「ちょっと、そこのロボット君。ここで座り込んちゃダメだよ。通行の妨げになってるって、交番に連絡があったんだ。すぐに移動してくれよ」
 4.0:「キュルキュルキュルキュル……」
 警官B:「先輩、故障して動けないんじゃ?」
 警官A:「ちょっと待て。応援を呼ぼう。取りあえず、このロボットを移動させないと話にならん。署に連絡だ」
 警官B:「は、はい!」

[同日22:30.天候:晴 同場所 銀座地区のとある交番]

 シンディ:「こんばんは。身元引受人のシンディです」
 警官A:「まあまあ、お姉さん、そんな怖い顔しないで。このロボット、知ってるね?」
 シンディ:「はい。私が、かつて使役していたバージョン4.0です。間違いありません」
 警官B:「じゃあシンディさん、どうして動けなくなってるのか分かるかなー?」
 シンディ:「バッテリー切れ……ですね。本当にしょうもない」
 警官A:「どうするんだい?ここで充電させてくれと言われても困るぞ」
 シンディ:「大丈夫です。こんなこともあろうかと、予備バッテリーは持ってきてるので。すいません、すぐに交換しますので、少々お待ちください」
 警官A:「あ、ああ」

 シンディ、手際良くバージョン4.0のバッテリーを交換する。

 4.0:「134号機デス!再起動ガ完了シマシタ!おニューのバッテリー、スーバラシイ!」

 ゴンッ!(←シンディ、4.0-134号機に右フックをかます)

 4.0:「キュウ……」
 シンディ:「大変、ご迷惑をお掛けしました。申し訳ございません。後で叩き直しておきますので、どうか寛大にお願い致します」

 シンディ、深々と警官達にお辞儀をする。

 警官A:「ま、まあ、別にこのロボットのせいで何か事件・事故が起きたわけじゃないからね」
 警官B:「てか、叩いて直すのか。随分アナログだなぁ……。昔のブラウン管テレビみたい」
 4.0:「謝ッテ済メバ、ケーサツはイラナイwww」
 シンディ:「テメーのせいで謝ってんだろうがっ、くォラァッ!!」

 シンディ、4.0の首根っこを掴んで持ち上げた。

 警官B:「まあまあまあ!落ち着いて落ち着いて!交番でスーパーロボット大戦されても困るからっ!」
 警官A:「希望通り、厳重注意だけにしておくから、早いとこ連れて帰ってくれ」

[2月23日07:00.天候:晴 東京都江東区森下・敷島のマンスリーマンション シンディ&敷島孝夫]

 2DKのマンション。
 そこに敷島が単身赴任で住んでいるのだが、アメリカ人妻のアリスから浮気防止の為の監視役として、シンディが送り込まれている。
 その為、通常のワンルームではなく、2DKのマンスリーマンションを借りている次第。
 そのダイニングで朝食を取る敷島。
 作るのはシンディ。

 敷島:「そうかぁ、昨夜出動したと思ったら、そういうことがあったのか。ご苦労さん」
 シンディ:「研究目的と、『バカとバージョンは使いよう』というのは分かるけど、バッテリー残量の判断もできないで迷惑掛けてるようでは、イメージ払拭に全然なりはしないわよ」
 敷島:「財団があった頃は、それで一括面倒見てたんだけどなぁ……。今では日本アンドロイド工学会と日本ロボット工学会とに分かれてるもんだから、やりにくくてしょうがない」
 シンディ:「私は財団があった方がいいって思うな」
 敷島:「後で平賀先生に打診してみよう。多分、先生も同じことを考えてるはずだ」
 シンディ:「そうなの?」
 敷島:「きっとそうさ」
 シンディ:「どうしてそう思うの?古い付き合いだから?」
 敷島:「あれを見ろ」
 シンディ:「?」

 敷島、テレビのリモコンを操作する。
 20インチ程度の大きさのテレビがニュース番組を映し出した。

〔「……昨夜未明、宮城県仙台市の住宅街で、人型ロボットが民家に侵入するという事件があり……」〕

 画面には頭から煙を噴き出したバージョン4.0を、険しい顔をして連れだすエミリーの姿があった。

 シンディ:「ね、姉さん!?」

 シンディ、驚いた顔をする。
 そして画面は切り替わり、平賀のインタビューが流れる。

〔「これはですね、サーバーとの接続が切れたことにより、制御が効かなくなってしまったものと思われます。管理組織がしっかりしていれば良いのですが、それぞれが個人管理になってしまいましたので、自ずと管理能力に限界が出て来たものと考えられます。ですので、早急な対策が必要かと……」〕

 シンディ:「……わ、私や姉さんくらいになれば、もう自分で判断できるのにねぇ……」
 敷島:「そりゃ、50億円も掛けて製造されたお前らはな。その50分の1の製造費で作られたあのロボット達じゃ、犬並みの知能しか無いから」
 シンディ:「1億円掛けて作ったロボットの知能が犬並みかぁ……。コスパ悪いね」
 敷島:「50億円も掛けて、やっと人間と同等の知能というロイドもコスパ良くないとは思うけどな」

 敷島はズズズとシンディが入れてくれたコーヒーを啜った。

 敷島:「とにかく、仙台でもエミリーが余計な仕事してるようじゃ、平賀先生も考えるさ。今、テレビのインタビューで答えてたし」
 シンディ:「姉さんのことだから、あの4.0を半壊させることはやりそうだね」
 敷島:「いやー、逆にエミリーの前だと神妙にしてるんじゃないか?」

 敷島は犬並みの知能と表現していたが、犬も犬。
 ましてや大きさが大きさだけに、土佐犬をイメージしてもらえれば良いらしい。
 サーバーからの遠隔制御が切れたバージョン4.0というのは、リードの切れた土佐犬と同等であると……。
 シンディやエミリーのような『調教師』が対応すればおとなしいのだが……。

 シンディ:「バージョン以外にも、頭の悪いロボットは大勢いるんでしょう?さすがの私達も対応しきれないね」
 敷島:「それなんだが、いいアイディアはある。ただ、実現には多少の時間が必要だけどな」
 シンディ:「?」
 敷島:「要は、あいつらはお前達マルチタイプの言う事は聞くわけだ。人間の命令以上に」
 シンディ:「ええ。『ロボットが人間を超えることがあってはならない』と叫ぶ団体の気持ちが分かる瞬間だよね」
 敷島:「お前が言うかな……」
 シンディ:「ん?」
 敷島:「まあいい。要はあいつらに、マルチタイプが如何にもそこにいて監視しているように思わせればいいわけだ」

 シンディ、頭の中から微かに『キュルキュルキュル』という音を立てる。
 敷島の言ってる意味を理解しようとしているらしい。

 シンディ:「……どうやって?」
 敷島:「ただ単なるサーバーからの遠隔監視ではなくて、マルチタイプと同じ……何て言ったらいいだろう?」
 シンディ:「……そのサーバーに、私達のダミーがいればいいわけか。それであいつらに対し、いかにも私達が常に命令しているように思わせるってことね」
 敷島:「そう、それだ!朝から冴えてるぞ!後で平賀先生に打診してみよう」
 シンディ:(そんなことしなくても、一時的なら私達が『一斉送信』で命令でき……あ、ダメか。今のバージョン連中は一括制御じゃないもんね)

 KR団無き後、一部の個体が個人個人に引き取られたバージョン・シリーズであるが、どうも使い勝手は悪いようだ。
 元からがテロリズム用途であり、そもそもが『人間の役に立つ』というコンセプトで作られていない。
 研究用途として引き取られたのが大半であるが、マスコットとして引き取られたりした個体もいた。
 しかし、ちょっとした不具合ですぐ奇怪な行動を取るというのが問題視されていた。

 だが、その対応に当たるマルチタイプがクローズアップされ、思わぬ展開に進むことになる。
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“大魔道師の弟子” 「魔女の宅急便」

2016-02-21 23:14:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[2月21日15:00.天候:晴 長野県白馬村郊外・マリアの屋敷 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、エレーナ・マーロン]

 屋敷の上空からホウキに跨った魔女が舞い降りてくる。
「お届け物でーっす!」
「これはこれは……」
「イリーナ先生宛ての荷物だね」
 たまたまエントランスホールにいた稲生が荷受けすることになった。
「わざわざイギリスからここに?」
「まさか。台湾の大師匠様からだよ」
「今、台湾にいるの!?何しに?」
「さあ……?それより、ここにハンコちょうだい」
「あっ、ああ」
 エレーナは首を傾げた後で、稲生に伝票を差し出した。
 稲生は手持ちのシャチハタをポチッと押す。
「それじゃ……」
「あっ、ちょっと待った!マリアさんが、ついでに集荷して欲しい荷物があるんだって」
「そうなの?」
「今、呼んで来るんで!」
 稲生は大食堂に入ると、そこにある内線電話でマリアの部屋に掛けた。
「……えっ、そうなんですか?……分かりました。ちょっと言ってみます」
 稲生は電話を切った後で、
「すいません。今、マリアさんが荷造りしてる最中らしいんで、もう少し待っててもらえますか?」
「しょうがないねぇ。じゃあ、待機時間は時間料金が発生するよ」
「迎車のタクシーですか!……大食堂で待っててほしいそうです」
「あいよ」
 稲生はエレーナを大食堂に通した。
 すぐにマリアのメイド人形が茶を持って来る。
「あなたはマリアンナの所にいてやらんの?」
「それが、荷造りを手伝おうかと思ったんですが、どうも秘密の道具らしく、僕の手伝いは一切必要無いっていうんですよ」
「ふーん……。マリアンナの人形を運ぶのを頼まれてはいたんだけど……」
 マリアの魔道師としての現在のスキルは“ドール・ワーカー”、つまり“人形使い”だ。
 彼女の作るフランス人形は、色々な魔法の依り代にピッタリだということで、他の魔道師からの注文製作が多く入っていた。
「私が見る限りでは、別に他人の手が入っても大丈夫な気はするけどねぇ……」
「そうなんですか」
「ええ」
 ズズズと紅茶を啜るエレーナ。
「それにしても、何だか信じられませんね」
「何が?」
「僕がまだ大学生だった頃、あなたは僕達の敵でした。それが今や……」
「ああ、あれね。まあ、私もポーリン先生の弟子をやってる以上、先生に命令されたら従わないとね」
 エレーナが敵対していた頃、マリアの過去をバラすなどの策略でもって稲生達を攻撃してきた。
 マリアを精神的に追い詰めていったことから、妖狐の威吹からは、『イジメっ子だな、あいつ』と言わしめている。
「まあ、今は先生達も仲直りしているし、大師匠様も出て来られたから、私もおとなしくしないとね」
「大師匠様が!?何て?」
「ダンテ一門の綱領を繰り返し拝読させられた」
「それって確か、『仲良きことは美しき哉』『君は君、我は我なり。されど仲良き』だったっけ?」
 武者小路実篤の明言だが、何故かそれを一門の綱領に掲げているダンテであった。
「そういうこと」
「つまり、『ケンカしないで仲直りし、これからは仲良くやりなさい』ってことか」
「まあ、そういうことだね」
「エレーナも実力派だからなぁ……」
 茶菓子として出されたクッキーを、使い魔の黒猫に食べさせるエレーナ。
 ますます魔女宅だ。
「魔法でガチでマリアンナとケンカしたら、私が勝つ自信があるよ。……まあ、マリアンナからケンカ売ってこなけりゃ、私も何もしないけど」
「だよなぁ……」
「ただでさえ大師匠様から目ェ付けられたのに、ここで変なケンカしたのがバレたら、また謹慎だし」
「また?」
「あ、いや……」
 ただ、マリアに勝てる自信が過剰気味になり、それで詰めを甘くしてしまったり、稲生も敵に回したことで福運がゼロになり(稲生の魔法は、無意識のうちに敵の運力を吸収してしまうというものらしい)、不運に襲われて負けるということを繰り返した。
「とにかく、魔道師としての本分からして、同門とケンカは違うってこと」
「まあ、そうだね」

 30分後、ようやくマリアが荷物を持って来た。
「お待たせー」
 重そうな荷物をメイド人形に運んでもらっている。
「遅ーい!じゃあ、待機時間料金込みで運送料は……」
「ちょっと待て!うちのアールグレイ飲み干した上、取って置きのクッキーまで食べ尽して何言ってやがる!」
 マリアはエレーナを睨みつけた。
「でも、あなたの彼氏も一緒に食べてたよ?」
 エレーナは何気に稲生に罪をなすり付けようとした。
「いやいや、エレーナさん、エレーナさん。半分以上は明らかにエレーナさんとクロが食べてましたよ?」
「この泥棒猫!」
「ああッ?」
 マリアの罵声にエレーナのこめかみがピクッと動く。
 そして、目つきが“魔女”の目になった。
 瞳孔が収縮し、瞳の色が濁った色(エレーナの瞳はグリーンだから、濁った緑か)になる。
「お茶とお菓子は自由に食べていいって言ってたよね?」
「私の人形が持って来たヤツだけだ!」
「そんなの知らないし、聞いてないし!だいたい、アンタは要領が悪いのよ!荷物くらい先に用意してれば、私もすぐに出発したのに!」
「うるさい!そんなの関係無い!」
「とにかく、クロをバカにしたことは謝ってもらうから」
「意地汚く食い散らす猫は泥棒猫だろ!泥棒猫!もう1回言ってやろうか?泥棒猫!」
「く……く、かっ……!」
 エレーナはギリギリと歯軋りした。
「絶対、許さないからな!」
「やめなさい、2人とも!ケンカしちゃダメだって言われてるでしょ!?」
 稲生が割って入った。
「稲生氏はまだマリアンナのえげつない過去を知らないようだから、後でバラしてあげるよ」
「ユウタ、エレーナの魔女宅は、かなり客をボッてるから、後で証拠揃えて大師匠様にチクリ入れてやるよ。これでお前もまた謹慎だな」
「私はボッただけで済んでるけど、あなたは何人もの人を殺してるわけだろ?なにのうのうと生きてんだよ、人殺し!」
「表へ出ろ!」
「まあまあまあまあ!」
 稲生が更に仲裁しようとするが、稲生の視界が360度回転する。
 魔女2人に飛ばされてしまったのだ。
 壁に叩き付けられて逆さまになった稲生が見たのは、バンッと玄関のドアを開けて入って来た大魔道師イリーナとボーリンだった。
「あらあら?玄関先で、随分と賑やかなバトルやってるねぇ……。マリアンナ、アタシが出した宿題はもう終わったのかしら?」
「あ……!いや、その……あの……」
 いつもは目を細くしているイリーナも、今回はマリアに対して目を開いている。
 明らかに次の瞬間、叱責の怒号が飛ぶ数秒前だ。
 で、いつもは老婆の姿をしているポーリンも、今回はイリーナと同じ歳恰好の女性に変化している。
「エレーナ!いくらイリーナの配達先とはいえ、ここでトラブルを起こすようなら、もう宅急便の仕事は許可しないよ!?」
「も、申し訳ありません!ま、マリアンナにハメられて……!」
「人のせいにするなっ!泥棒猫が!」
「また言ったわね!人殺し!」
 師匠達そっちのけでまたケンカしようとしたものだから……。

[同日18:00.天候:雪 マリアの屋敷・大食堂 稲生、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、ポーリン・ルシフェ・エルミラ]

「ユウタ君、今日は無礼講だから、アタシ達に気を使わなくていいんだよ。ね?姉さん?」
「だから、姉さんと呼ぶなって!てか、この状況で無礼講にすんなよ……」
 ポーリンはイリーナの姉弟子である。
「何だか喉を通りません……」
 いつもの夕食の時間なのだが、この席にマリアの姿は無かった。
「気にしなくていいのよ」
「うむ。私達そっちのけでケンカをした罪、一晩地下室で反省してもらうからな」
 ポーリンもしたり顔で頷いた。
 夕食は抜きらしい。
(怖い魔女さん達だなぁ……)

 稲生は改めて、とんでもない世界に飛び込んだものだと自覚したのであった。
 尚、実際はメンタルが多い魔女達であるから、昨日まで仲が良かったのに今日ケンカしたり、今日ケンカしたと思ったら明日また仲良くしていたりと、やっぱりメンタルではない稲生には理解が難しい世界のようである。
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本日の動静 0220

2016-02-20 23:19:24 | 日記
 もしまだ小説が佳境に入っているのなら、そちらを優先したのだが、“大魔道師の弟子”は一段落して、あとはもう単発ネタしか無いし(“魔の者”打倒についてはまたネタが固まってからね)、“Gynoid Multitype Cindy”は導入部だけだから、一応日記にすることにした。
 実はキャラクターの一人称ってのは、意外と難しい。
 作者にもよりけるのだろうが、まずそのキャラクターに入り込まないといけないし、視点が三人称より狭くなるので、ストーリーの進行が遅くなりやすいというのもある。
 もっとも私の場合、素人の哀しさか、三人称であっても余計な描写が多いため、ストーリーの進み具合は概して遅い。
 もしかしたら、三人称に戻してしまうかもしれない。
 あと、タイトルが如何にもシンディが主人公みたいになっていて、もちろんそのつもりなのだが、他のキャラクターの一人称でもいいかなという気がしないでもない。
 ただ、全キャラクターでそれをやってしまうと、当然ながら主人公が誰?ということになってしまうので、やり過ぎには気をつけないといけない。
 あくまでも新シリーズはロイドの視点というコンセプトなので、ロイドのみ、一人称にさせるという条件を付けるというのもありかなという気はする。
 まだその辺は構想段階だ。
 途中で変わったりすることもあるので、ご了承願いたい。
 多弁なキャラでないと一人称主人公にできないのかというと、そうでもない。
 寡黙な人物だって、心の中では色々と考えているわけだから、そういった人物に一人称主人公をやらせてみると、かなり多弁になる。
 口で喋らない分、心の中では多弁だったりするから、意外と……というのはある。
 もしエミリーなどにスポットが当たったら……かなり重くなるだろう。
 いわゆる、抱え込むタイプだから。
 確か一時的にエミリーの一人称の部分があったが、平賀が機能停止させてくれないことを悩む内容だったと思う。
 ま、とにかく今後“大魔道師の弟子”の不定期単発ネタと“Gynoid Multitype Cindy”の同時進行で行くと思うので、よろしくお願いします。

 と、じゃあせっかくだから、少しは広布推進会の感想について書いてみよう。
 場所は墨田区の本行寺さんで、私は初めて行く場所だ。
 因みに、つぶやきではTX浅草駅まで行ったことを書いたが、横着してそこからタクシーで行った。
 ま、910円で着いたから、まあまあだろう。
 乗ったタクシーは東京無線の黒塗り車で、これはベテランで成績の良い運転手(売り上げが良いというより、事故や違反が無い、客からのクレームも無いという条件だったかと思う)が乗る車である。
 が、その運転手であっても、本行寺さんの場所は知らない様子。
 こういう時、カーナビがあると便利だ。
 私はこんなこともあろうかと住所を記憶していたので、それでナビを打ち込んでもらい、その通りに行ってもらった。
「あー、そういえばお寺があったような気がしますねぇ……」
 とのこと。
 まあ、うちの法道院しかり、なかなかタクシーの運転手が一発で行ってくれないのが日蓮正宗寺院の宿命か。
 一見さんにおいては、住所と目印を記憶しておくべし。

 お寺の前に人だかりができている風景は、まるで顕正会の会館だ。
 それを思い出し、何だか懐かしい気分になった。
 で、中には入るには参加券が必要らしい。
 ……あれ?私はもらってないぞ。ん?紹介者が持っている?電話をしたが、通じない。
 これは帰れという御仏智ですかな?
 すると中から私の顔を知っているらしい青年部員が出てきて、参加券を融通してくれた。
 いや、ホント申し訳無い。
 恐らく前回の支部登山で御一緒したかと思うが、名前が出てこないし、そもそも顔の記憶すら曖昧だ。
 取りあえず礼だけ言って、中に入る。
 場内整理をしている任務者に見たことのある顔はいるが、やっぱり名前が出てこない。
 それほどまでに、私のバックレが露呈しているということだな。

 内容は……あまり、取り上げるものはない。
 ただ、体験発表がプロパーさん(生まれながらにして日蓮正宗の信徒)達だけだということの意味するところは、
「それだけ中途入信者が体験発表できるほどの功徳を出すのは難しい」
 のと、
「プロパーは少し頑張ればすぐに功徳が出るのだから、甘ったれていないでどんどん功徳を出し、中途入信者の牽引役となれ」
 というものではないかと思ったが。
 それにしてもプロパーさん達が発心すれば、1人で何人も御受誡させることができるのだから、これは大いに結構なことだし、ありがたいことだ。
 おかげで、私は何もしなくていいぞw

 ただ、まだ2月の段階では何とも言えないが、全体的に会合が空回りしている感はあった。
 まあ、空回りできるほどの力はあるのだから、私のような不良信徒が動ける何かがあれば、それもいいんじゃないか。
 だって終始話を聞いていて思ったのは、
「ま、いざとなったら、俺以外の誰かが頑張るよ〜」
 だったからw
 何故か、
「ここは自分がしっかりしないと!」
 という気は起らなかったな。
 多分、元顕の活躍の場が少ないので、そういう気が起きないのかもしれない。
 御僧侶方の御指導も、終始、創価学会への折伏だけで、顕正会のことは全く出て来なかった。
 学会員を折伏しようと言われたところで、学会畑を歩いたことの無い私にはモチベーションは上がらんよ。
 最近は顕正会員に対する折伏もマンネリ化していて、まだ一般人を折伏した方が良いくらいに思えてきてるし。

 最後に歌った愛唱歌は、これまた初めてのものだった。新曲か?
 “広布に生きる”というものらしい。
 何だ、学会歌“広布に走れ”の親戚かwww
 どうせまた覇気の無い歌なんだろ?と思っていたが、意外と覇気がある。
 何というか……曲調が……こ、“広宣流布の大行進”!?
 思わず前に出て、扇子を振りたくなってしまった。
 ていうか歌っている最中に、右手が扇子を振りたがっている!!
 うーむ……顕正会時代、
「これも経験だから」
 と、隊集会の時に、当時の隊長から“時ぞ来たりぬ”で扇子を振らせてもらったことがあって、それを思い出してしまった。
 あの時の高揚感は、今でも忘れていない。
 まあ、あの時は“火の信心”が求められていたわけで、宗門では“水の信心”が求められているから、変に高揚する必要は無いのだろうが……。

 帰り際、女子部員から名前を呼ばれたが、私には見覚えが無かった。
 恐らく、こちらも登山の時とかに会っていたのだろう。
 とはいえ覚えていないので、私が怪訝な顔をすると、
「法道院の者です」
 と言っていたので、まあ、普通に挨拶したが。
 私は1度だけ会った人の顔は基本的に覚えていないのだが、意外と向こうは覚えているんだなと思った。

 浅草駅まて歩いて、そこから銀座線へ。
 新型の1000系ではなく、旧型の01系だ。
 この電車も、いずれは乗り納めするべきだろう。
 上野からは始発の快速“アーバン”に乗った。
 E233系の15両編成。
 やっぱり、中距離電車はこのくらいの長さが無いと。
 例え週末でも、10両だと混んでてしょうかない。
 13番線から出てくれれば、“あゝ上野駅”が聴けるのだが、14番線とあっては期待できない。
 どうせなら、全ホームで流してほしいものだが……。

 私は無事に帰り着くことができたが、特に京葉線沿線の人達は大丈夫だったかな?
 何だか18時から強風対策で間引き運転することになっているらしいが、内陸部に住んでいて良かったと思っている。
 まあ、次回も都合良く休みになるとは思えないし、そもそも次回もああいう空回り集会になるのであれば、あえて参加する必要は無いような気がした。
 
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“Gynoid Multitype Cindy” 導入部

2016-02-20 13:11:11 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月19日13:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 3号機のシンディ&敷島孝夫]
(シンディの一人称です)

 皆さん、こんにちは。
 私、ガイノイド・マルチタイプ3号機のシンディです。
 今日は社長と一緒に、新事務所の内見に向かっています。
 ボーカロイド専門芸能事務所、敷島エージェンシーもおかげさまで業績が上がり、それまでの事務所では手狭になったので、広い所へ引っ越すことになりました。
 それに伴い、人間の社員さんの数も増えることになり、社長は大忙しです。
 そのボーカロイド専門芸能事務所という触れ込みも、8号機のアルエット(私はアルと呼んでいます)が所属してから矛盾するようになったので、今ではその看板は取り外していますけれども、それでもロイドだけのアイドル事務所ということで、今でも話題になっています。
 今、私達は不動産屋さんの車に乗って、新事務所となるかもしれない場所に向かっています。
「……ああ、アリスか。ちょっとゴメン、聞きたいことがあるんだが……」
 運転席の後ろに座っている社長がスマホを取り出し、何やら奥様に掛けているようです。
 奥様のアリス博士は私の製作者、ウィリアム・フォレスト博士(通称、ドクター・ウィリー)の養孫で、ウィリアム博士からロボット工学の英才教育を受けたこともあり、とても天才です。
 今はアメリカ資本の世界的なロボット製造会社、デイライト・コーポレーション・ジャパン(つまり日本法人ですね)の主任研究員として働いておられます。
「いや、実はさ、うちの新しい事務所の予定候補地なんだが、それが東京の沿岸部だったりするんだ。潮風とか、うちのロイド達、大丈夫だったかなぁ……なんて」
 ああ、なるほど。
 確かに私のGPSでも、車は東京湾に向かっているようになっています。
 前期型の私のボディは海水耐性になっていなかったので、どうだったかは分かりません。
 が、今の後期型のボディはそういう耐性が施されているので、私の中では特に危険は出ていませんが……。
「……あー、そう?大丈夫?」
 どうやら奥様もゴーサインを出したようです。
 ていうか何年か前、事務所の皆で海水浴に行ったことがあって、少なくとも私達やボーカロイドの皆は大丈夫だと思うのですが……。
「……あー、そうか。逆に、バージョン連中はいないってか。あっはははははは!」
 テロ・ロボット、バージョン・シリーズは逆に海水耐性が施された個体は少なく、それ故、確かに海沿いでは奴らは現れませんでしたね。
「分かった分かった。ありがとう。決めるのはもちろん内見してからだけど、話を聞いてれば、結構良さそうだったからさ。……ああ。ありがとう。それじゃ」
 社長は電話を切って、私の方を見ました。
「見くびるなって怒られたよ、アリスに」
「そう。海に入っても大丈夫なんだから、潮風ぐらいで錆びるとは思えないわ」
「まあ、そうだよな」
 私と社長でそんな会話をしている間、車がとあるビルの前で止まりました。
「着きましたよ」
 運転席の不動産屋さんが言いました。
「おー、ここかぁ……」
「きれいなビルですね」
「ええ。築浅ですから」
 私達は車を降りて、ビルを見上げました。
 豊洲という町は、比較的新しい町だそうです。
 確かに見渡すと、まだまだ建設中のビルがあちらこちらに見られます。
 もっとも、そのほとんどは高層マンションだそうですが。
「豊洲駅に近いし、床面積も今の所の何倍もある。きれいで最新式の設備か。うーん……文句の付け所は無いね」
「社長。まだ中に入ってないわよ」
「おっと、そうだった」
 それまでのビルは5階建ての小さなものでしたが、このビルはその4倍の20階建てです。
「豊洲センタービルか。名前もシンプルでいいな。何か、昔の財団事務所を思い出すな。財団の本部も仙台支部も、超高層ビルの中にあったからな」
「そうね」
 エレベーターに乗り込んで、不動産屋さんが言いました。
「敷島エージェンシー様はワンフロア貸切をご希望だそうですね」 
「はい。うちのロイドの整備所なんかも欲しいですし、どうしてもボーカロイドという存在柄、声出しなんかもしないといけません。単なる事務所としてだけではアレなもんで……」
「なるほど。このビルは防音耐性にもなっていますし、その辺りも御心配無いですよ」
「それは助かります。まあ、何より、シンディの自重に耐えられる頑丈さってのもいいですしね」
 ……私の自重は180キロです。
 前は200キロあったんですが、アリス博士が何とか軽量化改造をしてくれて、何とか今は20キロ軽くなりました。
 18階でエレベーターを降りると、当然ながら何もありません。
「ふむふむ。ドアは電子ロックか」
「共用部に関しては、地下の防災センターで管理しています」
「そうでしたね。財団のビルもそうだったな」

 社長はとても気に入られたようで、早速賃貸契約を交わしました。

[2月20日10:00.天候:雨 埼玉県さいたま市西区(デイライト・コーポレーション・ジャパン) 上記メンバー&アリス敷島]

 今日はアリス博士がお勤めになっておられる研究所へお邪魔しました。
 もちろん、社長に同行しただけです。
 今この研究所は、大掛かりな建て替え工事が進められています。
 KR団との戦いで建物が大破したというのもあるのですが、そのテロ組織のせいでロボットやロイドに対するイメージが頗る悪化したことを恐れたDC社が、イメージを挽回する為にロボット科学館を建てる構想を立て、その実現に向けて着々と建設を進めているというわけです。
 それまでの研究施設としては、更に埼玉県の奥地に移されたこともあって、ますます秘密の研究所になってしまったようですが、アリス博士はここに残られるようです。
 別に、研究室自体が完全に移されるわけではありませんから。
「おー、立派な建物になりそうだな」
「そうね」
「完成したら、シンディにも協力してもらう。お前は愛想がいいからな」
「お役に立てるのでしたら」
 旧研究所は仮設の物ですが、そこにはアルが眠っています。
 アリス博士が土曜日休みを返上して、アルの修理をして下さっているのです。
 アルが修理を受けている特別室は、例え社長であろうと私であろうと入室厳禁です。
 外からモニタで見ることができるのみで、これとて顧問研究員の許可が必要になります。
 もちろんここで言う顧問研究員とは、アリス博士のことです。
「……あの時、私が後先考えずにアルの装置を引きちぎったから……」
 アルに取り付けられたバージョン1000を強制的に遠隔操作する装置。
 アルの輸送中に、KR団の密命を受けた7号機のレイチェルが取り付けたものです。
 バージョン1000は見た目はバージョン4.0を巨大化させただけのロボットですが、実はほとんど『歩く自爆装置』みたいなもので、福島第一原発と第二原発に、自爆しに向かうところでした。
 後で分かった話ですが、他にも別の原発に向かおうとした個体がいたらしく、それは故障して動けなくなっていたのですが、もし奴らの行動が成功していれば、東日本一帯が死の大地になっていただろうと言われています。
「いや、そんなことないさ。お前の判断は的確だ。悪いのはKR団だよ。あと1秒遅かったら、首都圏も放射能まみれで住めなくなっていたんだから」
 研究所の掲示板には、その時の新聞記事や雑誌の記事が貼られています。
 何だか、私がバージョン1000を止めた立役者みたいな感じになっていて、どう見ても社長やDC社が工作したようにしか見えないのですが、お役に立てて何よりです。
「アルの修理は科学館完成には間に合うのか?」
「天才のアタシに任せなさい。起動テストの期間も含めて、しっかり間に合わせるわよ」
「それは頼もしい。しかし工事中ということもあって、だいぶセキュリティが甘くなった感じだな」
「まあ、そこはマリオとルイージに任せてるからね」
 マリオとルイージとは、アリス博士が製作されたバージョン5.0のことで、バージョン・シリーズの最新モデルです。
 それまでと違ってスマートな体型になり、動きも人間並みに俊敏で滑らかな動きになっています。
 もっとも、私の敵ではありませんがw
 喋れるようにはなったのですが、どうしても兄弟漫才をやっているようにしか見えません。
 まあ、セキュリティロボットとしてなら使えるかと。
「じゃあ、工事とアルの進捗具合も確認したし、そろそろ帰るか」
「はい。それでは博士、失礼致します」
 私はオーナー登録されているアリス博士に別れを告げました。
「シンディ」
「はい?」
「タカオの監視、よろしくね。この前、ギャバ嬢とホテルに行こうとしたらしいからね!」
「ち、違う!キャバクラは、あくまでテレビ・ジャパンの番組プロデューサーさんの付き合いで、あの歌番組はうちのボカロ達も世話になってるし……」
「かしこまりました。この私めに、お任せください」
「頼んだよ、シンディ」
「お、おい!シンディ、俺はお前のユーザーだぞ!?」
「オーナーの命令は絶対、ユーザーの命令は相対だから」
 私は大きく頷きました。
 生真面目なエミリー姉さんは、ユーザーの命令も絶対だと思っているようですが、物事には優劣がありますからね。
「おい、そりゃないよ!」
「シンディ、あなたの判断は優秀だわ。さすが、じー様が作っただけのことはあるね」
「お褒めに預かりまして」

 楽しい日常ですが、この日常をテロから守る為にも私は頑張ります。
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