報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「札幌市へ向かう」

2016-02-10 23:01:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月25日13:30.天候:雪 北海道小樽市・朝里川温泉 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 無料送迎バスが温泉施設の前に到着する。
 前扉しか無い中型バスのせいか、先に乗り込んだ年配の乗客達は前の席に座りたがった。
 後から乗り込んだ稲生達は後ろに乗る。
 その前に、運転手に降りる場所を申告する必要があった。
「宮の沢駅までお願いします」
 と、稲生は申し出た。
「はい、宮の沢駅ですね」
「宮の沢駅とは?」
 1番後ろの席に並んで座った時、マリアが稲生に聞いた。
「札幌市地下鉄東西線の西の終点駅です。このバスは札幌の市街地までは行かないので、地下鉄に乗り換える必要があります」
「そうか……」
「まあ、魔界高速電鉄の地下鉄よりずっと安全でしょうから」
「そりゃそうだろ」

 バスは満席になることは無い状態で発車した。
 小雪が舞い、白く光る道路の上に出る。
 いかにも滑りそうな路面だが、意外としっかりブレーキが効くことから、それほど気にする必要も無いらしい。
 恐らくここまで積もっている状態の方が、却って安全なのかもしれない。
 藤谷に言わせれば、ここまで積もった時に危険な状態なのは、ブラックアイスバーン(見た目が黒いので、積もっていない路面と紛らわしい。実際はスケートリンク並みに危険)だったり、中途半端に寒い気温の状態(雪や氷が少し解けて水分が露出している状態)なのだという。
 もちろん運転手は地元の人だろうから、こういう雪道も走り慣れているだろうが……。
 バスは札樽自動車道に入ることはなく、ひたすら国道5号線で札幌市を目指すようである。
 その代わり、国道上にある一般路線バスの停留所に止まって、乗客を降ろす。
 路線バスと違って降車ボタンが無いため、予め運転手が降車場所を聞いていたわけだ。
「地下鉄でどこまで行くの?」
「大通駅です。幸い都心部のホテルが何とか取れたので、大通駅から歩いて行ける場所にあります」
「そう」
「先生方はホテルに入った後、ゆっくり休んでてください」
「?」
「僕は明日の電車の指定席を取りに、札幌駅まで行ってきますから」
「いや、いいよ。ユウタ君ばっかりやらせちゃってゴメンね。アタシらも付き合うよ」
「僕は別にいいんですが……。そうなると……」
 稲生は手持ちの時刻表を取り出した。
 北海道専用の時刻表である。
 何故かローブのポケットの中から出て来たのだ。気にしないでくれ。
「まあ、そのまま反対側の終点駅の新さっぽろまで行けば、乗り換えしないでJR駅には行けますが……」
「そこでも指定席は取れるんだ?」
「ええ。“みどりの窓口”がある有人駅ですから」
「じゃ、そこまで行こう」
「分かりました」

[同日14:15.天候:雪 北海道札幌市・地下鉄宮の沢駅 稲生、マリア、イリーナ]

 バスは渋滞に巻き込まれることはなく、だいたい順調に下車停留所に到着した。
 結構、地下鉄乗り場とは目と鼻の先である。
 降りると、やはり寒い。
「おっと!」
 稲生はツルツルとした路面の上を地下鉄乗り場に向かって進む。
「大丈夫?」
 イリーナが目を細めて言う。
「いやあ、僕も雪国の生まれじゃないもんで、先生方と違って雪道は慣れてなくて……」
 どうにか転ばずには済んだ。
「ん?アタシの生まれた所も雪なんか降らないよ?」
「えっ!?だって、先生の出身はロシアだと……」
「ロシアでも雪の降らない所はあるの。まあ、メチャクチャ寒いけどね」
「シベリア鉄道には乗ってみたい気はしますけどねぇ……」
 稲生は首を傾げながら、駅に向かう階段を下りた。

〔まもなく1番ホームに、新さっぽろ行きが到着します。お下がりください〕

 さすがに駅構内は地上と比べれば温かい。
 そこで電車を待っていると、少ししてから電車がやってきた。
 運転間隔は休日ダイヤの東京メトロよりも、更に1〜2分空く感じ。
 既にホームドアが設置されているが、そこから覗く軌道は鉄製の2本のレールではない。
(多分、魔界高速電鉄にも冥界鉄道公社にも車両が買い取られることはないだろうなぁ……)
 1本の軌道に跨り、ゴムタイヤで走る、モノレールみたいな地下鉄である。
 魔界高速電鉄にも冥鉄にもモノレールは無いから、稲生はそう思った。

 折り返し電車の乗客が降りると、稲生達は電車に乗り込んだ。
「じゃあ、すいませんけど、このまま新さっぽろ駅まで行きます」
「いいよ」
 イリーナが頷くと、マリアも頷いた。
 茶色の制服を着た運転士が反対側の運転室から、稲生達が乗っている方の先頭車に移って来る。

 まだ夕方のラッシュというほどでもないため、電車は満席にならずに発車時刻を迎えた。

〔1番ホームから、新さっぽろ行きが発車します。ご注意ください〕

 発車のブザーが鳴る。
 ホームドアがあるおかげで、札幌市地下鉄も全路線全電車でワンマン運転を行っている。
 まあ、魔界高速電鉄はホームドアが無くてもワンマン運転だが。
 新型車両がVVVFインバータの音を奏でながら、結構な加速度で発車した。

〔皆様、地下鉄をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、新さっぽろ行きです。次は発寒南、発寒南。お出口は、右側です〕
〔日蓮正宗、本法山・直唱寺へは終点、新さっぽろでお降りください〕(←実際はこの放送は流れません。札幌市地下鉄でもCM放送は流している)

[同日15:00.天候:曇 JR新札幌駅 マリア&イリーナ]

 稲生が“みどりの窓口”で指定席券を購入している間、外側にいるマリアはイリーナと英語で会話をしていた。
「師匠、北海道にも一門の者がいるようです」
 マリアが水晶玉を出して言った。
「そう?今日本に滞在しているのは、マリアとエレーナだけだと思ったけどねぇ……。誰がいるの?」
「アナスタシア組の者ですね」
「彼女らは常にグループで行動していると思うんだけど……」
「ええ。しかも、奴らの活躍の舞台は東欧のはずなんですが、日本で何をしようというのでしょう?」
「アナスタシア本人は?」
「いないようです」
「うーん……。いくら、まとまって行動しているといっても、そこは総勢20名の大所帯だからね。さすがに全員一気にというわけにはいかないだろうから、遊撃者みたいなのはいるかもね」
「はい。監視は続けます」
「マリア」
「はい?」
「言っておくけど、アナスタシア組もアタシらの仲間だからね?」
「……そうでした。ユウタのいた宗派、その内部の軋轢の気持ちが分かる気がします」
「ま、嫌な例えだけどね」
 と、そこへ稲生が戻ってくる。
「お待たせしました」
「ご苦労さん。首尾はどうだった?」
「余裕で3人分取れました。札幌始発の電車を狙いましたから、尚更です」
「さすがは稲生君だね」
「9時55分の電車ですので、比較的ゆっくりホテルを出ても大丈夫です」
「それは助かるね。アタシも疲れたから、早いとこホテルに入って休みたいねぇ」
「ええ。じゃ、今度こそホテルに向かいましょう」
 稲生達はJR新札幌駅から、再び地下鉄の新さっぽろ駅に向かった。
(あ……)
 その時、マリアは水晶球にアナスタシア組とは違うまた別の魔道師の存在を察知した。
コメント (5)
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