報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ガイノイドの週末」 2

2016-02-27 20:53:12 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月26日20:45.天候:晴 JR上野駅・低いホーム 3号機のシンディ&敷島孝夫]

〔「13番線、お下がりください。20時50分、当駅始発の高崎線普通列車、籠原行きが長い15両編成で参ります。黄色い線まで、お下がりください」〕

 下り方向から行き止まりのホームに向かって、E231系電車が入線してくる。
 眩いHIDヘッドランプを照らしてやってくるのを見たシンディは、

 敷島:「対抗しなくていいから!」
 シンディ:「はーい」(自分もまた両目をハイビームに光らせた)

〔「業務連絡、13番857M、準備できましたら、ドア操作願います」〕

 入線してきた中距離電車、グリーン車の座席は既に下り方向に向けられていた。
 停車してしばらくすると、駅員の業務放送があり、それでドアが開く。

〔「前の方に続いてご乗車ください。20時50分発、高崎線普通列車、籠原行きです」〕

 5号車に乗り込んだ2人、2階席へ行く。

 敷島:「シンディ、寝ちゃったら起こしてくれよ」
 シンディ:「ええ」
 敷島:「アリス、何か言ってた?」
 シンディ:「いえ、別に。お坊ちゃんのお世話で忙しいんじゃない?」
 敷島:「トニーか。まあ、そうだな」
 シンディ:「二海も頑張ってると思うけど……」

 二海とは平賀がトニーの誕生を祝って製造したメイドロイドである。
 一海や七海と同じ“海組”とされ、かつてのメイドの仕事の1つであったベビーシッターに特化した機能を持つ。
 メイドロイドにはマルチタイプやバージョン5.0のように、同型機を兄弟・姉妹とする概念が無い。

 敷島:「二海がいなかったら、大変なことになってたなぁ……」
 シンディ:「週末は私がいるからいいけどね」

 メイドロイドにもメンテの時間は必要であり、この間はシンディが二海の仕事を引き継ぐ。
 マルチタイプはその名の通り、何でもできるから、メイドロイドの仕事もできる。
 平賀夫妻の2人の子供もまだ幼いが、こちらはエミリーが面倒を見ることはなかった。
 アリスと違い、平賀奈津子は仕事を休むことができたし、実家の援助にも期待できたからである。

 20時50分。13番線ホームに、発車メロディが鳴り響く。(https://www.youtube.com/watch?v=AhMK940sSZk)
 井沢八郎の“あゝ上野駅”である。

 シンディ:「ミクが聴いたら、歌い出しそうね」
 敷島:「ああ、そうだな」

 電車は旅愁漂う発車メロディの後、ドアを閉めてゆっくりと発車した。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、籠原行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。……次は、尾久です〕

 シンディ:「『メインバッテリーが20%以下になりました。サブバッテリーに切り替えます。サブ残量、98%……』」
 敷島:「メインが1日持たないって、どういうことだ?」
 シンディ:「バッテリーパックが古くなったかなぁ……」
 敷島:「バッテリーも新しいものに変えた方がいいかもな。アルエットみたいに燃料電池にしてもらうか?あれなら2〜3日持つぞ?」
 シンディ:「アルとは体内の構造がそもそも違うからダメだと思うよ」
 敷島:「バージョンシリーズの燃料は、ガスだしなぁ……」
 シンディ:「歩くガスボンベだから嫌よ」
 敷島:「……だな。マリオとルイージだって、何気に燃料電池だぞ?」

 因みに発電に使用するガスは、しっかりタクシー会社御用達のガススタンドで手に入れているという。
 タクシーの燃料もLPガスであるため。
 アルエットはCNGガスである。
 バージョン4.0以前の型式は本当に燃料がガスであるため、背中にガスボンベを背負ったようなデザインになっている。

 シンディ:「LPガスじゃ大したパワーは出ないと思ってたけど、そうでもないみたいね」
 敷島:「そことはアリスも、考えて作ったんだろう」

[同日21:30.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区桜木町・敷島の賃貸マンション シンディ、敷島、アリス]

 敷島:「ただいまァ」
 シンディ:「只今、帰りました」
 アリス:「おそーい!特急で帰って来なさいよ」
 敷島:「アホか!大宮までなら、上野駅を先に出発した電車が先に到着するんだ。それより、来週の件なんだけど……」
 アリス:「先にお風呂に入って来てからにして。トニーにインフルエンザが移ったら大変でしょ!」
 敷島:「俺は感染者か!」
 シンディ:「まあまあ、社長。ウィルスには潜伏期間があります。万が一、感染しているにも関わらず、まだ発症していないだけかもしれません。健康保菌者ってヤツですね」
 敷島:「む、そうか……」
 アリス:「シンディの言う通りよ。症状が出ていなくても、他人に感染させることはできるんだから」
 敷島:「まあ、可能性も無くは無いが……。(何気に俺、感染者扱いされてねぇ?)まあいや。とにかく、着替えてくる」

 夫婦がそんなやり取りをしている間、

 シンディ:「二海、ご苦労さん。あとは私が引き継ぐ」
 二海:「シンディさん。トニーお坊ちゃまは、寝入られたところです」
 シンディ:「了解。じゃあ、あとは充電していいよ。明日からメンテだったね」
 二海:「はい。よろしくお願いします」

 二海はシンディに引き継ぐと、自分は納戸(サービスルーム)に向かった。
 このマンションの間取りは2LDK+Sである。
 日本語では納戸と呼ばれる3畳ほどの広さのサービスルームが、ロイドの控室として使われている。

 シンディ:「お坊ちゃま、こんばんはー」

 シンディはベビーベッドで眠るトニーに微笑んだ。
 もし仮にトニーが成長した時、回顧で、『自分が幼い頃、胸の大きいメイドロボ2機に面倒見てもらった』とでも言うかもしれない。

[同日22:00.同場所 シンディ]

 敷島:「シンディ、お前も体洗ってこいよ」
 シンディ:「いいんですか?」
 アリス:「接待の時、タバコの煙とか浴びたでしょ?臭いとかついてるわよ」
 シンディ:「も、申し訳ありません!」

 シンディらロイドの短所として、嗅覚が無いことである。
 味覚も無いが、料理は全てデータ通りに作る為、ハズレは無い。
 シンディはバスルームに入ると、着ていたコスチュームを脱いでシャワーを浴びた。
 基本的にお湯は使わず、水である。

 アリス:「服は洗っておくから、別なの着なさい」
 シンディ:「ありがとうございます」

 シャワーで汚れを落とした後、アリスにそう言われた。
 別の服といっても、同じデザインの服である。

 アリス:「ぷっ……」(アリス、思い出し笑いをする)
 シンディ:「どうかなさいましたか?」
 アリス:「あなたのメモリーを見たんだけど、バージョン4.0の対応で面白いのがあったね。あなたがシャワー使っているのを見て、思い出しちゃった」
 シンディ:キュルキュルキュルキュルキュル……。(アリスの言わんとしていることと、自分のメモリーの中で最適な物を探している)「ああ!もしかして、4.0がガソリンスタンドの洗車機で自分の体を洗ってたヤツですか?」
 アリス:「そう!それ」
 シンディ:「ガソリンスタンドから、『ロボットが洗車機で自分の体を洗っていて困る』という知らせがあったので、駆け付けてみたら、シャワーのつもりで使っていましたね。『シンディ様モ、御一緒ニドウデスカ?』なんていけしゃあしゃあと言ってきました。『営業妨害だからやめろ!』と注意したんですが、『金ナラ払ウ!』ってな始末で」
 アリス:「万引き犯が捕まった後に言うセリフじゃないんだから……」
 シンディ:「バッテリーの蓋開けて、『ここも洗いな!』ってショートさせましたけどね」
 アリス:「あなたもやることエグいねぇ……」
 シンディ:「人間に迷惑を掛ける奴らに、情けは必要ありません」
 アリス:「分かったわ。トニーのことは、あとは私に任せなさい」
 シンディ:「よろしいのですか?」
 アリス:「母親として息子の面倒を見るのは当然よ。あなたも充電していなさい。メインバッテリーが切れたんでしょう?」
 シンディ:「はい。……アリスお嬢様も、御立派になられましたね」

 シンディとアリスとは、アリスが子供の頃からの付き合いである。
 ウィリーにその才能を見出されたアリスは児童養護施設から引き取られ、後継者として育てられた。
 その頃からシンディとは付き合いがある。
 もっとも、当時のシンディは前期型のテロリズムロイドで、既に主のウィリーを守る為と称していくつもの治安機関(主に地方警察)を壊滅させていた。

 アリス:「あなたも変わった。目つきが優しくなったよ」
 シンディ:「私は人間ではありません。そのようなことがあるのでしょうか?」
 アリス:「後期型だから、かもね」

 もっとも、後期型といっても、前期型の予備機として用意されていただけで、特に外観上……どころか内部の違いがあるわけではない。

 シンディ:「では、お言葉に甘えて、充電させて頂きます」
 アリス:「うん」
 シンディ:「何かありましたら、いつでもお呼びください」

 シンディは既に二海が充電している納戸に向かった。
 尚、深夜電力での充電になるので、実際は23時以降に自動で充電されるように設定されている。
 こうして、少しでも維持費を安くしようとしているわけである。
コメント (4)
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