報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「Search & Rescue」

2016-02-03 21:30:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月24日07:00.天候:曇 魔界アルカディア王国レッドスターシティ跡上空 レナフィール・ハリシャルマン&リカルド・フォン・オーゼルグ]
(※スピンオフ“新人魔王の奮闘記”を改めて読んだのだが、何故か“アンドロイドマスター”にリンクしているという矛盾点を見つけた。でも、この時のルーシー女王と安倍春明首相、とても若い)

 業火の炎に包まれるレッドスターシティ。
 未だ町中を徘徊していた元市民のゾンビ達や、研究所から逃げ出してきたと思われるモンスター達は雷光集積兵器“ライディーン”の度重なる攻撃により、燃え上がった大火に包まれて断末魔の声を上げていた。
 あいにくとゾンビ化してしまっては、もう死んだも同然であり、彼らの為にも“火葬”してあげなければならない。
 モンスターに関しては、何の仏心も出す必要は無い。
 で、その町の上空を一艘の飛空艇が飛んでいた。
 木製と鋼製を合わせた半鋼製だが、まるで空飛ぶ軍艦のようである。
 動力源は大水晶の亜種、飛行石という魔法の石であるという。
 その船橋から双眼鏡で町を見下ろす女性がいた。
 軍服に身を包んでおり、その軍服に着いている階級章は大佐であった。
「もう……。雲と煙でよく見えない。ていうかハルのヤツ、もう少し具体的な場所伝えろっての」
 浅黒い肌に黒い髪を腰まで伸ばしているが、頭にはベレー帽を被っている。
「魔道研究所は、その実体すら明らかにされてませんでしたからなぁ……」
 艦長のオーゼルグが両手を腰にやって、レナフィールのボヤきに答えた。
 オーゼルグの階級章は大尉になっている。
「ねえ?魔道研究所の場所、目星とか付かないの?」
「もう少し低空飛行すれば分かるかもしれませんが、これ以上の低高度は艦の失速を招く恐れがありますので……」
「何か、“ライディーン”って結構無駄な兵器だったりしない?」
「それは私の口からは何とも……」
 レナフィールは高級軍人ながら、砕けた口調を話していた。
 元はと言えば安倍春明と共にパーティーを組んでいた女剣士であり、新政権樹立後は生き別れになった弟を捜す旅に出ていたのだが、紆余曲折あって何とか見つかり、安倍の魔王軍再編成の為に高級幹部として招聘されている。
 つまり、レナフィールもまたビキニアーマーに身を包んで戦っていた者だったのである。
「艦長、気流の流れが変わりました!」
 伍長の階級章を着けた兵士がオーゼルグに報告した。
「これならもう少し低空飛行できそうです」
「そうして。ハルからは何としても見つけるようにって言われてるから」
「了解!」
 オーゼルグは飛空艇を更に降下させた。

 すると!

「あれはっ!?」
 飛空艇の横を信号弾らしきものが飛んで行った。
「地上からの合図だ!」
「……いたっ!」
 レナフィールはついに稲生達を発見した。
 双眼鏡にはSOSと書かれた白旗を振る稲生の姿が映った。
「よし、降下するよ!」
「! 閣下、自らですか?」
「ハルに無事を確認せよって言われてるからね」
 因みにハルとは安倍のこと。
 安倍と親しい元仲間からは、よくそう呼ばれている。
 レナフィールはロープだけを掴むと、一気に稲生達の所へ降下した。
「ヒューッ!さすがは女傑だ!」
 オーゼルグやその部下達は、レナフィールの行動に讃嘆した。

[同日07:30.天候:曇 レッドスターシティ郊外山中 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、アレクサンドラ・エヴァノビッチ(サーシャ)、サンモンド・ゲートウェイズ]

「誰か下りてくる!」
 飛空艇が稲生達の上空で静止し、一本のロープだけを頼りに降下してくる者がいた。
 マリアがそれに気づいて言った。
 最初、稲生はそれが艦長のオーゼルグではないかと思ったが、どうも様子が違う。
 それは女性だった。
「あ、あなたは、レナフィール・ハリシャルマン総司令閣下!」
 サンモンドがそれに気づいて驚愕の声を上げた。
「それって……安倍総理の昔の仲間の……?」
「……!」
 稲生が言い切る前に、サッと片膝をつくサーシャだった。
「いかにも、私はレナフィール・ハリシャルマンだが、今は礼は不要だ。ハル……安倍春明総理大臣の命令で、あなた達の救助に来た。動けぬケガをしている者はいるか?」
「いえ、全員無事です!」
 と、サーシャが立ち上がって答えた。
 だが、レナフィールは、かつて自分が一剣士だった頃と似たような姿をしている、自分より年下の女戦士の姿を見て喝破した。
「ウソをつくな!特にあなたは、薬草程度で治るケガには見えない。直ちに担架を下ろす。それに横になりなさい」
「はい……」
「マリアさんの魔法でだいぶ回復したと思ったのに、ベホイミでもダメだったとは……」
「アルカディアシティに行けば、師匠と会えるはず。その時、ヴェ・ホ・マを掛けてもらうさ」
「ベホマ、ですね」
 そう。
 サーシャは“魔の者”の攻撃(かどうかの確信は無いが)と思われる爆発から稲生を庇い、大ケガを負った。
 稲生自身はそのおかげで軽いケガで済み、マリアの弱い回復魔法で済んだのだが、サーシャはさすがに無理があった。
「稲生……」
「サーシャ!すぐに魔王軍病院に運んでもらうからね!」
「こら!ケガ人に無闇に話しかけるな!」
「もし……お師匠さんと会えたら、エリックの居場所を……」
「ええ、分かってます!もちろん、占ってもらいますとも!」
「何だか色々とありそうだ。話は艦内で聞かせてもらうよ」
 レナフィールは稲生にそう言った。

[同日09:00.天候:晴 飛空艇内 稲生、マリア、レナフィール]

 稲生達もまた艦内の医務室で応急手当を受けた。
 といってもサンモンドは殆ど無傷だったし、稲生やマリアは自分達の魔法で傷を回復していたということもあって、あまり応急手当を必要とはしなかった。
 取りあえず食事を提供してもらうと、その後でレナフィールからの取り調べがあった。
 といっても、尋問的なものではない。
 単なる雑談といった感じだ。
 中には、安倍に対する愚痴も。
「いやー、いくらかつての仲間だからってさ、こういうことに軍隊を使わないでもらいたいもんだよねー」
「僕達のせいですね。すいません」
「いやいや、今度から“ライディーン”放つ前に、そこに魔道師達がいないか最終確認してからにしろってハルに言っておくよ」
「どうも……」
「それで元・宮廷魔導師のイリーナ師なんだけどね、ハルから連絡取れたってよ」
「本当ですか!?」
「すぐに総理官邸に呼ぶから、そこで感動の再会でもしな」
「はい、ありがとうございます!」
「それと……あの戦士なんだけどさ……」
「サーシャがどうかしましたか?」
「サーシャって、愛称なんだよ。本名はアレクサンドラって言わないか?」
「ええ。でも、サーシャはそう呼ばれるのが嫌いなんです。どういうわけだか。名字も名乗りたがらないんですよ」
「名字は何て言うの?」
「エヴァノビッチです」
「エヴァノビッチ……アレクサンドラ・エヴァノビッチ……」
 すると、横からオーゼルグが口を挟んだ。
「帝政時代の人間貴族に、エヴァノビッチ家が存在しました。恐らく、その血縁者でしょう」
「ええっ!?サーシャはその貴族に仕えていた傭兵だって聞きましたけど?」
「恐らく、それは嘘だね。この国で帝政時代の旧貴族なんて、今では迫害の対象でしかないから、ひたすら正体を隠してるんだろう。今の人間から見れば裏切り者だし、魔族から見ても厄介者だし……」
「へえ……。まさか、安倍政権では残党狩りの対象とか?」
「今の国の法律に違反していることをやらかしているようなら、それは処罰の対象だけど、元貴族ってだけでは何もしない方針だってよ」
「何だ、良かった……」
「まあ、随分と正義感の強そうなコだから、何か捕まるようなことをしているとは思えないけどね」
「そうですとも!」
 旧貴族に仕えし傭兵ではなく、むしろその傭兵を雇う側だったとは。
 サーシャが豪放な性格になり切れず、むしろその端々に上品な女性の品格を見せることがあったのも、元は貴族の出身だったからとなれば合点が行く。
「サーシャ、レナフィール大佐にも憧れていたんですよ。女性でここまで出世した軍人は初めてで、女戦士達の憧れの的だって」
「そう?それは光栄だけど、私はたまたま総理になった安倍の元仲間というだけで、別に軍に入って出世したかったわけじゃないよ?何か、いつの間にかここにいたってだけ」
「でも、いかにも女将軍という風格をお持ちですよ?」
 稲生が更に言うと、
「まあ、とにかく、この船がアルカディアシティに着くまで、ゆっくり寛ぎなさい。といっても客船じゃないから、無闇やたらに歩き回らないように。客室はあるから、そこでおとなしくしていることが無難だね。それと、医務室横の処置室にはアレクサンドラが寝ているから、そこにもみだりに立ち入らないように」
「分かりました」

 こうして稲生達は、無事にアルカディアシティに向かうことができた。
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