報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「再会」 2

2016-02-07 21:34:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月24日15:00.天候:晴 魔界王国アルカディア・王都アルカディアシティ 稲生勇太、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、アレクサンドラ・エヴァノビッチ(サーシャ)]

 魔界高速電鉄環状線。
 元々は城塞都市たるアルカディアシティ一円を囲う城壁の上を走るトロッコ列車がルーツだという。
「一体、どうしたんですか、先生?」
 イリーナは稲生からの頼みである、エリックの居場所を占って欲しいというのを2つ返事で頷いた。
 ところが、イリーナ手持ちの水晶球では、どういうわけだか検索できなかったのである。
 これはまず、エリックが魔界にいないことを意味する。
 それはつまり、死亡して冥界に行ってしまった恐れが強くなったということでもあるのだが、イリーナ的には何だか納得できないらしい。
 そこで、そもそもエリックが賞金稼ぎに向かったと思われるダンジョンについて調べてみようと、魔王城に向かうことにした。
 直接そのダンジョンに向かうのもいいのだが、無闇にまた変な戦いに巻き込まれるくらいなら、先に情報収集をしようということである。
 魔王軍駐屯地から最寄りのサウスエンド地区(日本名、南端村)にある魔界高速電鉄のサウスエンド駅まで、取りあえず馬車で移動した。

 サウスエンド地区はアルカディアシティの日本人街であり、威吹もここに住んでいる。
 が、今日は忙しいので会うことはできなかった。
「マリア、一番街駅で待ってるってよ」
「そうですか。何か、悪魔にしてやられたみたいで恥ずかしいです」
「まあ、しょうがないよ。そこはいい勉強になったと思うしかないね」
「はあ……」

〔まもなく1番線に、内回り線急行が到着します。白線の内側まで、お下がりください〕

 東京の山手線では大崎駅に相当する所で電車を待っていると、ホームに放送が鳴り響いた。
 そして薄霧の中からやってきた電車は、とても古めかしいものだ。
「モハ40だ!」
 稲生は飛び上がらんばかりに驚いた。

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 フロント下の差し込み式表示板には『内回り D.P.B.S止』という札が差し込まれており、フロントガラスの上には『急行 EXP.』と書かれた赤札がぶら下がっていた。
 内回り線の急行電車、デビルピーターズバーグ止まりという意味である。
 デビルピーターズバーグ駅には外回り線の急行に乗った方が早いので、誤乗を防ぐ為か。
 電車に乗り込むと、木製の床とブルーのロングシートが目についた。
「ふーん……。これが、稲生の言ってた魔界高速電車ってヤツかい?」
「そうなんだよ」
 稲生が頷いた。
「まあ、とにかく、これで1番街駅まで行こうかねぇ……」
 発車時刻になると電車はドアを閉め、釣り掛け駆動の古めかしいモーター音を唸らせて発車していった。

[同日15:30.天候:晴 1番街駅→総理官邸 稲生、イリーナ、サーシャ、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 急行電車なだけに、数々の駅を飛ばして進んだ。
 明らかに貨物線のような場所も走ったが、魔界高速電鉄の電車は大らかな運行管理をしているのだろうか。
 それでも無事に1番街駅に着くと、そこでマリアが待ち構えていた。
「マリアさん」
「ユウタ……」
「本物ですよね?」
「再会して開口一番それか!」
「大丈夫だよ。ちゃんと本物の本人だよ」
 とイリーナが言うと、稲生はマリアの両手をガシッと握った。
「マリアさん、無事で何よりです!」
「それはこっちのセリフだ!……魔道研究所の変なウィルスに感染したって聞いた時には、目の前が暗くなったよ」
「! すいませんでした……」
「まあ、そこはサンモンド船長って人がワクチンを用意してくれたおかげで助かったよ。安心してくださいよ」
 と、サーシャ。
「ユウタを色々と助けてくれたそうだね。ありがとう」
「いえいえ。私は傭兵ですから、報酬の為には命賭けますよ。それより、早いとこエリックの居場所を……」
「おー、そうだった。感動の再会のところ悪いんだけど、ちょっと早めに総理官邸に行くよ」
「はい」

 1番街駅は元々中心街にある駅のため、とても賑わっている。
 何しろ、アルカディアシティの東京駅みたいなものだ。
 そこから総理官邸は近い。
 本来なら当然入ることは厳しいわけだが、イリーナの顔を見た職員達は慌ててVIP対応で入れてくれた。
「イリーナ先生と一緒だと、ほとんど顔パスですね」
「師匠は元・宮廷魔導師だからね。今じゃ、ポーリン師に取られたけど……」
「魔道研究所って、結局何だったんでしょうねぇ……?」
「ポーリンが潰そうとしたのかもね。色々と悪い噂が絶えなかったから。それに“魔の者”が乗っかって来たか……」
「師匠が言うと、どこまで本当か分かりません」
「そお?」
 応接室に通された稲生達はしばらくそこで待たされたが、
「お待たせしました」
「横田です。先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 やってきたのは安倍春明ではなく、魔界共和党幹事のセバスチャンと理事の横田だった。
「えー、ノースウェスト地区に跋扈していたというモンスター、フンバルズですが、既に魔道師の一団にて討伐されております」
「ええっ!?」
「私の分析によりますと、フンバルズは空間移動に長けた高位の魔族です。討伐に来た敵を亜空間に追いやって、戦闘を強制終了させる戦法ですね」
「魔道師の一団って誰!?」
 稲生が聞くと、
「アナスタシア組と名乗る一団です。それはそれは、とてもお美しいリーダーさんでした。嗚呼…(*´Д`*)」
 横田は恍惚とした顔になった。
「アナスタシアか……。あいつもまた時空を使った魔法が得意だから、打ってつけだね」
 と、イリーナ。
「じゃあ何?賞金はアナスタシアが独り占め?」
「他の冒険者達を押し退けて、独り勝ちだったようです」
「亜空間ねぇ……。じゃあ、あっちの状況を調べてみるしかないか」
「時間掛かります?」
 と、サーシャ。
 恐らくエリックは、フンバルズの攻撃によって、亜空間に飛ばされた恐れがある。
「ううん、大丈夫よ。ここの水晶球を借りれば」
 イリーナは目を細めたまま口角を上げて答えた。
「横田理事。今日のアタシの下着は、黒のブラショーツ上下よ」
「えっ?」
「は?」
「師匠!?いきなり何を言うんですか!?」
「だってこの理事、『ここの水晶球貸して』って頼んだところで、絶対『それなら先生の本日の下着の色は?』って聞いてくるに決まってるじゃない」
「いや、しかし……」
「嗚呼……(*´Д`*) これはこれは、大変なご明察、真に恐れ入ります。不肖この横田、必ずや、先生の御心に断じてお応えして参る決意であります!」
「このヘンタイ野郎!!」
 応接室を飛び出していく横田に、マリアは侮蔑の目を向けて怒鳴りつけた。
 但し、横田の場合、まだ言動だけのせいか、今のところマリアからの“復讐”の対象にはなっていないようである。
 
コメント (2)
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