[1月26日11:15.天候:晴 新千歳空港国内線ターミナル4F・新千歳空港温泉 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
入口から受付に行き、そこで料金を払うまでの間、マリアは水晶球やら魔法の杖やら出して、辺りを警戒していた。
「大丈夫だって。アタシの杖にも、レンジャー達の気配は察知していないよ?」
「あいつらは神出鬼没です。油断していたら、後ろからやられます」
「そうかねぇ……」
「す、すいません。あの人達、占い師さん達なんです。ちょっと変わってて、すいません」
稲生はマリアの動きを不審がるスタッフ達に愛想笑いを浮かべながら、しどろもどろに誤魔化した。
「え、えー……それでは館内着は浴衣と作務衣がございますが、どちらになさいますか?」
「僕は作務衣の方がいいかな。先生、どうします?」
「あー、アタシは今回は浴衣で。アタシのサイズに会う作務衣が無かったから、前回は」
「私も師匠と同じで」
「では、作務衣1つの浴衣2つでお願いします」
「かしこまりました」
「はい、マリアさん」
「! あ、ありがとう」
「先生の浴衣は大きめのサイズだそうです」
「あー、そうしてくれるとありがたいね。何せ、身長が177cmもあるもんでねー」
「僕とは12cm、マリアさんとは20cm以上も差があるとは……」
「師匠の胸と尻のサイズに合いますかねー」
「マリアはSサイズでいいんじゃない?」
「あっ、そうですね」
「ちょっ……!Mサイズくださいよ!」
「ユウタ君でMサイズでしょう?マリアはユウタ君より体小さいんだから、冗談抜きでSサイズにしたら?」
「この前、マリアさん、作務衣でしたよね?何サイズでした?」
「……Sでいいです」
マリアは不貞腐れた様子で、小さいサイズの浴衣を受け取った。
受付横を通ろうとした時、マリアがビクッと体を震わせた。
イベント告知のポスターが貼ってあっただけなのだが、それは、『温泉戦隊スパレンジャー来たる!!』といったご当地ヒーロー的なものであった。
レンジャーとあったものだから、ついケンショーレンジャーを連想してしまったというもの。
「……びっくりさせる」
「マーリア。肩の力抜いてゆっくりしましょ」
イリーナがポンとマリアの肩を叩いた。
男湯に1人入った稲生は、一応マリアの安全の為に、脱衣所内を1周してみた。
そこに怪しげな人影はいなかった。
(前回ならケンショーブルーとかいたけど、さすがに今はいないだろう。警察の御厄介になっていたり、最近の顕正新聞見てると、また幹部に返り咲いたみたいだから、こういう所で僕達の相手をしているヒマは無いはずだ)
稲生は全裸にフェイスタオルだけ持つと、まだ閑散としている大浴場に入った。
湯気で場内の見通しは全て立つわけではないが、少なくとも男湯にケンショーレンジャーの姿は無いようだった。
「ふう……。やれやれ……(´д`)」
稲生は体を洗ってから、早速湯舟に浸かった。
「うーっ、これだな!」
茶褐色の湯の色が、いかにも温泉であることを物語っている。
それから露天風呂に行く。
露天風呂は内湯より若干温度が高めであったが、それでもゆっくり浸かるのにちょうど良い。
「飛行機の離発着音を聞きながら浸かる温泉もオツなものでしょう」
「えっ?ええ……」
湯気でよく見えないが、先客が1人いたようだ。
声からして中年男性のようだが……。
と、そこへ少し強めの風が吹く。
「ああっ!?」
そこにいたのは、
「先般の総幹部会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。横田です」
「ででで、出た……!」
稲生は驚いて湯舟から出ようとしたが、足を滑らせて、浴槽の中にダイブしてしまう。
「ゴボゴボゴボボボベボボボボ!」
「気をつけなさい。魔道師見習とあろう者が、露天風呂で溺死など、あまりにもみっともないですよ」
横田は稲生を助け出した。
「だ、だって、け、け、ケンショー……!」
「今の私は魔界共和党理事です。ケンショーがグリーンした仕事はしていません」
「は?」
「ピンクも死んでしまったし、レッドもブルーも頼りない。私はこうして別の仕事をすることにより、いつでも脱出経路を確保しているのです」
「な、何だか凄く現実的だな……。じゃあ、どうしてここにいるの?魔界にいなくていいの?」
「今は有給休暇中です。それより、気をつけなさい」
「何に?」
「湯あたりです」
「いや、そんなに長いこと浸かってませんけど!?」
「まあまあ、気をつけるに越したことはありません」
「一体、何が言いたいんだ?」
「実はモノは相談なのですが……」
「な、何だ?」
「イリーナ先生のパンティは手に入れたので、今度はブラジャーかガーターベルトを頂きたいのですが……」
「僕じゃなくて、先生に直接交渉したらどうだ!」
イリーナがドレスコートの下にガーターベルト付きのストッキングを穿いていることは稲生も知っていたが、どうやら横田はイリーナの下着一式を所望しているらしい。
「あなたは若い女性が好きだって聞いたのに、先生のような……まあ、あなたから見れば、見た目年齢は年下か……」
「いえ、本来は正直なところ、マリアンナさんのブラショーツが欲しいのです」
「なにっ!?」
「ですがイリーナ先生と違い、こちらはまず交渉の余地すら無いと思われますので、私の安全確保の為に、イリーナ先生の方を所望しているのです」
「分かってんじゃん!」
因みにマリアに関しては、マリア自身から怒りの矛先になること請け合いなのは言うまでもないが、そこに稲生も加わることは横田も想像できたのだろう。
「イリーナ先生は寛大な御方。きっと分かってくださるでしょう」
「だから!そう思うんだったら、あなたが直接先生と交渉してくれって!」
男湯では魔道師見習とケンショーグリーンの“法論”が行われている中、女湯は静かであったようだ。
「ふう……さっぱりした」
「ね?意外と大丈夫なものでしょ?」
「まあ、そうですね」
2人の女魔道師は早速、浴衣を羽織った。
「あれ?師匠、浴衣の下ってブラ着けるんでしたっけ?」
「アタシは着けないよ」
「じゃあ、私も……」
さすがにショーツは穿く。
「ん?これは……」
今度は浴衣を右前にするのか左前にするのかが分からない。
「師匠、これどうやって着るんでしたっけ?」
「んもう!日本に住んでいる以上、日本の文化もちゃんと勉強しておきなさい。今回はアタシがお手本見せるから、ちゃんと見ててね」
「はーい」
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……ハッ!」
イリーナが呪文を唱えると浴衣が光に包まれ、それがイリーナの体に纏わりつく。
そして光が消えて浴衣が元の姿に戻ると、ちゃんとイリーナに着付けされていた。
「分かった?じゃあ、やってみて」
「あ、あの、師匠!申し訳無い!もう1回やってもらえませんか!?One more!」
浴衣着付け魔法、修得するのに数日は掛かりそうである。
入口から受付に行き、そこで料金を払うまでの間、マリアは水晶球やら魔法の杖やら出して、辺りを警戒していた。
「大丈夫だって。アタシの杖にも、レンジャー達の気配は察知していないよ?」
「あいつらは神出鬼没です。油断していたら、後ろからやられます」
「そうかねぇ……」
「す、すいません。あの人達、占い師さん達なんです。ちょっと変わってて、すいません」
稲生はマリアの動きを不審がるスタッフ達に愛想笑いを浮かべながら、しどろもどろに誤魔化した。
「え、えー……それでは館内着は浴衣と作務衣がございますが、どちらになさいますか?」
「僕は作務衣の方がいいかな。先生、どうします?」
「あー、アタシは今回は浴衣で。アタシのサイズに会う作務衣が無かったから、前回は」
「私も師匠と同じで」
「では、作務衣1つの浴衣2つでお願いします」
「かしこまりました」
「はい、マリアさん」
「! あ、ありがとう」
「先生の浴衣は大きめのサイズだそうです」
「あー、そうしてくれるとありがたいね。何せ、身長が177cmもあるもんでねー」
「僕とは12cm、マリアさんとは20cm以上も差があるとは……」
「師匠の胸と尻のサイズに合いますかねー」
「マリアはSサイズでいいんじゃない?」
「あっ、そうですね」
「ちょっ……!Mサイズくださいよ!」
「ユウタ君でMサイズでしょう?マリアはユウタ君より体小さいんだから、冗談抜きでSサイズにしたら?」
「この前、マリアさん、作務衣でしたよね?何サイズでした?」
「……Sでいいです」
マリアは不貞腐れた様子で、小さいサイズの浴衣を受け取った。
受付横を通ろうとした時、マリアがビクッと体を震わせた。
イベント告知のポスターが貼ってあっただけなのだが、それは、『温泉戦隊スパレンジャー来たる!!』といったご当地ヒーロー的なものであった。
レンジャーとあったものだから、ついケンショーレンジャーを連想してしまったというもの。
「……びっくりさせる」
「マーリア。肩の力抜いてゆっくりしましょ」
イリーナがポンとマリアの肩を叩いた。
男湯に1人入った稲生は、一応マリアの安全の為に、脱衣所内を1周してみた。
そこに怪しげな人影はいなかった。
(前回ならケンショーブルーとかいたけど、さすがに今はいないだろう。警察の御厄介になっていたり、最近の顕正新聞見てると、また幹部に返り咲いたみたいだから、こういう所で僕達の相手をしているヒマは無いはずだ)
稲生は全裸にフェイスタオルだけ持つと、まだ閑散としている大浴場に入った。
湯気で場内の見通しは全て立つわけではないが、少なくとも男湯にケンショーレンジャーの姿は無いようだった。
「ふう……。やれやれ……(´д`)」
稲生は体を洗ってから、早速湯舟に浸かった。
「うーっ、これだな!」
茶褐色の湯の色が、いかにも温泉であることを物語っている。
それから露天風呂に行く。
露天風呂は内湯より若干温度が高めであったが、それでもゆっくり浸かるのにちょうど良い。
「飛行機の離発着音を聞きながら浸かる温泉もオツなものでしょう」
「えっ?ええ……」
湯気でよく見えないが、先客が1人いたようだ。
声からして中年男性のようだが……。
と、そこへ少し強めの風が吹く。
「ああっ!?」
そこにいたのは、
「先般の総幹部会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。横田です」
「ででで、出た……!」
稲生は驚いて湯舟から出ようとしたが、足を滑らせて、浴槽の中にダイブしてしまう。
「ゴボゴボゴボボボベボボボボ!」
「気をつけなさい。魔道師見習とあろう者が、露天風呂で溺死など、あまりにもみっともないですよ」
横田は稲生を助け出した。
「だ、だって、け、け、ケンショー……!」
「今の私は魔界共和党理事です。ケンショーがグリーンした仕事はしていません」
「は?」
「ピンクも死んでしまったし、レッドもブルーも頼りない。私はこうして別の仕事をすることにより、いつでも脱出経路を確保しているのです」
「な、何だか凄く現実的だな……。じゃあ、どうしてここにいるの?魔界にいなくていいの?」
「今は有給休暇中です。それより、気をつけなさい」
「何に?」
「湯あたりです」
「いや、そんなに長いこと浸かってませんけど!?」
「まあまあ、気をつけるに越したことはありません」
「一体、何が言いたいんだ?」
「実はモノは相談なのですが……」
「な、何だ?」
「イリーナ先生のパンティは手に入れたので、今度はブラジャーかガーターベルトを頂きたいのですが……」
「僕じゃなくて、先生に直接交渉したらどうだ!」
イリーナがドレスコートの下にガーターベルト付きのストッキングを穿いていることは稲生も知っていたが、どうやら横田はイリーナの下着一式を所望しているらしい。
「あなたは若い女性が好きだって聞いたのに、先生のような……まあ、あなたから見れば、見た目年齢は年下か……」
「いえ、本来は正直なところ、マリアンナさんのブラショーツが欲しいのです」
「なにっ!?」
「ですがイリーナ先生と違い、こちらはまず交渉の余地すら無いと思われますので、私の安全確保の為に、イリーナ先生の方を所望しているのです」
「分かってんじゃん!」
因みにマリアに関しては、マリア自身から怒りの矛先になること請け合いなのは言うまでもないが、そこに稲生も加わることは横田も想像できたのだろう。
「イリーナ先生は寛大な御方。きっと分かってくださるでしょう」
「だから!そう思うんだったら、あなたが直接先生と交渉してくれって!」
男湯では魔道師見習とケンショーグリーンの“法論”が行われている中、女湯は静かであったようだ。
「ふう……さっぱりした」
「ね?意外と大丈夫なものでしょ?」
「まあ、そうですね」
2人の女魔道師は早速、浴衣を羽織った。
「あれ?師匠、浴衣の下ってブラ着けるんでしたっけ?」
「アタシは着けないよ」
「じゃあ、私も……」
さすがにショーツは穿く。
「ん?これは……」
今度は浴衣を右前にするのか左前にするのかが分からない。
「師匠、これどうやって着るんでしたっけ?」
「んもう!日本に住んでいる以上、日本の文化もちゃんと勉強しておきなさい。今回はアタシがお手本見せるから、ちゃんと見ててね」
「はーい」
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……ハッ!」
イリーナが呪文を唱えると浴衣が光に包まれ、それがイリーナの体に纏わりつく。
そして光が消えて浴衣が元の姿に戻ると、ちゃんとイリーナに着付けされていた。
「分かった?じゃあ、やってみて」
「あ、あの、師匠!申し訳無い!もう1回やってもらえませんか!?One more!」
浴衣着付け魔法、修得するのに数日は掛かりそうである。