[1月24日05:30.天候:曇 魔道研究所・地下階 稲生勇太&アレクサンドラ・エヴァノビッチ(サーシャ)]
研究所の地下を進む稲生達。
「まあ、私もあの船長は好きになれないけどね」
時間が押し迫っているということもあって、小走りに先へ進む。
エレベーターのある場所までは稲生も知っているので。
「何か、サーシャを知っている感じだったね?」
「まあ……確かに昔、会ったことがあるけどね」
「昔はお嬢様だったって……」
「お世辞を言ってるだけさ」
「そうかな?サーシャは美人だと思うよ?」
「そうかい?それはありがとう。だけど、あんまり私は昔のことは話したくないねぇ……」
「そうかなの?」
「私に限らず、こんな傭兵稼業やってるヤツは、大なり小なり嫌な過去を抱えてるもんさ」
「ふーん……」
どうしても稲生には傭兵というと、RPGの世界に登場する流れ者というイメージしか浮かばなかった。
前にイリーナから、
『人間界で言う非正規雇用の、日雇い派遣労働者みたいなものよ』
と言われたことがあるが、それも違うと思った。
少なくとも、派遣労働者は派遣会社に登録をしなければならないわけだが、傭兵というのは自分で雇い主を探すのがベタなRPGの法則だ。
世界によってはギルド(組合または協会)が存在していて、それに加盟しなければならないみたいなルールが存在するところもあるようだが、このアルカディアではどうなのかは分からない。
ただ、サーシャと旅をしてきて、そのようなギルドの存在は確認できなかったので、無いのかもしれない。
「って、うおっ!?」
その時、途中の廊下にハンターが2匹待ち構えていた。
「さっき船長と来た時にはゾンビすらいなかったのに!?」
「どっから湧いてくるんだろうねぇ、こいつらはァ!」
サーシャは剣を抜いて応戦する。
稲生もまたCクラスの弱い魔法とはいえ、それで応戦した。
稲生の弱い魔法だけでは倒せないが、一応敵の気を引き付けるくらいは可能なようで、あまり知能が高くないと思われるこのモンスター達を倒すことができた。
「今度はこいつら、腹の中に何か隠し持っているってことは無さそうだねぇ……」
「そうですね。エレベーターはこの先です」
「うん」
エレベーターは、鉄格子の扉になっていた。
鍵をボタンの所に差すと、起動した。
「やっぱりこれだったんだ」
エレベーターを呼び戻すと、ドアのロックが外れた。
「……あ、自分で開けるのか!」
なかなかドアが開かないなーと思ったが、サーシャが手を伸ばして手で開けた。
「これで更に地下に行けるのかい?」
「そうだよ」
ということは当然閉めるのも手動であり、閉めないと動かない。
「物凄くレトロなエレベーターだけど、さっきの警備室といい、少し近代的になってきたなぁ……」
稲生はエレベーターを動かしながらそう思った。
「ふーん……」
エレベーターが到着すると、そこは倉庫になっているようだった。
明かりは一応点いていて、幸いにもモンスターの気配は無かった。
「こんな所に裏門を開ける仕掛けが?」
「うーん……俄かには信じられないねぇ」
2人は半信半疑の状態で、操作盤みたいなものが無いか探した。
すると、
「おっ、あんな所にパソコンが!」
稲生がデスクトップPCを発見した。
「ぱそこん?魔法具が何かかい?」
「人間界には普通に存在するものですが、まあそうかもしれない」
と、稲生。
「きっと、あれで操作するんだ!」
「まあ、上手い事やってくれ」
稲生はPCの前に立つと電源ボタンを押したが、
「あれ?あれれ?起動しない?」
「どうした、稲生?」
「いや、何か電源が無いみたい……。コンセントは無いしなぁ……。発電機か何かあるかもしれない。探してもらえます?」
「しょうがないな。ちょっと待ってな」
サーシャは倉庫の中を走った。
すると、発電機らしいものを発見した。
「こいつか?随分オンボロに見えるけど大丈夫かね?」
そう言いつつ、サーシャはガチャンとレバーをONにした。
すると発電機が動き出した。
「どうだい!?」
「うーん……。PCのフル稼働にはまだ電力が足りないねぇ……。何か旧式っぽいし、意外と電気を食うのかもね」
「じゃ、どうする?」
「もう1個くらい発電機は無い?」
「マジか!」
サーシャはまた倉庫内を走った。
すると、もう1つ同じ形をした発電機があった。
「よっと!」
ガチャン!
「よーっし!フルパワーで起動しました!」
「急いでよ!もう時間が無い!」
「分かってます。……はい、OKです!開きました!」
「早っ!?さすがは稲生だね。よし!早いとこ脱出しよう!」
「ちょっと待ってください。このパソコン、ここの研究データを蓄積したサーバーにアクセスできるみたいだ」
稲生はローブの中からUSBメモリーを出した。
「せっかくだから、根こそぎ、持って行けるだけ持って行ってやろうかと!」
「あのなぁ……。まあ、いいや。早くしてよ」
「大丈夫。データを僕のUSBにコピーするだけです」
稲生はそう言って、メモリースティックを突き刺した。
「あれ?」
「今度は何だい?」
「いや、まだ解析されていないデータがある。……ふーん……これなら僕にもできそうだ」
稲生はキーボードを叩いた。
「魔法具なのに呪文とか唱えなくていいんだね?」
「まあ、その呪文をこのキーボードで打ち込んでるようなものだから」
というか、どうして魔界の、それも魔道師の研究所にパソコンがあるのかの疑問を持たない2人だった。
パソコン自体初めて見るサーシャはしょうがないにしても。
「……あれ?これって……」
稲生はローブの中から自分のスマホを出した。
ケーブルも出す。
それでPCとスマホと両方接続した。
「何をするつもりだい?」
「よくよく考えたら、これで総理官邸と連絡が取れそうなんですよ」
「何だって!?」
稲生は総理官邸に電話を掛けた。
「……あ、もしもし。僕、大魔道師イリーナ・レヴィア・ブリジッド先生の弟子で、稲生勇太と申します。……はい。すいませんが、安倍総理をお願いできますか?」
安倍春明が電話口に出るまでの間、稲生はサーシャに向かってガッツポーズをした。
{「あー、私だ。イリーナ師のお弟子さんが何の御用ですか?」}
「安倍総理!お忙しいところ、申し訳ありません!実はちょっとお願いがありまして、実は今、レッドスターシティ郊外の山奥にある魔道研究所の地下にいるんです!」
{「……よく聞こえなかった。もう1回言ってくれ」}
「ですから!まもなく“ライディーン”が放たれる町の郊外にいるんです!」
{「すぐにそこから離れなさい!まもなく町は極秘作戦により消滅する!」}
「分かってます!滅菌作戦ですね!」
{「一体、キミ達は何の目的でそこにいるのかね!?もう“ライディーン”は止められんぞ!?」}
「実はこちらの調査で把握した情報、“魔の者”に関するヤツがあるんですが、それは政府にとっても有益な情報かもしれないんです」
{「なに?確認させてくれ」}
「はい。すぐに送信します」
稲生はエンターキーを押したが、画面にエラー表示が出る。
「ん!?……あれ?コネクション・エラー!?しまった!“魔の者”に気づかれた!」
と、その時、地下室内に地響きと振動が伝わって来た。
「……お、おい!稲生!何かヤバいぞ!」
「ちょっと待ってください。ここをこうすれば、エラーを解除に……」
ズシーン!
「稲生、いいから早く来い!」
「ま、待ちなさい!今、送信を……!」
「ここでキカイと一緒に心中する気か!バカ!」
[同日05:50.天候:曇 アルカディアシティ・総理官邸 安倍春明]
電話の向こうから爆発音が聞こえた。
「稲生君!稲生君!?」
だが、電話が切れてしまった。
「な、何てこった!……“ライディーン”はまだ放たれていないのに、何があった!?」
安倍は急いでまた電話の受話器を取った。
「あー、私だ。“ライディーン”の発射時間をできるだけ遅くしてくれ。……ああ、分かってる!今さら中止にはできないことくらい!そうではなくて、発射時間をなるたけ延長してくれ!……ああ、それで十分だ。それと、発射した後、あの町の周辺に捜索隊を出せ!対象者は……」
安倍は机の上のノートPCを背に、魔王軍総司令部に連絡をしていた。
その間、受信エラーの表示が出ていたのだが、それがいつの間にか解除され、再び送信されてきていた。
研究所の地下を進む稲生達。
「まあ、私もあの船長は好きになれないけどね」
時間が押し迫っているということもあって、小走りに先へ進む。
エレベーターのある場所までは稲生も知っているので。
「何か、サーシャを知っている感じだったね?」
「まあ……確かに昔、会ったことがあるけどね」
「昔はお嬢様だったって……」
「お世辞を言ってるだけさ」
「そうかな?サーシャは美人だと思うよ?」
「そうかい?それはありがとう。だけど、あんまり私は昔のことは話したくないねぇ……」
「そうかなの?」
「私に限らず、こんな傭兵稼業やってるヤツは、大なり小なり嫌な過去を抱えてるもんさ」
「ふーん……」
どうしても稲生には傭兵というと、RPGの世界に登場する流れ者というイメージしか浮かばなかった。
前にイリーナから、
『人間界で言う非正規雇用の、日雇い派遣労働者みたいなものよ』
と言われたことがあるが、それも違うと思った。
少なくとも、派遣労働者は派遣会社に登録をしなければならないわけだが、傭兵というのは自分で雇い主を探すのがベタなRPGの法則だ。
世界によってはギルド(組合または協会)が存在していて、それに加盟しなければならないみたいなルールが存在するところもあるようだが、このアルカディアではどうなのかは分からない。
ただ、サーシャと旅をしてきて、そのようなギルドの存在は確認できなかったので、無いのかもしれない。
「って、うおっ!?」
その時、途中の廊下にハンターが2匹待ち構えていた。
「さっき船長と来た時にはゾンビすらいなかったのに!?」
「どっから湧いてくるんだろうねぇ、こいつらはァ!」
サーシャは剣を抜いて応戦する。
稲生もまたCクラスの弱い魔法とはいえ、それで応戦した。
稲生の弱い魔法だけでは倒せないが、一応敵の気を引き付けるくらいは可能なようで、あまり知能が高くないと思われるこのモンスター達を倒すことができた。
「今度はこいつら、腹の中に何か隠し持っているってことは無さそうだねぇ……」
「そうですね。エレベーターはこの先です」
「うん」
エレベーターは、鉄格子の扉になっていた。
鍵をボタンの所に差すと、起動した。
「やっぱりこれだったんだ」
エレベーターを呼び戻すと、ドアのロックが外れた。
「……あ、自分で開けるのか!」
なかなかドアが開かないなーと思ったが、サーシャが手を伸ばして手で開けた。
「これで更に地下に行けるのかい?」
「そうだよ」
ということは当然閉めるのも手動であり、閉めないと動かない。
「物凄くレトロなエレベーターだけど、さっきの警備室といい、少し近代的になってきたなぁ……」
稲生はエレベーターを動かしながらそう思った。
「ふーん……」
エレベーターが到着すると、そこは倉庫になっているようだった。
明かりは一応点いていて、幸いにもモンスターの気配は無かった。
「こんな所に裏門を開ける仕掛けが?」
「うーん……俄かには信じられないねぇ」
2人は半信半疑の状態で、操作盤みたいなものが無いか探した。
すると、
「おっ、あんな所にパソコンが!」
稲生がデスクトップPCを発見した。
「ぱそこん?魔法具が何かかい?」
「人間界には普通に存在するものですが、まあそうかもしれない」
と、稲生。
「きっと、あれで操作するんだ!」
「まあ、上手い事やってくれ」
稲生はPCの前に立つと電源ボタンを押したが、
「あれ?あれれ?起動しない?」
「どうした、稲生?」
「いや、何か電源が無いみたい……。コンセントは無いしなぁ……。発電機か何かあるかもしれない。探してもらえます?」
「しょうがないな。ちょっと待ってな」
サーシャは倉庫の中を走った。
すると、発電機らしいものを発見した。
「こいつか?随分オンボロに見えるけど大丈夫かね?」
そう言いつつ、サーシャはガチャンとレバーをONにした。
すると発電機が動き出した。
「どうだい!?」
「うーん……。PCのフル稼働にはまだ電力が足りないねぇ……。何か旧式っぽいし、意外と電気を食うのかもね」
「じゃ、どうする?」
「もう1個くらい発電機は無い?」
「マジか!」
サーシャはまた倉庫内を走った。
すると、もう1つ同じ形をした発電機があった。
「よっと!」
ガチャン!
「よーっし!フルパワーで起動しました!」
「急いでよ!もう時間が無い!」
「分かってます。……はい、OKです!開きました!」
「早っ!?さすがは稲生だね。よし!早いとこ脱出しよう!」
「ちょっと待ってください。このパソコン、ここの研究データを蓄積したサーバーにアクセスできるみたいだ」
稲生はローブの中からUSBメモリーを出した。
「せっかくだから、根こそぎ、持って行けるだけ持って行ってやろうかと!」
「あのなぁ……。まあ、いいや。早くしてよ」
「大丈夫。データを僕のUSBにコピーするだけです」
稲生はそう言って、メモリースティックを突き刺した。
「あれ?」
「今度は何だい?」
「いや、まだ解析されていないデータがある。……ふーん……これなら僕にもできそうだ」
稲生はキーボードを叩いた。
「魔法具なのに呪文とか唱えなくていいんだね?」
「まあ、その呪文をこのキーボードで打ち込んでるようなものだから」
というか、どうして魔界の、それも魔道師の研究所にパソコンがあるのかの疑問を持たない2人だった。
パソコン自体初めて見るサーシャはしょうがないにしても。
「……あれ?これって……」
稲生はローブの中から自分のスマホを出した。
ケーブルも出す。
それでPCとスマホと両方接続した。
「何をするつもりだい?」
「よくよく考えたら、これで総理官邸と連絡が取れそうなんですよ」
「何だって!?」
稲生は総理官邸に電話を掛けた。
「……あ、もしもし。僕、大魔道師イリーナ・レヴィア・ブリジッド先生の弟子で、稲生勇太と申します。……はい。すいませんが、安倍総理をお願いできますか?」
安倍春明が電話口に出るまでの間、稲生はサーシャに向かってガッツポーズをした。
{「あー、私だ。イリーナ師のお弟子さんが何の御用ですか?」}
「安倍総理!お忙しいところ、申し訳ありません!実はちょっとお願いがありまして、実は今、レッドスターシティ郊外の山奥にある魔道研究所の地下にいるんです!」
{「……よく聞こえなかった。もう1回言ってくれ」}
「ですから!まもなく“ライディーン”が放たれる町の郊外にいるんです!」
{「すぐにそこから離れなさい!まもなく町は極秘作戦により消滅する!」}
「分かってます!滅菌作戦ですね!」
{「一体、キミ達は何の目的でそこにいるのかね!?もう“ライディーン”は止められんぞ!?」}
「実はこちらの調査で把握した情報、“魔の者”に関するヤツがあるんですが、それは政府にとっても有益な情報かもしれないんです」
{「なに?確認させてくれ」}
「はい。すぐに送信します」
稲生はエンターキーを押したが、画面にエラー表示が出る。
「ん!?……あれ?コネクション・エラー!?しまった!“魔の者”に気づかれた!」
と、その時、地下室内に地響きと振動が伝わって来た。
「……お、おい!稲生!何かヤバいぞ!」
「ちょっと待ってください。ここをこうすれば、エラーを解除に……」
ズシーン!
「稲生、いいから早く来い!」
「ま、待ちなさい!今、送信を……!」
「ここでキカイと一緒に心中する気か!バカ!」
[同日05:50.天候:曇 アルカディアシティ・総理官邸 安倍春明]
電話の向こうから爆発音が聞こえた。
「稲生君!稲生君!?」
だが、電話が切れてしまった。
「な、何てこった!……“ライディーン”はまだ放たれていないのに、何があった!?」
安倍は急いでまた電話の受話器を取った。
「あー、私だ。“ライディーン”の発射時間をできるだけ遅くしてくれ。……ああ、分かってる!今さら中止にはできないことくらい!そうではなくて、発射時間をなるたけ延長してくれ!……ああ、それで十分だ。それと、発射した後、あの町の周辺に捜索隊を出せ!対象者は……」
安倍は机の上のノートPCを背に、魔王軍総司令部に連絡をしていた。
その間、受信エラーの表示が出ていたのだが、それがいつの間にか解除され、再び送信されてきていた。