報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「魔女の宅急便」

2016-02-21 23:14:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[2月21日15:00.天候:晴 長野県白馬村郊外・マリアの屋敷 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、エレーナ・マーロン]

 屋敷の上空からホウキに跨った魔女が舞い降りてくる。
「お届け物でーっす!」
「これはこれは……」
「イリーナ先生宛ての荷物だね」
 たまたまエントランスホールにいた稲生が荷受けすることになった。
「わざわざイギリスからここに?」
「まさか。台湾の大師匠様からだよ」
「今、台湾にいるの!?何しに?」
「さあ……?それより、ここにハンコちょうだい」
「あっ、ああ」
 エレーナは首を傾げた後で、稲生に伝票を差し出した。
 稲生は手持ちのシャチハタをポチッと押す。
「それじゃ……」
「あっ、ちょっと待った!マリアさんが、ついでに集荷して欲しい荷物があるんだって」
「そうなの?」
「今、呼んで来るんで!」
 稲生は大食堂に入ると、そこにある内線電話でマリアの部屋に掛けた。
「……えっ、そうなんですか?……分かりました。ちょっと言ってみます」
 稲生は電話を切った後で、
「すいません。今、マリアさんが荷造りしてる最中らしいんで、もう少し待っててもらえますか?」
「しょうがないねぇ。じゃあ、待機時間は時間料金が発生するよ」
「迎車のタクシーですか!……大食堂で待っててほしいそうです」
「あいよ」
 稲生はエレーナを大食堂に通した。
 すぐにマリアのメイド人形が茶を持って来る。
「あなたはマリアンナの所にいてやらんの?」
「それが、荷造りを手伝おうかと思ったんですが、どうも秘密の道具らしく、僕の手伝いは一切必要無いっていうんですよ」
「ふーん……。マリアンナの人形を運ぶのを頼まれてはいたんだけど……」
 マリアの魔道師としての現在のスキルは“ドール・ワーカー”、つまり“人形使い”だ。
 彼女の作るフランス人形は、色々な魔法の依り代にピッタリだということで、他の魔道師からの注文製作が多く入っていた。
「私が見る限りでは、別に他人の手が入っても大丈夫な気はするけどねぇ……」
「そうなんですか」
「ええ」
 ズズズと紅茶を啜るエレーナ。
「それにしても、何だか信じられませんね」
「何が?」
「僕がまだ大学生だった頃、あなたは僕達の敵でした。それが今や……」
「ああ、あれね。まあ、私もポーリン先生の弟子をやってる以上、先生に命令されたら従わないとね」
 エレーナが敵対していた頃、マリアの過去をバラすなどの策略でもって稲生達を攻撃してきた。
 マリアを精神的に追い詰めていったことから、妖狐の威吹からは、『イジメっ子だな、あいつ』と言わしめている。
「まあ、今は先生達も仲直りしているし、大師匠様も出て来られたから、私もおとなしくしないとね」
「大師匠様が!?何て?」
「ダンテ一門の綱領を繰り返し拝読させられた」
「それって確か、『仲良きことは美しき哉』『君は君、我は我なり。されど仲良き』だったっけ?」
 武者小路実篤の明言だが、何故かそれを一門の綱領に掲げているダンテであった。
「そういうこと」
「つまり、『ケンカしないで仲直りし、これからは仲良くやりなさい』ってことか」
「まあ、そういうことだね」
「エレーナも実力派だからなぁ……」
 茶菓子として出されたクッキーを、使い魔の黒猫に食べさせるエレーナ。
 ますます魔女宅だ。
「魔法でガチでマリアンナとケンカしたら、私が勝つ自信があるよ。……まあ、マリアンナからケンカ売ってこなけりゃ、私も何もしないけど」
「だよなぁ……」
「ただでさえ大師匠様から目ェ付けられたのに、ここで変なケンカしたのがバレたら、また謹慎だし」
「また?」
「あ、いや……」
 ただ、マリアに勝てる自信が過剰気味になり、それで詰めを甘くしてしまったり、稲生も敵に回したことで福運がゼロになり(稲生の魔法は、無意識のうちに敵の運力を吸収してしまうというものらしい)、不運に襲われて負けるということを繰り返した。
「とにかく、魔道師としての本分からして、同門とケンカは違うってこと」
「まあ、そうだね」

 30分後、ようやくマリアが荷物を持って来た。
「お待たせー」
 重そうな荷物をメイド人形に運んでもらっている。
「遅ーい!じゃあ、待機時間料金込みで運送料は……」
「ちょっと待て!うちのアールグレイ飲み干した上、取って置きのクッキーまで食べ尽して何言ってやがる!」
 マリアはエレーナを睨みつけた。
「でも、あなたの彼氏も一緒に食べてたよ?」
 エレーナは何気に稲生に罪をなすり付けようとした。
「いやいや、エレーナさん、エレーナさん。半分以上は明らかにエレーナさんとクロが食べてましたよ?」
「この泥棒猫!」
「ああッ?」
 マリアの罵声にエレーナのこめかみがピクッと動く。
 そして、目つきが“魔女”の目になった。
 瞳孔が収縮し、瞳の色が濁った色(エレーナの瞳はグリーンだから、濁った緑か)になる。
「お茶とお菓子は自由に食べていいって言ってたよね?」
「私の人形が持って来たヤツだけだ!」
「そんなの知らないし、聞いてないし!だいたい、アンタは要領が悪いのよ!荷物くらい先に用意してれば、私もすぐに出発したのに!」
「うるさい!そんなの関係無い!」
「とにかく、クロをバカにしたことは謝ってもらうから」
「意地汚く食い散らす猫は泥棒猫だろ!泥棒猫!もう1回言ってやろうか?泥棒猫!」
「く……く、かっ……!」
 エレーナはギリギリと歯軋りした。
「絶対、許さないからな!」
「やめなさい、2人とも!ケンカしちゃダメだって言われてるでしょ!?」
 稲生が割って入った。
「稲生氏はまだマリアンナのえげつない過去を知らないようだから、後でバラしてあげるよ」
「ユウタ、エレーナの魔女宅は、かなり客をボッてるから、後で証拠揃えて大師匠様にチクリ入れてやるよ。これでお前もまた謹慎だな」
「私はボッただけで済んでるけど、あなたは何人もの人を殺してるわけだろ?なにのうのうと生きてんだよ、人殺し!」
「表へ出ろ!」
「まあまあまあまあ!」
 稲生が更に仲裁しようとするが、稲生の視界が360度回転する。
 魔女2人に飛ばされてしまったのだ。
 壁に叩き付けられて逆さまになった稲生が見たのは、バンッと玄関のドアを開けて入って来た大魔道師イリーナとボーリンだった。
「あらあら?玄関先で、随分と賑やかなバトルやってるねぇ……。マリアンナ、アタシが出した宿題はもう終わったのかしら?」
「あ……!いや、その……あの……」
 いつもは目を細くしているイリーナも、今回はマリアに対して目を開いている。
 明らかに次の瞬間、叱責の怒号が飛ぶ数秒前だ。
 で、いつもは老婆の姿をしているポーリンも、今回はイリーナと同じ歳恰好の女性に変化している。
「エレーナ!いくらイリーナの配達先とはいえ、ここでトラブルを起こすようなら、もう宅急便の仕事は許可しないよ!?」
「も、申し訳ありません!ま、マリアンナにハメられて……!」
「人のせいにするなっ!泥棒猫が!」
「また言ったわね!人殺し!」
 師匠達そっちのけでまたケンカしようとしたものだから……。

[同日18:00.天候:雪 マリアの屋敷・大食堂 稲生、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、ポーリン・ルシフェ・エルミラ]

「ユウタ君、今日は無礼講だから、アタシ達に気を使わなくていいんだよ。ね?姉さん?」
「だから、姉さんと呼ぶなって!てか、この状況で無礼講にすんなよ……」
 ポーリンはイリーナの姉弟子である。
「何だか喉を通りません……」
 いつもの夕食の時間なのだが、この席にマリアの姿は無かった。
「気にしなくていいのよ」
「うむ。私達そっちのけでケンカをした罪、一晩地下室で反省してもらうからな」
 ポーリンもしたり顔で頷いた。
 夕食は抜きらしい。
(怖い魔女さん達だなぁ……)

 稲生は改めて、とんでもない世界に飛び込んだものだと自覚したのであった。
 尚、実際はメンタルが多い魔女達であるから、昨日まで仲が良かったのに今日ケンカしたり、今日ケンカしたと思ったら明日また仲良くしていたりと、やっぱりメンタルではない稲生には理解が難しい世界のようである。

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1 コメント

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つぶやき (作者)
2016-02-22 18:40:52
広布推進会に参加してから、私の御祈念の内容が変わった。
それは、「早いとこ、楽にさせてください」である。
推進会の空回りぶりを見てから、どうでも良くなった感じだ。
皆が皆、武闘派になったら組織が崩壊することに気づけないのであれば、とても付き合い切れるものではない。
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