報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「“魔の者”の正体」

2016-02-05 21:03:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月24日11:00.天候:曇 魔界王国アルカディア・王都アルカディアシティ・魔王軍駐屯地 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、アレクサンドラ・エヴァノビッチ(サーシャ)、イリーナ・レヴィア・スカーレット]

 飛空艇が魔王軍の飛空艇団駐屯地に着陸した後、そこで入境の手続きを取った。
 いかに異世界とはいえ、そこは外国。
 但し、元々魔界に籍のあるサーシャやサンモンドはその必要が無いし、人間界に籍のある魔道師に対してはビザ無し入境が認められている。
「みんな〜!無事で良かったよー!」
 イリーナが目を細めて、弟子達を迎えた。
「先生!」
「師匠!これは一体、どういうことですか!?」
「いやー、“魔の者”にしてやられたみたいでさぁ……」
「“魔の者”のしわざだったんですか?」
「人間界側の調査にかまけていたら、いきなりアーニャに怒られちゃったよ」
「アーニャ?」
 稲生が目を丸くすると、
「アナスタシア先生のことですか……」
 マリアが眉を潜めて答えた。
「アナスタシア先生って、ああ!オータニで会った……」
 マリアの再登用(再・免許皆伝)を祝うパーティにやってきた、同じダンテ一門の大魔道師。
 階級はイリーナと同じだが、やはり他の大魔道師同様、途中で修行を投げ出したイリーナを侮蔑している。
 背丈などはイリーナとよく似ている。
 黒いドレスコートに身を包み、一門の中では1番多くの弟子を抱えている。
 弟子達も師匠に合わせ、黒いスーツや黒いブレザーを羽織るなど、非公式ながらアナシタシア組のシンボルカラーになりつつある。
「『弟子達が魔界で必死になっているのに、何やってんの!』ってね……。いやー、まさか魔法陣に細工されてたなんて盲点だったわー」
「あの魔法陣に細工が!?」
「“魔の者”、何だか人間臭いことしますね。まあ、ベルフェゴールも随分と人間臭くなってますが」
 マリアと専属契約している“7つの大罪”の悪魔で、怠惰を司るベルフェゴール。
 マリアの前では黒いタキシード姿に黒い蝶ネクタイを結び、黒髪のオールバックで、左目に片眼鏡(モノクル)を掛けている。
 普通、片眼鏡は右目にするものだが、あえて逆側に着けることにより、人間ではないことを表しているのだそうだ。
 片眼鏡はイギリスの上流階級で流行った歴史があるとのことで、マリアがイギリス人だからというのがその理由だろうか。
 ベルフェゴールは普段は姿を消しているが、こうやってマリアから名前を出された時にはさりげなく現れている。
 で、まだ手の空いている他の悪魔の為に、たまに稲生に対して勧誘をすることもある。
 因みに今はマリアの横に現れ、マリアの言葉に深々と黙って頷いていた。
「でも、どうして“魔の者”は僕達を魔界に呼んだんですか?」
「それが今回の最大の問題よ。実は、まだハッキリとした答えは出てないの」
「何だ、そうですか……」
「まあ、まずはユウタ君達がお世話になった女戦士さんを治してあげようか」
「あっ、そうだった!」

 稲生達はサーシャが運ばれた基地内の医務室に向かった。
「あー、こりゃアレだ」
 と、イリーナ。
「あれって?」
「マリア、中途半端な回復魔法は却って体に悪いって教えたでしょ?」
「でも、私はまだAクラスの全快魔法は使えなくて……」
「そういう時はCクラスの弱い回復魔法で、応急手当をしておくのに留めるの。中途半端に傷を塞いだりすると、後でケロイドの元にもなるし、中途半端に骨を繫げると、後々骨格の異常にも繋がるのよ」
「へえ……」
 何気なく稲生は自分のノートにメモをしておいた。
(何か、カンジ君の気持ちが分かるなぁ……)
 かつて、威吹の元へ弟子入りをした妖狐のカンジ。
 しかしその正体は人間界と魔界の動きを監視する為、大師匠ダンテ・アリギエーリが送り込んだ化身であった。
「じゃ、どうするんですか、先生?」
「私が改めて全快の魔法を掛けるから、よく見ておきなさい」
(ベホマかな?フルケアかな?)
 稲生はとある有名RPG2つの回復魔法を思い浮かべた。
 ま、イリーナがどういう呪文を唱えてサーシャのケガを全回復させたかは【お察しください】ということにしておこう。

[同日13:00.同基地内・会議室 上記メンバーにプラス、レナフィール・ハリシャルマン]

「未だ“魔の者”の正体については明らかではないけれど、人間界側での調査で少しずつ分かって来たことがあるわ」
 イリーナは稲生達の前に立って発言した。
「最初は……」
 イリーナはマリアを見た。
「とある双子の水子の霊が悪霊化したものだと思われていたけど、それとは別」
「それとは別?」
「あの戦いにいて、この場にもいる人物……」
「と、いうと!?」
 稲生とマリアはサンモンドを見た。
「おいおい、ボクのどこが怪しいっていうんだい?」
 サンモンドは椅子に腰かけて、足を組んでいた。
 手は机の上に組んでいる。
「……1番怪しいんだけど、せいぜいサンモンドがやっていることは、ユウタ君達の戦闘データを取ることくらいかしら?」
「別にいいじゃないか。禁止事項ってわけじゃないんだから」
 サンモンドは肩を竦めた。
「……ん?サンモンド船長が1番怪しかったけど、“魔の者”じゃないってことは……?」
「いい加減にしなさい!」
 イリーナは魔法の杖を振り上げた。
 すると、さっきまでマリアが座っていた椅子が空席になっていた。
「……マリアさん?マリアさん!?」
 稲生は茫然とした。
「全く。油断も隙も無いんだから……」
 イリーナは両目を開けながら言った。
「わざわざ、ベルフェゴールの偽者まで仕立ててくるんだから……」
「これは盲点だったねぇ……」
 と、サンモンド。
「じゃ、じゃあ、本物のマリアさんはどこに!?」
「ユウタ君の居場所が全く掴めないから、アルカディアシティ内で待ってるよ」
「え!?」
「稲生君が魔法陣に吸い込まれた時、マリアは屋敷にいたのよ?」
「ええーっ!?」
「つまり、“魔の者”は既にユウタ君に狙いをチェンジした可能性があるってことね」
「すっかり騙されたのか……」
「まあ、悪魔ってのはそういうものだからねぇ」
 サンモンドは苦笑いにも似た笑みを浮かべた。
「まあ、ボクはゾンビウィルスに抗体があるみたいだったから良かったものの、マリアンナ君にまで抗体があるって不自然には感じたけどね」
「アンタ、気づいた時には動きなさいよ」
 イリーナはこめかみをピクピク動かしていた。
「僕は“彼女”に監視されていたんだよ?ヘタなことはできないじゃないか」
「アンタだって魔道師の資格を持ってるんだから、それくらい……!」
「あ、あの、先生!」
「ん?」
「僕、できれば早く本物のマリアさんに会いたいんですが……」
「ん?おお、そうだったねぇ」
「いやいや、その前に、サーシャ君の望みを叶えてあげたらどうかね?」
「あー、そうか!」
 ポンと手を叩く稲生。
「先生、実はお願いがありまして……」
「なぁに?」
 稲生はイリーナとサーシャを見比べながら、事情を説明した。
コメント (3)
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