[1月26日12:30.天候:晴 新千歳空港国内線ターミナル4F・新千歳空港温泉 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]
「何だって!?ケンショーグリーンがいた!?」
「そうなんです」
4階の休憩処兼食事処でマリアと合流した稲生。
稲生は男湯であった出来事を話した。
「師匠は甘い!グリーンがいたってことは、他にもいるはずだ!」
マリアは浴衣姿ながら、しっかり魔法の杖は持っていた。
「幸い、他にケンショーレンジャーの姿は見えませんでした」
「んん?」
「一応、横田氏本人の言葉ですが、今回は魔界共和党理事として来たそうです。有給休暇を取って」
「全く信用できない」
「そうですね。……イリーナ先生の下着が欲しいと言ってました」
「ヘンタイ理事め!」
さすがにマリアの下着も欲しがっていたとまでは言えなかった。
「それで、変態理事はどこに?」
「それが、ゲームコーナーに行きました」
「ゲームコーナー?」
「あそこに脱衣麻雀の筐体があると知って、喜び勇んで行きましたが……」
「救いようの無い……!」
「それでその……イリーナ先生は?」
「いつもの通り、マッサージ受けてる。今度はオイルリンパだってさ」
「ええっ?でも、飛行機の時間、間に合いませんよ?」
「昼食は機内で取るそうだ。私達はここで食べよう」
「そうですね。じゃあ、先生には後で空弁でも探しておくか……」
「その方がいいだろう」
2人は座敷席に向かい合って座った。
「天ぷら定食ください」
「じゃあ私も」
稲生が注文した後で、マリアも同じものを注文した。
「こういう所ではユウタ、日本食を注文するね?」
「まあ、そうですね」
これには理由がある。
マリアの屋敷に住み込み修行をしている身とあっては、なかなか好きな物が食べられない。
どうしてもマリアやイリーナの好みに合わせた食事が出てくるので、なかなか日本食が食べられないというのがある。
そこで、こういう外食の時は率先して日本食を食べる稲生であった。
「朝食も日本食が中心だったな?」
「そうでしたかね。まあ、僕も日本人ですから」
「それもそうか」
マリアは屋敷でも、風呂上りや就寝時はワンピース型の寝間着を着ることが多い。
そういう薄着になると、どうしても見えてしまうものがある。
それは痣。
人間時代に様々な暴行を受けた痕。
魔道師になっても、その痕が消えることはない。
魔道師が普通の人間とは違って老化が極端に遅くなるということは良いように見えるが、こういう所に弊害が出てくるのである。
どうして魔法使いは、回復魔法が使えるのか。
それは老化が遅い(細胞が劣化しない→新陳代謝を行わない→傷が自然に治らない)からである。
“クイーン・アッツァー”号に現れたジェシカには、顔に傷痕があった。
人間時代、強姦魔にナイフで傷つけられた痕だという。
このように、ダンテ一門の魔女達の過半数は、人間時代に何らかの性暴力を受けた経験者であるということを稲生は知った。
マリアが突出してヒドい経験だったそうであるが。
だからなのか、グリーンのように言動だけ変態的なだけでは、逆に手が出ないのである。
息巻いて何かしようとはするが。
しかし、マリアは少なくとも稲生とは割と打ち解けられているようだ。
これについてクリスティーナから指摘を受けたが、マリア自身もその理由は分からない。
ただ、稲生を不思議な男だと思ったのは事実だ。
そこから興味が湧いて、少なくとも稲生があの“狼”達とは違うという確信を持てたからかもしれない。
「はい、天ぷら定食お待たせしましたー」
「おっ、来た来た」
テーブルの上に、お盆に乗った天ぷら盛り合わせとご飯、味噌汁、茶碗蒸し、お新香が付いて来た。
「ごゆっくりどうぞ」
「はい、どうもー」
「久しぶりに天ぷら食べるなー」
「そうですね」
「えー、チョップスティックは……」
「……?ああ!ここです!」
箸を英語でチョップスティックと言う。
マリアの英語が魔法で日本語に変換されて稲生の耳に入って来るのだが、たまに変換が遅れてくることがある。
それは稲生の日本語が英語に変換される時も同じらしく、たまにマリアが聞き返してくることもあった。
わざとイリーナが不便にしているらしく、要は言語くらいは魔法で横着しないで、自分で勉強しなさいということらしい。
だからたまにマリアも魔法を使わず、片言の日本語を屋敷内で話し掛けてくることがある。
英語と日本語は、アルカディア王国では公用語であることも理由の1つであろう。
だからなのか、イリーナの母国語であるロシア語が聞こえてくることはあまり無い。
稲生は箸がしまってある引き出しを開けた。
そして、そこからマリアに箸を取ってあげる。
……と!
「あっと!」
稲生が手を滑らせて、箸を1本下に落としてしまった。
「す、すいません!」
「いや……」
稲生は急いでテーブルの下を覗き込んだ。
箸はちょうど稲生とマリアの間に落ちており、稲生がそれに手を伸ばした時、
「!」
マリアは座布団の上に足を崩して座っていたが、裾が少し捲れた感じになっていた。
下着が一瞬見え、
(水色……。……って、違う違う!)
箸を拾って頭を上げると、ゴンとテーブルにぶつかった。
「だ、大丈夫か!?」
マリアがびっくりするほどだった。
「あ、いえ、その……く、く、功徳です……」
「頭ぶつけといて何が功徳だ!」
マリアは稲生の言動に呆れかえった。
因みにマリア自身は、多分稲生が自分の浴衣の下を見たような気はした。
気はしたが、何故かそれを咎める気は全く起きなかった。
(面白い人だ……)
と、思った後で、
「ぷっ……!くっ……ははははははは!」
思わず笑いがこぼれたのである。
稲生達は食事が終わり、イリーナもマッサージが終わった後で、エントランスロビーに集合した。
もちろん3人は作務衣や浴衣から、いつもの服に着替えている。
「あー、稲生君、アタシのカード使っていいから」
「あ、すいません」
稲生は最後の精算の時に、イリーナのクレジットカードで支払いの手続きをした。
その最中、横田がバタバタと走って来た。
「横田理事!?」
「ご清聴、感謝します」
「何がだ!」
「私の分析によりますと、これから超A級の事態が起きますので、これにて失礼致します。ご苦労様でした!」
「はあ?」
「?」
「???」
横田は慌てて出口専用のゲートに向かった。
「あっ、お客さん!ご精算を!」
フロントのスタッフが慌てて横田を呼び止めるが、横田はゲートを無理やり突破してしまった。
アラームが鳴り響くゲート。
どうして横田は慌てて飛び出してしまったのだろうか。
これから起こる超A級の事態とは?
その理由はすぐに分かった。
奥からマリアと大して歳の変わらない女性が(ということは見た目年齢的に女子高生くらいか?)、専属警備員と一緒に走ってきたからだ。
「あいつです!脱衣所に入ってウチの下着取って行ったの!!」
「だーっ!」
ズッコケる稲生だった。
「あらあら……忙しい男だねぇ……」
イリーナは目を細めたまま呆れるだけであった。
「し、師匠!デバガメと下着泥棒も性犯罪の一種だと思うので、一発かましてきていいですか?」
マリアは魔法の杖を構えた。
「あー……。まあ、しょうがないねぇ。あんまり大騒ぎにならないように。あと、飛行機の時間に間に合うようにやるんだよ。いいね?」
「了解です!ユウタは師匠をお願い!」
「わ、分かりました」
警備員と共に横田の後を追うマリアだった。
「……何だかんだ言って、性犯罪者に“復讐”する時が、1番輝いてるっぽいよねぇ」
と、イリーナは相変わらず目を細めたままだった。
「はあ……」
しかし稲生には、それに魔女達が縛られているような感じがして、それも何だか哀れだと思った。
「何だって!?ケンショーグリーンがいた!?」
「そうなんです」
4階の休憩処兼食事処でマリアと合流した稲生。
稲生は男湯であった出来事を話した。
「師匠は甘い!グリーンがいたってことは、他にもいるはずだ!」
マリアは浴衣姿ながら、しっかり魔法の杖は持っていた。
「幸い、他にケンショーレンジャーの姿は見えませんでした」
「んん?」
「一応、横田氏本人の言葉ですが、今回は魔界共和党理事として来たそうです。有給休暇を取って」
「全く信用できない」
「そうですね。……イリーナ先生の下着が欲しいと言ってました」
「ヘンタイ理事め!」
さすがにマリアの下着も欲しがっていたとまでは言えなかった。
「それで、変態理事はどこに?」
「それが、ゲームコーナーに行きました」
「ゲームコーナー?」
「あそこに脱衣麻雀の筐体があると知って、喜び勇んで行きましたが……」
「救いようの無い……!」
「それでその……イリーナ先生は?」
「いつもの通り、マッサージ受けてる。今度はオイルリンパだってさ」
「ええっ?でも、飛行機の時間、間に合いませんよ?」
「昼食は機内で取るそうだ。私達はここで食べよう」
「そうですね。じゃあ、先生には後で空弁でも探しておくか……」
「その方がいいだろう」
2人は座敷席に向かい合って座った。
「天ぷら定食ください」
「じゃあ私も」
稲生が注文した後で、マリアも同じものを注文した。
「こういう所ではユウタ、日本食を注文するね?」
「まあ、そうですね」
これには理由がある。
マリアの屋敷に住み込み修行をしている身とあっては、なかなか好きな物が食べられない。
どうしてもマリアやイリーナの好みに合わせた食事が出てくるので、なかなか日本食が食べられないというのがある。
そこで、こういう外食の時は率先して日本食を食べる稲生であった。
「朝食も日本食が中心だったな?」
「そうでしたかね。まあ、僕も日本人ですから」
「それもそうか」
マリアは屋敷でも、風呂上りや就寝時はワンピース型の寝間着を着ることが多い。
そういう薄着になると、どうしても見えてしまうものがある。
それは痣。
人間時代に様々な暴行を受けた痕。
魔道師になっても、その痕が消えることはない。
魔道師が普通の人間とは違って老化が極端に遅くなるということは良いように見えるが、こういう所に弊害が出てくるのである。
どうして魔法使いは、回復魔法が使えるのか。
それは老化が遅い(細胞が劣化しない→新陳代謝を行わない→傷が自然に治らない)からである。
“クイーン・アッツァー”号に現れたジェシカには、顔に傷痕があった。
人間時代、強姦魔にナイフで傷つけられた痕だという。
このように、ダンテ一門の魔女達の過半数は、人間時代に何らかの性暴力を受けた経験者であるということを稲生は知った。
マリアが突出してヒドい経験だったそうであるが。
だからなのか、グリーンのように言動だけ変態的なだけでは、逆に手が出ないのである。
息巻いて何かしようとはするが。
しかし、マリアは少なくとも稲生とは割と打ち解けられているようだ。
これについてクリスティーナから指摘を受けたが、マリア自身もその理由は分からない。
ただ、稲生を不思議な男だと思ったのは事実だ。
そこから興味が湧いて、少なくとも稲生があの“狼”達とは違うという確信を持てたからかもしれない。
「はい、天ぷら定食お待たせしましたー」
「おっ、来た来た」
テーブルの上に、お盆に乗った天ぷら盛り合わせとご飯、味噌汁、茶碗蒸し、お新香が付いて来た。
「ごゆっくりどうぞ」
「はい、どうもー」
「久しぶりに天ぷら食べるなー」
「そうですね」
「えー、チョップスティックは……」
「……?ああ!ここです!」
箸を英語でチョップスティックと言う。
マリアの英語が魔法で日本語に変換されて稲生の耳に入って来るのだが、たまに変換が遅れてくることがある。
それは稲生の日本語が英語に変換される時も同じらしく、たまにマリアが聞き返してくることもあった。
わざとイリーナが不便にしているらしく、要は言語くらいは魔法で横着しないで、自分で勉強しなさいということらしい。
だからたまにマリアも魔法を使わず、片言の日本語を屋敷内で話し掛けてくることがある。
英語と日本語は、アルカディア王国では公用語であることも理由の1つであろう。
だからなのか、イリーナの母国語であるロシア語が聞こえてくることはあまり無い。
稲生は箸がしまってある引き出しを開けた。
そして、そこからマリアに箸を取ってあげる。
……と!
「あっと!」
稲生が手を滑らせて、箸を1本下に落としてしまった。
「す、すいません!」
「いや……」
稲生は急いでテーブルの下を覗き込んだ。
箸はちょうど稲生とマリアの間に落ちており、稲生がそれに手を伸ばした時、
「!」
マリアは座布団の上に足を崩して座っていたが、裾が少し捲れた感じになっていた。
下着が一瞬見え、
(水色……。……って、違う違う!)
箸を拾って頭を上げると、ゴンとテーブルにぶつかった。
「だ、大丈夫か!?」
マリアがびっくりするほどだった。
「あ、いえ、その……く、く、功徳です……」
「頭ぶつけといて何が功徳だ!」
マリアは稲生の言動に呆れかえった。
因みにマリア自身は、多分稲生が自分の浴衣の下を見たような気はした。
気はしたが、何故かそれを咎める気は全く起きなかった。
(面白い人だ……)
と、思った後で、
「ぷっ……!くっ……ははははははは!」
思わず笑いがこぼれたのである。
稲生達は食事が終わり、イリーナもマッサージが終わった後で、エントランスロビーに集合した。
もちろん3人は作務衣や浴衣から、いつもの服に着替えている。
「あー、稲生君、アタシのカード使っていいから」
「あ、すいません」
稲生は最後の精算の時に、イリーナのクレジットカードで支払いの手続きをした。
その最中、横田がバタバタと走って来た。
「横田理事!?」
「ご清聴、感謝します」
「何がだ!」
「私の分析によりますと、これから超A級の事態が起きますので、これにて失礼致します。ご苦労様でした!」
「はあ?」
「?」
「???」
横田は慌てて出口専用のゲートに向かった。
「あっ、お客さん!ご精算を!」
フロントのスタッフが慌てて横田を呼び止めるが、横田はゲートを無理やり突破してしまった。
アラームが鳴り響くゲート。
どうして横田は慌てて飛び出してしまったのだろうか。
これから起こる超A級の事態とは?
その理由はすぐに分かった。
奥からマリアと大して歳の変わらない女性が(ということは見た目年齢的に女子高生くらいか?)、専属警備員と一緒に走ってきたからだ。
「あいつです!脱衣所に入ってウチの下着取って行ったの!!」
「だーっ!」
ズッコケる稲生だった。
「あらあら……忙しい男だねぇ……」
イリーナは目を細めたまま呆れるだけであった。
「し、師匠!デバガメと下着泥棒も性犯罪の一種だと思うので、一発かましてきていいですか?」
マリアは魔法の杖を構えた。
「あー……。まあ、しょうがないねぇ。あんまり大騒ぎにならないように。あと、飛行機の時間に間に合うようにやるんだよ。いいね?」
「了解です!ユウタは師匠をお願い!」
「わ、分かりました」
警備員と共に横田の後を追うマリアだった。
「……何だかんだ言って、性犯罪者に“復讐”する時が、1番輝いてるっぽいよねぇ」
と、イリーナは相変わらず目を細めたままだった。
「はあ……」
しかし稲生には、それに魔女達が縛られているような感じがして、それも何だか哀れだと思った。