税務調査官の目 その50

　昔、税務署はいくつかの団体やその系列には弱かった。いわゆる反税団体というものだ。なかでも暴力団はその最たるものだ。

　うちのお客様で、その筋に近い方がいて、その方の内縁の奥さんの税務調査があった時のことだ。奥さんの方はどうということはなかったが、調べているうちにダンナの方に問題が出てきて、いつしかダンナの税務調査になってきた。

　私は粘って交渉し「よくここまで折れたな」と思うくらいに調査官も妥協してくれた。そこでダンナに「こうなりました」と報告すると「先生、御苦労でした。あとは私がやります」と言ってさらにその半額まで負けさせたのだ。

　私は、自分のやってきたことの意味と結果のギャップに唖然とした。表向き、税務署は「課税の公平」を言っているが、私は人から聞いた話ではなく、自ら「税務署の課税の不公平」を体験したのである。