瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君と一緒に(ルナミ編―その1―)

2009年09月16日 22時34分09秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
「俺さァ、今度彼女と一緒に旅行するんだ!
 そんでそこでプロポーズしようと思ってる!」

12月初め、コンビニで一緒にバイトしてる4人で、ちょっと気の早い忘年会をする事にした。
場所はとあるカラオケ店で、延長に次ぐ延長を重ねて盛り上がり、いいかげん帰るか~という声が出だしたころ、俺は思い切って重大発表をした。
それを聞いたとたん、隣で分厚い曲リストをめくっては指をはさんでたサンジと、その真向いで黙々とビールをピッチャーで飲んでいたゾロが、ものすごい勢いでこっちを振向いた。
続いてTV隣の席陣取って必要ねーのにこぶしを回しながら「いい日旅立ち」を歌ってたウソップが、マイクを口に当てたまま「こいつ死亡フラグ立てやがったァァァ!!!」と絶叫した。
叫びを聞きあっけに取られたのか、俺に何かを言いかけてたゾロとサンジが、口を開けたままの顔で固まっちまった。
エコーが完全に静まるまで、俺達4人は顔を見合わせ黙っていた。





                            【君と一緒に】
                         ―打ち上げろ!(ルナミ編)―





「…『死亡フラグ』ってどういう意味だよ?」

まだ耳の奥にさっきのウソップの絶叫がつまってる気がして、両指で耳をほじくりながらウソップに聞く。
「死亡」ってくらいだから良い意味じゃない事は察せたんで、聞く前からムッとした顔でにらみ付けてやった。
そんな俺を正面からおちょくるように、ウソップが説明する。

「ドラマなんかで観るだろォ~?『今度恋人にプロポーズするんだ』っつった直後に死んじまう奴がよォ~。今度今度とのたまう奴に『今度』と言う名の機会は訪れない、これ鉄則のお約束パターンなんだよ!」
「ウソップ、喧しいからマイク離して喋れ」
「お、悪ィ、つい手と同化しちまってた!」

隣からゾロに注意されたウソップが、マイクのスイッチを切りテーブルに置く。
そうして腕組み足を組み替え、さらにブツブツとよく解んねェ文句をつぶやいた。

「時は師走…クリスマスに正月という、2大お目出度イベントを控える時期に…おまえって奴は不吉なフラグを立ててくれるぜ…」
「バカかてめェ?『今度』って言ったぐれーで死ぬかよ!フィクションと現実こんどーしやがってはっずかしー!」
「いやいや、死にそうにねェ奴ほど、案外コロッと逝っちまうもんで…わっからんぜェ~?」
「死んでたまるかっ!!人に『死ぬ』なんて言う奴のが先に死ぬんだからなァ!!」
「小学生並の屁理屈捏ねんな!てめェに17歳ハイティーンとしてのプライドは無ェのかよ!?」

「待て待て2人共!今は争ってる場合じゃねェ!」

つばを飛ばしつつケンカをおっ始めた俺とウソップの間に、サンジがちゅうさいに入った。
俺達が黙った所で、サンジは脱いだジャケットの胸ポケットを探り、たばこを1本取り出して口にくわえる。
すかさずサンジの正面に座るゾロが、渋い顔で非難した。

「おい、屋内で煙草吸うなっつったろ!」
「るせェな、吸わなきゃ冷静に話せそうにねェんだよ!」

問答無用で立ち昇った煙が、クルクル回るミラーボールの光を反射する。
プラネタリウムみたく紫色に薄暗い部屋の中、TVに映ったジャイアンが俺達の代りに歌を熱唱していた。
「明らかに歌が上手くなっている」だァ?歌の上手いジャイアンなんてジャイアンじゃねーだろ!
そんな事を考えつつチラッと腕時計を見たら、残り時間後30分。
せっかくカラオケしに来たのに、歌わなくて良いんだろうか?

「なー、誰も歌わねーの?だったら俺、歌って良いか?」

どうも空気が重くて居心地悪かったんで、笑顔でたずねてみた。
サンジの前に置いてある曲リストを取ろうと手を伸ばす。
けどそれを阻止するように、サンジの手がリストを押さえた。
綱引き状態のまま、しばらく無言でにらみ合う。

「……なんだよ、歌わせろよ。室料もったいねーじゃん」
「歌いたけりゃ、こっちの質問に答えろ。ルフィ……てめェ…彼女が居るのか?」

テーブルの上の黒いプラスチック製の灰皿でたばこをもみ消した後、サンジは再び俺と向き合いすごんだ。
顔左半分金髪で隠れて1つ目しか見えないのに、両目でにらまれる以上の眼力を感じる。
なんでそんな険悪ムードを漂わせてるのか解んなかったけど、聞かれた俺は素直に答えた。

「うん、居る!」

直後、サンジの顔がクシャミを我慢してるブルドックみたくゆがんだ。
押さえてるリストを伝って、体がブルブル震えてるのが判る。
風邪でも引いたのかと心配になり、額に手を当てようとしたら、乱暴に振り払われた。

「17歳高校生のクセして彼女持ちだァァ!?しかも一緒に旅行してプロポーズだァァ!?十年…いや百年…いや千年…いや一万年早ェよ!!!」
「そんなに長い事経ったら俺も相手も死んじまってプロポーズ出来ねーじゃん」
「うるせうるせうるせェェェ!!!…クソォアアア!!!19歳大学生の俺が未だ清らかな体で日夜真実の愛を求めているというのに、今日びの高校生ときたら…!」

わめきながらサンジが頭をグシャグシャかきむしる。
そこへゾロがあざけるようにボソリとつぶやいた。

「童貞」
「黙れ緑のヒヨコ頭!!!俺は恋愛に崇高な憧れを抱いてるが故に、相手が中々見付からないで居るだけだ!!!」

プッツンしたサンジが怒鳴って返す。
しかし今の一言はそーとー効いたらしく、目尻には涙がたまっていた。

「プロポーズって、『ナミ』さんにだろ?おまえより1つ上で、幼馴染の…」

俺の横でヘビみたく体をくねらせ独りで遊んでるサンジを無視して、今度はウソップが聞いて来た。

「おう、決まってんじゃんか!」
「……ふーん…」

サンジほどじゃないけど、ウソップの態度からも面白くなさげなにおいを感じて、首を傾げた俺はふと気がついた。
俺とウソップは学校は違うけど、同じ高2で17歳、先を越された気がして面白くねーんだ。
そこまで考えついて、サンジの様子が変なのにも納得が行った。
ちなみにサンジは俺より2つ上、ゾロは先月誕生日を迎えたばかりの20歳、2人とも大学生だ。
そういやサンジの奴、ウソップに彼女が出来たって聞いた時も、ブッチン切れて暴れたっけなー。

「小坊がそのまんま高校入ったよな形のクセして、そこまでススンデルとはねェー」

俺の前でカルピスサワーをグビ飲みし、笑ってしゃべる声にはトゲが有る。
「ススンデル」の意味が今一理解出来なかったんで聞いてみた。

「だって一緒に旅行するよな仲なんだろ?って事は既にAとか…Bとか…Cとか……」

段々と声が小さくなってって、しまいにはゴニョゴニョとしか聞き取れなかったけど、大体の事は解った。
つまりナミとHしたのか、暗に聞いてるらしかったので答えてやる。

「俺とナミ、まだ何にもしてねーぞ」
「は?」

したらウソップの顔がモアイになって固まっちまった。
視線を左にズラしたら、ゾロまで同じ顔で固まっちまってる。
ダブルモアイだ、後998体位集めて並べたら、イースター島みたくそーかんだろうなーと思った。

「…何もしてねェって…ひょっとしてキスもか?」
「ああ、してねェ」
「…そ…それで一緒に旅行して…プロポーズをすると…?」
「そうだ、悪ィか?」
「悪ィかって…ああ貴方、事には順序ってもんが…!」

ウソップから質問を受けてる最中に、サンジが「ククククク…!」なんて笑いながら、ビヨンと起き上がりこぼしみたく起き上がった。
ゾロが「気色悪ィな!」と文句を飛ばす、俺も同感だった。
けれどサンジは遠巻きで居る俺達にかまわず、腕を組んで気色悪ィ笑いを止めない。
と、いきなりクワッて開いた右目が、俺の顔を真直ぐにらみ付けた。

「ウソップ、てめェの言った通り、こいつの告白は死亡フラグで当りだぜ!」

その言い方にすこぶる悪意を感じた俺は、負けねーぐらいすごんで聞いた。

「何で俺が死ぬんだよ?」
「物理的に死ぬって意味じゃねェ。精神的な死――即ち『失恋』するって言ってんだよ!」

さっきまでの暗黒落ち込みモードがウソだったみたく、サンジは俺に対して活き活きとせせら笑った。

「しかしよー、一緒に旅行すんのをOKしたって事は、プロポーズを受容れるかはさて置き、HはOKと解釈して良いんじゃねェ?」

火花を散らす俺とサンジの間にウソップが割り込む。
どうもウソップにとっては、俺のプロポーズが成功するかより、俺の初Hが成功するかが大問題らしい。
ゾロはといえば、口をはさみこそしないけれど、興味はシンシンらしく、大好きなビールをピッチャーに半分残したまま、ジッと話に耳を傾けている。
残り時間も少ないってのに、全員歌いもしないで、俺の恋の行方をさかなに激論し合った。
ウソップの「HはOKと解釈して良い」の発言を受けたサンジが不敵に笑う。

「一緒に旅行するのをOKしたって、体までは許してくんねェかもしれんだろ」
「一晩一緒の部屋に泊まって『何もしないで』ってか?そりゃねェぜ!」

自分が彼女と旅行して、言われた所を想像でもしたのか、ウソップが理不尽だとうったえた。
そんなウソップや俺に向い、サンジが年上風を吹かして解説する。

「そこが女性心理の難しい所でな。一旦は恋人に身を委ねる覚悟で来たものの、いざ初夜を迎えて一つ布団の上並んだ枕を見ている内に、『果たしてこの人と契る事が真の運命かしら?自分で自分の気持ちが解らない。嗚呼、お母さァ~ん!』と不安が募って拒んでしまうのはまま有る事」
「と、過去に拒まれた経験者は語っている」
「喧しいんだよクソッタレェェ!!!」

ゾロから茶々を入れられ怒鳴ったものの、直ぐにサンジは俺の方に向き直って話を続けた。

「おまえの彼女、1つ上で幼馴染だって?」
「おう、俺の家の前に住んでて、赤ん坊の頃から見知った顔だ」
「そこまで近しい付き合いだと、『男』としてじゃなく、『弟』みたいな感覚で付き合ってるかもしれねェぞ?」

俺が見ている前で、唇の端がクイッと持ち上がる。
内心そーいう不安を感じてなくもなかったんで、俺はことさらムキになって反論した。

「違う!ちゃんと俺が中学卒業する時に、『付き合おう』つって付き合ってんだからな!」
「まァ~、親友として陰ながら応援はしといてやるけどよ。フラレても切れて彼女を無理矢理押し倒したりすんなよ?
 大体てめェ、あからさまに泥縄なんだよ!
 プロポーズするなら社会人として身を立てられるような技術を持てよ!
 そしてマイホーム購入の為の貯金を始めろよ!
 そこへ行くと俺なんか実家は一流レストランだし、料理の腕も将来有望と謳われてるし、遊んでるように見えて貯金は万3桁まで届いてるし、身奇麗にして社交的かつ女性を楽しませる話術を日々研究してるし――」
「すげェなーサンジ!けどそんなに努力してて、何で彼女出来ねーんだ?」
「余計なお世話だクソッタレェェ!!!!」

心底不思議に思って質問しただけなのに、サンジにとってはちめいしょーだったらしい。
頭上に出現したブラックホールの重みに沈没しちまった。
悪ィ事言っちまったなーと済まなく思ってたら、その頭が直ぐにムクリと持ち上がる。
忙しい奴だ。
復活したサンジがキョロキョロと俺達の顔を見回す。
こっちが理由をたずねる前に、サンジの方が先に口を開いた。

「…さっきからどうも違和感持ってたんだが……ゾロ、ウソップ、おまえらルフィの彼女の事、知ってたのか?」
「ああ、前に写真見せて貰ったからな」
「俺なんか、カヤも合せて4人でWデートして、直に会ってまでいるぞ!」
「どうして俺だけ仲間外れにすんだよ!?紹介しろっっ!!今直ぐに!!」
「そうやって暴れるのが目に見えてたから、話すらして貰えなかったんじゃねェの?」
「緑のヒヨコは人語を喋らず黙っとれェェ!!!」

俺に代って真実を告げてくれたゾロにサンジがほえる。
言われた八つ当たりもこみか、サンジは俺のえり首を乱暴に掴むと、ヤクザっぽくドスを効かせた声でナミの写真を要求した。

「写メとか持ってんだろ!?命が惜しくば大人しく見せやがれ…!」
「持ってねーよ!!見せてほしかったら今度持って来てやっから待ってろ!」
「んだとてめェ…!?大事な彼女の写真を肌身離さず持ってなくて、よくそれで『付き合ってる』なんてヌカセるなァァ!!」
「あ、俺持ってるぞ!前にWデートした時、4人で撮った写真!」

よせば良いのにウソップが手を挙げる。
肩がけカバンから取り出したケータイを、サンジは光の速さでキャッチし、ピクチャ画面を開いた。

「その中の3番目の…そうそれ、4人並んでるヤツ。右端ルフィの隣に居る女が、噂の『ナミさん』だ!」

おせっかいなウソップが横に付いてマメマメしくガイドする。
その間サンジはじぃっっと穴の開くほど写真を見つめていた。

「……この…オレンジ色の髪の、極めて可愛らしいレディが『ナミさん』か…?」
「まーカヤには負けるけど、結構可愛い顔してるだろ?」
「……こここの…型崩れしていない豊かなバスト、きゅっとしまった蜂腰、逆ハート型のヒップラインと、美少女モデル真蒼の完璧プロポーションなレディが、ルフィの彼女……」
「んーそこは悔しいがカヤ負けちまってるな。デートしたのは夏だったから、尚更目立って判ったけど、すんげー巨乳だったぜェー!だがしかし胸は大きけりゃ良いってもんじゃねェ!!そう思わないかい?サンジ君!」

ウソップから能天気に同意を求められるも、サンジは無言で写真を見つめたままだ。
その内ブルブル体が震え出したのに気づき、俺の胸に嫌な予感が走った。
横に立ってるウソップも、俺の前に座ってるゾロも、同じく感じたらしい。
俺達3人の注目を集めたサンジが、地をはうような声を出した。

「……駄目だ…駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ…!結婚なんて許さねェ!プロポーズだァ!?とんでもねェよ!PTAと教育委員会は何してやがるんだ!おい誰か文科省に電話しろ!高校生の不純異性交遊許すべからず、一刻も早い指導が待たれる…!」
「この野郎…また発作起こしやがった!――ウソップ!アルコール度数の高い酒じゃんじゃん注文しろ!酔い潰して黙らせる!」
「えええ!?注文すんのはいいけど誰が払うんだよ!?」
「勿論この顔面ハーフサイズの男に払わせるに決まってんだろ!!いいから早く注文しろ!」

暴れるサンジの手足をゾロと俺とで押さえてる間に、ウソップがメニューを見ながら適当に注文する。
カクテルにサワーにウィスキー水割にビールに焼酎に日本酒…テーブルは瞬く内にグラスにせんきょされた。
それから俺達はサンジの口をこじ開け、手当たり次第に注ぎこみ、ついでにおつまみプレートに残ってたチーズポップコーンもブチこんだ。

「ハイハイ♪そんじゃ忘年会らしく行ってみよー♪
 サンジ君のっ♪ちょっと良いとっこ見ってみったいっ♪
 あ、イッキ♪イッキ♪イッキ♪イッキ♪…」
「離ぜ離ぜ離ぜェェェ!!!!結婚なんべばべっが!!!―ゲフッ!!――結婚ばんべ…お兄ばん絶対許ばべェがんばァァ~~~~~!!!!」

ウソップの音頭に乗って次々グラスを空けてくも、サンジはしぶとく叫び続け、酔いつぶれて静止したのは終了時刻を30分過ぎたころだった。





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