瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君と一緒に(ルナミ編-その7-)

2009年11月18日 21時56分23秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】




「『12/1~2月末日まで全便運休!但しクリスマス期間、および大晦日~正月期間は除く』、だって!…丁度ドックに入る時期に当たっちゃうなんて、ついてないわねェ~!」

ガランと空いたさん橋の入口に案内板を見付けたナミが、近寄ってそこに書いてある内容を読上げる。
「ついてない」と言いながら、耳に届く声は明るい。
そのせいで俺の気分はますます落ちこんだ。

「そうガッカリしないで…たとえドックに入れられてなくたって、こんだけ波が荒くちゃ出せやしないでしょ!完全に縁が無かったと思って、すっぱり諦めなさい!」

なぐさめてんだかダメ押ししてんだか判らない言葉が、ベンチでうずくまる俺の方へ近付いて来る。
すぐ側で聞えた所で頭を上げたら、右隣に座ったナミと目が合った。
続いてその茶色い目が、正面に広がる海の方を向く。
つられて俺も視線をそっちへ向けた。

ナミが言う通り、海はひどい荒れ模様だった。
海原が海坊主みたく盛上っては、雪崩みてーに崩れて白い泡に変わる。
港には大小のクルーザーがいくつもつながれてたけど、どれも振り子みたく揺れてて、流されやしねーかとヒヤヒヤした。

空は晴れてても、まるで台風だ。
雲が海から山の方へ次々飛ばされてく。
岸に並んだ旗がしめった風にあおられバタバタ鳴る音と、ザッパンザッパン港に打ち付ける波の音が、ケンカでもしてるみてーにうるさく響いた。

「ねー!何時までも此処に座り込んでたら体が塩漬けされちゃう!そろそろ正午だし、お昼食べに行こーよ!あんたもお腹空いたでしょ?――ほら!丁度後ろの建物、ホテルみたいよ!景気付けにあそこで豪華なランチにでもしよっか!?」

ボーっと海を見つめてる俺の肩を揺さぶりながら、ナミが後ろを指差す。
振り返ったそこには城みたく堂々とした赤レンガの建物が建っていた。
いつもの俺だったらナミから言われる前にオジャマしてっだろうけど、ぶっちゃけ今はどーでもいい。

肩を揺さぶるナミの手を、両手でギュッと握りしめる。

「ナミ…!」
「な――何よ!?…そんな…いきなりマジ顔して……」

面と向き合い見つめたナミの顔が、なぜか赤く変ってく。
不思議に思いつつも、俺は顔の間の距離をつめ、一大決心を伝えるよう、ゆっくり口を開いた。


「もう………帰ろうぜェーー…」


とたんに直前までうるんでたナミの目が点に変る。
目の前の体がビシッと音を立てて凍った気がした。
と思ったら、握った手がブルブル震え出した。
さすがに病気にでもかかったんじゃねーかって心配になる。
おでこに手を当てて熱を見るよりも早く、握ってなかった方のナミの手が、俺のほほ目がけてパンチを繰り出した。


――バキッッ!!!!


「来たばっかりで何ヌカシてんのよあんたはっっ!!!!」
「……だってヨットに乗れねェ帆船にも乗れねェここに用は無ェし…」
「とことん勝手で失礼な奴ねェ!!!船に乗れなくったって楽しめる事有るわよ、きっと!!――さ、行くわよ!!」

ナミはそう怒鳴ると、殴られたほほをさすってる俺の手を乱暴に引っ張って、元来た道を歩いてった。
風にも背中を押され、しぶしぶ引きずられてくも、鉄ゲタはいてるみてーに足が重い。

計画ではヨットに乗ってプロポーズするつもりだったんだ…。
なのにそれがパーになって、一体俺はどこで告白すりゃあいいんだ?

くのーしながら歩いてる内に、さっきバスの運転手のおっさんが紹介してくれたオモチャの帆船が飾ってある広場を、いつのまにか通り過ぎていた。
橋の上まで来た所で、ナミが足を止める。
振り返って真ん中辺りをマジマジ見てるんで、何か落としたのかと思い下を向く。
したら横にまっすぐみぞが走ってた、まるで真っ二つに切れてるみてェに――

「これって跳ね橋だわ…」
「跳ね橋??ひょっとしてバネじかけになってて、人が渡るとビヨンって跳ねるのか?」
「それじゃおっかなくて渡れないわ!…いい?見てて!」

クスクス笑い、俺の目の前で両手を水平に並べて寝かせる。

「人が通る時は普通の橋の状態。けど運河から海へ、或いは海から運河へ、船が通る時だけ、観音開きにパカァッと…」

説明しながら両手を90度に起して見せた。
そうか、なるほど!船が通れるように、運河をふさいでる橋を開くのか!
誰が考えたか知らねーけど、すげー発明だな!

「隣に架かってる橋も、多分同じ様に跳ね起きると思うわ。バスで通った時、信号と遮断機が見えたから、不思議に思ってたんだけど…船が通る時を考えての物だったのね」
「へー!」

チラッと隣の橋を見て、視線を前に戻した瞬間、俺の目の中にナミの後ろの景色が飛びこんだ。

「――ヨットだ…!」

橋向うに広がる海、その海と街を分けて、石積みの護岸が左側にまっすぐ続いてる。
護岸近くには沢山のヨットがけいりゅうされていた。

「マリーナだ!!」

胸がドクンと鳴ったのを合図に俺はかけ出した。

「あ!そうだルフィ!!オレンジ広場のツリーの前で写真撮ってよ!!あんなにおっきくて綺麗なツリー、ノジコにも見せてあげたいな…!」

ナミが俺を引き止めようと逆方向に腕を引っ張る。
けどそれにはかまわず、護岸を下りてヨットの側まで走った。

ヨットが列組んでこんなに沢山!
全部で何そう有る?10…20…30…40そう以上有るんじゃねェか!?
ヨット同士がこすれて出してんのか、ハーモニカみてェな音色が聞える。
フォン…フォン…って、知らなかった、ヨットって歌うんだな!
あー、ピンて伸びた白いマストに帆を張って、今すぐにでも航海してェ!

「止しなさいルフィ!!此処って一般客立ち入り禁止区域だろうし…そのヨット、きっと個人の物よ!!」

しゃがみこんでヨットをペタペタさわってる後ろから、恐い顔したナミに肩を強くつかまれた。
自然、首を後ろにそらせて見上げる形になった俺は、口をとがらして言い返した。

「解ってるさ、そんな事!けどさわる位いいじゃねーか減るもんじゃなし!今日はこの荒天じゃしょうがねェって、とっくに諦めてる。でも俺達後2日居るしな!」

そこでいったん区切り、立ち上がってニカッと笑顔を向けた。

「明日か明後日には風も落ち着くだろうし、そしたら今度こそ一緒に乗ろうぜ♪」

とたんにナミが口をつぐんだ。
何か言いたげに口をモゴモゴ動かしてはいるけど、うつむいたまましゃべろうとしない。
風が吹き鳴らすヨットの歌と、波が激しく岸にぶち当たる音が、耳にはっきり響いて聞えた。


「………嫌よ」


数分置いてから、ナミがポツリとつぶやいた。
ゆっくり持上げた顔は、今にも泣き出しそうに震えてる。
それを見た俺は息が止まり、何もしゃべれなくなった。

口を開いたナミが、少し裏返った声でしゃべり出す。
声はだんだん早く大きく、叫びに変わってった。

「…知ってるくせに…私が船嫌いだって!知ってるくせに、どうして無理矢理乗せようとするの!?私は船になんか絶対に乗らない…!!」

真ん丸に見開いた目から、涙がボロボロこぼれ落ちる。
そんなナミの泣き顔と後ろの海とが重なって、俺の胸に苦い思い出がよみがえった。




子供の頃、俺は「海賊」になるのが夢だった。

何でかは解らない、いつからかも解らない。
けどきっかけは俺の家の前に住んでたナミの家族に有ると思う。

ナミの母ちゃんは元海上自衛隊員だった。
そのナミの母ちゃんは、俺の「海賊になりたい」って夢を聞き、真面目な顔して「今の世の中じゃ難しいね」と言った。

「今は世知辛くて、陸と同じ様に、海の多くも国の物にされてる。『陸から二百海里は自分達の国の領土』って国連で決められてて、自由に海を航海出来ないのさ」
「ええ!?海なのに『領土』なのか!?むじゅんしてるじゃねーか!!」
「『領水』って言うんだよ。実際に今でも海賊は居るけど、見付かったらただじゃ済まない。核保有国の海を侵犯したら、手が滑った振りして核ミサイルぶっ放され、あの世行きかも…」
「ちきしょー!!なんて夢の無い世の中なんだ!!」

子供相手にシビアな現実を説くナミの母ちゃんは海が大好きで、夏休みには決まって海に連れてってくれた。
海で俺はナミと、ナミの姉ちゃんのノジコと、俺の兄ちゃんのエースとで、海賊ごっこをして遊んだ。
その内ノジコとエースは大きくなって、相手をしてくれなくなったけど、ナミはずっと俺につきあって海賊で居続けた。

ナミも母ちゃんと同じ位海が大好きで、ボートをこぐのが上手かった。
俺がこぐと何でか思った方に進まないのに、ナミがこぐとどんな方角にも思いのまま進めた。
ナミは地図を描くのも上手かったから、宝探しをして遊んだりもした。
無人島までボートをこいで行った時は、ナミの母ちゃんに激しくせっかんされた。
それでもへこたれず、俺達の航海はどんどん本格的になって行った。

10歳の夏休みの日も、俺達は無人島を目指した。
ところが途中まではおだやかだった波が突然荒れ出し、乗ってたボートが転ぷくしちまった。
実は俺はカナヅチで泳げなかったんだ。
水を沢山呑んでむせる俺を、ナミはおぶって必死で戻ろうとした。
そこへナミの母ちゃんが泳いで助けに来てくれた。
鬼みてーにおっかない顔してたけど、あの時覚えた安心は今でも忘れず胸に刻んでる。

「さ、帰るよ!」

そう言って手を伸ばし、ナミに代って俺をおぶろうとした時だ。
真っ黒な山みたいにでっかい波に襲われた。


そっから先は覚えてない。
目が覚めたらナミと一緒に病院に居て、ナミの母ちゃんの姿は見えなくなってた。


強風や潮流の影響を受けて、複数の方向から波がぶつかり合い、5mもの高さの波が突発的に起きる事が有るらしい。
ナミの母ちゃんはそれに呑まれて死んじまった。
俺とナミも呑まれたけど、ショックで気絶して、あまり水を呑まずに済んだから、助かったらしい。
ナミの母ちゃんは呑まれても気絶せず、俺達を助けようと必死で波に抗ったんだろう。
「ライフセーバーに任せろと引き止めたのに聞かなかった…冷静さを欠き、泳いで助けに行くなんて、元海上自衛隊員らしからぬ失態だけど、それだけお前達を愛していた証だ」と、残されたナミの父ちゃんは葬式で話した。


それからナミは船に乗るどころか、海へ行く事も嫌がるようになり、俺は「海賊」になる夢を諦めた。






…欝になる〆方して御免。(汗)
大丈夫、次回から明るくなるから大丈夫です。(汗)
今回の写真は高速船から撮った夕景で、キャラの心象風景をイメージした物って事で…。(汗)

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