【前回の続きです。】
オレンジ広場には1~2分もかからず到着した。
おっさんにお礼を言って降りたそこには、すでにものすごい数の人が集まっていた。
昼間はどこもガランとして見えたのに…いつこんなに増えたんだろう?
集まった客はクルクル色が変わる三角ツリーの前で写真を撮ったり、フードスタンドであったかい食いもんや飲み物を買ったりしてた。
腹がグーグー鳴る、夕メシ食ってねーもんな。
20時過ぎても食わずにいるなんて、人生初めての経験だ。
とりあえずハンバーガー売ってるスタンド見つけたんで、テリヤキパインバーガーってのを注文したら、マクドのハンバーガーの3倍は有るんじゃないかってボリュームでビックリした。
その分高ェけど味もなかなか、ハンバーグとパイナップルが意外と合う事を初めて知った。
3口で食い切り、ソースの付いた指をベロベロなめる。
まだ腹一分目にも満たない、もう2~3個食おうかな?
「…落ちこんでても腹は減るんだなー」
しみじみ思う、食ってる間はナミの事を忘れてられた。
着いた最初こそ集まってる奴らの顔を、かたっぱしからのぞいて廻ったけど、嫌な顔されるし、疲れたんで止めた。
俺ばっかり何でこんなさがし廻らなきゃなんねーんだ!
もう知らねー!ナミなんか独りで勝手に遊んでろ!
やけ食いだ!土産分つぎこんで食ってやる!
特にゾロ!サンジ!おまえらにはキーホルダー1個だって買って来てやんねー!
ムカムカしてる俺の隣で、女3人組が冬なのにソフトクリームを注文する。
渡されたソフトクリームは、ハンバーガー同様、普通より2倍はビッグなサイズだった。
よーし、俺も買うぞ!何にすっかな?バニラじゃありきたりだし…
――その時、風に乗ってミカンのにおいがした。
「そーだミカンが良い!ミカン味のソフトくれ!!」
「みかん??…済みません、みかんソフトってのはメニューに無くて…」
「え??でも今においがしたぞ…?」
店員の男が困った顔を見せる。
風に運ばれて来るミカンのにおい。
においを辿って後ろを振り向いた。
「――ナミ…!!」
広場の在る港街、目の前には海が広がってる。
木造船の甲板に似た板じきのデッキの正面には、赤くライトアップされた帆船がけーりゅうされている。
帆船の周りに集まった大勢の人達、どうやら花火は帆船後ろの海から打ち上げるらしい。
花火を待つ人ごみの中に、ナミは独りで立っていた。
ナミの体からは甘酸っぱいミカンのにおいがする。
子供のころから食い物のにおいに敏感な俺は、はぐれた時このにおいを頼りにさがし出した。
「ルフィ…!!」
「…やっと見つけた!!」
後ろから肩をつかんだ瞬間、ナミはビクッと体を震わせた。
目を真ん丸にして驚くナミに、俺は得意満面の笑顔を返す。
――真っ暗な海の向うに光が幾つも瞬いてる。
――なのに船乗りは灯台の光を見分けられる。
――それは灯台が船乗りの方を向いて、光ってるからさ。
「光じゃなくて匂いを辿って来たんでしょ?方向オンチのクセに、鼻は頗る利くんだから…」
「大勢の中から見つけ出した事には違いねェだろ?やっぱナミは俺の灯台だ!俺がヨットマンになるために絶対必要なんだ!」
「悪いけど他を当たって。私程度に地図が読める人間なら、世の中にごまんと居るわ」
「俺は、ナミじゃなくっちゃ嫌なんだ!!!」
突然広場中のイルミネーションが消えた。
集まってた奴らがザワザワ騒ぐ。
英語で開始のアナウンスが流れ、重々しい鐘の音が響いた。
音楽が始まる、海から何本ものレーザー光線が走った。
「俺はナミが言うような『太陽』じゃねェ。独りじゃ輝けねェんだ」
「輝く為には他の人の力が要るって言いたいの?だったら探せばいいわ。私は駄目。ヨットに乗ってるあんたを待ち続けるなんて出来ない。かと言って一緒に乗る事も出来ない…!」
「けど俺にとっての灯台はナミだけだ。ナミが俺の方を向いて、光って導いてくれなきゃ、俺はどこにも行けない…!」
「灯台になんかなれない…!!あんたを一生導いていけるほど私は強くない…!!目の前に居た母さんも助けられなかった!!」
「でも俺の事を助けてくれた!!!」
――パパパパパンッ…!!!!と、夜空に連続して花火が開いてく。
暗い空からキラキラ光って舞い落ちる。
泣いてるナミの目が、鏡になって光を反射した。
「……太陽じゃないって言うなら……ルフィ、あんたは花火よ!パーン!と飛び出して、華々しく散って…」
「…あのな、えんぎの悪い例えすんなよ」
「だって……」
「俺は太陽でも花火でもねェ!ちゃんと陸に戻って来て、おまえと一緒に生活する!海上でずっと暮らしてくつもりはねェんだ!」
次々と打ち上がる花火、雲とけむりがレーザーを反射する。
まるで夜空いっぱいにスクリーンが広がってるみたいだった。
「花火は打ち上げたら空で開く…けど人間を打ち上げたら、元の姿のまま帰って来るんだ!――こんな風にな!!」
「ちょっ!?何する積り!?止め――キャアア…!!!」
腕に抱きしめたナミを、空に向かい放り投げる。
悲鳴を上げるナミの後ろで、花火がドーン!!と打ち上がった。
落ちて来たナミをキャッチしては、また放り投げる。
何べんも何べんもくり返した。
「実験してみろ!俺だって打ち上げたら必ずおまえの元に帰って来るから!!
太陽じゃねェ!!花火でもねェ!!俺はおまえと同じだ!!」
「ご…ごめん!!もう言わないから…!!恥ずかしいから止めて!!お願い――キャアアアア…!!!」
「だったらプロポーズ受けるか!?受けるって約束したら止めてやる!!」
「そ…それは…!!――アアア…もう許してェェ~~!!!」
ナミが泣きながら止めてと叫んでも、俺はタカイタカイをし続けた。
花火と一緒にポーン!ポーン!とナミが打ち上がる。
光る雪を浴びて落ちて来るナミはきれーだと見とれた。
「ナミ!!俺…1人で廻ってて思い知ったんだ!!
独りの俺はすっげー弱いって!!
ナミが居なくなっただけで、自信も何かも失くしちまった!!
だからナミ……俺を助けてくれ…!!!」
腕にキャッチしたナミをしっかり抱きしめる。
ナミが俺の首に腕を回した。
「……私が……あんたを…?」
「…おまえがピンチの時は必ず俺が助ける!!
だからナミ…俺がヨットマンになるのを助けてくれ…!!」
ほほに、涙でぬれたほほが、ぴっとりと触れる。
「…解った……あんたを助けてあげる…!」
いっそう強く首に巻きついた腕。
俺も腕に力をこめてナミを抱いた。
ワアァァ…!!と大きな歓声が上がる。
驚いて空を見たら、ちょうど花火が終わったトコで、金色の光がゆっくりと落ちながら、かき消えてく。
なぜか周りの観客数人が、俺達の方を向いて、はく手をしていた。
2そうのカヌーが光る水面をすべってく。
メガネ橋の下をくぐり、遠ざかってく様子を、橋の上で並んで眺めてた。
「あれが『ナイトカヌー』…観てるとロマンチックそうで、乗りたくなるわね」
「だったら明日乗ろう!俺も乗りてェ!」
河岸にたれ下ってるイルミネーションが、水面に映って瞬いてる。
「光の運河」って名の通り、まるで金色の河が流れてるみたいだった。
「それよりも先ずヨットに乗るんでしょ?私も乗るからフォローお願いね!」
「え?ナミも?乗ってくれんのか!?」
「恐いけど…待つより一緒に乗りたいもの。勇気出して踏み出すわ!」
にっこり笑って俺の両肩につかまる。
顔が近づいて来た。
唇に唇が触れる――やわらかい…甘い息が吹きこんだ。
味わってたのはわずかな時間で、すぐに離れる。
「………キスしてあげたってのに、どうしてそんな不満そうな顔してるの?」
暗くてもナミのほほが赤くなってるのが良く判る。
「だって…彼女からキスされるのって…男のメンツ丸つぶれじゃん!」
最初こそあっけにとられてた俺も、ジワジワと顔が熱くなってくのを感じた。
ナミがけらけらと笑い声を立てる。
白い息をやかんの湯気みたくポッポッポッと吐き出した。
「…待っててもあんたからしてくれないんだもん。一緒に部屋に居ても、押し倒そうともしない。あれこれ不安を抱えて、それでも覚悟を決めて来たってのに…肩透かし食らった気分よ」
「俺だって不安だった…抱きたくても、ナミがどう思ってるのか解らない内は出来なかった」
嫌われて、逃げられるのが恐かった。
「……不安なのはお互い様か」
手袋をはめてない手が、ナミの手袋をはめた手の中に包まれる。
ゆっくりもみほぐされると、温かくて気持ち良い。
のぞいた瞳の中に、金色の光でふちどられた俺が立っている。
肩をゆっくり抱き寄せ、今度こそ俺の方からキスをした。
「…初めて同士、今夜は頑張ろう♪」
唇を離したナミが明るく笑う。
その言葉を聞いた俺は、重要な事を思い出した。
「あ~~~~~~~~~~~~!!!!!」
「…!!――い…いいきなり何よ急に耳元で大声出して…!!!」
「コンドーム!!――買うの忘れた…!!」
ショックで足から力が抜ける。
がっくりとその場にくずれた。
「ば…馬鹿ッ!!阿呆ッ!!どうしてそんな重要な物…の前に、そんな事大声で言って、誰かに聞かれたら恥ずかしいでしょーが…!!!」
「…ナミ、どうすりゃいい?」
我ながら情けない声でたずねた。
ナミがちんつーな表情で「ハァーー……」とため息を吐く。
「…此処、薬局が有るから買えると思う」
「本当か!?やったー!!すぐ買って来る!!」
「…でも、今日はもう営業終ってると思う」
「マジかよ!??チクショー!!!」
いっきいちゆーする俺の正面にナミがかがむ。
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて言った。
「しょーがないから初Hは明日ねv」
「えええ!!?そりゃねーよナミ!!しよーぜ!!」
「駄目ェー♪させてあげなーい♪」
「いーじゃん付けなくても!!どーせ結婚すんなら出来てもOKだろ!?」
「駄目ったら駄目ェー♪根無し草な男相手に、無謀な真似出来るか!」
「せっかく一緒に泊まるってのに、何もしないなんてつまんねーじゃんか!!」
「うっさい私だってがっかりしてるんだから!!用意しなかったあんたが全部悪いんでしょー…!!」
次の日の早朝5時、ウソップから「セイコーしたか!?」と、メールが届いた。
それを読んだ俺は、「昨夜は予行!今夜が本番!」と返信した。
【終わり】
…ほぼ1年間連載にお付き合い下さった方、有難う御座いました。
お陰様で漸く書き終わる事が出来ました。
ダラダラ書いてた間に、ハウステンボスは大分変わりましたが(汗)、風景は変わらず美しいままです。
是非何時か遊びに来て下さい。
日を改めて連載の後書き的な物をUPする予定、その後ゾロナミ編を性懲りも無く始めようと考えてます。
ルナミ編の後に読むのは複雑かと思いますが、何となく世界が重なってますんで、続けてお楽しみ頂ければ嬉しく思います。
折角なんで(何がだ)ゾロナミ編は、ルナミ編の始まった9/16~開始する予定です。
出来なかったら御免なさい。(汗)
最後に…この回に登場するハンバーガースタンドは「ビッケン・ビッケン」、詳しくはまったりさんのブログを御参考にされて下さい。
オレンジ広場には1~2分もかからず到着した。
おっさんにお礼を言って降りたそこには、すでにものすごい数の人が集まっていた。
昼間はどこもガランとして見えたのに…いつこんなに増えたんだろう?
集まった客はクルクル色が変わる三角ツリーの前で写真を撮ったり、フードスタンドであったかい食いもんや飲み物を買ったりしてた。
腹がグーグー鳴る、夕メシ食ってねーもんな。
20時過ぎても食わずにいるなんて、人生初めての経験だ。
とりあえずハンバーガー売ってるスタンド見つけたんで、テリヤキパインバーガーってのを注文したら、マクドのハンバーガーの3倍は有るんじゃないかってボリュームでビックリした。
その分高ェけど味もなかなか、ハンバーグとパイナップルが意外と合う事を初めて知った。
3口で食い切り、ソースの付いた指をベロベロなめる。
まだ腹一分目にも満たない、もう2~3個食おうかな?
「…落ちこんでても腹は減るんだなー」
しみじみ思う、食ってる間はナミの事を忘れてられた。
着いた最初こそ集まってる奴らの顔を、かたっぱしからのぞいて廻ったけど、嫌な顔されるし、疲れたんで止めた。
俺ばっかり何でこんなさがし廻らなきゃなんねーんだ!
もう知らねー!ナミなんか独りで勝手に遊んでろ!
やけ食いだ!土産分つぎこんで食ってやる!
特にゾロ!サンジ!おまえらにはキーホルダー1個だって買って来てやんねー!
ムカムカしてる俺の隣で、女3人組が冬なのにソフトクリームを注文する。
渡されたソフトクリームは、ハンバーガー同様、普通より2倍はビッグなサイズだった。
よーし、俺も買うぞ!何にすっかな?バニラじゃありきたりだし…
――その時、風に乗ってミカンのにおいがした。
「そーだミカンが良い!ミカン味のソフトくれ!!」
「みかん??…済みません、みかんソフトってのはメニューに無くて…」
「え??でも今においがしたぞ…?」
店員の男が困った顔を見せる。
風に運ばれて来るミカンのにおい。
においを辿って後ろを振り向いた。
「――ナミ…!!」
広場の在る港街、目の前には海が広がってる。
木造船の甲板に似た板じきのデッキの正面には、赤くライトアップされた帆船がけーりゅうされている。
帆船の周りに集まった大勢の人達、どうやら花火は帆船後ろの海から打ち上げるらしい。
花火を待つ人ごみの中に、ナミは独りで立っていた。
ナミの体からは甘酸っぱいミカンのにおいがする。
子供のころから食い物のにおいに敏感な俺は、はぐれた時このにおいを頼りにさがし出した。
「ルフィ…!!」
「…やっと見つけた!!」
後ろから肩をつかんだ瞬間、ナミはビクッと体を震わせた。
目を真ん丸にして驚くナミに、俺は得意満面の笑顔を返す。
――真っ暗な海の向うに光が幾つも瞬いてる。
――なのに船乗りは灯台の光を見分けられる。
――それは灯台が船乗りの方を向いて、光ってるからさ。
「光じゃなくて匂いを辿って来たんでしょ?方向オンチのクセに、鼻は頗る利くんだから…」
「大勢の中から見つけ出した事には違いねェだろ?やっぱナミは俺の灯台だ!俺がヨットマンになるために絶対必要なんだ!」
「悪いけど他を当たって。私程度に地図が読める人間なら、世の中にごまんと居るわ」
「俺は、ナミじゃなくっちゃ嫌なんだ!!!」
突然広場中のイルミネーションが消えた。
集まってた奴らがザワザワ騒ぐ。
英語で開始のアナウンスが流れ、重々しい鐘の音が響いた。
音楽が始まる、海から何本ものレーザー光線が走った。
「俺はナミが言うような『太陽』じゃねェ。独りじゃ輝けねェんだ」
「輝く為には他の人の力が要るって言いたいの?だったら探せばいいわ。私は駄目。ヨットに乗ってるあんたを待ち続けるなんて出来ない。かと言って一緒に乗る事も出来ない…!」
「けど俺にとっての灯台はナミだけだ。ナミが俺の方を向いて、光って導いてくれなきゃ、俺はどこにも行けない…!」
「灯台になんかなれない…!!あんたを一生導いていけるほど私は強くない…!!目の前に居た母さんも助けられなかった!!」
「でも俺の事を助けてくれた!!!」
――パパパパパンッ…!!!!と、夜空に連続して花火が開いてく。
暗い空からキラキラ光って舞い落ちる。
泣いてるナミの目が、鏡になって光を反射した。
「……太陽じゃないって言うなら……ルフィ、あんたは花火よ!パーン!と飛び出して、華々しく散って…」
「…あのな、えんぎの悪い例えすんなよ」
「だって……」
「俺は太陽でも花火でもねェ!ちゃんと陸に戻って来て、おまえと一緒に生活する!海上でずっと暮らしてくつもりはねェんだ!」
次々と打ち上がる花火、雲とけむりがレーザーを反射する。
まるで夜空いっぱいにスクリーンが広がってるみたいだった。
「花火は打ち上げたら空で開く…けど人間を打ち上げたら、元の姿のまま帰って来るんだ!――こんな風にな!!」
「ちょっ!?何する積り!?止め――キャアア…!!!」
腕に抱きしめたナミを、空に向かい放り投げる。
悲鳴を上げるナミの後ろで、花火がドーン!!と打ち上がった。
落ちて来たナミをキャッチしては、また放り投げる。
何べんも何べんもくり返した。
「実験してみろ!俺だって打ち上げたら必ずおまえの元に帰って来るから!!
太陽じゃねェ!!花火でもねェ!!俺はおまえと同じだ!!」
「ご…ごめん!!もう言わないから…!!恥ずかしいから止めて!!お願い――キャアアアア…!!!」
「だったらプロポーズ受けるか!?受けるって約束したら止めてやる!!」
「そ…それは…!!――アアア…もう許してェェ~~!!!」
ナミが泣きながら止めてと叫んでも、俺はタカイタカイをし続けた。
花火と一緒にポーン!ポーン!とナミが打ち上がる。
光る雪を浴びて落ちて来るナミはきれーだと見とれた。
「ナミ!!俺…1人で廻ってて思い知ったんだ!!
独りの俺はすっげー弱いって!!
ナミが居なくなっただけで、自信も何かも失くしちまった!!
だからナミ……俺を助けてくれ…!!!」
腕にキャッチしたナミをしっかり抱きしめる。
ナミが俺の首に腕を回した。
「……私が……あんたを…?」
「…おまえがピンチの時は必ず俺が助ける!!
だからナミ…俺がヨットマンになるのを助けてくれ…!!」
ほほに、涙でぬれたほほが、ぴっとりと触れる。
「…解った……あんたを助けてあげる…!」
いっそう強く首に巻きついた腕。
俺も腕に力をこめてナミを抱いた。
ワアァァ…!!と大きな歓声が上がる。
驚いて空を見たら、ちょうど花火が終わったトコで、金色の光がゆっくりと落ちながら、かき消えてく。
なぜか周りの観客数人が、俺達の方を向いて、はく手をしていた。
2そうのカヌーが光る水面をすべってく。
メガネ橋の下をくぐり、遠ざかってく様子を、橋の上で並んで眺めてた。
「あれが『ナイトカヌー』…観てるとロマンチックそうで、乗りたくなるわね」
「だったら明日乗ろう!俺も乗りてェ!」
河岸にたれ下ってるイルミネーションが、水面に映って瞬いてる。
「光の運河」って名の通り、まるで金色の河が流れてるみたいだった。
「それよりも先ずヨットに乗るんでしょ?私も乗るからフォローお願いね!」
「え?ナミも?乗ってくれんのか!?」
「恐いけど…待つより一緒に乗りたいもの。勇気出して踏み出すわ!」
にっこり笑って俺の両肩につかまる。
顔が近づいて来た。
唇に唇が触れる――やわらかい…甘い息が吹きこんだ。
味わってたのはわずかな時間で、すぐに離れる。
「………キスしてあげたってのに、どうしてそんな不満そうな顔してるの?」
暗くてもナミのほほが赤くなってるのが良く判る。
「だって…彼女からキスされるのって…男のメンツ丸つぶれじゃん!」
最初こそあっけにとられてた俺も、ジワジワと顔が熱くなってくのを感じた。
ナミがけらけらと笑い声を立てる。
白い息をやかんの湯気みたくポッポッポッと吐き出した。
「…待っててもあんたからしてくれないんだもん。一緒に部屋に居ても、押し倒そうともしない。あれこれ不安を抱えて、それでも覚悟を決めて来たってのに…肩透かし食らった気分よ」
「俺だって不安だった…抱きたくても、ナミがどう思ってるのか解らない内は出来なかった」
嫌われて、逃げられるのが恐かった。
「……不安なのはお互い様か」
手袋をはめてない手が、ナミの手袋をはめた手の中に包まれる。
ゆっくりもみほぐされると、温かくて気持ち良い。
のぞいた瞳の中に、金色の光でふちどられた俺が立っている。
肩をゆっくり抱き寄せ、今度こそ俺の方からキスをした。
「…初めて同士、今夜は頑張ろう♪」
唇を離したナミが明るく笑う。
その言葉を聞いた俺は、重要な事を思い出した。
「あ~~~~~~~~~~~~!!!!!」
「…!!――い…いいきなり何よ急に耳元で大声出して…!!!」
「コンドーム!!――買うの忘れた…!!」
ショックで足から力が抜ける。
がっくりとその場にくずれた。
「ば…馬鹿ッ!!阿呆ッ!!どうしてそんな重要な物…の前に、そんな事大声で言って、誰かに聞かれたら恥ずかしいでしょーが…!!!」
「…ナミ、どうすりゃいい?」
我ながら情けない声でたずねた。
ナミがちんつーな表情で「ハァーー……」とため息を吐く。
「…此処、薬局が有るから買えると思う」
「本当か!?やったー!!すぐ買って来る!!」
「…でも、今日はもう営業終ってると思う」
「マジかよ!??チクショー!!!」
いっきいちゆーする俺の正面にナミがかがむ。
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて言った。
「しょーがないから初Hは明日ねv」
「えええ!!?そりゃねーよナミ!!しよーぜ!!」
「駄目ェー♪させてあげなーい♪」
「いーじゃん付けなくても!!どーせ結婚すんなら出来てもOKだろ!?」
「駄目ったら駄目ェー♪根無し草な男相手に、無謀な真似出来るか!」
「せっかく一緒に泊まるってのに、何もしないなんてつまんねーじゃんか!!」
「うっさい私だってがっかりしてるんだから!!用意しなかったあんたが全部悪いんでしょー…!!」
次の日の早朝5時、ウソップから「セイコーしたか!?」と、メールが届いた。
それを読んだ俺は、「昨夜は予行!今夜が本番!」と返信した。
【終わり】
…ほぼ1年間連載にお付き合い下さった方、有難う御座いました。
お陰様で漸く書き終わる事が出来ました。
ダラダラ書いてた間に、ハウステンボスは大分変わりましたが(汗)、風景は変わらず美しいままです。
是非何時か遊びに来て下さい。
日を改めて連載の後書き的な物をUPする予定、その後ゾロナミ編を性懲りも無く始めようと考えてます。
ルナミ編の後に読むのは複雑かと思いますが、何となく世界が重なってますんで、続けてお楽しみ頂ければ嬉しく思います。
折角なんで(何がだ)ゾロナミ編は、ルナミ編の始まった9/16~開始する予定です。
出来なかったら御免なさい。(汗)
最後に…この回に登場するハンバーガースタンドは「ビッケン・ビッケン」、詳しくはまったりさんのブログを御参考にされて下さい。