ザ・コミュニスト

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「新冷戦ゲーム」は止めよ

2022-01-26 | 時評

米欧露首脳らによるウクライナをめぐる軍事的な緊張ゲームが熱を帯びてきている。ウクライナを獲物のように奪い合う政治ゲームでもあり、2年越しのコロナ対策に飽きてきた首脳らの火遊びの様相である。

ゲームとはいえ、ウクライナが獲物となるには理由がある。現状、ウクライナは(バルト三国及びジョージアを除く)旧ソ連邦構成諸国が加盟し、ロシアの同盟体とも言える独立国家共同体(CIS)には加盟せず、西側軍事同盟体の北大西洋条約機構(NATO)にも未加盟という宙摺り状態にあるため、ロシアと米欧とで奪い合いになっているからである。

緊張の発端がロシアの軍事的示威行動にあることは明らかであるが、その意図として、ウクライナのNATO加盟を阻止するだけの狙いなのか(そうだとすると全面侵攻の必要はない)、旧ソ連領土で歴史的にはロシア国家発祥の地でもあるウクライナを「回収」したいのか(そうだとすると全面侵攻もあり得る)、ロシア帰属を望むロシア系住民が多いウクライナ東部地域を併合するつもりなのか(そうだとすると東部のみの一部侵攻にとどまる)、狡猾なロシア政権がどうとも取れる素振りで揺さぶっているため、現時点では読み切れない。

いずれにせよ、状況としては、1968年、旧ソ連が望まない「改革」を潰すために断行したチェコスロバキア軍事侵攻と似てきたが、その再現にはならない。当時のソ連が侵略を正当化する「制限主権論」のよりどころとしたワルシャワ条約機構はすでに消滅して久しく、CISは英連邦に近い親睦的・儀礼的な連合体にすぎない。

他方、ワルシャワ機構に対抗していたNATOも冷戦時代の遺物である。冷戦終結・ソ連邦解体後もロシア対策で温存されてきたが、アメリカと肩を並べる欧州連合(EU)が形成された現在、冷戦時代のようにアメリカの旗の下に一致団結することは、もはやない。アメリカとEUを脱退したばかりのイギリスが前のめりになっている状態である。

それでも、米(英)露首脳は、時代錯誤を承知で冷戦を再現したいようだ。それが各自、陰りや動揺の見える政権基盤の強化につながると見ているからである。

その点、米大統領バイデンは民主党員にしか支持されておらず、今なお2020年大統領選挙を不正と信じる党員が多い共和党からは、不正選挙で地位を詐取した大統領僭称者とみなされている状況。EU脱退で名を上げた英首相ジョンソンもロックダウン違反パーティーを官邸で開催していたことが発覚し、政権存続が危うい状況。露大統領プーチンは技術的な意味では安定した基盤を持つ長期執権者であるが、生命まで付け狙う露骨な野党弾圧策は国内でも批判にさらされている状況。ついでに、ウクライナのゼレンスキー大統領は近年多いポピュリストとして、ロシアの尾をあえて踏む形でゲームに一枚噛んで、大衆的支持をつなぎとめようとしているフシもある。

タイトルには「ゲームを止めよ」と書いたが、新冷戦ゲームの主要なプレーヤーたちは、いずれもこのタイミングで緊張感を高めることにメリットを見出している以上、少なくとも米露いずれかで政策変更を伴う政権交代があるまで、今後もやめてくれないだろう。

しかし、この種の政治的火遊びが思わぬ大火に転じて犠牲となるのは、いつでも庶民である。軍事訓練に動員されているウクライナ市民の時代錯誤的な映像は痛ましい。訓練が訓練で終わることを願うほかない。

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