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比較:影の警察国家(連載第52回)

2022-01-23 | 〆比較:影の警察国家

Ⅳ ドイツ―分権型二元警察国家

1+x:残存都市警察機関

 ドイツの現行警察制度は基本的に連邦と州の二元制に整理されているとみなしてほぼ間違いないが、実際には、いくつかの都市のレベルにも警察機関が置かれている場合がある。
 その点、沿革的には、旧西ドイツ建国当初、少なからぬ都市に独自の警察が設置されていたが、1970年代までに実施された制度改革によって、その多くは州警察に吸収され、姿を消した。他方、旧東ドイツは中央集権性が徹底された公然たる警察国家であり、そもそも都市警察の制度は存在しなかった。
 旧西ドイツ都市警察はドイツ再統一後も全廃されることなく、いくつの都市では、市条例上の犯罪行為の取締りその他の行政警察活動を目的とする小規模な警察として現在も残存している。そのため、多くは非武装要員で構成され、原則として州警察の警察官のような強制権限も持たない。
 とはいえ、都市警察機関の要員は行政警察活動を通じて都市当局の耳目たる監視員の役割を果たすため、小規模ながら情報機関的な要素がなくもないことは、影の警察国家という視座から注目すべき点である。
 これら残存都市警察の機関名称は様々であるが、大別すれば、市警察(Stadtpolizei)と公共秩序局(Ordnungsamt)に分けられる。前者はまさに市の警察であるが、アメリカの自治体警察のように自己完結的ではなく、基本任務は上述したような行政警察任務に限局される。
 一方の公共秩序局は、より一般的な都市警察機関であり、かなりの数の都市に設置されている。機関名称として警察を名乗らないが、実質的な役割は都市警察に準じ、要員は何らかの制服を着用する。
 その点、ヘッセン州内の独立都市であるフランクフルト・アム・マインでは、公共秩序局の執行部門という形で市警察(Stadtpolizei Frankfurt am Main)が、2007年という比較的最近になって新設された。このフランクフルト市警は要員も200人以上とかなり多く、武装もするなど、「本格派」の市警察の陣容を備えている。
 また、バーデン‐ヴュルテンベルク州の公共秩序局職員には逮捕や追跡、捜査の権限まで与えられており、実質においては「市警察」と変わらない。
 こうした残存都市警察機関の武装化と本格化という新装が進めば、ドイツ警察は事実上、連邦と州に州内都市を含めた三元制に拡張される可能性もあり、影の警察国家化が進行する。

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