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戦後ファシズム史(連載第48回)

2016-07-21 | 〆戦後ファシズム史

第四部 現代型ファシズムの諸相

3‐2:ターリバーンとイスラーム国
 イランのホメイニ指導体制が漸進的に脱ファッショしていく中、隣国アフガニスタンで、ホメイニ体制とも類似するスンナ派ファッショ体制が成立した。いわゆるターリバーン政権である。
 ターリバーンはアフガニスタン内戦で、社会主義政権が崩壊した後、イスラーム穏健派主体の軍閥連合政権が足並みの乱れから不安定化し、新たな内戦に突入していた94年頃活動を開始したイスラーム急進派グループであった。
 その創始者ムハンマド・オマルはアフガニスタンの多数派民族パシュトゥン人で、パキスタン領内のイスラーム学院で学び、社会主義政権及びその後ろ盾として内戦に介入したソ連と戦った元イスラーム戦士である。*オマルは2013年に病死していたことが公表されている。
 従って、オマルはイランのホメイニ師のような正規のイスラーム聖職者ではないが、この碧眼の元戦士はカリスマ性に富み、創設したターリバーンは急速に支持を広げ、パキスタン諜報機関を後ろ盾とする有力な武装勢力に成長した。そして、96年、首都カーブルに進撃、制圧し、政権を掌握した。
 政権に就いたターリバーンはオマルを元首とする「アフガニスタン・イスラーム首長国」を公称したが、この体制は湾岸首長諸国のような君主制イスラーム国家とは本質的に異なり、最高指導者オマルを絶対化する全体主義的かつ民族主義的なイスラーム体制であり、実態は共和制的である。
 ターリバーン体制は、イスラームの独自解釈に基づき、反西洋近代的な価値観から娯楽の禁止や女性への厳格な統制を含む全体主義的な社会管理を行なったが、そのイデオロギーは単なる「イスラーム原理主義」ならず、パシュトゥン・ワーリーと呼ばれる部族規範を重視するパシュトゥン優越主義であった。
 そのため、その5年間の支配下では、政治的な反対派のみならず、少数民族を対象とした民族浄化に相当する数々の組織的な殺戮も断行されたのである。
 一方、ターリバーンはスーダンを追われたビン・ラーディンを庇護し、アフガニスタンが新たなアル‐カーイダの拠点となったことから、2001年9月の米国同時多発テロ事件に関連し、米国主体の有志連合軍の攻撃を受け、体制そのものも崩壊した。崩壊後のターリバーンはパキスタン領内に拠点を置く武装勢力に戻り、2013年のオマルの死亡後もテロ活動を続け、アフガニスタンの不安定要因となっている。
 一方、米国がアフガニスタン戦争に続いて発動したイラク戦争によって当時のフセイン独裁体制が崩壊してシーア派主体の新政権が成立すると、イラクではスンナ派武装勢力が蜂起し、内戦状態に陥った。
 その混乱の中から現れたのが、イスラーム国を名乗る新たなスンナ派武装勢力である。この勢力はアル‐カーイダが米軍による2011年の最高指導者ビン・ラーディン殺害で弱体化する中、分派的に発生した新勢力とされる。
 その指導者アブー・バクル・アル‐バグダディの詳細な経歴は不明だが、元はアル‐カーイダ要員で、2013年頃分派を独立結成し、早くも14年6月にはイスラーム国家指導者カリフへの就任を宣言するなど、アル‐カーイダを含む従来のイスラーム聖戦勢力とは異なり、明確に国家統治を意識している。*バグダディは2019年、米軍による掃討作戦の渦中、自爆死した。
 実際、イスラーム国はシリア内戦とイラク政権の脆弱さに乗じて、シリア領内のラッカを事実上の首都に、イラク領内にまたがる領域を支配する事実上の統治勢力にまで成長した。しかし国際的な国家承認は受けておらず、その統治形態は現状、軍事的な占領支配に近い。カリフを称するアル‐バグダディにしても、中世以来の伝統的なカリフとは異なり、自称の要素が強い最高指導者であり、統治集団としてのイスラーム国の実態は多分にして共和制的である。
 イスラーム国の統治もターリバーンと類似したイスラームの独自解釈による全体主義的な社会管理であるが、民族主義的な性格の強いターリバーンとは異なり、イスラーム世界の統一という壮大な国際性を持つことが特徴であり、ある種の帝国主義を志向する。
 そのため、戦闘員も欧州を含む全世界から募集された多国籍集団となっており、単なるシンパの個人によるテロを含めた世界各地でのテロ攻撃のスポンサーともなっている。その手段として、インターネットを駆使した独自の宣伝・洗脳工作に長けていることも、単なるイスラーム原理主義とは異なる大きな特徴である。
 支配領域内の統治では、少数宗派の殺戮、性奴隷化や反対者の大量処刑などの強権支配を敷くほか、人身売買を公然と行い、外国人人質殺害などの見せしめも多用するなど、特異的な行動原理を持つ。 
 こうしたイスラーム国は、より穏当な見方によって「イスラーム原理主義」の特異例とみなすこともできるが、必ずしもそれだけでは説明がつかず、イスラームを唯一至上価値とする現代型ファシズムの一形態とみなすべき特徴を備えていると考えるものであるが、この点については仮説の域にある。
 イスラーム国に対しては、目下、米欧の有志国連合やロシアによる攻撃が継続的に加えられており、その支配領域は次第に狭まってきているとされるが、元来、強固な国家体制を築いていないだけにかえって壊滅させることが難しいというジレンマを抱えている。

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