表題『斎王の葬列』とは、この小説にでてくる、ロケ中の映画のタイトルです。これについてはもう少し説明がいります。
斎王(または斎宮=いつきのみこ)とは奈良時代に定められた制度で、天皇の名代として伊勢神宮の神に仕えるために宮中から派遣される皇女(未婚)。
記録にある斎王は天武天皇の娘で大津皇子の姉である大来皇女(おおくのひめみこ)です。以来、この制度は南北朝のころ、朝廷が力を失うまで約660年続いたそうです。
斎王が決まると、斎王は、総勢50人の行列で都をあとに5泊6日の旅(「群行」)にでます。斎宮は斎王が住む御殿や事務を司る斎宮寮の総称、頓宮は伊勢に向かう斎王の宿です。
斎宮がどこにあったのかは定かでなく、現在わかっているのは土山町の垂水頓宮関のみだそうです。
前置きが長くなりましたがこういう説明も上手に織り込みながら、話が展開していきます。
事件はロケ中に起こりました。ロケを劇団に進言し、ロケ隊の宿泊所に来て夕食をともにした長屋明正という男が現場付近のダムで水死体で発見されます。
映画監督の白井は高校時代の友人、浅見に調査を依頼します。その直後、マネージャーの堀越綾子が殺されます。殺人現場には垂水頓宮の御古址(おこし)から発掘されたとおぼしき人形代(ひとかたしろ)が置かれていました。
浅見はこれらを連続殺人として動きだします。
事件の真相は長屋明正の出生の秘密、劇団に多額の投資をして援助していた建設会社社長の喬木正隆の過去の過去の人生(実は彼が明正の本当の父)などが解き明かされ、皮を一枚一枚剥ぐようにあきらかになっていきます。
この真相究明のなかで、浅見は34年前の皇太子御成婚前夜に起きた惨劇(プロローグで紹介された野元末治の「御古址」での無残な死)に辿りつきます。