(7)がん体質とは何か

(図)がん組織は氷山の一角であり、水面下には「がんになりやすい体質(がん体質)」という大きな山が潜んでいる。がん組織を除去しても、体の治癒力を低下させる要因や、がんの発生を促進させる要因が改善されない限り、再びがんが発生(再発)してくる。がんの標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療)はがん組織のみをターゲットにして、がん体質(治癒力低下要因やがん促進要因)の改善は行なわない。免疫療法は免疫系を活性化してがんに対する抵抗力を高める。漢方薬やサプリメントは、がんに対する抵抗力や治癒力を高め、がん促進要因を軽減することによってがん体質を改善する目的で利用できる。

(7)がん体質とは何か

【がんは全身病】
目に見えるがん組織をいくら取り除いても、再発・転移や第2、第3の別のがんが発生するのは、その基盤として体の免疫力や治癒力の低下、慢性炎症の存在、食生活の偏り、ストレスなど、がんの発生や増殖や再発を促進する要因が存在しているからです。それらの要因を解決しなければ、目に見えるがん組織を除去しても、がんが再発したり別のがんが発生します。
がんは全身病であり、がん組織だけをターゲットにしても再発は防げません。がんが発生したときには、免疫力や抗酸化力などの体の生体防御力の低下、慢性炎症や食事の不摂生や老化やストレスなど、体全体の異常が基盤にあります。組織の血液循環や新陳代謝が低下した状態は組織の治癒力を低下させて、がんが発生しやすい状態になります。胃腸虚弱や栄養素の欠乏もがんに対する抵抗力を低下させます。
がん組織は、「がん体質という氷山」の一角にすぎません(図)。
目に見えるがんを取り除いても、水面下にある「がん体質」という氷山を小さくしなければ、またがん組織が現れてきます。
がん手術後の再発予防法として、西洋医学では「全身に散らばっている(かもしれない)がん細胞を抗がん剤で抑えよう」という考えで、術後補助化学療法が行われます。
一方漢方治療では、「がん細胞が体の中に残っていても、免疫力や治癒力をしっかり保って、がんの増殖を抑えよう」という考え方を基本にします。水面下の氷山(がん体質)を小さくすれば、水上に出てくる部分(がん組織)も小さくできるという考え方です。
進行がんの抗がん剤治療においても、治癒力を低下させている要因やがんを促進する要因を取り除く治療を併用することがプラスになることは、容易に理解できるはずです。

【がん体質と関連する気・血・水の異常】
がんに対する免疫監視機構の働きは老化とともに低下しますが、これは臓器機能の低下()であり、漢方的には気虚(ききょ)や血虚(けっきょ)として捕らえることができます。
実際に人参(にんじん)・黄耆(おうぎ)・茯苓(ぶくりょう)・当帰(とうき)など補気(ほき)薬や補血(ほけつ)薬に分類される生薬には、免疫賦活作用が証明されているものが数多くあります。
発がんの体質的傾向を漢方医学の概念で捕らえる時、お血(おけつ)気滞(きたい)といった気や血の滞りが重視されます。お血とは血液の流れが悪くなっている状態です。「気血が滞ると百病生じる」というのが漢方の考えであり、気滞やお血の状態が長く続くと免疫機能が低下し、治癒力が障害されて様々な病気の原因となります。免疫力の低下に加えて組織の酸素不足などによる障害の結果として、がんが発生しやすい体になると考えられます。
このような考えかたは、現代医学的な理論からも間違いではありません。種々のストレスによって、抑うつになったり、自律神経の失調によって諸臓器の機能異常がおこり、組織や臓器の血液循環にも悪影響を及ぼすことはよく知られています。このような血液循環の異常による新陳代謝の低下は、治癒力を妨げ生体防御能を弱めるため、がんの促進因子となります。
組織の酸素不足ががんの進展に促進的に作用することも報告されています。また発がんの主要な原因である酸化的ストレスはお血の原因となります。このように、気や血の滞ったお血や気滞といった漢方医学的病態は酸化ストレスや免疫力低下と密接に関連し、発がんの促進因子として、体質的基盤をなすと考えられます。
がんの発生や再発の要因として、免疫力などのがんに対する抵抗力や治癒力の低下が重要ですが、西洋医学ではあまり重視されていません。漢方治療によって気血水の異常を改善することによって体に備わった抵抗力や治癒力を高めるという病気の予防対策は、がん再発予防の手段として西洋医学にない特徴をもっていることが理解できます。

【生薬成分の相乗効果によってがん体質を改善する漢方】
発がん予防(微小がんの顕在化抑制)や再発予防の目的には、漢方薬治療がある程度の効果を発揮しますが、その根拠は、がん体質を変えることを目標としているからです。
例えば、生薬成分による抗炎症作用フリーラジカルの消去・産生抑制作用は、発がん過程を抑制する効果があります。
補剤は免疫賦活作用によって、がんの顕在化を抑制できると考えられます。実際に、薬用人参や十全大補湯などの生薬・漢方薬による発がん抑制効果が、動物実験や疫学調査で明らかになっています。
漢方薬は様々な効能を持つ複数の生薬の組み合わせであり、それぞれの生薬には多数の成分が含まれています。漢方治療によって気血水の量と巡りを正常化させることは、消化管の働きや、組織の血液循環や新陳代謝を良好にすることができます。さらに免疫力や抗酸化力を増強するような天然成分の存在は、がん体質を改善する効果の物質的基盤となっています。
がん治療後の食生活の内容が、再発率に影響することが多くの疫学的研究で知られています。例えば、野菜や大豆製品を多く食べると、がんの再発率が低下することが報告されています。漢方治療は医食同源思想を基本にしており、野菜に近い薬草を複数組み合わせることによって、病気を予防するノウハウを蓄積している点にその有用性があります。
単一成分でがん予防効果を得ようとする要素還元主義の西洋医学の研究がことごとく失敗していますが、医食同源思想を基盤とする漢方医学の方法論にも目を向ける必要があるように思います。

がん体質に関連する以下のサイトも参考にして下さい。

◎ 92)がんの再発予防と漢方

◎ 111)漢方薬ががんの発生や再発を予防できる理由

◎  231)がんの再発予防とは

◎ 580) がん再発予防における補助化学療法 vs 漢方治療


オフィシャル・サイト

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« (6)気とは何か (8)漢方的... »