Cafe de Kerm ~毒味ブログ~

物言いにも、珈琲にも、もれなく毒が混入している可能性が無いこともないです。

電子ブックの登場で紙の本は死ぬのか

2010-08-10 22:06:51 | Thinkings

 私が子供だったとき、ドラえもんや、その他のSFから夢見ていた21世紀は今よりもずっと「未来」でした。登場人物は原色や銀色のツナギ的な何かを着て、車は空中のチューブを走り、何か得体の知れない食べ物をモリモリと食べる・・・そんな世界。
 ところが現実は、相変わらずジーパンにTシャツで、車は今でもガソリンを使って道路を走り、食べ物はむしろ健康志向で素材の良さが見直されているという始末。SFの中の劇的な変化に比べればなんてことはない、1980年代の延長の世界がそこにあったわけです。

 しかしながら、1980年からすれば、今は30年も進んだ未来に他なりません。よくよく周りを見回してみると、当時のSFよりもずっと進んでいる部分・・・つまり、SF作家の想像すら超えた進歩を遂げた物が点在しています。
 まず、当時のSFには携帯通信機はあっても携帯電話が存在しません。インターネットだってそうですし、液晶テレビもそうでしょう。かつての著者に、これだけ小型で綺麗になったデジタルカメラを見せたら何かの冗談かと思うかも知れません。はたまたウォッシュレットや全自動洗濯機、エコキュートにも感動するかも・・・と考えると、意外に未来かも知れないと現実味が湧きますが、そのおかげで歴史から消え去ろうとしている物もたくさんあります。

 例えばブラウン管方式のテレビはすでに売り場から無くなりましたし、MDやカセットテープ・ビデオテープも市場からほぼ消え去りました。フィルム式のカメラはデジタルカメラに主役の場を譲り渡しましたし、二槽式の洗濯機はほぼ全自動洗濯機に取って代わられました。あの白熱灯の生産がちかくストップするかも知れないと言うのはショックなニュースでしたし、スペースシャトルが引退するなんて考えもしませんでした。

 そして、識者・・・というかIT関連の技術屋やマニアが考える次なるテクノロジーの犠牲者は、「本」らしいです。

本の消滅が予言される今、未来派に対抗するのは消費者だ TechCrunch

紙の本(およびその延長である雑誌等も)の消滅は、進行中の ― 既知の ― プロセスであるにすぎない。問題はその時期である。Negroponteは、10年ではなく5年であると言う。彼が消費者の柔軟性に関して私以上の信条を持っているのか、さもなければ何か全く別の話をしているのだろう。

 Negroponte氏はあの100ドルPCの提唱者。彼は5年以内に紙の本は終わる、といいます。元記事は「彼はそういう見方だが、私はそうは思わない」という記事でした。私がどちらの側に立つかと言えば・・・もちろん後者です。本は5年やそこらでは無くなりません。

 まず、町にある本屋が5年以内に廃業を余儀なくされるってこと?そして、一家に一台以上・・・それこそDSも真っ青な勢いで電子ブックリーダーが普及するって?あり得ないでしょう。紙の本を無くそうと思ったら「普段は本を読まない人けれど、たまには雑誌くらい読みたい」なんて人にも普及させないといけないけれど、そういう人たちが電子ブックリーダーを買うとはとうてい思えません。それこそ、電子ブックリーダーが無料で配られでもしない限りは・・・。
 ・・・携帯電話普及期の、インセンティブに物を言わせたゼロ円戦略を思い出しました。同じような取り組みを行えば、普及率は格段に上がるかも知れませんね。

 電子ブックの紙の本に対する勝利条件が「紙の本の売り上げを超えること」ならば、確かに可能性は高いです。5年とはいわないまでも10年後には達成できている公算が高いですが・・・雑誌まで全部含めると、どうでしょう?読み捨てる為の本しか必要としない層には、電子ブックリーダーは必要ないような気がします。「紙の本は器であって、その中の情報こそが重要」ならば、電子ブックリーダーという器の初期投資に価値を見出せない層というのは確実に存在すると思いますよ。

 電子ブックリーダーが今よりも普及して、本を読みたい人に結構な割合で行き渡った未来は、ハードカバーの文芸書や小説みたいな高くて読みにくい本は無くなってしまって、残るのは雑誌や文庫ばかりになる・・・というシナリオも面白いかもしれません。何しろ、その技術の消えにくさは歴史の長さに比例すると思いますから、そう簡単に紙の本が無くなることは無いって事です。

 ところで、ふと、唐突に気がついたんですけど、料理本とか写真集とか、そういう写真や図解がメインのものって、果たして電子ブックリーダーで読みたいんでしょうか?そもそも、調理しながら電子ブックリーダーのスクリーンセーバーと戦うところが想像できないんですが・・・なんというか、そういう「向き不向き」のある本の事は脇に置いておいて、とりあえず「教科書とか文芸書、ビジネス書」みたいな、いわゆる「本」だけの話が先行しているから、なんとなく変な感じになっている様な気がしてならないんですけど・・・雑誌天国の日本の状況を考えると、そもそも、電子ブックリーダーの普及すら怪しいとも思えてくるわけですが。