〇五島美術館 特別展『光彩の巧み-瑠璃・玻璃・七宝-』(2017年10月21日~12月3日)
最終日に参観。まあ見逃してもいいんだけど、くらいの気持ちで行ったら、予想外に面白かった。日本・東洋の七宝を中心に、(見た目では)その類似の技法である貴石・ガラス象嵌もあわせて約100点の名品でたどる。
はじめに「瑠璃と玻璃のかざり」、すなわち貴石・ガラス象嵌を取り上げる。「瑠璃」も「玻璃」も大まかには貴石やガラスを表す。冒頭の『金銀玻璃象嵌大壺』(中国・戦国時代、前5-前3世紀)にびっくりした。丸い銅に短い首のついた、何の変哲もない形の壺だが、表面全体を斜め格子文で覆い、金の鋲や青・白のガラス珠をびっしり嵌め込んで(溶着して)いる。つくられた当時は、クリスマスツリーみたいに華やかだったことだろう。永青文庫所蔵。
漢時代の『玻璃握豚』は濁った乳白色だがガラス製だという。MIHOミュージアムの『鳳凰型装飾』(戦国~漢時代)には青緑色のガラスが象嵌されている。ガラスは漢代に「玻璃」の名で定着し、実質的な発展が始まった。紀元前の古代中国を舞台にした古装ドラマで、ガラス製品が出てきたら、ないないと笑ってしまうところだが、あったのかーと驚く。泉屋博古館の『嵌玉一角獣形鎮子』『鍍金双獣形鎮子』には、多様な色彩の貴石が使われている。精彩あふれる動物の表情も見どころ。
続いて「七宝」。明日香村の牽牛子塚古墳から出土した『花文入亀甲型金具』は、連続する亀甲文の中に撫子のような六弁花が銅線で描かれている。日本最古の七宝作品であるが、渡来品か渡来した工人の作と考えられている。被葬者は斉明天皇である可能性が高く、7世紀後半の古墳である。また、正倉院宝物の『黄金瑠璃鈿背十二稜鏡』の模造品(1999年製作)が出ていた。背面ほぼ全体が金線(?)で抽象的な葉か花弁を表現した七宝かざりになっている。使われている釉薬は、唐三彩のような黄褐色・濃緑色(黒に近い)・淡緑色の三色。原品は「未展示」だそうで、劣化していて出せないのかと思ったが、図録の写真を見るとそうでもない。そして、かなり原品の風格そのままの復元であることが分かった。
だいたい展示室の壁面のケースに沿って見ていったのだが、このあとすぐ「茶の湯と七宝」のセクションが始まる。え?いきなり古代から明代?と戸惑ったが、唐~宋代の七宝はほとんど遺品が残っていないそうだ。元代にイスラム圏の技術が流入し、その刺激によって元~明の華やかな七宝が開花する。図録の解説にいうとおり、技術の流れは一本道ではない。だから文化や技術の「古さ」や「起源」を誇るのは、たいがいにしておいたほうがよいのだ。
さて、以下は多様な「七宝かざり」が日本各地から大集合! 美術館や博物館だけでなく、寺院や個人蔵の作品も多数出ていた。 有線七宝は文様の色やかたちが単純化されるので、なんとなく童心を感じさせ、愛らしいものが多い。静嘉堂文庫の『花文七宝舟形釣花入』(日本製?)とか彦根城伝来の『荒磯花文七宝水指』とか、素晴らしく可愛い。細見美術館の『唐花文七宝手付四方盆』と京都国立博物館の『唐花七宝手付八角盆』は、どちらも18-19世紀の日本で製作されたものだが、青色をベースにエキゾチックな文様が美しい。東洋の七宝といえば、この少し明るめの青色のイメージだなあ、私は。明清時代には、七宝を用いた孔雀形の香炉が多く作られた(類例に鶏形、鳳凰形も)。個人蔵の作品が多く出ていたけど、これ欲しい。清時代の『七宝孔雀形香炉』は表情がもの思わしげで素敵。
展示室中央列のケースは「身にまとう」をテーマに、刀の鍔、印籠、簪、鼻煙壺などの小物類が陳列されていた。あと、少ないと思った古代の貴石・ガラス象嵌の例として、帯鉤(たいこう)が出ていた。白鶴美術館所蔵が5件と久保惣記念美術館所蔵が1件。よく各地から集めてきたなあと感心する。
また、刀の鍔や印籠には、非常に繊細で緻密な七宝を、全面でなくアクセントに用いたものがあった。これらは、安土桃山から江戸時代前期にかけて活躍した七宝師・平田道仁(ひらた どうにん)の作で、一門の作品を「平田七宝」と呼ぶ。透明感のある釉が持ち味である。平田春寛作の『雪華文七宝鍔』の愛らしさは、何を考えているのか謎なくらい。中国製の鼻煙壺にも雪華文ふうの六角文を散らしたものがあった。あと大阪市立美術館には、七宝製の十字架があるのだな。禁教令以前の日本で制作されたとは考えにくく、仮に中国製としたが、位置づけの難しい作品であるとのこと。
第2展示室は、引手、釘隠などの七宝調度品。細見美術館の所蔵品が多かった。参考として、七宝の制作工程を示す見本が並んでいたのも興味深かった。また、ロビーには龍を描いた巨大な七宝の壺(と思ったら、一対の巨大香炉だった)が展示されていて、写真撮影もできるようになっていた。いい試みだと思う。でもこれ、図録写真を見ると底部の図柄(虎・麒麟・鳳凰も勢ぞろい)がいちばん面白いなあ。明治工芸としての七宝は、最近、ときどき特集されることがあるが、古代から近世まで、しかも中国と日本を俯瞰的に扱った展示を見たのは初めてで、学ぶことが多かった。見に来てよかった!
最終日に参観。まあ見逃してもいいんだけど、くらいの気持ちで行ったら、予想外に面白かった。日本・東洋の七宝を中心に、(見た目では)その類似の技法である貴石・ガラス象嵌もあわせて約100点の名品でたどる。
はじめに「瑠璃と玻璃のかざり」、すなわち貴石・ガラス象嵌を取り上げる。「瑠璃」も「玻璃」も大まかには貴石やガラスを表す。冒頭の『金銀玻璃象嵌大壺』(中国・戦国時代、前5-前3世紀)にびっくりした。丸い銅に短い首のついた、何の変哲もない形の壺だが、表面全体を斜め格子文で覆い、金の鋲や青・白のガラス珠をびっしり嵌め込んで(溶着して)いる。つくられた当時は、クリスマスツリーみたいに華やかだったことだろう。永青文庫所蔵。
漢時代の『玻璃握豚』は濁った乳白色だがガラス製だという。MIHOミュージアムの『鳳凰型装飾』(戦国~漢時代)には青緑色のガラスが象嵌されている。ガラスは漢代に「玻璃」の名で定着し、実質的な発展が始まった。紀元前の古代中国を舞台にした古装ドラマで、ガラス製品が出てきたら、ないないと笑ってしまうところだが、あったのかーと驚く。泉屋博古館の『嵌玉一角獣形鎮子』『鍍金双獣形鎮子』には、多様な色彩の貴石が使われている。精彩あふれる動物の表情も見どころ。
続いて「七宝」。明日香村の牽牛子塚古墳から出土した『花文入亀甲型金具』は、連続する亀甲文の中に撫子のような六弁花が銅線で描かれている。日本最古の七宝作品であるが、渡来品か渡来した工人の作と考えられている。被葬者は斉明天皇である可能性が高く、7世紀後半の古墳である。また、正倉院宝物の『黄金瑠璃鈿背十二稜鏡』の模造品(1999年製作)が出ていた。背面ほぼ全体が金線(?)で抽象的な葉か花弁を表現した七宝かざりになっている。使われている釉薬は、唐三彩のような黄褐色・濃緑色(黒に近い)・淡緑色の三色。原品は「未展示」だそうで、劣化していて出せないのかと思ったが、図録の写真を見るとそうでもない。そして、かなり原品の風格そのままの復元であることが分かった。
だいたい展示室の壁面のケースに沿って見ていったのだが、このあとすぐ「茶の湯と七宝」のセクションが始まる。え?いきなり古代から明代?と戸惑ったが、唐~宋代の七宝はほとんど遺品が残っていないそうだ。元代にイスラム圏の技術が流入し、その刺激によって元~明の華やかな七宝が開花する。図録の解説にいうとおり、技術の流れは一本道ではない。だから文化や技術の「古さ」や「起源」を誇るのは、たいがいにしておいたほうがよいのだ。
さて、以下は多様な「七宝かざり」が日本各地から大集合! 美術館や博物館だけでなく、寺院や個人蔵の作品も多数出ていた。 有線七宝は文様の色やかたちが単純化されるので、なんとなく童心を感じさせ、愛らしいものが多い。静嘉堂文庫の『花文七宝舟形釣花入』(日本製?)とか彦根城伝来の『荒磯花文七宝水指』とか、素晴らしく可愛い。細見美術館の『唐花文七宝手付四方盆』と京都国立博物館の『唐花七宝手付八角盆』は、どちらも18-19世紀の日本で製作されたものだが、青色をベースにエキゾチックな文様が美しい。東洋の七宝といえば、この少し明るめの青色のイメージだなあ、私は。明清時代には、七宝を用いた孔雀形の香炉が多く作られた(類例に鶏形、鳳凰形も)。個人蔵の作品が多く出ていたけど、これ欲しい。清時代の『七宝孔雀形香炉』は表情がもの思わしげで素敵。
展示室中央列のケースは「身にまとう」をテーマに、刀の鍔、印籠、簪、鼻煙壺などの小物類が陳列されていた。あと、少ないと思った古代の貴石・ガラス象嵌の例として、帯鉤(たいこう)が出ていた。白鶴美術館所蔵が5件と久保惣記念美術館所蔵が1件。よく各地から集めてきたなあと感心する。
また、刀の鍔や印籠には、非常に繊細で緻密な七宝を、全面でなくアクセントに用いたものがあった。これらは、安土桃山から江戸時代前期にかけて活躍した七宝師・平田道仁(ひらた どうにん)の作で、一門の作品を「平田七宝」と呼ぶ。透明感のある釉が持ち味である。平田春寛作の『雪華文七宝鍔』の愛らしさは、何を考えているのか謎なくらい。中国製の鼻煙壺にも雪華文ふうの六角文を散らしたものがあった。あと大阪市立美術館には、七宝製の十字架があるのだな。禁教令以前の日本で制作されたとは考えにくく、仮に中国製としたが、位置づけの難しい作品であるとのこと。
第2展示室は、引手、釘隠などの七宝調度品。細見美術館の所蔵品が多かった。参考として、七宝の制作工程を示す見本が並んでいたのも興味深かった。また、ロビーには龍を描いた巨大な七宝の壺(と思ったら、一対の巨大香炉だった)が展示されていて、写真撮影もできるようになっていた。いい試みだと思う。でもこれ、図録写真を見ると底部の図柄(虎・麒麟・鳳凰も勢ぞろい)がいちばん面白いなあ。明治工芸としての七宝は、最近、ときどき特集されることがあるが、古代から近世まで、しかも中国と日本を俯瞰的に扱った展示を見たのは初めてで、学ぶことが多かった。見に来てよかった!