見もの・読みもの日記

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自由で豊かな挑戦/リアル:最大の奇抜(府中市美術館)

2018-04-15 23:39:11 | 行ったもの(美術館・見仏)

府中市美術館 企画展『リアル:最大の奇抜』(2018年3月10日~5月6日)

 恒例「春の江戸絵画まつり」に行ってきた。今年のテーマは「リアル」。江戸時代中期以降、円山応挙や司馬江漢ら、さまざまな画家たちが「本物のように描く」ことを試みた。ともすれば近代の先駆けとみなされることの多い江戸時代の「リアル」だが、本展はむしろそれを疑いつつ、自由で豊かな、江戸絵画の「リアル」に向き合いたい、と開催趣旨にうたわれている。

 入口には森狙山の『群獣図巻』。伝統的な日本絵画に比べれば、陰影を強調したリアルな表現なんだけど、後ろ足を跳ね上げて、走りながら振り返るキツネのポーズは稲荷明神のそれだし、黒牛の座り方が芦雪の絵っぽかったり、種本の存在を感じさせる。はじめは身近な動物や植物を「本物のように」描いた作品が並ぶが、その中に呉春の『雨中鹿図』みたいに、白描に少し色をのせただけの簡潔でとぼけた作品が混じる。この鹿、抜群に好きだわ。植物は、リアルに描こうとした結果、非現実的な味わいを醸し出す場合がある。原在中の『岩鶏頭花図』はそんな趣きの作品。ちなみにケイトウではなく、異国渡来の珍しい植物を太湖石に添えて描いたらしい。

 次に風景。亜欧堂田善の『花下遊楽図』(この伝統的な画題!)(立花家史料館)は記憶にない作品だった。海が見える丘の緑地、巨大な(巨大すぎる)木々の下で、敷物を敷き、ピクニックを楽しむ男女たち。これがリアルか? ボッシュの快楽の園みたいだと思った。その隣に司馬長瑛子の『従武州芝水田町浜望東南図』。こちらも横長の画面に海を描く。砂浜に打ち寄せる静かな波のふくらみ方、崩れ方がリアル。司馬江漢の門人だった可能性もある、と図録の解説にいう。

 一方、着実に「リアル」な風景を作品に残した画家たちもいる。小泉斐(あやる)の『黒羽城周辺景観図』の風景は、現代人が見ても全く破綻がなく違和感もない。黒羽は栃木県北東部の地名で、見事な河岸段丘がはっきり描かれている。熊本藩の御用絵師、矢野良勝が描いた『全国名所図巻』もすごかった。リアルを越えた迫真性がある。日光の華厳の滝と裏見の滝の箇所が開いていた。熊本と聞いて、もしやと思ったらやっぱり、永青文庫コレクション展で強く印象に残った御用絵師だった。

 それから人物。亜欧堂田善の『少女愛犬図』は西洋の小さな銅版画を、大きく引き伸ばして描いたもの。銅版画の風合いを水墨で写し取ろうと格闘している。原画の愛らしさとは似ても似つかぬ奇妙な作品になっているが、作者の真摯な姿勢のせいか、不思議と惹かれるものがある。大久保一丘の『伝大久保一岳像』は、かなりこなれた西洋風の肖像画。太田洞玉の『神農図』はアニメのキャラクター風で目が大きく、かわいかった。

 気になった作品をランダムに紹介。片山楊谷の『蜃気楼図』(渡辺美術館)は、巨大なハマグリが空中楼閣を吐き出す図で、楼閣が細部まできちんと写実的に描かれている分だけ幻想性が増す。白虎を描いた『虎図』もかなりヘン。原在中の『夏雲多奇峰図』は龍雲っぽかった。鯉の絵を得意とした黒田稲皐(とうこう)は、最近どこかで見たと思ったら、中之島香雪美術館で見たのだった。

 さて後半へ。再び風景図をいくつか。渕上旭江の『真景図帖』は日本各地の名所風景を描いたもので、好奇心旺盛な近世文化の成熟を感じる。ただし、中国絵画の「青緑山水」スタイルに捉われていて、十分にリアルな風景とは言い難い。熊本藩の武士・米田松洞が描いた『西山秋景』は、住まいのまわりの風景を心のままに書き連ねたもの。てらいのない文人画で、絵本を見るように楽しい。

 最後に「リアル」江戸絵画の真打ちとして、司馬江漢と円山応挙が登場する。司馬江漢の作品をこんなにまとめて見たのは初めてで、非常に面白かった。ガリガリの洋風画『異国戦闘図』や『オランダ馬図』だけでなく、宋紫石に学んだ中国風の花鳥画とか、もう少し淡泊な和風の花鳥画とか。すごく好きなのは、かすかに色をつけた墨画『相州江之島児淵図』2幅。左幅に遠景の富士山をぼんやり霞ませ、右幅に近景の大きな岩山と、小さな人々の姿を描く。伝統的な山水墨画のようで、この広々した奥行のある空間はたぶん司馬江漢ならではのもの。応挙の巧さには何も申しません。『虎皮写生図』を久しぶりに見れて嬉しかった。小さな『鼬図』がまた、イタチの表情が憎々しい。

 実は、まだ前期のつもりで行ったら先週から後期に入っていた。墨江武禅とか安田雷洲とか、好きな絵師を幾人か見逃してしまったのはちょっと残念。来年のテーマは「へそまがり日本美術」だそうで、すでに来年の宣伝が始まっていた。美術館とファンの間に、しっかり絆ができているようで嬉しい。来年は桜の時期に来られるといいな。


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