見もの・読みもの日記

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2014年11月@西日本:空海の足音 四国へんろ展(徳島県立博物館)

2014-11-29 18:56:21 | 行ったもの(美術館・見仏)

徳島県立博物館 『空海の足音 四国へんろ展』《徳島編》(2014年10月25日~11月30日)

 四国4県の4つの美術館・博物館の連携企画『空海の足音 四国へんろ展』。最後の訪問となった徳島県立博物館が、交通アクセス的には、いちばんの難所だった。路線バスが2時間に1本程度しかないのだ。仕方ないので、駅からタクシー。

 会場の入口に、なんだかたくさん係員の方がいて、入場者は館内案内図を渡され、「第1会場、第2会場、第3会場(写真展)とまわってください」とやや声高に言い渡される。会場内では、ちょうど展示解説が始まっていて、騒然と落ち着かない雰囲気。私は展示解説ツアーの大集団を離れて、適当な順番で展示品を見ながら、耳だけ解説の音声に注意を傾けることにする。

 寿永四年正月の銘を持つ弥勒菩薩像(砂岩の板碑に彫られたもの)の拓本を感慨深く眺める。「源義経が平家討伐のために阿波に上陸する」前の月という解説がついていたが、おそらく滅亡の予感に怯えながら讃岐の屋島に逼塞していた平家の人々に思いは飛ぶ。四国にも弥勒信仰があったということを少し意外に思ったが、展示解説の先生が、弘法大師空海が今も高野山奥の院で生き続けているという大師信仰と、56億7千万年後の未来に出現する弥勒菩薩信仰の合体が起きている、という説明をされていたのは面白かった。

 彫像に見慣れた姿があると思ったら、兵庫・浄土寺の重源上人坐像がおいでだった。それから、口から阿弥陀名号を吐き出す空也上人立像。鹿角の杖を突き、はだけた胸に鉦鼓を提げる。六波羅蜜寺の有名な像によく似ているが、異界にいってしまったような目つきが少し怖い(己れの口から洩れる六体の阿弥陀仏にも注意を払っている様子が全くない)。この空也像は愛媛の浄土寺に祀られている。寺院の外に出るのは初めてで、住職はもう出さないとおっしゃっているから見納めでしょう、とのこと。空也は、阿波・土佐両国の間の海上にある湯島(未確定)で修行したと伝わっており、重源は17歳で四国を遍路し、後年、東大寺再建にあたっては、阿波民部重能(成良)の浄土堂を東大寺に移した縁もある。

 このように四国は古い時代から山林修行・遊行の場であった。耳だけで聴いていた展示解説によれば、四国は「辺地(へぢ)」と呼ばれ、「辺路」とも書かれたことから「遍路」という言葉が成立する。これは大師信仰とは別もので、12世紀には、西国巡礼や熊野信仰の影響を受けつつ、四国霊場が成立する。いろんなものがカオス的に融合している一方で、霊性のある土地の「必然」みたいなものが感じられ、興味深いと思う。

 徳島・井戸寺の日光・月光菩薩立像(平安時代)、香川・善通寺の地蔵菩薩立像(平安時代)など、古色を感じる仏像もよかった。あと、香川県立ミュージアムで気になった金剛峯寺の『比丘尼法薬(ほうやく)埋納経塚遺物』から、銅製の経筒などが来ていた。

 第二会場は札所の文化財など。第三会場は「写真展」だと聞いていたので、あまり期待していなかった。それが、会場に一歩入って、息をのんでしまった。写真家・三好和義さんのブログに公開されている会場風景はこちら。四国八十八ヶ所の霊場のさまざまな写真(三門の仁王さんだったり、桜咲く参道だったり、お遍路さんだったり)が4つの島(テーブル)に並んでおり、それぞれの中心には、4枚ずつ仏像の巨大な写真パネルが展示されている。これとは別に「秘仏」を写して、和紙にプリントした特別なパネルも。その迫力と美しさに呆然と見とれてしまった。

 あとでミュージアムショップで展示図録を買うとき、「写真展の図録はないんですか?」と聞いたら、『巡る楽園:四国八十八ヶ所から高野山へ:三好和義写真集』(小学館、2004)という本があることを教えられたので、一緒に買ってしまった。眺めていると、霊場からの招き声が聞こえてきて、むずむずするような写真集。詳しくは後日、紹介したい。なお、現場では気づかなかったが、展示図録の冒頭にも三好和義さん撮影の「遍路の旅」の写真10数点(秘仏の写真を含む)が付録としてついている。これはかなり嬉しい特典!


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