〇前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書) 光文社 2017.5
発売早々「とにかく面白い」という評判をSNSで読んだ。同時にインパクトのありすぎる表紙(顔を緑色に塗って、バッタの扮装をしているのは著者である)も記憶に留めたが、実際に読んでみるかどうかは迷っていた。私はバッタに全く興味がない。虫は苦手なほうだ。だいたい、こんな表紙写真を選ぶような、素っ頓狂な著者(え、正真正銘の博士号持ちだって?)で大丈夫なのだろうか。しかし読み始めたら、面白くて面白くて、一気に読み切ってしまった。
著者・前野浩太郎氏は、子供の頃からバッタが大好きで、いつかバッタの大群に飛び込み「バッタに食べられたい」というのが夢だった。大人になって、バッタの研究で博士号も取得したが、なかなか就職口がない。そこで、31歳にして、単身、西アフリカのモーリタニアの国立サバクトビバッタ研究所に赴く。ここで研究成果をあげて凱旋すれば、日本の研究機関に就職が決まる可能性も高いと考えたのだ。
当時、日本人が13人しか住んでいなかったというモーリタニア。もちろん私も初めて聞く国名だった。公用語はフランス語。イスラム教国であるため、日本から持ち込んだ酒類は没収。はじめから雲行きがあやしい。しかし、専属ドライバーのティジャニとは気が合い(あまり言葉は通じていない)、現地のヤギ肉料理も「美味い」と満足する。フィールドワーク中の食事では、みんなが手づかみなのに一人だけスプーンを使って食べているのが恥ずかしくて、いずれは手づかみできるようになろうと考える。この適応力が著者の強み。研究所のババ所長には「よく先進国から来たな」と感心され、心意気を認められて、ミドルネーム「ウルド」を名乗ることを許される。
一見、無鉄砲に見えて、著者は昆虫学者として生きていく方法をきちんと考えている。大学や研究所の正規ポストをめぐる椅子取りゲーム。それに勝ち抜くには論文を書くこと。ところが、モーリタニアは大干ばつの影響でバッタが姿を消してしまい、論文が書けない。窮した著者は、ライバルたちの論文執筆を横目に、広報活動に精を出すことになる。著書の宣伝イベントを兼ねたトークショー(ジュンク堂池袋本店)で「プレジデント」誌の石井伸介氏に声をかけられる。ここで、蝗害に立ち向かう昆虫学者を描いた西村寿行の小説『蒼茫の大地、滅ぶ』を持参して、著者の心をつかむ石井氏の気配りは、編集者の鑑! そして、「プレジデント」に連載を持つことになった著者は、優秀な「赤ペン先生」石井氏の指導によって、文章力が向上していくのがわかり、「一生ものの財産になった」という。
さらに「ニコニコ学会β」ではプレゼンテーションの腕を磨き、「研究活動からは遅れをとってしまったが、回り回ったおかげで、大勢の方々から研究を進める上でのかけがえのない武器を授けてもらった」と振り返る。このポジティブ思考、見習いたい。その結果、著者は「平成25年度京都大学『白眉』プロジェクト」の選考を突破し、採用を勝ち取る。面接で出会った京大・松本総長の態度も素晴らしい。研究者の世界って、苦労も多いけど、いいなあと思う。
最大のクライマックスは、著者がモーリタニアで待ちに待ったバッタの大群に遭遇する場面。著者の興奮が乗り移って、嬉しさに震えた。「私の人生の全ては、この決戦のためにあったのだ」って、戦国武将でもなければ、なかなか持てる感慨ではない。「研究できることがこんなにも幸せなことだったのか」って、ああ、多くの研究者にこの言葉を言ってもらいたい。

著者・前野浩太郎氏は、子供の頃からバッタが大好きで、いつかバッタの大群に飛び込み「バッタに食べられたい」というのが夢だった。大人になって、バッタの研究で博士号も取得したが、なかなか就職口がない。そこで、31歳にして、単身、西アフリカのモーリタニアの国立サバクトビバッタ研究所に赴く。ここで研究成果をあげて凱旋すれば、日本の研究機関に就職が決まる可能性も高いと考えたのだ。
当時、日本人が13人しか住んでいなかったというモーリタニア。もちろん私も初めて聞く国名だった。公用語はフランス語。イスラム教国であるため、日本から持ち込んだ酒類は没収。はじめから雲行きがあやしい。しかし、専属ドライバーのティジャニとは気が合い(あまり言葉は通じていない)、現地のヤギ肉料理も「美味い」と満足する。フィールドワーク中の食事では、みんなが手づかみなのに一人だけスプーンを使って食べているのが恥ずかしくて、いずれは手づかみできるようになろうと考える。この適応力が著者の強み。研究所のババ所長には「よく先進国から来たな」と感心され、心意気を認められて、ミドルネーム「ウルド」を名乗ることを許される。
一見、無鉄砲に見えて、著者は昆虫学者として生きていく方法をきちんと考えている。大学や研究所の正規ポストをめぐる椅子取りゲーム。それに勝ち抜くには論文を書くこと。ところが、モーリタニアは大干ばつの影響でバッタが姿を消してしまい、論文が書けない。窮した著者は、ライバルたちの論文執筆を横目に、広報活動に精を出すことになる。著書の宣伝イベントを兼ねたトークショー(ジュンク堂池袋本店)で「プレジデント」誌の石井伸介氏に声をかけられる。ここで、蝗害に立ち向かう昆虫学者を描いた西村寿行の小説『蒼茫の大地、滅ぶ』を持参して、著者の心をつかむ石井氏の気配りは、編集者の鑑! そして、「プレジデント」に連載を持つことになった著者は、優秀な「赤ペン先生」石井氏の指導によって、文章力が向上していくのがわかり、「一生ものの財産になった」という。
さらに「ニコニコ学会β」ではプレゼンテーションの腕を磨き、「研究活動からは遅れをとってしまったが、回り回ったおかげで、大勢の方々から研究を進める上でのかけがえのない武器を授けてもらった」と振り返る。このポジティブ思考、見習いたい。その結果、著者は「平成25年度京都大学『白眉』プロジェクト」の選考を突破し、採用を勝ち取る。面接で出会った京大・松本総長の態度も素晴らしい。研究者の世界って、苦労も多いけど、いいなあと思う。
最大のクライマックスは、著者がモーリタニアで待ちに待ったバッタの大群に遭遇する場面。著者の興奮が乗り移って、嬉しさに震えた。「私の人生の全ては、この決戦のためにあったのだ」って、戦国武将でもなければ、なかなか持てる感慨ではない。「研究できることがこんなにも幸せなことだったのか」って、ああ、多くの研究者にこの言葉を言ってもらいたい。