見もの・読みもの日記

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視聴中:『長安十二時辰』で唐代長安を思う

2019-07-15 23:55:43 | 見たもの(Webサイト・TV)

 6月27日に優酷(Youku)で配信が始まったドラマ『長安十二時辰』が面白い。制作中から噂は聞いていて、予告編も見ていたので、始まったら必ず見ようと思っていたのだが、期待を三倍くらい上回ってすごい。私はいつものように楓林網に流れてくる動画を見ているのだが、Amazon Prime等で正式な日本配信も予定されているらしい。ただし日本語字幕が用意されるには、もう少し時間がかかることだろう。ドラマそのものについては、全編視聴を終えてからゆっくり書くつもりなので、周辺の情報について少し書いておく。

 このドラマには同名の原作がある。作者の馬伯庸(1980-)は、2000年代後半から歴史、SF小説を発表している若い作家で、2018年にドラマ化された『三国機密之潜龍在淵』の原作者でもある。『三国機密』は、後漢のラストエンペラー献帝に双子の弟がいたという設定で描く「熱血沸騰的虚構歴史大作」だった。今回の『長安十二時辰』は、唐の玄宗皇帝年間、長安全市を爆破し焼き尽くそうとする犯罪集団の陰謀と、これに立ち向かう人々の24時間を描く。いま48集中の20集まで見たところだが、むちゃくちゃ面白い。どこかに原作の日本語翻訳版を出してくれる出版社はないものか。中国では、村上春樹や東野圭吾など、日本の現代作家の作品がどんどん翻訳されて、多数の読者に享受されているというのに、すごく残念である。

 ドラマ版の監督・曹盾は「長安城の一日を忠実に再現したい」という理念を掲げて制作に臨んだ。その結果、墳墓の壁画や三彩俑でしか見たことのなかった大唐長安城の人々が、まさにそのまま、画面の中を生き生きと動き回っていることに私は単純に感動している。衣装や髪型、女性の化粧、甲冑などに一切手抜きがないのがすごい。もちろん画面を美しく見せるためのつくりごともあるのだが(靖安司の内部など)雰囲気の統一感は厳格に守られている。

 私が非常に気に入っているのは、優酷が配信している「這就是長安(This is Chang’an)」という、5分位の短編動画シリーズである。司会者の張騰岳と原作者の馬伯庸がドラマ『長安十二時辰』と唐代長安について気楽に語り合う。長安城の規模と構造、食べもの、酒と酒杯、武器、移動手段としての動物、時刻の計り方、皇帝の呼称など。そして、実に些細なことまで調べ尽くして頭に入っている作者・馬伯庸の博識ぶりに驚いている。

 歴史のリアリティを尊重するための、創作上の苦心談も随所で聞けて面白い。檳榔を噛む描写を入れようとしたが唐代長安には無かったので薄荷にしたとか。作者の馬伯庸はアメリカのドラマ『24(トゥエンティフォー)』を参考にしたが、現代の携帯電話が果たしている役割を、どうやって唐代長安に置き換えるか考えた末、坊城ごとに建てられた望楼を利用して太鼓や旗で通信することにした。さらにドラマでは、曹盾監督の発案により、望楼に取り付けられた12の小窓の色の組み合わせで、精密な暗号通信が行われていることになった。これは歴史上の根拠を持たないが、視覚的な効果は抜群だったと作者は嬉しそうに語っている。悪の組織に立ち向かう武闘派・張小敬の武器「弩」を携帯に便利で折り畳み式の「小弩」にしたのもドラマでの改変。このドラマは、歴史のリアリティと虚構の楽しさの、実に絶妙なバランスを生み出していると思う。

 馬伯庸が余談で語っていた、漢代には皇帝を皇上でも陛下でもなく「県官」と呼んだ、という話は初めて知った。当時は中国(天下)全体を「赤県神州」と謂ったので、その支配者たる皇帝は「県官」だったという。また、最近の古装劇はやたら「大人」を使うが、あれは清代から流行したもの、という指摘も面白かった。日本の時代劇でもあるなあ、こういう「時代劇用語」。

 なお「這就是長安」以外にも、ドラマの甲冑担当や衣装担当やアクション担当のインタビューがYoutubeで公開されているので、ドラマと合わせての視聴をおすすめする。いずれも制作チームの強い本物志向が分かる映像である。

※あらためて見返すと予告編も興味深い。

YouTube:長安十二時辰・予告編

YouTube:長安十二時辰・人物特集


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