見もの・読みもの日記

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あれから四年半/すずしろ日記 弐(山口晃)

2013-12-12 22:51:35 | 読んだもの(書籍)
○山口晃『すゞしろ日記 弐』 羽鳥書店 2013.11

 山口晃画伯の『すずしろ日記』第2巻。うわー待ってました! 第1巻が2009年3月刊行だから、4年半ぶりである。画伯のおっしゃるとおり、元ネタは東京大学出版会のPR誌『UP』に連載されたエッセー漫画(オビの表現)だが、月に1度、1頁しかない原稿だから、冊子の分量に足りるまで、数年かかってしまったという。

 しかし、第1巻が出たときは、え!山口さんってこんな漫画タッチの絵も描くの!?文章もこんな軽妙洒脱なの!?と驚いたが、その後は本業だけなく、文章やマンガでも大活躍である。エッセイストの才能を発揮した『ヘンな日本美術史』や、本書と同様の二頭身キャラで登場する『日本建築集中講義』など。ただ、これらの著書が、美術や建築など、本業の範疇に題材を求めているのに対して、本書は、もっとゆるくて気楽な、三十男あらため四十男の私生活エッセイである。仕事を終えた夕暮れ、散歩の途中で、芋煮をつまみに一杯やるのが至福のひととき、みたいな。

 私は、ときどき題材になる少年時代の思い出話が好きだ。グリコの「コロン」のパッケージの話とか、布団にもぐって匍匐前進する興奮とか…。よくこんな些細なことを覚えているなあと感心するが、私も人生の節目のような大事件を全く覚えていないのに、小さなことをヘンに鮮明に記憶していることがあって、親近感を覚える。画伯がお住まいの谷中・根津かいわいの話も楽しい。

 性格のまるで違うカミさんとの愉快なコンビネーションは相変わらず。画伯のお父さんとお母さんも味わいのあるキャラクターだ。カミさんの実家の飼い犬、ポチの出番が少なくてさびしかったが、各回の解説頁に書き足しがあって、うれしかった。

 ときどき、テーマが視覚論や芸術論になることもある。むかしの絵の「近景-中景-遠景」の一画面多意識とか、セザンヌの風景のとらえ方(セザンヌ紀行)など、かなり専門的で難しいことも、漫画で解説されると分かったような気になる。画伯は「私は文章書きが苦手で、手とイメージの速度が合わせられない」とおっしゃるが、文章の読解にも同じ側面があるのかもしれない。挿絵があると、ストンと得心がいく(気がする)。

 個人的に残念だったのは、おまけの「冷泉家の起こり」。『芸術新潮』に載っていたものだ~とすぐに思い出したけど、これを収録するなら、応仁の乱で焼け残った御文庫のイラストも収録してほしかった!

 『すずしろ日記』第1巻は、羽鳥書店が2009年4月創業してすぐ刊行した書籍だったが、久しぶりに同書店のホームページを見にいったら、順調に刊行点数が増えているみたいで嬉しかった。第3巻の刊行もゆっくり待ちたい。

新潟市美術館:山口晃展オリジナル手ぬぐいとすずしろ日記+新商品予告!
ポチてぬぐい、ほしいよ~。

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