見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

高雄曼荼羅、前期は胎蔵界/神護寺(東京国立博物館)

2024-08-03 22:32:22 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 創建1200年記念・特別展『神護寺-空海と真言密教のはじまり』(2024年7月17日~9月8日)

 824年に正式に密教寺院となった神護寺創建1200年と空海生誕1250年を記念して、約230年ぶりの修復を終えた国宝『両界曼荼羅(高雄曼荼羅)』など、空海ゆかりの宝物をはじめ、神護寺に受け継がれる貴重な文化財を紹介する。京都・高雄の神護寺は大好きなので、本展を楽しみにしていた。昨年5月、久しぶりに神護寺を訪ねたら、ちょうど『金銀泥両界大曼荼羅』(高雄曼荼羅、江戸模写本)の特別公開が行われていて、修復を終えた原本『高雄曼荼羅』は、東博と奈良博で公開予定という情報を得た。そして今年5月、奈良博の『空海 KUKAI』展で見ることができたのは「金剛界」だったので、東京は「胎蔵界」の出ている前期(812まで)に行こうと思って、さっそく見てきた。

 冒頭には狩野秀頼筆『観楓図屏風』。東博所蔵なので何度か見たことがあるが、解説を読んで、これが神護寺に至る清滝川の反橋であることに初めて気づく。雲間に覗いている山上の伽藍は神護寺なのか。橋のたもとに霊亀が出現しているというのは、老眼なので分かりにくかったが、あとで図録で確認した(川の中の緑色の亀)。まずは空海ゆかりの宝物で『真言八租像』は、龍猛、金剛智、善無畏、一行だったかな。インドの皆さんは僧衣の袖を握っているのがおもしろい。きれいな弘法大師像があるなと思ったら、これは神奈川・浄光明寺所蔵の『互御影』だった(神護寺本の『互御影』に倣って制作されたとも言われる)。

 空海の筆跡は『金剛般若経開題断簡』(根津美術館)『崔子玉座右銘断簡』(大師会、奈良博に出ていたのとは別物)などを見ることができた。隣にいた高校生くらいの女子が、空海の筆跡の魅力を熱心に解説していて、お父さん(?)が大人しく拝聴しているのが微笑ましかった。

 『文覚上人像』『後白河法皇像』も見ることができて満足。と思ったら、いきなり神護寺三像が現れてびっくりした。昨年『やまと絵』展で神護寺三像が掛かっていた背の高い展示ケースの、ちょうど真向いのあたりである。しかも意外と観客が冷淡で、全く人だかりがしていなかったので、え?本物だよね?と戸惑ってしまった。あと、順路に従うと、向かって右から、伝・頼朝像(右向き)→伝・重盛像(左向き)→伝・光能像(左向き)の並びだったことにも違和感を感じた。いまネットで探してみたら『やまと絵』展では、左から頼朝→重盛→光能で、この方が三者の視線が中心に集まってよいと思うのだが。

 じゃあ、向かいのケースは?と思って振り返ると、まさにそこに『高雄曼荼羅』が掛かっていて納得した。たぶん東博平成館でも最も背の高い展示ケースだと思うのだが、天井ギリギリから吊り下げて、軸木がケースの床から10センチくらい浮く状態である(台を添えてある)。同じ展示室内の側面には、江戸模写本の金剛界・胎蔵界2件が掛けられていたが、ケースの高さが足りないので、どちらもL字型に床に這わせてあった。その這わせ方を見て、実は胎蔵界のほうが金剛界より大きいことに気づいた(図録で確認したら、原本『高雄曼荼羅』も同様だった)。そして、胎蔵界のほうが、大きめに描かれた尊像が多いので、奈良博で見た金剛界よりも、図像を把握しやすかった。胎蔵界には「(日本?)最古の不動明王像」が描かれている(※美術展ナビ)とも聞いていたので、探して、すぐに見つけた。撫でつけた髪を編んで片側に垂らした、真言宗スタイルの不動明王である。胎蔵界と金剛界をセットにしたのは空海と師匠の恵果であるという解説も興味深かった。

 高雄曼荼羅は紫綾(紺に近い)の絹地に金銀で描かれているが、おそらく今回の修理で新調された表具はオレンジ系の輪繋文で、軸先にはさりげなく三鈷杵が螺鈿で配されていて、たいへん美しかった。また、高雄曼荼羅の尊像を白描で写した膨大な図像集が奈良・長谷寺に伝わっていて、これも見応えがあった。龍谷ミュージアム『バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰』で見た、バーミヤンの壁画描き起こしを思い出したりもした。

 『十二天屏風』(鎌倉時代)は華美な装飾が楽しい。閻魔天の腰布は瓜(スイカ?)柄だと思う。仏像は、円テーブルみたいな展示台に載せられた五大虚空菩薩像は、たぶん初見である。愛想はないが、じわじわと惹かれるものがある。ふだんは多宝塔内に一列に並んで安置されており、毎年5月、今年は10月にも公開されるらしい。図録に「大阪・観心寺如意輪観音に通じ」とあったのには同感だった。

 金堂本尊の釈迦如来立像は、神護寺創設に先立つ高雄山寺か神願寺のどちらかにあったものと考えられている。現地で見ると、厳しいまなざしと重量感のある肉体に気おされる感があるが、明るい展示室に連れてきてみると、意外と可愛い。ふっくらした頬、指が短く、身体に比べて小さいてのひらが、童子のような印象を与える。現地では見られない、鼻筋の通った横顔も堪能した。三尾、また訪ねたいなあ。宝物風入れも復活してほしい。


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