今年最後だなあと思いながら、東京国立博物館を見てきた。まずは東洋館(アジアギャラリー)から。
■東洋館8室 特集陳列『中国書画精華-日本における愛好の歴史』(2019年10月29日~12月25日)
印象的だったのは、元代の『四睡図軸』。松の下で眠る豊干禅師と虎、寒山、拾得の四者を描いたもの。全体が針のように細い線の細密描写で占められていて、墨塗り部分が全くない。遠目には何が描いてあるのか分からないほど白っぽい画面。アンリ・ルソーみたいな不思議な静謐さを感じる。西洋の魔法使いみたいな『寿星図』、伝・顔輝筆『寒山拾得図軸』、伝・石恪筆『二祖調心図』(クッションみたいな虎~)など好きな作品がじっくり見られてよかった。
■東洋館3室 特別展『人、神、自然-ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界-』(2019年11月6日~2月9日)
常設展エリアで開催されている特別展。カタール国の王族であるシェイク・ハマド・ビン・アブドラ・アール・サーニ氏が収集したコレクションから、世界各地の古代文化が生み出した工芸品117件を「人」「神」「自然」の3つの展示テーマに沿って紹介する。なお、この部屋が定位置になっているエジプトの大きな神像とミイラはそのまま展示されていた。
特別展の展示品は、古代ギリシア・ローマ、エジプト、西アジア、中央アジア、メキシコ、南米、中国まで広範囲に及ぶ。一目見て、どこの地域のどの文明か、だいたい見当がつくものもあれば、全く思いもよらないものもあった。知らなかったさまざまな文明の、さまざまな造形に出会うことができて面白かった。
アナトリア半島西部の、薄くて小さい大理石の女性像は「スターゲイザー(星を見つめるもの)」という洒落た名前がついていた。中央アジアの、金の薄板にメノウを嵌め、一つ目小僧が寄り添うようなデザイン(それとも一人の顔なのか)の飾り板は「抱き合うふたり」というキャプションが添えてあった。「動物」には、大きな角の生えた鹿の仲間をモチーフにしたものが多かったのは、コレクターの趣味かもしれない。
■本館・特別2室 特集陳列『近世日本と外国文化』(2019年11月19日~12月25日)
スペイン、ポルトガル、オランダゆかりの文物、さらに清の乾隆帝がフランスから技術を導入して作らせた銅版画など、いわゆる「鎖国」体制の下、日本にもたらされた西洋の情報や技術を紹介する。慶長5年(1600)豊後国臼杵に漂着したオランダ船のデ・リーフデ号ゆかりの「エラスムス立像」(栃木・龍江院所蔵)が出ていたが、これ、やっぱり人文学者のエラスムスでよいのか。むかしから疑問に思っていたのだが。
安土桃山時代に日本で描かれた油彩画ふうの『泰西騎士像』、 支倉常長が持ち帰った『ローマ法王パウロ5世像』の摸本(明治時代の模写)など、絵画はどれも興味深かった。 『乾隆平定両金川得勝図』は東博も所蔵しているのだな。私は大和文華館でよく見ていたけど。『地球図』は大型の壁掛け地図で、オランダ東インド会社の公認地図製作者ブラウ家の2代目ヨアンが作成したもの。新井白石が宣教師シドッティ(シドチ)を尋問した際に見せた世界図に当たり、画面に貼られた付箋は白石の真筆である可能性が指摘されているという。旧大陸(ユーラシア、アフリカ)のかたちはかなり正確だが、新大陸(南北アメリカ)のかたちがぼんやりしているのは仕方のないところか。
特別公開『高御座と御帳台』(2019年12月22日~2020年1月19日)は長蛇の列に恐れをなして参観せず。まあ平城宮跡の大極殿で見たからいいかな。