見もの・読みもの日記

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美点も欠点も/雑誌・BRUTUS「死ぬまでにこの目で見たい日本の絵100」

2019-02-05 22:17:48 | 読んだもの(書籍)
〇雑誌『BRUTUS』2019年2/15号「現代美術家・会田誠の死ぬまでにこの目で見たい日本の絵100」 マガジンハウス 2019.2

 雑誌『芸術新潮』と『BRUTUS』がどちらも日本美術の特集だったので、一緒に購入した。こちらの方が感想が書きやすそうなので先に書く。現代アートの奇才・会田誠氏が選んだ100点。同誌2017年6/15号「人気画家・山口晃の死ぬまでにこの目で見たい西洋絵画100」の日本バージョンである。

 「はじめに」によれば、100点を選んだ結果は「ほとんど教科書通りになりました」「すでに詳しい人には物足りないだろうけど、本当の入門書にはなんだかんだ言ってそっちの方が実用性が高いだろうと思ったので」とのこと。知らない作品はほとんどなかった。近世以前では『平家物語絵巻』(林原美術館所蔵)くらいか。そのかわり、選ばれた作品(というより画家、絵師)に対するコメントは自由で、必ずしも「好き」ではなく「好きと嫌いの中間」だったり、はっきり「嫌い」だったりする。

 黒田清輝の『智・感・情』に対して「僕は黒田は認めません」とか。梅原龍三郎に「(世界の中では)ワン・オブ・ゼム感は拭えないかなあ」、萬鉄五郎に「卒業制作が重文で代表作か」(いや、それ言っちゃおしまい)など、近代作家に厳しい傾向がある。この特集は、基本的に近代を先に、次第に時代を遡る構成になっているのだが、最初の数ページのコメントの辛辣さに冷や冷やする。「近代日本絵画」の抱えるややこしさを、会田さん自身が常に感じているからかもしれない。冒頭の藤田嗣治の戦争画『アッツ島玉砕』に対する、どこか歯切れの悪いコメント。会田さんの著書『戦争画とニッポン』には「日本人の戦争画に対する絶対的な不得手感」は「やっぱり肉をあまり食ってない感じ」という記述があるらしい。高橋由一の『豆腐』(大好き!)が見開きの大図版で掲載されているのには驚いたが、「日本史上最高の油絵はこれではないか」「つまり最初が最高」というアイロニカルなコメントがついている。

 「好き」なんだなあとよく分かるのは、菱田春草『落葉』。「僕の近代日本画全体へのリスペクトは、芸大の図書館で春草の画集を最初からゆっくり見て、晩年の『落葉』に行き当たった時の感動」にあるという。こういう体験的な感動に言及しているのは、もうひとつ狩野永徳の『四季花鳥図襖』(大徳寺聚光院)。「しばらく畳にへたり込んだまま動けないほど」だったという。

 画家の個性をひとことで表してしまうコメントも読みどころ。光琳は「世界史上屈指の才能ある部分と、大したことない部分が同居していた」のに対し、宗達は「天性のセンスを持って生まれた人」というのには同意。雪村を評して「必ずしも一般の人気はないけど、同業者からすごくリスペクトされているミュージシャン」とか、川端龍子は「ゴン中山が呼ばれていたスーパーサブ」(カズは横山大観)という比喩も面白かった。

 芦雪が「奇想の前に、フツーに絵が上手い人のようですね」というのにも同意。若冲については「なんですかあのスーパー御隠居っぷり」と、本人のキャラクターが苦手らしい。岩佐又兵衛については「拾った人生、精一杯生きよう」という感じだったのではないかと想像する。図版は小さいが、新出の『妖怪退治図屏風』が掲載されていることにも注目。

 国芳のことは「江戸バロキズムの覇者!」と呼びたいそうだ。そして、会田誠氏の最新作『MONUMENT FOR NOTHING V~にほんのまつり~』は国芳の『相馬の古内裏』にインスパイアされたのだという。会田氏の作品は、骨と皮だけになった巨大な日本兵(の亡霊?)が天空から国会議事堂に手をのばす様を表現したもの。おどろおどろしくグロテスクだなあと思っていたが、あ、相馬の古内裏か、と思ったら、髑髏のような日本兵が少し可愛く見えてきた。

 会田さんはこの特集の冒頭で「『ネトウヨ的』になることは避けたい」とも述べている。僕らは神に選ばれたかのごとく、絵の才能に特別恵まれた民族というわけではない。美点もあれば欠点もある。注目すべきは長所と短所がセットになった「特徴」であって「特長」ではない。このへんは完全に同意。

 なお、表紙を含め、著者が実際に作品に対面している写真が数枚ある。芦雪の『虎図』『龍図』(和歌山・無量寺)を畳に座って見ていらっしゃるけど、この絵、いまは本堂にあるのだろうか? あと蕭白の『雪山童子図』(三重・継松寺)で特別に出してもらったそうだ。うらやましいけど、会田さんのたたずまいがいいので、これらの写真も芸術作品みたい。

 途中に山下裕二氏に聞く「『奇想の系譜』とは何か?」のコラムもあり。各章の見出しのセンスも好き。

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